上 下
5 / 52
第一章 春

第四話 連絡先

しおりを挟む
 四月も後半に差し掛かってきた。
 この頃俺は碧と杏実さんを近づけるため、まずは自分が杏実さんと距離を詰めないといけないと思い、そのために何をすべきかと考えているのだが……いい手が見つからない。
 昔から時間をかけてじっくりと色んな人と仲良くなってきたタイプなので短期間で距離を詰めるのは難しく感じる。

 今日も休み時間にボーッとそんなことを考えていたら、俺の高校友達一号こと、大喜に声をかけられた。

「なぁ、佑、RIME交換しよーぜ」

RIME───メッセージアプリのアドレス交換か……そういえば高校に入ってから知り合った人とはまだ誰ともしてないな。完全に忘れていた───それだ!
 そうだ、RIMEを交換してないから杏実さんともそこまで親しくないのでは?!RIMEを交換してれば放課後とかも雑談とかできるし。

 とりあえず大喜に軽く「いいよ」と返事をし、RIMEを交換した。
 この勢いのまま杏実さんとも交換しよう、と意気込んでいると大喜から衝撃の一言を口にした。

「じゃあついでにクラスのグループにも招待しとくわ」

 待て待て待て、そんなものいつの間に作られた?!知らないんだが。入学式から2週間は経ってるし、クラスの中で参加してないやつワンチャン俺だけだったりする?
 そんな風に動揺していると、大喜が

「ああ、このグループ一昨日くらいに作られたから参加してるのクラス40人中まだ10人くらいだから」
と教えてくれたため一安心。

 さて、気を取り直して杏実さんの所へいこう。


 俺が杏実さんの下に向かった時、彼女は女の子二人と何やら雑談をしていた。
(うーん……あの女子二人とは話したことがあるとはいえ、ここからいきなり会話に混ざるのは流石に違和感があるな……)
 まだ休み時間に入ったばかりだから、と会話が途切れるのを待っていると、杏実さんと話していた子が別の子に話しかけられ、そっちに流れていった。
 話しにいくチャンス到来!!
 でも女子に、そして『推し』に話しかけるのはやっぱりちょっと緊張するし、躊躇うなぁ。だけど、ここで止まってても意味ないしな、うん。思い切りよく行こう!

「ねぇ、杏実さん。RIME交換しない?」

 俺がそう言うと、少し驚いた表情を見せながらもスマホを取り出しRIMEを交換してくれた。
 ちゃんと交換できたことに安心していると、スマホが震える。見ると、画面には杏実さんから送られてきた可愛らしい猫の「よろしくね」というスタンプが表示されていた。こういう所までこの子は可愛いんだな、なんて思いながら俺もお返しに「よろしく」のスタンプを送った。


 その後、碧のRIMEも持ってないことに気づいたので、杏実さんと交換した流れでそのまま話しかけに行き、交換した───後ろから視線を感じながら。
 振り向かなくても分かる、多分これ杏実さんだ。これ確実に杏実さん碧のこと気になってるよね。
 そう思いつつ、碧の連絡先を手に入れた俺は自分の席にさっと戻り、碧と話すポジションを杏実さんに譲る。
 
 さて、どう動くかな、と見ていると杏実さんが話しかけようとして、躊躇って、というのを繰り返していた。助け船を出した方がいいだろうか、なんて考えが頭をよぎったが、最終的には緊張で顔を強張らせながらどうにか話しかけているのが見て取れたので安心した。

 しばらくやりとりを交わした後にお互いにスマホを取り出しているのが見えたのでどうやら上手くいったらしい。
 その後には頬を緩ませながら自分の席に戻る杏実さんを見ることをできた。嬉しそうで何よりだ。そして可愛い。


 夕方、家に帰り、スマホを見るとRIMEにいくつか通知が来ていた。誰からだろうと思い、アプリを開くと1番上に「杏実」という名前が表示されていた。
 杏実さんから?なんだろう?と思い、スマホをタップすると

『佑君って私のこと好きなの?』
というメッセージが現れた。
 この一文を読んで死ぬほど驚いたが、続きを読んで納得した

『友達が「与田君、急に杏実のRIME聞いてたからワンチャン好きなんじゃない?」なんて言ってて……もし違ってたらごめんね』

 そうか、友達に見られてたか。確かに急に男子が女子のRIME聞くとかそう見えてもおかしくはない。実際恋愛的な好きとは違うけど杏実さんのことは好きだし。と思い、

『恋愛的な好きではないけど好きだよ。だから仲良くなりたいなって思ったから』
と返信した。
 すると、すぐに既読がつき、
『そっか!!私も佑君と仲良くしたいな、よろしく』
と返ってきた。

 このまま会話を終わってもよかったのだが、杏実さんが恋愛に関する話題になりかねないものを最初に送ってきたので、せっかくだから気になってたことを聞いてみよう。

『じゃあ逆に質問。杏実さんって碧のこと好きなの?』
『えっ!??なんで?!、えっ?』

 わかりやすく動揺している。

『あ、やっぱり笑笑?』
『………そうだけど…本当になんで分かったの?』
『いや~、階段の件以降、杏実さんのこと見てると結構碧の方見てるからもしかするとな~って』
『図星すぎて何も言えません……』
『まあ、頑張ってよ。応援してるからさ』
『ありがとう……頑張ります…』
 そんなやりとりをして、会話が終了した。
 やっぱ杏実さん碧のこと好きだったか。流石に行動がわかりやすすぎるぞ、杏実さん。


 そんなわけで、『推し』のRIMEを手に入れた上に碧のことが好きと言う確認までできて収穫のある一日になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

礼儀と決意:坊主少女の学び【シリーズ】

S.H.L
青春
男まさりでマナーを知らない女子高生の優花が成長する物語

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

【れんかの】~週末。『ボク』は『白雪姫』に変わる。憧れのあの子と始めるナイショの関係~

夕姫
青春
『あの時の甘酸っぱい気持ちを思い出しませんか?』 主人公の白瀬勇輝(しらせゆうき)は高校3年生。学校では陰キャのオタク。身長も低く、顔立ちも幼い、女の子のような高い声。勉強も運動も苦手。毎日クラスメートからバカにされる日々。そんな勇輝はオタク仲間から誘われたコスプレをきっかけに、週末だけ『女装』をするようになる。 新しい自分。外を1人で歩けば周りの男の子から声をかけられ、女の子からも可愛いと言われる。『女装』することで普段のストレスから解放される勇輝。 いつものようにお気に入りの喫茶店に行くと、そこで偶然にも憧れの女の子である隣の席の藤咲葵(ふじさきあおい)と出会ってしまう。 そんな葵は今流行りの『レンタル彼女』サービスをやっていて…… この物語は、お互いの悩みを通して色々成長し変化していく、時に真面目に、時に切なく、時にドキドキ展開……も?『男の娘×恋に真面目な小悪魔系美少女』の甘酸っぱい新感覚ラブコメディ

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

処理中です...