上 下
19 / 156
3章 任された仕事が難題すぎる!12~23話

その6 ヒウタと準備

しおりを挟む
 建物内の広い会場にて。
 十数人でアプリのイベントのための準備をしている。
「ということでスイーツパーティだ」
 ヒウタはシュイロと高めのテーブルを配置していた。
「少しはカズサさんにも働いてもらう。大赤字だからな」
 ヒウタはカズサを見て笑う。
 ヒウタがカズサのためにお試し期間を設けるよう説得したところ、シュイロたちの監視が弱い状況で会員ではないカズサがいるのは良くないらしい。
 ヒウタとカズサはシュイロのお手伝いだ。
「カズサさんのことでヒウタがあまりにも熱心だったから」
 つまり、監視さえできればいいという判断だ。
 そこで、スイーツパーティという出会いの場を設けることで、お試しの役割を果たそうという考えである。
 結果的に大赤字であるのがシュイロらしさだ。
「まさかここまでしてくれるなんて。驚きます」
「カズサさんのことは所詮きっかけだ。定期的にイベントを打っていたからな。期間に関して、イベント自体は二週間、会場は一週間だな。平日は夕方以降のみで入場料無し、土日は入場料が必要、みたいな感じ」
 シュイロの経営戦略は謎が多いが、利用者に優しくしているからか、黒字であることがあるのか心配だった。
 給料を減らしてほしいというのは、シュイロに失礼だろうが。
「普段はスペースを貸してるからな。私たちの建物だから費用は抑えられてるぞ」
 表情を変えずに言う、シュイロ。
「「何者?」」
 ヒウタとカズサの言葉が丁度重なるのだった。
「イベントにはたまに顔を出そうと思うのだが。ヒウタには、案内やパトロールを頼んでいる人たちと仲良くしてほしい。ヒウタにはクレーム対応や面倒な客を頼みたいんだが……」
 シュイロは申し訳なさそうにヒウタを見る。
「一週間ですか?」
「土日だな。平日なら人手が足りるだろうから」
「分かりました。そんなに大変ですか?」
「なにも起きなければ必要ないがな」
「大げさに七つの大罪って言っていた人たちですか?」
「それもあるが、イベントというものはいろいろあるからな」
 シュイロの表情には苦労が見えた。
 テーブルの配置を終えると、ごみ箱等も準備していく。
 配置が終わると掃除機を使って掃除し、床を雑巾がけしたりテーブルを拭いたりする。
 ようやく終わると、ヒウタは配置した椅子に座った。
「なかなか疲れた」
「ありがと、ヒウタ。それともう疲れ果ててしまったのか?」
「こんなアナログな方法とは思わなかった。ハイテクロボットは?」
「開発者とまだ仲直りできてないからな」
 どこか遠くを見るシュイロ。
 そんなどうでもいい決め顔はいいから、さっさと仲直りしてもらいたいものだ。
「シュイロさんって今までもこんなに働いていたんですか?」
 カズサが聞く。
「現場で動かないと分からないことだらけだからな。忙しいから人手増やして、その結果ヒウタを雇用することにしたんだ。私、高校を中退してたから、今年から女子高生なるものになって。さらに忙しくなったんだが」
「友人もシュイロさんのアプリを評価していて。どうして私が保留にされたのか分かりました。でも、こんな私にここまでしてくれるのは分かりません」
「悩んでいるのが分かったからな。なんていうか、カズサさんは幸せになったらいいと思うんだ。勝手にこんな私が、なんて言ってるが、恋をして悩んでるだけだ。いろんな人に会えばきっと幸せを探せる」
「まだ失恋を諦められない気がして。今まで仲良かったしよく話してて。魅力をたくさん知ってて。今の彼女といろいろあって付き合ってるのは分かるけど、彼女さんにいろんな魅力があったと思うけど、私の方が仲良しの期間が長くて、なのに彼女の力であの人との連絡までできなくされて。急に何もできなくなってたから、自暴自棄になってた」
 カズサの表情は澄んでいた気がした。
 ヒウタもシュイロも、カズサの言葉を一言も溢さないように慎重に聞いていた。
「私のこと、助けてほしい。この痛みを誰かに分けてでも助けてほしくて、そのためにはなんでもしたくて、忘れるために数をこなせばいいと思ってた。けど、なんだかな」
 カズサは瞳に涙を浮かべて笑う。
「なんか救われてたみたい、ヒウタさんとシュイロさんに。こんなにいい人と出会えたなら、楽しい恋がここにはある気がするから」
「私のマッチングアプリは楽しい恋愛のための場所だ。そのために私が頑張っているからな」
「大赤字でイベントして楽しい恋愛の場所とやらは維持できるんですか?」
「な? ちょっとくらい大丈夫だが?」
 シュイロはひどく動揺する。
 ヒウタのような雇われた身としては、目の前で経営者があたふたしているのは心配になってしまう。
「変な人たち」
 カズサはシュイロとヒウタがからかい合って互いに動揺するやり取りを見守っていた。
 その様子が微笑ましい。
「まだ悩んでいるけど、ホッとしたかも」
 カズサが言う。
 この広い会場にゆっくりとした、しかし騒がしい時間が流れるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆本編完結◆ ◆小説家になろう様でも、公開中◆

働きアリの婚活

鶴山葵土
恋愛
自宅と職場を往復するだけの毎日を過ごす「働きアリ」のような生活を送っていたナオト。 生まれてから女性と縁のない人生を送ってきた。 しかし、33歳になり一念発起、遂に婚活を開始する。 多くの婚活者が利用しているマッチングアプリを中心とした物語です。 ★登場人物紹介★ ナオト:ブラック企業に勤める33歳。 YUKA:海外ドラマや映画が好きの30歳。 カオリ:仕事で大阪から都内へ移住。ゆるキャラ好きの36歳。 リサ:アクセサリーショップ店員の32歳。

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった        君を選んだ事が間違いだ」 子を産めない お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない 私を「愛している」と言った口で 別れを告げた 私を抱きしめた両手で 突き放した彼を忘れるはずがない…… 1年の月日が経ち ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客 私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは 謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。 「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」 そんな事を言われて……私は思う 貴方に返す返事はただ一つだと。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

浮気をなかったことには致しません

杉本凪咲
恋愛
半年前、夫の動向に不信感を覚えた私は探偵を雇う。 その結果夫の浮気が暴かれるも、自身の命が短いことが判明して……

処理中です...