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28.絶滅危惧種
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週末、それは日々労働に勤しむサラリーマンという戦士に訪れた束の間の休息。とは言え、自称・エリートビジネスマンである私は休日も超多忙だ。休みだからと言って家で「アッコにおまかせ」を観ながらダラダラと過ごすようなことはしない。自由に動ける休日だからこそ、普段は行かない遠めのスーパーでお宝探しだ。おかげで先日も自宅からかなり遠いスーパーで千葉県のご当地系カップ焼きそば「アラビヤン焼きそば」を発見してご満悦になったわけだが、このような輝かしい成功は足を使って稼ぐ古いタイプの刑事のような作業を常に必要とする。売り場に珍しいブツはないか捜査し、なければ別のお店へ。これの繰り返しだ。実に地道な作業なので、とてもアッコにはまかせられない。
更に私は3流のサブカル好きなので、休日のどちらかはブックオフでの発掘調査だ。漫画コーナー、CDコーナー、小説コーナーと丹念に調べていくわけだが、この作業はカップ麺よりも集中力を必要とする。それに最近は老眼が入ってきてるので文字が小さいCDや小説の背表紙にピントを合わせるのが大変だ。これもとてもアッコにはまかせられない。なので、全てを調べ終わった後はグッタリしてることもしばしば。
疲れ切った体を回復させるのはもちろんジャンクフード。休日で遠出した時しか食べられないものを頂く。ジャンキーなお食事で体力を回復させたら帰路に・・・なんてのは3流の捜査官、3流の掘り師だ。別の店舗へと転戦し、そこで新たな調査が始まる。そこでの調査が終われば次の店舗へと再転戦。体力と集中力の限界まで捜査しまくる。まさに勤勉な日本人の模範となるべき休日の過ごし方だが、さすがに半日もこんな事をしていると疲れ切ってしまう。だが、出来るビジネスマンは自己の体調管理もバッチリ。食事とは別の回復法であるサウナへ突撃だ。
ここでいきなりの温泉マウントだが、私の田舎は半径45分以内で行ける温泉が7つもある。しかも安い。私が以前住んでいた、「超犯罪都市K市。ここには平和も秩序もない。あるのは暴力と死だけだ」のキャッチフレーズでお馴染みの神奈川県某市の駅近くにあるカプセルホテルでは「サウナ3時間コース」が1,100円だった。都会に住んでいる頃はこんなものかと思っていたが、地元に帰って田舎らしい安価の温泉を利用する今となってはぼったくり価格に見える横暴な値段設定だ。
一番入浴料が安いのは我の住む寒村にある村民プライス250円の村営温泉だ。露天風呂なんかの余分な設備はなし。老朽化した施設に大浴場、薬湯湯、サウナ、水風呂と、最小限な設備しかないミニマルな温泉だが、普段使いなら別に問題はない。対して一番高いのは設備が綺麗で普通のサウナと塩サウナが2種類設置、露天風呂も岩盤浴もある隣の市のスーパー銭湯だが、ここですら700円(※岩盤浴は別料金)だ。ちょっとだけラグジュアリーな気分になりたい時、もしくは夜中にカップ麵を食べ過ぎたせいで贅肉たっぷりになったお腹が気になるので、そこに塩をたっぷり塗り込んでひと汗かかなければならない時に利用する。
これらの豊富な選択肢の中からその日に入る入浴施設を決め、捜査で疲れた老体をサウナで癒すわけだが、ここでちょっと耳寄りな話をさせてもらおう。一般的にはサウナで整うためには「サウナ→水風呂→休憩を3セット繰り返す」と言われているが、実はこれではまだ足りない。仮にそれを試した後にリラックスした感じになり、「整ってるなあ」なんて思ってもそれは本当に整った状態を知らないだけの井の中の蛙的発言だ。それは「整いがち」「整い気味」「整い寄り」「整い風味」な状態でしかなく、完全に整っている状態とは程遠い。分かりやすく言うと「いちご」と「いちご風味」くらい違う。似て非なる物だ。
これは「本当は教えたくない」というのが本音だ。学校では教えてくれないし、マスコミも報道しない秘密の情報だ。だから「本当は教えたくない」のだが、この意味不明なエッセイを読んでくださっている読者の皆様の末永いご健康のため、特別に教えたいと思う。それは「牛乳」だ。
「サウナ→水風呂→休憩を3セット」の後に「牛乳を飲む」これが本当に「整う」ための秘訣だ。サウナと牛乳の関係に関してはまだ医学的に不明な部分が多いが、統計的経験則の観点からすれば牛乳と「整う」に密接な関係があるのは疑いようはない。この最後の行程を除いて完全に整うなんて事はあり得ない。
さて、完全に整うために必要な牛乳。今、その牛乳の置かれた状況に異変が起きている。ご存じの通り、湯上りの牛乳には「普通の牛乳」「コーヒー牛乳」「フルーツ牛乳」の3つの選択がある。この選択肢の中から風呂上がりの自分にジャストフィットするものを各人が判断しなければならない。私は物心ついた頃からフルーツ牛乳を貫き通している、「お風呂上りはフルーツ牛乳」の教義を忠実に守っている「フルーツ牛乳原理主義者」だ。そして、ここでフルーツ牛乳を愛する日本全国の同志達に悲しいお知らせだ。何と、ほとんどの温泉や銭湯からフルーツ牛乳が消えてしまった。信じられないような話だが、これは本当の話だ。
フルーツ牛乳を製造していたメーカーの中でも最大手であった小岩井農場と明治が温泉向けの瓶のフルーツ牛乳から撤退した。明治は2019年4月、小岩井乳業は2020年10月なので、もうかなり経つ。メーカーの都合で欠品なんてあらゆる商品である事。私も最初は「あれ、フルーツ牛乳売ってないな。品不足か?」なんて能天気に考えていたのだが、まさかの撤退とは。しかし、「フルーツ牛乳が存在しない世界」なんてSFみたいな非現実感だ。
とは言え、雪印はまだ販売しているし、ローカル系飲料メーカーが販売しているケースもある。なので、一縷の望みをかけて先述した近場の入浴施設7か所を全て調査してみたのだが、悲しいことに全滅していた。明治は瓶は撤退したものの、ペットボトルタイプは継続して販売しているのでそっちがないかと自販機も調べてみたのだが見つからなかった。更に紙パックタイプも探してみたが見当たらず。
「いつまでもあると思うな親と金」とはよく言ったものだ。仕方がないので代用品としてコーヒー牛乳を飲んでいるが、いまいちサウナ後の整い具合が良くない。やはり、あの突き抜けるような甘さでないとダメだ。サウナ後の細胞はいつだってフルーティーさを求めている。無念だ。
今や「フルーツ牛乳は絶滅危惧種」となった。「サウナの後にフルーツ牛乳をきめる」そんな何でもないような事が幸せだったと思う、今日この頃だ。
フルーツ牛乳のように当たり前のように存在していたのに、気が付いたらいなくなっているものは他にもある。例えば加勢大周だ。
吉田栄作、織田裕二と共に「トレンディ御三家」として飛ぶ鳥を落とす勢いだった大周。周りが小室哲哉を聴いてるのにヘヴィメタルを好み、周りが月9のドラマを観てる時間帯にクトゥルフ神話の小説を読んでいたのでクラスでも浮きまくり、そんな非トレンディで世俗に疎い学生だった私でもそのブイブイ言わせてる感じが伝わるほどだったのに、いつの間にかテレビで見かけなくなっていた。
表舞台から忽然と姿を消した、そんなシャイなあんちくしょうな加勢大周と対称的、最後までしぶとく粘っていたのが「カレーまん」だ。昨冬、私の住む田舎ではついに見かける事はなかった。まあ、ここ数年間のやつの動向を眺めながら「そろそろ販売されなくなるかもしれない」と悲観的展望をしていたのも事実。微かな死臭のようなものを嗅いでいたおかげである程度の心構えは出来ていた。
店先から消えたのは様々な要因が複合的に絡み合った結果だと思われるが、その中でも大きいのは弟弟子であるピザまんの出世の影響が挙げられるだろう。地域差もあるかもしれないが、今よりコンビニ数が3分の1程度しかなかった1990年代前半、中華まんと言えば「肉まん(豚まん)」「あんまん」「カレーまん」の3種類が売れ線だったと記憶している。そこに90年代後半になってピザまんが割り込んできた。当時も今も熱烈なカレーまん信奉者だった私は「ピザまん?誰がそんなの喰うんだ?」と、中華まんの什器に並ぶそれを奇異な思いで見てたのだが、そいつのせいで大きくカレーまんの勢力が削られる結果となったわけだから現実は厳しい。今では中華まんコーナーで肉まんに次ぎ二番手の地位をがっちりキープしている感がある。ピザまんが什器の目につきやすい所に鎮座し、そのあおりを食って隅っこに追いやられたカレーまんの事を目にすると、後から入門してきた後輩に番付を抜かれた力士を見たような印象を受けて何だかやるせない気持ちになってしまう。
しかし、執筆にあたりコンビニ中華まんの歴史を調べていたらカレーまんが1977年、ピザまんが1979年に井村屋から販売開始となっている。発売から快進撃までの間にある10年以上の空白は一体?ひょっとしたら宅配ピザブームと何かしらの関連があるのかもしれないが、それを調べるには多大な労力が必要だろう。アニメを観る時間を削ることになるので断念しよう。
それにカレーまん自体にも問題があった感は否めない。実際、ここ数年のカレーまんは迷走を繰り返していたように思える。某コンビニではある年の冬は「チーズカレーまん」へと姿を変え、またある年は「バターチキンカレーまん」、またまたある年は「チーズキーマカレーまん」と、ずっと硬派な音楽を貫いていたバンドが変なプロデューサーに唆されて音楽性を変えまくるような、悪手と呼べる変化を繰り返していた。完全に中華まんとして軸がぶれていた。それは醤油ラーメン一本で商売してたのに急に味噌や豚骨が追加されたり、唐揚げやトンカツ、カレーなんかのサイドメニューが一気に増えたり、挙句の果てには冷やし中華まで始めてしまう、廃業を余儀なくされる前のラーメン屋が通る道と近しいブレブレな態度だった。変わらないと次のピザまんの地位を虎視眈々と狙っている麻婆まんや角煮まんのような期間限定品にスペースを奪われ消えてしまう、そんな焦燥感も理解できるがそれこそが罠だ。変えてはいけなかったのだ。少なくとも私は普通の、何でもないカレーまんが一番好きだ。
ついでに言うとセブンイレブンがカレーパンに力を入れ始めたのも致命的だった。昨年、急にカレーパンに覚醒したセブン。やたらとカレーパンをアピールしたポスターが貼られ、「カレーパン2個購入で50円引き」のようなイベントを繰り広げたりと、組織を上げての猛プッシュだった。これではカレーまんの立つ瀬がない。今までお世話になった相手に対して無常とも呼べるビジネスライクな態度だ。泣きっ面にハチとはこの事だ。
しかし、カレーまんがいなくなるとは。やつとの思い出は楽しい思い出ばかりだ。特に自分史における「関東社畜時代」の休日の朝によく食べた。当時の私は働き盛り。盛りまくっているので、仕事が休みだからと言って家でぼんやり過ごしたりはしない。休日のみに許される二度寝の誘惑を退け、朝からパチンコ屋で抽選を受けるために並ばなければならない。所謂、「休日出勤」だ。ただ、都会の冬の朝は凍える様に寒い。労働意欲が下がり、家に帰って二度寝したくなる。そんな時、カレーまんを食べて寒さを凌いだものだ。そのせいだろうか、心理学の事はよく分からないがカレーまんとパチンコ前のワクワクとした感情が紐づけられたみたいで、食べるといつも気分が高揚してしまう。だが、今ではやつも絶滅危惧種のリスト入り。もう食べられるかは分からない・・・
今回はフルーツ牛乳とカレーまんについて語らせて頂いたが、浮かび上がってくるのは食料品市場は需要が少なくなればすぐに退場を余儀なくされる弱肉強食の世界と言う事実。どちらもタコヤキラーメン(※1)のように「消えるべくして消えた一発屋的なブツ」とはわけが違ったが、世の中の流れについて行けずにその姿を消そうとしている。源平討魔伝のタイトル画面で婆さんが言ってた「盛者必衰の理」を体現する、実に厳しい世界だ。
読者の皆様のお気に入りの商品も油断しているといつの間にか消えてしまうかもしれない。ゆえに「今、それを食べられる幸せ」を忘れないで欲しい。よって、最後に皆様へこの言葉を送らせてもらい、本日は終わりとしよう。
「いつまでもいると思うな加勢大周と新加勢大周」
※1・・・ラーメンにたこ焼きを乗せた珍妙なカップ麺。発売元は日清。新商品として投入された1985年から2年間販売し続けたそうです。生き馬の目を抜く即席めん業界でそれだけの期間売られているので、一発屋の表現は不適切でした。ここに訂正し、お詫び申し上げます。
更に私は3流のサブカル好きなので、休日のどちらかはブックオフでの発掘調査だ。漫画コーナー、CDコーナー、小説コーナーと丹念に調べていくわけだが、この作業はカップ麺よりも集中力を必要とする。それに最近は老眼が入ってきてるので文字が小さいCDや小説の背表紙にピントを合わせるのが大変だ。これもとてもアッコにはまかせられない。なので、全てを調べ終わった後はグッタリしてることもしばしば。
疲れ切った体を回復させるのはもちろんジャンクフード。休日で遠出した時しか食べられないものを頂く。ジャンキーなお食事で体力を回復させたら帰路に・・・なんてのは3流の捜査官、3流の掘り師だ。別の店舗へと転戦し、そこで新たな調査が始まる。そこでの調査が終われば次の店舗へと再転戦。体力と集中力の限界まで捜査しまくる。まさに勤勉な日本人の模範となるべき休日の過ごし方だが、さすがに半日もこんな事をしていると疲れ切ってしまう。だが、出来るビジネスマンは自己の体調管理もバッチリ。食事とは別の回復法であるサウナへ突撃だ。
ここでいきなりの温泉マウントだが、私の田舎は半径45分以内で行ける温泉が7つもある。しかも安い。私が以前住んでいた、「超犯罪都市K市。ここには平和も秩序もない。あるのは暴力と死だけだ」のキャッチフレーズでお馴染みの神奈川県某市の駅近くにあるカプセルホテルでは「サウナ3時間コース」が1,100円だった。都会に住んでいる頃はこんなものかと思っていたが、地元に帰って田舎らしい安価の温泉を利用する今となってはぼったくり価格に見える横暴な値段設定だ。
一番入浴料が安いのは我の住む寒村にある村民プライス250円の村営温泉だ。露天風呂なんかの余分な設備はなし。老朽化した施設に大浴場、薬湯湯、サウナ、水風呂と、最小限な設備しかないミニマルな温泉だが、普段使いなら別に問題はない。対して一番高いのは設備が綺麗で普通のサウナと塩サウナが2種類設置、露天風呂も岩盤浴もある隣の市のスーパー銭湯だが、ここですら700円(※岩盤浴は別料金)だ。ちょっとだけラグジュアリーな気分になりたい時、もしくは夜中にカップ麵を食べ過ぎたせいで贅肉たっぷりになったお腹が気になるので、そこに塩をたっぷり塗り込んでひと汗かかなければならない時に利用する。
これらの豊富な選択肢の中からその日に入る入浴施設を決め、捜査で疲れた老体をサウナで癒すわけだが、ここでちょっと耳寄りな話をさせてもらおう。一般的にはサウナで整うためには「サウナ→水風呂→休憩を3セット繰り返す」と言われているが、実はこれではまだ足りない。仮にそれを試した後にリラックスした感じになり、「整ってるなあ」なんて思ってもそれは本当に整った状態を知らないだけの井の中の蛙的発言だ。それは「整いがち」「整い気味」「整い寄り」「整い風味」な状態でしかなく、完全に整っている状態とは程遠い。分かりやすく言うと「いちご」と「いちご風味」くらい違う。似て非なる物だ。
これは「本当は教えたくない」というのが本音だ。学校では教えてくれないし、マスコミも報道しない秘密の情報だ。だから「本当は教えたくない」のだが、この意味不明なエッセイを読んでくださっている読者の皆様の末永いご健康のため、特別に教えたいと思う。それは「牛乳」だ。
「サウナ→水風呂→休憩を3セット」の後に「牛乳を飲む」これが本当に「整う」ための秘訣だ。サウナと牛乳の関係に関してはまだ医学的に不明な部分が多いが、統計的経験則の観点からすれば牛乳と「整う」に密接な関係があるのは疑いようはない。この最後の行程を除いて完全に整うなんて事はあり得ない。
さて、完全に整うために必要な牛乳。今、その牛乳の置かれた状況に異変が起きている。ご存じの通り、湯上りの牛乳には「普通の牛乳」「コーヒー牛乳」「フルーツ牛乳」の3つの選択がある。この選択肢の中から風呂上がりの自分にジャストフィットするものを各人が判断しなければならない。私は物心ついた頃からフルーツ牛乳を貫き通している、「お風呂上りはフルーツ牛乳」の教義を忠実に守っている「フルーツ牛乳原理主義者」だ。そして、ここでフルーツ牛乳を愛する日本全国の同志達に悲しいお知らせだ。何と、ほとんどの温泉や銭湯からフルーツ牛乳が消えてしまった。信じられないような話だが、これは本当の話だ。
フルーツ牛乳を製造していたメーカーの中でも最大手であった小岩井農場と明治が温泉向けの瓶のフルーツ牛乳から撤退した。明治は2019年4月、小岩井乳業は2020年10月なので、もうかなり経つ。メーカーの都合で欠品なんてあらゆる商品である事。私も最初は「あれ、フルーツ牛乳売ってないな。品不足か?」なんて能天気に考えていたのだが、まさかの撤退とは。しかし、「フルーツ牛乳が存在しない世界」なんてSFみたいな非現実感だ。
とは言え、雪印はまだ販売しているし、ローカル系飲料メーカーが販売しているケースもある。なので、一縷の望みをかけて先述した近場の入浴施設7か所を全て調査してみたのだが、悲しいことに全滅していた。明治は瓶は撤退したものの、ペットボトルタイプは継続して販売しているのでそっちがないかと自販機も調べてみたのだが見つからなかった。更に紙パックタイプも探してみたが見当たらず。
「いつまでもあると思うな親と金」とはよく言ったものだ。仕方がないので代用品としてコーヒー牛乳を飲んでいるが、いまいちサウナ後の整い具合が良くない。やはり、あの突き抜けるような甘さでないとダメだ。サウナ後の細胞はいつだってフルーティーさを求めている。無念だ。
今や「フルーツ牛乳は絶滅危惧種」となった。「サウナの後にフルーツ牛乳をきめる」そんな何でもないような事が幸せだったと思う、今日この頃だ。
フルーツ牛乳のように当たり前のように存在していたのに、気が付いたらいなくなっているものは他にもある。例えば加勢大周だ。
吉田栄作、織田裕二と共に「トレンディ御三家」として飛ぶ鳥を落とす勢いだった大周。周りが小室哲哉を聴いてるのにヘヴィメタルを好み、周りが月9のドラマを観てる時間帯にクトゥルフ神話の小説を読んでいたのでクラスでも浮きまくり、そんな非トレンディで世俗に疎い学生だった私でもそのブイブイ言わせてる感じが伝わるほどだったのに、いつの間にかテレビで見かけなくなっていた。
表舞台から忽然と姿を消した、そんなシャイなあんちくしょうな加勢大周と対称的、最後までしぶとく粘っていたのが「カレーまん」だ。昨冬、私の住む田舎ではついに見かける事はなかった。まあ、ここ数年間のやつの動向を眺めながら「そろそろ販売されなくなるかもしれない」と悲観的展望をしていたのも事実。微かな死臭のようなものを嗅いでいたおかげである程度の心構えは出来ていた。
店先から消えたのは様々な要因が複合的に絡み合った結果だと思われるが、その中でも大きいのは弟弟子であるピザまんの出世の影響が挙げられるだろう。地域差もあるかもしれないが、今よりコンビニ数が3分の1程度しかなかった1990年代前半、中華まんと言えば「肉まん(豚まん)」「あんまん」「カレーまん」の3種類が売れ線だったと記憶している。そこに90年代後半になってピザまんが割り込んできた。当時も今も熱烈なカレーまん信奉者だった私は「ピザまん?誰がそんなの喰うんだ?」と、中華まんの什器に並ぶそれを奇異な思いで見てたのだが、そいつのせいで大きくカレーまんの勢力が削られる結果となったわけだから現実は厳しい。今では中華まんコーナーで肉まんに次ぎ二番手の地位をがっちりキープしている感がある。ピザまんが什器の目につきやすい所に鎮座し、そのあおりを食って隅っこに追いやられたカレーまんの事を目にすると、後から入門してきた後輩に番付を抜かれた力士を見たような印象を受けて何だかやるせない気持ちになってしまう。
しかし、執筆にあたりコンビニ中華まんの歴史を調べていたらカレーまんが1977年、ピザまんが1979年に井村屋から販売開始となっている。発売から快進撃までの間にある10年以上の空白は一体?ひょっとしたら宅配ピザブームと何かしらの関連があるのかもしれないが、それを調べるには多大な労力が必要だろう。アニメを観る時間を削ることになるので断念しよう。
それにカレーまん自体にも問題があった感は否めない。実際、ここ数年のカレーまんは迷走を繰り返していたように思える。某コンビニではある年の冬は「チーズカレーまん」へと姿を変え、またある年は「バターチキンカレーまん」、またまたある年は「チーズキーマカレーまん」と、ずっと硬派な音楽を貫いていたバンドが変なプロデューサーに唆されて音楽性を変えまくるような、悪手と呼べる変化を繰り返していた。完全に中華まんとして軸がぶれていた。それは醤油ラーメン一本で商売してたのに急に味噌や豚骨が追加されたり、唐揚げやトンカツ、カレーなんかのサイドメニューが一気に増えたり、挙句の果てには冷やし中華まで始めてしまう、廃業を余儀なくされる前のラーメン屋が通る道と近しいブレブレな態度だった。変わらないと次のピザまんの地位を虎視眈々と狙っている麻婆まんや角煮まんのような期間限定品にスペースを奪われ消えてしまう、そんな焦燥感も理解できるがそれこそが罠だ。変えてはいけなかったのだ。少なくとも私は普通の、何でもないカレーまんが一番好きだ。
ついでに言うとセブンイレブンがカレーパンに力を入れ始めたのも致命的だった。昨年、急にカレーパンに覚醒したセブン。やたらとカレーパンをアピールしたポスターが貼られ、「カレーパン2個購入で50円引き」のようなイベントを繰り広げたりと、組織を上げての猛プッシュだった。これではカレーまんの立つ瀬がない。今までお世話になった相手に対して無常とも呼べるビジネスライクな態度だ。泣きっ面にハチとはこの事だ。
しかし、カレーまんがいなくなるとは。やつとの思い出は楽しい思い出ばかりだ。特に自分史における「関東社畜時代」の休日の朝によく食べた。当時の私は働き盛り。盛りまくっているので、仕事が休みだからと言って家でぼんやり過ごしたりはしない。休日のみに許される二度寝の誘惑を退け、朝からパチンコ屋で抽選を受けるために並ばなければならない。所謂、「休日出勤」だ。ただ、都会の冬の朝は凍える様に寒い。労働意欲が下がり、家に帰って二度寝したくなる。そんな時、カレーまんを食べて寒さを凌いだものだ。そのせいだろうか、心理学の事はよく分からないがカレーまんとパチンコ前のワクワクとした感情が紐づけられたみたいで、食べるといつも気分が高揚してしまう。だが、今ではやつも絶滅危惧種のリスト入り。もう食べられるかは分からない・・・
今回はフルーツ牛乳とカレーまんについて語らせて頂いたが、浮かび上がってくるのは食料品市場は需要が少なくなればすぐに退場を余儀なくされる弱肉強食の世界と言う事実。どちらもタコヤキラーメン(※1)のように「消えるべくして消えた一発屋的なブツ」とはわけが違ったが、世の中の流れについて行けずにその姿を消そうとしている。源平討魔伝のタイトル画面で婆さんが言ってた「盛者必衰の理」を体現する、実に厳しい世界だ。
読者の皆様のお気に入りの商品も油断しているといつの間にか消えてしまうかもしれない。ゆえに「今、それを食べられる幸せ」を忘れないで欲しい。よって、最後に皆様へこの言葉を送らせてもらい、本日は終わりとしよう。
「いつまでもいると思うな加勢大周と新加勢大周」
※1・・・ラーメンにたこ焼きを乗せた珍妙なカップ麺。発売元は日清。新商品として投入された1985年から2年間販売し続けたそうです。生き馬の目を抜く即席めん業界でそれだけの期間売られているので、一発屋の表現は不適切でした。ここに訂正し、お詫び申し上げます。
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