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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~
エピソード2 好きの立ち位置
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十二月中旬。
蓮見桜賀は、目の下に大きなクマを作って講義を受けていた。
一時間目は空きコマで、二時間目からにも関わらず遅刻しかけた。
時間には間に合ったが眠気は覚めず、時々うとうとと礼をするように頭を上下させている。
過剰な夜勤勤務の影響だった。
小テストの解説を必死にタブレットに書き込むが、設問は何度も飛んでしまって、大問については最後の答えくらいしか読み取れない。
講義を終えて。
「オウガっち、どうだった?」
「四十点中三十。死んではないな」
「俺は二十六。あまり変わらないな!」
「ああ、そうだな」
「眠いのか?」
「寝不足だ」
「彼女と深夜に毎日通話みたいな?」
「お前の別れた彼女と一緒にするな」
「けちめ!」
髪を緑色に染めた男はアスカ。
大学一年生前期からの友人である。
「なあ。クリスマスに三万円分プレゼントしたいんだ」
「重いよな、オウガっち」
「うるせえ。けど、俺は誕生日にワイヤレスイヤホンもらったから。次はそれよりも高いってなると」
「恋って金かかるよな。かわいい子に大金出してデートするより、普通の子と割り勘か、なんなら奢ってほしいくらいだよな」
「その考えは敵を作るぞ」
「冗談だよ、半分は。でもフラフラなのって、バイトとかだろ。話が分からない彼女なのか?」
「次プレゼントもらったらかな。俺の番で言うのは悲しませるだろ」
「けど」
「それでもなんて言ったらいいんだろうな。お金きついって情けないだろ」
「もしかしたら彼女もプレゼント代きついって思ってるかもな」
「ならいいんだ。それよりも」
「今までのプレゼントに込めた気持ちを裏切ったって思われるかもな。そしたら別れる。俺と同じ彼女いない人間に戻るだけだ」
オウガは溜息をつく。
アスカはそれ以上からかう気分にはなれなかった。
「ついに大学祭実行委員会の腕の見せ所だ! あの人に相談すれば!」
「あの人?」
オウガは一日の講義を終えた後、アスカに言われるがまま定食屋を訪れた。
案内された席に座る。
そこには巨大なカツカレーと大盛り唐揚げの定食を並べて食べている少女がいた。
席に着くと、少女がツインテールであることに気づく。
「俺の友達のオウガっちが彼女とこれからのプレゼント代を減らす交渉をしたいそうです」
「君がオウガなの?」
「はい」
目の前にいるのは中学生くらいの小柄な少女だが。
「オウガっち。この人が過去問の王カワクロさん」
「謎の二つ名なの。恋の相談は得意でないのだけど」
「人間関係が広いカワクロさんならいい処世術とか知らないかなって」
「ふーむ。女心を知りたいなら私に聞くのは正しいとは思うの。でも得意じゃないから。もぐもぐ」
カワクロは小さな口へ唐揚げを一つ放る。
アスカもオウガもつい見てしまう。
「?」
カワクロは首を傾げた。
「そうですか。カワクロさんはプレゼントの値段を下げたいって言ったらどう思いますか?」
オウガは息継ぎを忘れて言う。
カワクロは口元に握りこぶしを当てると、眉に力を入れたり目を細めたりぱちぱちと開いたり閉じたりしている。
「私って重いのかなとか、彼の負担かなとか、好きが薄れたかとかなの。私彼氏できたことないから分からないなの。たぶん、なの」
「じゃあ彼氏に立候補します! でもいないんですか、モテそうですが」
「私小さいしたくさん食べるし、あまりかな。告白されたことは何度かあるけど。つい最近も」
「どうしたんですか?」
「彼氏いるからって振ったの。恋とか分からないし分かりたくもない」
「でも俺たちの相談は乗ってくれるんですね」
「定食奢るって言われたの。それに大学祭実行委員会の後輩の頼み」
「なあオウガ」
「なんだ?」
「あの量だぞ」
「そうだな」
「割り勘だよなああ! 当然だよなああ!」
「抱きつくな、抱きつくな。分かったから」
「一安心だ」
カワクロは黙々と食べ進める。
「で、どうだ。参考になったか?」
「ちゃんと好きだって伝えて、でもお金がって話すしかないよな。不安だけど。大好きな彼女なんだ。分かってくれると期待するしかないな」
「惚気か。この、この!」
アスカは肘でオウガの脇の下を突く。
オウガは身体を反るようにして避けるが、二回に一回は当たってしまう。
カワクロはそれ見ながら水を呷った。
「私はその距離感が羨ましいなの」
「馬鹿だって思いませんか?」
「馬鹿なのはお前だ!」
オウガは人差し指をアスカに向ける。
アスカは驚いたのか咄嗟に椅子を引いた。
「馬鹿って思ってる、二人とも」
「ほら」「ほらじゃないだろ!」
「彼女とのその距離感も、友人ともその距離感も私には難しいなの。みんないい子で悪者じゃないって分かってるのに。微笑ましいなの!」
こうして、相談を終えた。
会計は六千円。二人で三千円ずつ。一食九百円ほどで食べられる定食屋での出来事だった。
カワクロと分かれて。
電車に乗る。
「オウガっち、どうよ」
「なんとかなる気がした」
「だろ。あの人、優しいんだよ」
「好きなのか?」
「俺はいろいろ大きい人が好きだからな。それにあの人はお金すごくかかるだろうから」
「そっか」
「俺はどうやって彼女作ろうかな。流行りのマッチングアプリでも使おうか」
「騙されたりトラブルに巻き込まれたりするなよ」
「くそ、彼女持ちの余裕!」
「だろ」
「よく言うぜ」
「そろそろバイトの時間だ」
「無理するなよ」
「すっきりした。ありがとな」
「じゃ」
アスカが電車を降りた。
オウガが開いている席に座る。
車窓から夜景を眺めた。
光の軌跡が線で見える。
「なんとかするしかないな」
蓮見桜賀は、目の下に大きなクマを作って講義を受けていた。
一時間目は空きコマで、二時間目からにも関わらず遅刻しかけた。
時間には間に合ったが眠気は覚めず、時々うとうとと礼をするように頭を上下させている。
過剰な夜勤勤務の影響だった。
小テストの解説を必死にタブレットに書き込むが、設問は何度も飛んでしまって、大問については最後の答えくらいしか読み取れない。
講義を終えて。
「オウガっち、どうだった?」
「四十点中三十。死んではないな」
「俺は二十六。あまり変わらないな!」
「ああ、そうだな」
「眠いのか?」
「寝不足だ」
「彼女と深夜に毎日通話みたいな?」
「お前の別れた彼女と一緒にするな」
「けちめ!」
髪を緑色に染めた男はアスカ。
大学一年生前期からの友人である。
「なあ。クリスマスに三万円分プレゼントしたいんだ」
「重いよな、オウガっち」
「うるせえ。けど、俺は誕生日にワイヤレスイヤホンもらったから。次はそれよりも高いってなると」
「恋って金かかるよな。かわいい子に大金出してデートするより、普通の子と割り勘か、なんなら奢ってほしいくらいだよな」
「その考えは敵を作るぞ」
「冗談だよ、半分は。でもフラフラなのって、バイトとかだろ。話が分からない彼女なのか?」
「次プレゼントもらったらかな。俺の番で言うのは悲しませるだろ」
「けど」
「それでもなんて言ったらいいんだろうな。お金きついって情けないだろ」
「もしかしたら彼女もプレゼント代きついって思ってるかもな」
「ならいいんだ。それよりも」
「今までのプレゼントに込めた気持ちを裏切ったって思われるかもな。そしたら別れる。俺と同じ彼女いない人間に戻るだけだ」
オウガは溜息をつく。
アスカはそれ以上からかう気分にはなれなかった。
「ついに大学祭実行委員会の腕の見せ所だ! あの人に相談すれば!」
「あの人?」
オウガは一日の講義を終えた後、アスカに言われるがまま定食屋を訪れた。
案内された席に座る。
そこには巨大なカツカレーと大盛り唐揚げの定食を並べて食べている少女がいた。
席に着くと、少女がツインテールであることに気づく。
「俺の友達のオウガっちが彼女とこれからのプレゼント代を減らす交渉をしたいそうです」
「君がオウガなの?」
「はい」
目の前にいるのは中学生くらいの小柄な少女だが。
「オウガっち。この人が過去問の王カワクロさん」
「謎の二つ名なの。恋の相談は得意でないのだけど」
「人間関係が広いカワクロさんならいい処世術とか知らないかなって」
「ふーむ。女心を知りたいなら私に聞くのは正しいとは思うの。でも得意じゃないから。もぐもぐ」
カワクロは小さな口へ唐揚げを一つ放る。
アスカもオウガもつい見てしまう。
「?」
カワクロは首を傾げた。
「そうですか。カワクロさんはプレゼントの値段を下げたいって言ったらどう思いますか?」
オウガは息継ぎを忘れて言う。
カワクロは口元に握りこぶしを当てると、眉に力を入れたり目を細めたりぱちぱちと開いたり閉じたりしている。
「私って重いのかなとか、彼の負担かなとか、好きが薄れたかとかなの。私彼氏できたことないから分からないなの。たぶん、なの」
「じゃあ彼氏に立候補します! でもいないんですか、モテそうですが」
「私小さいしたくさん食べるし、あまりかな。告白されたことは何度かあるけど。つい最近も」
「どうしたんですか?」
「彼氏いるからって振ったの。恋とか分からないし分かりたくもない」
「でも俺たちの相談は乗ってくれるんですね」
「定食奢るって言われたの。それに大学祭実行委員会の後輩の頼み」
「なあオウガ」
「なんだ?」
「あの量だぞ」
「そうだな」
「割り勘だよなああ! 当然だよなああ!」
「抱きつくな、抱きつくな。分かったから」
「一安心だ」
カワクロは黙々と食べ進める。
「で、どうだ。参考になったか?」
「ちゃんと好きだって伝えて、でもお金がって話すしかないよな。不安だけど。大好きな彼女なんだ。分かってくれると期待するしかないな」
「惚気か。この、この!」
アスカは肘でオウガの脇の下を突く。
オウガは身体を反るようにして避けるが、二回に一回は当たってしまう。
カワクロはそれ見ながら水を呷った。
「私はその距離感が羨ましいなの」
「馬鹿だって思いませんか?」
「馬鹿なのはお前だ!」
オウガは人差し指をアスカに向ける。
アスカは驚いたのか咄嗟に椅子を引いた。
「馬鹿って思ってる、二人とも」
「ほら」「ほらじゃないだろ!」
「彼女とのその距離感も、友人ともその距離感も私には難しいなの。みんないい子で悪者じゃないって分かってるのに。微笑ましいなの!」
こうして、相談を終えた。
会計は六千円。二人で三千円ずつ。一食九百円ほどで食べられる定食屋での出来事だった。
カワクロと分かれて。
電車に乗る。
「オウガっち、どうよ」
「なんとかなる気がした」
「だろ。あの人、優しいんだよ」
「好きなのか?」
「俺はいろいろ大きい人が好きだからな。それにあの人はお金すごくかかるだろうから」
「そっか」
「俺はどうやって彼女作ろうかな。流行りのマッチングアプリでも使おうか」
「騙されたりトラブルに巻き込まれたりするなよ」
「くそ、彼女持ちの余裕!」
「だろ」
「よく言うぜ」
「そろそろバイトの時間だ」
「無理するなよ」
「すっきりした。ありがとな」
「じゃ」
アスカが電車を降りた。
オウガが開いている席に座る。
車窓から夜景を眺めた。
光の軌跡が線で見える。
「なんとかするしかないな」
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