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15話
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忘れていたけどフォックス様――キツネの獣人の国って日本に似た設定じゃなかった? この異世界で日本食が食べるなんて、私には幸せすぎる。
次の日も、その次の日もと彼は旧庭園にお弁当を持ってきた。私たちはいつの間にか飯友になっていた。
「ベロニカ、今日の弁当はすごいぞ」
彼がそう言ってお弁当箱を開くと、真っ白なおにぎりがずらっと並んでいた。そしていきなり空間に手を入れて、中からテーブルとヤカン、器、入れ物を取り出した。
「フォックス様……それって、アイテムボックスですか?」
「おお、知っているのか? これは国の魔法使いに借りた簡易的なものだけど、この中に入れたものが腐らないんだ」
彼はにこやかに笑い。テキパキとヤカンに持ってきた水を入れて、魔道式のコンロで沸かしはじめた。次に入れ物を開けて茶色い物をスプーンですくい、お椀にいれた。
(この香り……まさか)
彼は沸いたお湯をそのお椀にそそぎ、お箸で混ぜて渡した。
「ボクの故郷の料理、味噌汁って言うんだ」
ウンウン、知ってる。
「ベロニカの口に合うといいけど」
「(あうに決まってる)いい香り、いただきます」
お椀に口を付ける前に香る味噌と出汁の香り、コクっと飲むと懐かしい味がした。ホッと心に染み渡るお味噌の風味――これ、これよこれ、これを私は持っていた。
「おい? ……泣くほど、不味かったのか?」
え?
うそ……
フォックス様に言われて気付く、私の瞳からポタポタと涙が落ちていたのだ。私は違うとお椀を持ったまま、ブンブン首を振る。
「お味噌汁が美味しい、美味しくて……感動して、泣いてしまったの。驚かせてごめんなさい……本当に美味しい」
「ほんとうか? よかった。まだたくさんあるから飲んで、これも食べてみて」
白おにぎりをくれた。それをパクッと食べると、おにぎりの具は梅干し……ああ、このすっぱい味……幸せすぎる。
「中の具が酸っぱくて美味しい。フォックス様の故郷の料理すごく美味しい。ズッと食べていたい……」
「ハハッ、こんなに喜んでくれるとは嬉しいな」
彼のモフモフな尻尾が、ユラユラ嬉しそうに揺れていた。
――いい事を思いつきましたわ。
スザーリン殿下との婚約解消のあと、フォックス様の国へ、日本食が好きになった家族と移り住もう。ウチにはシャンプーなどの商売もあるし、鉄鉱山と金鉱山もある。彼の国に行けばたくさんの日本食があるはずから――私の好きな食べ物が毎日食べられる。
ウキウキする私とは違い、フォックス様はため息をついた。
「ベロニカは"美味しい"と言ってくれたが。実はさ、これらの料理……あまりこの国では受け入れてもらえていないんだ……以前マズイと言われた」
「え? ええ、お味汁が? 梅干しが? どこがマズイと言うのですか? 私は好きだわ!」
「ベロニカはそう言ってくれるけど……食の違いと味覚違いかな?」
違う! この国の人達は米を薬に使っていて、炊き方を知らなかった。米の炊き方が伝わってから、今では米を食べる習慣も出来てきている。だったらお味噌だって、梅干しだって、食べ方を知れば絶対に受け入れてもらえる。
「フォックス様この国の人達はフォックス様の国の料理、米、野菜の食べ方を詳しく知らないと思います。料理の作り方を教えるか、出来立てのあたたかい料理を食べてもらえればわかると思いますわ」
「出来立てのあたたかい料理? そうか。一度食べてもらえればいいのか……兄上に相談してみるよ」
目を細めてフォックス様が笑った。
あ、ゲーム画面で苦手だと思っていたのに、笑った彼の笑顔が可愛くみえた。
次の日も、その次の日もと彼は旧庭園にお弁当を持ってきた。私たちはいつの間にか飯友になっていた。
「ベロニカ、今日の弁当はすごいぞ」
彼がそう言ってお弁当箱を開くと、真っ白なおにぎりがずらっと並んでいた。そしていきなり空間に手を入れて、中からテーブルとヤカン、器、入れ物を取り出した。
「フォックス様……それって、アイテムボックスですか?」
「おお、知っているのか? これは国の魔法使いに借りた簡易的なものだけど、この中に入れたものが腐らないんだ」
彼はにこやかに笑い。テキパキとヤカンに持ってきた水を入れて、魔道式のコンロで沸かしはじめた。次に入れ物を開けて茶色い物をスプーンですくい、お椀にいれた。
(この香り……まさか)
彼は沸いたお湯をそのお椀にそそぎ、お箸で混ぜて渡した。
「ボクの故郷の料理、味噌汁って言うんだ」
ウンウン、知ってる。
「ベロニカの口に合うといいけど」
「(あうに決まってる)いい香り、いただきます」
お椀に口を付ける前に香る味噌と出汁の香り、コクっと飲むと懐かしい味がした。ホッと心に染み渡るお味噌の風味――これ、これよこれ、これを私は持っていた。
「おい? ……泣くほど、不味かったのか?」
え?
うそ……
フォックス様に言われて気付く、私の瞳からポタポタと涙が落ちていたのだ。私は違うとお椀を持ったまま、ブンブン首を振る。
「お味噌汁が美味しい、美味しくて……感動して、泣いてしまったの。驚かせてごめんなさい……本当に美味しい」
「ほんとうか? よかった。まだたくさんあるから飲んで、これも食べてみて」
白おにぎりをくれた。それをパクッと食べると、おにぎりの具は梅干し……ああ、このすっぱい味……幸せすぎる。
「中の具が酸っぱくて美味しい。フォックス様の故郷の料理すごく美味しい。ズッと食べていたい……」
「ハハッ、こんなに喜んでくれるとは嬉しいな」
彼のモフモフな尻尾が、ユラユラ嬉しそうに揺れていた。
――いい事を思いつきましたわ。
スザーリン殿下との婚約解消のあと、フォックス様の国へ、日本食が好きになった家族と移り住もう。ウチにはシャンプーなどの商売もあるし、鉄鉱山と金鉱山もある。彼の国に行けばたくさんの日本食があるはずから――私の好きな食べ物が毎日食べられる。
ウキウキする私とは違い、フォックス様はため息をついた。
「ベロニカは"美味しい"と言ってくれたが。実はさ、これらの料理……あまりこの国では受け入れてもらえていないんだ……以前マズイと言われた」
「え? ええ、お味汁が? 梅干しが? どこがマズイと言うのですか? 私は好きだわ!」
「ベロニカはそう言ってくれるけど……食の違いと味覚違いかな?」
違う! この国の人達は米を薬に使っていて、炊き方を知らなかった。米の炊き方が伝わってから、今では米を食べる習慣も出来てきている。だったらお味噌だって、梅干しだって、食べ方を知れば絶対に受け入れてもらえる。
「フォックス様この国の人達はフォックス様の国の料理、米、野菜の食べ方を詳しく知らないと思います。料理の作り方を教えるか、出来立てのあたたかい料理を食べてもらえればわかると思いますわ」
「出来立てのあたたかい料理? そうか。一度食べてもらえればいいのか……兄上に相談してみるよ」
目を細めてフォックス様が笑った。
あ、ゲーム画面で苦手だと思っていたのに、笑った彼の笑顔が可愛くみえた。
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