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第一章 春
第六話 部活動見学②
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結局野球部を眺めているうちに部活動見学一日目が終了してしまった。
そして、家に帰って自分の部屋に入った俺は一つため息をつく。このため息の原因は、碧の言葉を聞いて自分との差を痛感したのもあるが、この部活動見学における目的を達成できてない事が大きい。
この部活動見学は様々な部活を見て、どんな部活が高校にはあるかを知るという目的を建前として置いておき、本来の自分の目的は、中学を卒業して、高校の合格発表の日に会っていない想い人に会うことだった。
スマホも中学卒業後に親に買ってもらったので、想い人の連絡先すら知らず、あの日以来全くやりとりを交わせていない。中学の頃はかなり高頻度で会って喋っていたので、その時との差が激しすぎて今はかなり精神がすり減っているような気がする。あの子から何かしらの気持ちを落ち着かせる成分が出ていたのではと思うほどだ。
どこに行ったら出会えるだろうか。中学の時はバスケ部に入っていたけど、高校では別の部に入ると言っていたし……
そんなことに考えを巡らせているうちに夜になり、一日が終わってしまった。
翌日の放課後も碧と二人で部活を回っていた。昨日は野球部までしか見れなかったので、今日はそのさらに奥、テニスコートに来ていた。
テニスはやったことがないな、と思いながらどんな感じだろうと練習をじっと見ていると、隣の碧が目を輝かせて練習を見つめていることに気づいた。その視線に碧が気づくと、
「実は本命テニス部なんだよね」
と言う。どうやらすでにどの部に入るか当たりをつけていたらしい。
「へぇ、テニスか。いいじゃん。俺もラケットスポーツ好きだからちょっと気になるかな」
そんな感じでしばらくテニス部を見ていると、周りの生徒が、こんな事を言っているのを耳にした。
「今日は体育館は卓球部とバレー部がやってるらしいぜ」
「おっ、それは見に行かないと」
卓球部…!そう、俺の本命はあくまでも卓球部!
見に行きたいな、とそわそわしていると、
「俺はもうしばらくテニス部見てるから佑は先に体育館行ってていいよ」
と碧が俺の様子に気付いて言ってくれた。ありがたいね。
「じゃあお言葉に甘えて」
と碧に一言返し、一人体育館へと向かった。
体育館、そこは聞き慣れた音で溢れていた。卓球独特のステップを踏む音、そしてピンポン球の跳ねる音がそこらじゅうから聞こえる。
見学エリアの視線の多くはバレーの方に注がれているようだが、何人かは俺と同じように卓球部を見つめている。
その中で俺と背丈があまり変わらないくせっ毛の男子がかなり真剣に練習を見つめていることに気づき、卓球好きなんだな、と感じた。
卓球部の練習を見ていると、一人の先輩が飛び抜けて上手いということに気づいた。その先輩は俺と同じか、なんなら少し低いくらいの身長の体を鋭く動かし、強いボールを相手コートに叩き込んでいる。そんな先輩の姿が俺には輝いて見えて。この人みたいにプレーしたい、という憧れが生まれて。この瞬間に俺は高校でも卓球を続けることに決めた。
その翌日は雨が降っていた。なので大方の運動部は必然的に練習がなくなってしまった。
という事で、今日は碧と校舎内で活動している文化部を見に来た。化学室ではサイエンス部を名乗る集団が怪しい液体を混ぜていたり、廊下で演劇部が即興で劇を開演していたりして中々興味深かったのだが、最も気になったのは校舎全体に響き渡る楽器の音。その発生源を探して歩き回ると、最上階にある音楽室にたどり着いた。
どうやらここでも即興コンサート的なものが行われているようだった。
それを見ている一年生の中に、しばらくの間で見慣れた女子生徒───『推し』である杏実さんの姿が見られた。向こうもこちらに気づいたようで声をかけてくれたのだが……
「あ、佑君!それと……」
好きな人である碧の姿を見てフリーズしてしまった。まずいな、ここは俺が上手く場を回さなければ。
「杏実さんはどの部活に入るかもう決めたの?」
「………あ、私?私はここ、吹奏楽部に入るよ!中学の頃からやってたからね!」
良かった、フリーズが解けたようだ。
「どの楽器やってたの?」
「私はパーカッション──打楽器だよ」
すると、この会話に碧も混ざりだす。
「へぇ、杏実ってパーカッションなんだ、フルートとかそういう系かと思ってた」
ちなみに碧は基本的にみんな呼び捨てである。だから杏実さんが碧と話している時は基本的に杏実さんの感情が大変そうだが。
「あ………碧君、吹奏楽詳しいの?」
「あ~、俺、妹が吹奏楽部だから。」
「お、碧もなのか、俺も妹が吹奏楽部なんだよね。」
なんかこの3人の共通言語ができてしまった。これで話題に困らないな。
そう思っている間も吹奏楽部の演奏は続き、今は人気J-POPが奏でられている。その歌を碧が横で口ずさんでいるので、杏実さんの意識は完全に演奏ではなくそちらに向いてしまっているが。
それにしても吹奏楽か……俺は音楽は好きだけど、楽器にそこまで触れてないからそもそも綺麗に音を出せている時点ですごいと感じる。そう感心しながら、辺りを見渡し、想い人を探すが──見当たらない。そうしているうちに演奏が終わり、即興コンサートが終了した。時計を見ると部活動見学時間もほとんど終わりの時間になっていたのでそのまま音楽室を出て行った。
そうして音楽室を出て行く俺の姿を一人の少女がじっと見つめていた事に俺は気づくことができなかった。
その後は特にこれといった出来事は無いまま部活動見学期間が終了して、迎えた入部届け提出日。
俺の手が掴む紙には卓球部、隣にいる碧の手が掴む紙にはテニス部と書かれていた。
そして、家に帰って自分の部屋に入った俺は一つため息をつく。このため息の原因は、碧の言葉を聞いて自分との差を痛感したのもあるが、この部活動見学における目的を達成できてない事が大きい。
この部活動見学は様々な部活を見て、どんな部活が高校にはあるかを知るという目的を建前として置いておき、本来の自分の目的は、中学を卒業して、高校の合格発表の日に会っていない想い人に会うことだった。
スマホも中学卒業後に親に買ってもらったので、想い人の連絡先すら知らず、あの日以来全くやりとりを交わせていない。中学の頃はかなり高頻度で会って喋っていたので、その時との差が激しすぎて今はかなり精神がすり減っているような気がする。あの子から何かしらの気持ちを落ち着かせる成分が出ていたのではと思うほどだ。
どこに行ったら出会えるだろうか。中学の時はバスケ部に入っていたけど、高校では別の部に入ると言っていたし……
そんなことに考えを巡らせているうちに夜になり、一日が終わってしまった。
翌日の放課後も碧と二人で部活を回っていた。昨日は野球部までしか見れなかったので、今日はそのさらに奥、テニスコートに来ていた。
テニスはやったことがないな、と思いながらどんな感じだろうと練習をじっと見ていると、隣の碧が目を輝かせて練習を見つめていることに気づいた。その視線に碧が気づくと、
「実は本命テニス部なんだよね」
と言う。どうやらすでにどの部に入るか当たりをつけていたらしい。
「へぇ、テニスか。いいじゃん。俺もラケットスポーツ好きだからちょっと気になるかな」
そんな感じでしばらくテニス部を見ていると、周りの生徒が、こんな事を言っているのを耳にした。
「今日は体育館は卓球部とバレー部がやってるらしいぜ」
「おっ、それは見に行かないと」
卓球部…!そう、俺の本命はあくまでも卓球部!
見に行きたいな、とそわそわしていると、
「俺はもうしばらくテニス部見てるから佑は先に体育館行ってていいよ」
と碧が俺の様子に気付いて言ってくれた。ありがたいね。
「じゃあお言葉に甘えて」
と碧に一言返し、一人体育館へと向かった。
体育館、そこは聞き慣れた音で溢れていた。卓球独特のステップを踏む音、そしてピンポン球の跳ねる音がそこらじゅうから聞こえる。
見学エリアの視線の多くはバレーの方に注がれているようだが、何人かは俺と同じように卓球部を見つめている。
その中で俺と背丈があまり変わらないくせっ毛の男子がかなり真剣に練習を見つめていることに気づき、卓球好きなんだな、と感じた。
卓球部の練習を見ていると、一人の先輩が飛び抜けて上手いということに気づいた。その先輩は俺と同じか、なんなら少し低いくらいの身長の体を鋭く動かし、強いボールを相手コートに叩き込んでいる。そんな先輩の姿が俺には輝いて見えて。この人みたいにプレーしたい、という憧れが生まれて。この瞬間に俺は高校でも卓球を続けることに決めた。
その翌日は雨が降っていた。なので大方の運動部は必然的に練習がなくなってしまった。
という事で、今日は碧と校舎内で活動している文化部を見に来た。化学室ではサイエンス部を名乗る集団が怪しい液体を混ぜていたり、廊下で演劇部が即興で劇を開演していたりして中々興味深かったのだが、最も気になったのは校舎全体に響き渡る楽器の音。その発生源を探して歩き回ると、最上階にある音楽室にたどり着いた。
どうやらここでも即興コンサート的なものが行われているようだった。
それを見ている一年生の中に、しばらくの間で見慣れた女子生徒───『推し』である杏実さんの姿が見られた。向こうもこちらに気づいたようで声をかけてくれたのだが……
「あ、佑君!それと……」
好きな人である碧の姿を見てフリーズしてしまった。まずいな、ここは俺が上手く場を回さなければ。
「杏実さんはどの部活に入るかもう決めたの?」
「………あ、私?私はここ、吹奏楽部に入るよ!中学の頃からやってたからね!」
良かった、フリーズが解けたようだ。
「どの楽器やってたの?」
「私はパーカッション──打楽器だよ」
すると、この会話に碧も混ざりだす。
「へぇ、杏実ってパーカッションなんだ、フルートとかそういう系かと思ってた」
ちなみに碧は基本的にみんな呼び捨てである。だから杏実さんが碧と話している時は基本的に杏実さんの感情が大変そうだが。
「あ………碧君、吹奏楽詳しいの?」
「あ~、俺、妹が吹奏楽部だから。」
「お、碧もなのか、俺も妹が吹奏楽部なんだよね。」
なんかこの3人の共通言語ができてしまった。これで話題に困らないな。
そう思っている間も吹奏楽部の演奏は続き、今は人気J-POPが奏でられている。その歌を碧が横で口ずさんでいるので、杏実さんの意識は完全に演奏ではなくそちらに向いてしまっているが。
それにしても吹奏楽か……俺は音楽は好きだけど、楽器にそこまで触れてないからそもそも綺麗に音を出せている時点ですごいと感じる。そう感心しながら、辺りを見渡し、想い人を探すが──見当たらない。そうしているうちに演奏が終わり、即興コンサートが終了した。時計を見ると部活動見学時間もほとんど終わりの時間になっていたのでそのまま音楽室を出て行った。
そうして音楽室を出て行く俺の姿を一人の少女がじっと見つめていた事に俺は気づくことができなかった。
その後は特にこれといった出来事は無いまま部活動見学期間が終了して、迎えた入部届け提出日。
俺の手が掴む紙には卓球部、隣にいる碧の手が掴む紙にはテニス部と書かれていた。
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