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一章.魔法使いと人工キメラ

四話目-人工キメラは蹴散らしたい

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 リベスルサ平原。 
 地方都市ゾノーと周辺に点在する十七の村の中間にある。

 見渡す限り緑の草が広がり、点々と木が生え、のどかな風景が延々と広がっている。
  行商エルフやゴブリンも通る道で、危険なモンスターもほとんど出ない。


 そんな道をもう一時間近く歩いた頃、さっきまできれいな景色にはしゃいでいたセシリアが、

「いくらなんでも広すぎない?」


 と、声のトーンを落として言った。

「おかしいな……真っ直ぐ進めばすぐだよって言われてたのになあ」


 辺りを見渡しても街らしきものはおろか、人影すらない。


「道間違えたんじゃないの?」

「いや、さすがにそんなはずは……」

 
 あるはずがない。ゾノーという町はとてつもなく発展していて、ビルが立ち並び、様々な人種、種族が共存しているのだ。

 人口も多ければ街の活気も凄まじい。

 平原が続いているとはいえ、人の流れが途切れるはずはないのに……。


 すると、

 セシリアがこぶし大の石を拾った。


「え? どうする気?」

「いいから見てて」


 セシリアはそう言うと、全身をムチのようにしならせ、全力でぶん投げた!
  
 僕の髪がかき乱される程の突風を起こし、突き進んだ石は、少し離れた木の幹に当たる。


 [バリバリバリ……メキッ]

 豪速球の当たった木は、半ばから折れて吹き飛んだ。

 僕はセシリアを怒らせないようにしようと強く心に留めた。


 「イーヴォ、多分これでちゃんと見えるわよ」
 
  辺りを見回すと、少し遠くではあったが、『ゾノー』のビル群が見えた。
 
 
 一体……何が起こったんだ?

 セシリアが先程の木を指さすので、そちらに目を向けると、そのすぐ脇の茂みからゆっくりと誰かが起き上がったのがわかった。

 僕よりも少し年上の男のようだ。ローブのようなものをまとっている。

 顔が見えるぐらいの距離まで近づくと、男はした。


「おい龍娘ッ! お前の血の気の多さはいつまで経っても変わらないようだなァ!」

 
 こいつまさか、セシリアと知り合いなのか?

 だとしてもだ。
 いくらムカついてる人だったとしても、あんなの投げられたら普通の人間は粉微塵になる。
 
 そのことはセシリアも理解しているはずだ。

 
 死ぬリスクを考慮した上でやってるのだとすれば、この男は余程の恨みを買ってるはずだ。

 何こいつ、早死にしたいの?




 セシリアは僕に耳打ちをした。

 
「コイツは"ダニエル"。 いっつもキレてる軟弱者」

 どんな聖人だろうと、龍殺しできるレベルの豪速球を挨拶がわりに貰ったらキレるよ。
 


 ダニエルさんはその言葉が聞こえていたらしく、青筋を浮かべた。


 「あァ? 俺がキレやすいだァ? 余計なお世話だこん畜生! 立派に青臭いガキなんて侍らせやがって! 」


 頭に来たのか、セシリアの目が鋭くなった。

 「はぁ? 私の何がわかるっての!? こいつはイーヴォ! 私と昨日一晩を共にした命の恩人よ!」

 いかがわしい言い方をするな!
 
 
  相手側はフードの下からでもわかるほど、顔を真っ赤にした。
 
 そりゃあ……そんな適当なこと言われたらさすがに僕にもキレるよなぁ。


 ダニエルさんは僕を睨みつけるなり、


 「や、や……やい! こ、このド……ド変態め!」

 「本当になんなんだお前らは」

「ひ、一晩を共にしたって……どこまで行ったんだ!」

「どこにも行ってないよ」

  「真昼間からそんな話しやがって……お前にはデリカシーってもんがないのか!?」

  「お前にこそないだろ」

「青っちょろいガキみたいにしやがって……実はませてるってか!?」 

「アンタがウブなだけよ!」

「「うるさいぞセシリア!!」」


 どうやら僕の旅の相棒は、話をややこしくする天才のようだ。


 「ああ!もういい! てめぇらとは話が出来ねぇ! ここで!」

 
 今、物騒な言葉が聞こえたんだけど!?

「ねぇ……セシリア? 怒らないからこの人とどういう関係だったかいって貰っていい?」
 「ヤダ! イーヴォったら嫉妬しちゃって! 」
 「それどころじゃないでしょ!?」

 
 ダニエルさんはブチ切れながら言う。



「俺の名はダニエル! そこの龍娘を捕らえるか殺せと言われてやって来た! 隣のお前をついでに死ねッ!」
 
  そんなにもわかりやすい大義名分を、今から殺す奴に言うのか。
 

 そんなことを考えていると、セシリアに腕を引っ張られる。

「逃げるわよ! 」

 「え?」


 セシリアに引っ張られて少し走ると、先程までいたところから、

 [ドーン!]

 という音ともに、土煙が上がる。


 「何これ!?」


 走りながらセシリアは言う。

 「言わなかったっけ? 私はこいつの元いたところから逃げてきたの!」

 「初めて聞いたんだけど!?」 


 嘘だろコイツ……なんで今言うんだそんな大事なことを!

 と、いうことは……僕らがゾノーを見失ったのもこいつのせいってことか!?


 僕らが走って逃げていると、足元を高速で影が過ぎ去った。僕らの頭上を、何かが飛び越えたのだ。
 勢いそのまま、目の前で着地したのはダニエル。

 「(こいつ……早い!? この一瞬で回り込んだのか!?)」
 
 
 ダニエルは青筋を浮かべながらこちらを睨んでいた。

 
「ちょこまかと鬱陶しいんだよ!  逃げんじゃねえ!」


 そう言うなり右腕を突き出し、手を開いた。
 すると彼の周りの至る所から透明な『何か』が手に集まっていた。
 

 ──『何か』は僕の目の前でいきなり炸裂した。

 「なっ──」



 どう考えても避けられない距離だ、と冷静に僕は悟ってしまった。
  目の前で爆発した『何か』は僕の左腕を貫いた。


 「ギッ……!」


 爆風で後方へ吹っ飛び、痛みのあまり転がった。


 「イーヴォ!」

 
 セシリアは僕に目をやった直後、ダニエルを睨みつけた。

 そんなセシリアに臆することなくダニエルはキレ散らかす。


 「お前はよ……何がしてぇんだ? こうしてお前が逃げれば逃げるほど誰かが傷つき、俺がキレるってのによォ!」

 「……お前に何がわかる……!」

 「お前と俺は分かり合えねぇ! だから殺すんだよ! 着いて来いって言ったって二度と戻らねぇんだろお前は!」 

 「わかった。殴る 」
 
 
 セシリアはダニエルに飛びかかる。しかしダニエルは『何か』を盾にしたり、鋭くしたりとフル活用して、あのセシリアと渡り合っている。

 どうなってるんだアイツ……!
 あの怪力を止めてるあの透明なのは一体……?




 僕はとりあえず起き上がって、左腕を見た。
 血が滴っている。一周まわって痛みはなくなってきた。
 三つ穴が空いているが、動脈には当たっていない。

 そして傷口の辺りの服が何故か湿


 
 先程の幻覚と共に……さっきの爆弾のようなものが水だったとすると……。

 

 ──辻褄は合う。
 かと言って、アイツは多分水属性の魔法使いじゃない。水属性の魔法使いは任意の場所から水を『出せる』のだ。
 対してダニエルは際限なく水を使っていると言うより、数あるものを緻密に操作しているだけのように見える。


 セシリアとダニエルが戦っている様子も見ているが、どうみたってこれは格闘家VSサイキッカーである。
 サイキッカーはどう転ぼうと、高圧洗浄機にはならない。






  ……少し試してみるか。



  僕はおもむろに水筒をカバンから取り出すと、右手でダニエルのぶん投げた。

 

  次の瞬間水筒は、吸い寄せられるようにダニエルの後頭部に直撃した!


 [ゴン!]

 ダニエルに衝突した水筒は、力無く地面に転がった。

 ダニエルはセシリアのすぐ脇をぬけ、後方に吹っ飛び、頭を押さえた。
 
  

「てめぇ……何しやがるんだ……!?」

 間違いない。アイツは……何故だかしらないがダニエルは……!

 僕は落ち着いた口調で問いただした。
 
「ダニエル。 お前の能力は能力だ。違うか?」


  
 ダニエルは血の絡んだ唾を吐き捨て、こちらを睨む。



  「……ご名答だ。 クソ青二才」

  「お前……まだ引きずってたのか……」

 
 そんなことを言いながら、ダニエルは数度咳き込んだ。

 かなり当たりどころが悪かった……もとい、良かったようだ。


 

 セシリアが頃合を見て距離を取り、僕に近づいた。



  「ねぇ……もしかしてあいつの能力わかった感じ?」

  「そうだけど、アイツよりも僕に近いとこにいてなんでさっきの話全く聞いてないのさ」
 
  「あなたが難しい言葉なんかを使うからよ。イーヴォ」

  「これは僕が悪いのか……?」


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