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十一

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 今日は話を聞くからと、ネグリジェの上にガウンを羽織った。
 いつもの時間にコンコンと扉がなる。

「ただいま、チカに会いたかった」
「お帰りなさい、レオーン様」

 軽くちゅっちゅっとキスをする。いつもならソファーだけど今日はテーブルに座った。

 メアリーが用意してくれたカップに紅茶を注ぐ。
 カップに注がれたアールグレイの香りが部屋を満たした。

「そうだ、チカはここに来るまで寝る前に何か飲んでいたかい?」
「はい、私はハーブティーを毎日寝る前に少量飲んでいました。よく眠れるんです」

 そう答えるとレーオン様の眉間にシワがよる。
 私、何かまずいことでも言ったのかな。

 アールグレイを一口飲み。


「それは、よく眠れただろうね……その話は後でするとして。まずは私の話からしてもいいかな」


 紅茶の話はこれで終わり?
 でも、レオーン様の話なら聞きたいと私はコクリと頷く。

「じゃ、話すね。本当はチカを国に呼ぶのは私が二十一になってからで、三ヶ月ではなく半年後だったんだ」
「半年後? そうだったのですか」

 急に二ヶ月も早まったのには何か訳があるのかしら。

「獣人には番という唯一の相手がいる。私達王族は獣人の原種の血が濃く。他の者よりも番を強く求めてしまうんだ。しかし、簡単には番は見つからない」


(……番)


 レオーン様は初めてお会いになった時に、私を番だとおっしゃったけど、私は人でそれがあまりよくわかってい。

「私が青年初期に入り体は番を強く求め始めたんだ、しかしそれが悪夢の始まりだったんだ」

「悪夢ですか?」

「あぁ、今までいた私の婚約者候補の令嬢達が気持ち悪くなり、受け付けなくなった。側にいるだけで気持ち悪く、あまりに酷い拒否反応が出ると吐いてしまう『私は近寄るな!』と彼女達を避けて傷付けてしまったんだ」

 レオーン様の手が震えていた、その手にそっと自分の手を重ねた。

「それから母上以外の女性がダメで、番が見つかればそれが収まると国中を他の獣人の国を探したが、私の番はなかなか見つからなかった」

 もしかすると番とはパズルのピースようにズレなく、ぴたりと合う人で。
 そのピースが合わず、ずれた方だと体がそのずれに拒否反応してしまうのかな?
 

 ♢


 静かな部屋の中、時折かちゃとカップの音が鳴る。
 私は言葉を選びながらゆっくり話す、レオーン様の話を聞いている。

「私の番は既に亡くなっているのか、男として生まれたかわからない……私は番探しに疲れてしまった。青年後期を抜ければ青年から成年になる、二十一になれば番でなくとも婚約ができるようになると聞いて安心した」

 子孫を残すために番でなくても、ピースのズレを気にしなくなる。
 青年と成年か……獣人の方は繊細なのかもしれない。

 唯一の人……番。素敵だと思う。

 レオーン様は番いの方が見つからず、ご自分が探すたびに相手を傷つけると思ってしまったのね。

「では、レオーン様は今二十歳ですから青年後期なんですね」

「そう後半年で成年になる。成年になってからチカを側に呼んで婚約、結婚をしようと思っていた。だけど密偵からの報告を聞き、早くチカを呼ぶことが決まった」

 二ヶ月も早まるなんて……それには弟が深く関わっているの? 
 どきんと鼓動がなる。
 緊張で、はぁ、はぁと肩が揺れて息が上がる。

「おいで、チカ。膝の上に来なさい」
「レオーン様?」

 手を引かれて横座りにレオーン様の膝の上に座らされた。
 まだ青年後期なのに、私といてもレオーン様は気持ち悪くなっていない。この国に来た時に言っていた番とは私の事なの?

 それだと嬉しい。

「話はまだだが、チカにそんな可愛い顔をされると我慢が効かなくなる。キスして……っ」

 聞かれる前に自分からレオーン様の唇を奪った。
 その途端に後頭部を掴まれて口内に舌がねじ込まれて、舌を吸われ、絡ませてキスが深くなっていく。

「はぁっ、んんっ……レオーン様……っ」
「……くっ」

 むくりとお尻の下にレオーン様の熱を感じた。

「しまった……早く話しを終わらせてチカを味わいたい。少し待ってくれ」

 話を止めたレオーン様、私はそのお尻の下の熱でお腹の奥が切なくて、ぬるりと下着を濡らしたのは秘密だ。

 
 ♢


 大きく息を吸い、レオーン様は深く息を吐いた。
 レオーン様の頬が赤い、もしかして我慢なさっているの?

 平気? だと彼を見れば優しく頬にキスをしてくれた。

「よし、私との婚約が決まるかどうかの時、私の密偵が君の城の中を偵察していたことは、この前に言ったよね」
「はい」

「その密偵がおかしなことに気がついたんだ。弟殿下が部屋の中にいてもチカが起きないと、普通なら途中で目を覚ましていいはずなのに、チカは眠ったままだったんだ」

 私っていつも一度寝ちゃうと起きないとか?

 あっ。

「それはハーブティーを飲んでいるから、ぐっすり寝ているのではないでしょうか?」

 そんなことあるはずがない。ハーブティーは体を癒したり、冷え性などに効く、とレオーン様は違うと首を振る。

「チカが目を覚さないそれをいい事に……彼はチカの布団を剥ぎ取り、自分の前をくつろげ初めたんだ。それを見た密偵は危険だと判断して彼を眠らせて部屋を連れ出した、その時に微量だけど眠り薬の匂いがしたと報告を受けた」

 弟はあの時、人形に言っていたことを実践しょうとしていた。
 私を襲い孕ませようとしたんだ。

「それで悪いのだけど君が飲んでいたハーブティーを調べた。そのハーブティーには眠り草が混ぜられていた。人では気が付かない、獣人だったからこそ気が付いたんだ」

「私……レオーン様のお陰で弟に襲われなかったにね、よかった」

「すぐに君の父上と兄王太子にこの事は伝えた。そして半年より早いが君を国に迎えたんだ。私はその……二十一になるまではチカに会うつもりはなかった」

 レオーン様は私を傷つけないようにしてくれたんだ。
 私だって弟から逃げたくて、誰でもいいと決めた婚約と結婚だもの。
 レオーン様が私にお会いするなんて結婚式以外ないと思っていた。


 子供も彼が望めば産むつもりでこの国に来たの。


「会わないと思っていたんだ」
「私もそうだと思っていました」

「だが全部覆った。私はチカが来た日を覚えている。城門をくぐり君の馬車が入ってきたのをボサボサの髪にシャツ姿で執務室で見ていた……その時、空いた窓から風と共に甘い、とてつもなく私の胸を焦がす初めて感じる香りがした。恥ずかしいが椅子から落ちて腰が抜けたんだ」


(レオーン様の腰が抜けた?) 


「本能のなのか部下がその格好ではおやめください、と止めるなか。私の体はチカに会いに走り出していた。入り口近くで追ってきた部下に止められて髪を整え、ジャケットを着せられた」

「そうだったのですか? 私は馬車の中でぐっすり寝てしまって、メアリーに髪を整えてもらっていましたわ」

 私は弟から逃げたくて、レオーン様は番探しに疲れていて。
 お互いに婚約者に興味がなかったはずだった。
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