上 下
16 / 19

15話

しおりを挟む
 忘れていたけどフォックス様――キツネの獣人の国って日本に似た設定じゃなかった? この異世界で日本食が食べるなんて、私には幸せすぎる。

 

 次の日も、その次の日もと彼は旧庭園にお弁当を持ってきた。私たちはいつの間にか飯友になっていた。

「ベロニカ、今日の弁当はすごいぞ」

 彼がそう言ってお弁当箱を開くと、真っ白なおにぎりがずらっと並んでいた。そしていきなり空間に手を入れて、中からテーブルとヤカン、器、入れ物を取り出した。

「フォックス様……それって、アイテムボックスですか?」
 
「おお、知っているのか? これは国の魔法使いに借りた簡易的なものだけど、この中に入れたものが腐らないんだ」

 彼はにこやかに笑い。テキパキとヤカンに持ってきた水を入れて、魔道式のコンロで沸かしはじめた。次に入れ物を開けて茶色い物をスプーンですくい、お椀にいれた。

(この香り……まさか)

 彼は沸いたお湯をそのお椀にそそぎ、お箸で混ぜて渡した。

「ボクの故郷の料理、味噌汁って言うんだ」

 ウンウン、知ってる。

「ベロニカの口に合うといいけど」

「(あうに決まってる)いい香り、いただきます」

 お椀に口を付ける前に香る味噌と出汁の香り、コクっと飲むと懐かしい味がした。ホッと心に染み渡るお味噌の風味――これ、これよこれ、これを私は持っていた。

「おい? ……泣くほど、不味かったのか?」

 え?
 うそ……

 フォックス様に言われて気付く、私の瞳からポタポタと涙が落ちていたのだ。私は違うとお椀を持ったまま、ブンブン首を振る。

「お味噌汁が美味しい、美味しくて……感動して、泣いてしまったの。驚かせてごめんなさい……本当に美味しい」

「ほんとうか? よかった。まだたくさんあるから飲んで、これも食べてみて」

 白おにぎりをくれた。それをパクッと食べると、おにぎりの具は梅干し……ああ、このすっぱい味……幸せすぎる。

「中の具が酸っぱくて美味しい。フォックス様の故郷の料理すごく美味しい。ズッと食べていたい……」

「ハハッ、こんなに喜んでくれるとは嬉しいな」

 彼のモフモフな尻尾が、ユラユラ嬉しそうに揺れていた。

 
 ――いい事を思いつきましたわ。
 
 スザーリン殿下との婚約解消のあと、フォックス様の国へ、日本食が好きになった家族と移り住もう。ウチにはシャンプーなどの商売もあるし、鉄鉱山と金鉱山もある。彼の国に行けばたくさんの日本食があるはずから――私の好きな食べ物が毎日食べられる。

 ウキウキする私とは違い、フォックス様はため息をついた。

「ベロニカは"美味しい"と言ってくれたが。実はさ、これらの料理……あまりこの国では受け入れてもらえていないんだ……以前マズイと言われた」

「え? ええ、お味汁が? 梅干しが? どこがマズイと言うのですか? 私は好きだわ!」
 
「ベロニカはそう言ってくれるけど……食の違いと味覚違いかな?」

 違う! この国の人達は米を薬に使っていて、炊き方を知らなかった。米の炊き方が伝わってから、今では米を食べる習慣も出来てきている。だったらお味噌だって、梅干しだって、食べ方を知れば絶対に受け入れてもらえる。

「フォックス様この国の人達はフォックス様の国の料理、米、野菜の食べ方を詳しく知らないと思います。料理の作り方を教えるか、出来立てのあたたかい料理を食べてもらえればわかると思いますわ」

「出来立てのあたたかい料理? そうか。一度食べてもらえればいいのか……兄上に相談してみるよ」
 
 目を細めてフォックス様が笑った。
 あ、ゲーム画面で苦手だと思っていたのに、笑った彼の笑顔が可愛くみえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

婚約破棄された悪役令嬢は冒険者になろうかと。~指導担当は最強冒険者で学園のイケメン先輩だった件~

三月べに
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢として、婚約破棄をされた瞬間、前世の記憶を取り戻したリガッティー。 全く覚えのない罪は、確かにゲームシナリオのもの。どうやら、ヒロインも前世持ちで、この展開を作り上げた模様。 しかも、逆ハーエンドが狙いだったらしい。まったく。現実を見てほしい……。 とにかく、今は進級祝いパーティーの最中。場所を改めるように、進言。婚約破棄&断罪は、一旦中断。 進級祝いパーティーをあとにして、悶々と考えた末、少しの間だけでも息抜きに冒険者をやることにした。 指導者としてペアを組んだのは、一つ歳上の青年ルクト。彼は、なんとS級ランクの冒険者だった! しかも、学園の先輩!? 侯爵令嬢で元王妃予定の悪役令嬢リガッティーが、気晴らしに冒険者活動で新人指導担当の規格外に最強すぎるイケメン先輩冒険者ルクトと、甘々多め、レベル高めな冒険を一緒に楽しむ話! 【※※※悪役令嬢vsヒロイン(と攻略対象×3)のざまあ回あり!!!※※※】

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 ××× 取扱説明事項〜▲▲▲ 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+ 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

あなたたちの許しは必要ありません

Yapa
恋愛
「わたしの幸福に、あなたの許しは必要ありません」 マリの青い瞳には、静かな怒りが宿っていた。 体が弱く、人生のほとんどを病院で過ごして死亡した工藤マリは、直前に読んでいた本の主人公、マリー・アルデンヌ男爵令嬢に憑依転生する。 マリーは望まぬ結婚を強いられ、また断れない性格から三人の男性と婚約したことになってしまい、悪女呼ばわりされた挙げ句、ひとりさびしく死ぬ運命にある。 憑依転生したマリは、マリを慕う小さな獣人騎士リュカと魔狼ベルと共に、その運命をキッパリ断ち切って行くーーー。

処理中です...