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シャオえる

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88. 不安と戸惑いを残したまま

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 ドタバタと大きな足音をならし、本部内を走り抜けるリコ達。その様子を、通りすぎていった隊員達が呆然と見ている。視線に気にすることなく、医務室までたどり着くと、リコが勢いよく医務室の扉を開けた
「失礼します!」
 リコの大声と共に、突然三人が入ってきて、部屋で治療をしていた隊員や医師が驚いて固まっている
「ミクが、凄い熱なんです!診てください!」
 リコの叫び声に、慌てて看護師達が駆け寄ってくる。空いているベッドにミクを寝かし熱を測ると、看護師達も予想外の高熱に、慌てはじめた
「三人は部屋の外で待っててください」
 治療の途中、部屋を追い出されたリコ達。部屋の前で、治療が終わるのを待っていると、三人のもとに誰かが近寄ってきた

「三人とも、何している?」
 不機嫌そうな声が聞こえて、その声のする方に振り向くと、重い足取りで近づいてくるレイがいた
「騒がしく走り回っていると報告がきてたが、また何をしたんだ?」
 ため息まじりに話をするレイに、壁にもたれてグズグズと泣いていたリコが立ち上がり、ゆっくりと話をはじめた
「ミクが熱を出して……」
「私達が、ミクを無理させて……それで……」
 リコとモモカの話に、また一つため息をついたレイ。すると、リコが大事そうに抱えていた本に気づいたレイが本を指を指した
「その本は、どうした?」
 レイの指差しに気づいて、ミクの絵本と本をモモカに渡すと、持ってきたもう一つの古い本をレイに渡した
「私達、ミクと一緒に古い方の書庫に行ってて、ミクが見つけたんです。お父さんの本と同じ模様の本って言ってて……」
 と、クルミが本を見つけた経緯を話していると、その古い本をパラパラとめくりはじめたレイ。クルミの話も聞いていない様子で、無言のまま、本を読み進めていく

「あの……」
 リコが何かを聞こうとした時、レイがパタンと本を閉じた
「何かを見たのなら、それでいい。それより、今回の件を、レグスに知られないよう、気を付けるように」
 と、三人に言うと、古い本を持ったままどこかへと歩き始めた
「レイさん。あの……」
「この本は預かっておく。部屋にいるから、目が覚めたら呼んでくれ」
 慌てて呼び止めたリコの声をまた遮るように話をすると、再び歩き始めたレイ。廊下の角を曲がり姿が見えなくなると、静かになった廊下に、クルミとモモカのため息が聞こえた
「行っちゃった……」
「何も聞けなかったね」
 と、モモカの言葉を聞いてしょんぼりするリコ。そんなリコを、モモカがぎゅっと抱きしめてなぐさめる姿を見て、クルミがまた、ふぅ。とため息をついた
「後で落ち着いてから話を聞こう。それより、ミク……」
 と、まだ治療を受けているミクのいる医務室の方を見るクルミ。リコが医務室の反対側の壁にもたれるように、ペタンと座ると、クルミとモモカも隣に並ぶように座ってミクの治療が終わるのを待ち続けた




「この本は、やっぱり……」
 その頃、部屋に戻ってミクが見つけた古い本を読み続けているレイ。一通り本を読み終えるとパタンと本を閉じ、一度深く深呼吸をすると、本を持ち部屋を出た。パタンと扉を閉じた時、ちょうどレイの部屋を訪ねようとしていた二人組の隊員が声をかけてきた
「あ、レイさん、お出掛けですか?」
「ああ、少し出るよ。何か用かね?」
 険しい表情から微笑み変事をするレイ。返事を聞いて隊員達は顔を見合わせ少し困っている
「ええ、報告があったのですが……」
「そうか……後で聞いても良いかい?」
「はい、急用ではないので、構いませんが……」
 と、隊員の返事を聞くと、二人の隊員の前を通りすぎていくレイ。その後ろ姿を見ている隊員に気づいて、二人の方に振り返り、クスッと笑った
「すまないね。帰ってきたら必ず聞くよ。それじゃあ後で……」
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