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七手目◆強手

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「そう言えば倫子ともこ、余は浜御殿に遊びに行く度に、お前には色々な物を送ったのを覚えているか?
 鞠や羽子板、水鉄砲はもちろん、双六など遊び道具だけを見ても実に様々な種類だったなぁ。
 そう言えば、それらの贈り物と言うのも……
 最初はお祖父吉宗様からだったよなぁ。
 とは言っても、そんな事は倫子には分からないか……
 渡したのは余だったしなぁ……
 ほら、覚えているかい?
 あの京菓子の事を……
 羊羮と言うんだったかい?
 あの甘い菓子……
 あれは……
 実は、お祖父様が余等二人の事を気遣って準備をしてくれたものだったんだよ。
 と言うのもな、浜御殿からお祖父様と帰っている最中にな、『家治や、今日は何をして過ごしたんだ?』と聞かれたことがあってな。
 実はその時、余はお祖父様に答えられんかったんだ……
 別に、お前と一緒にいたのが面白くなかったとか、そういうわけではないぞ、あの時は何にも変えられん至高の時に他ならないからな。
 それに、あの頃はある程度時も経過していただけにお祖父様も余と倫子が、仲良くしていたのは知っていたしな。
 恐らく純粋な興味だったのだろう……
 ただ、その時していたことと言うのが、お前としていた人形遊びでな。
 常日頃からお祖父様には『男として堂々とあれ!』と教えられてきた手前な、恥ずかしくて堂々と言うことが出来なかったんだ。
 そうしたら、お祖父様が恐らくは勘違いしたのであろう。それであれば次回の訪問時には一つ趣向を凝らした一時を何て言い出してな……
 用意したのが、あの京菓子と言うわけなのだ。
 あの菓子を見た時のお前の顔は今でも覚えているぞ。
 単純に菓子が好きというような顔には留まらず、故郷の懐かしさを始めに様々な感情が甦ってきたのであろうな。
 思えば、そう!お前は京都からやって来たのであったなぁ。
 一人寂しく普段は部屋の中で大人しくしていて、やりたいことも日々できずの暮らしだったのだろう。
 気づいてやれなくて、ごめんな。
 お前はあの日、余が渡した菓子を横に涙を溜め、余の手をとり何度もお礼をいってくれたよなぁ。
 だが、そんなあの時のお前の顔が実は、余にとっては忘れられないほど、悔しいものだったんだ。
 本来であれば、余だけに向けてほしかった気持ちが、そこにはあったからなぁ。
 そうは言ってもそのことをお前に告げてもどうしようもならないからな、だからと言っては変な話になるが、代わりにと言うか……
 余はいつかお祖父様の贈り物にも負けないような素晴らしい贈り物を倫子、お前にしてみせると誓ったんだ。
 それ以来、倫子に会いに行く度に贈り物は欠かさずにするようになったと言うわけさ。
 とは言ってもな、あの時のお祖父様の一手と言うのは子供相手だったのにも関わらず、随分と遠慮のない強手だったように思うんだ……
 歳を重ねた今でも、そう思ってしまう……」

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