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PART 7 : What a Heartful World
No.46 真に信頼できるもの(中編)
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フユが最も『怖い』ことは、元の世界へと再び戻ることだった。
逆に言えば、それ以外のことは彼女にとっては『恐怖』を感じるほどのことでもないのだ。
もちろんデブリに襲われればひとたまりもないが、それでも彼女の持つ超能力とさえ言えるほどの『危険感知』で幾らでも回避できる。
デブリ以外にも様々な自分の身に迫る危険は当然感知可能だ。
要するに、フユはF世界にさえ戻らなければどうとでもなるほどの能力を持っているということである。
……とかく生存のために金銭の必要となるH世界等で一人生きていけるかと問われれば、厳しいことは事実ではあるが、無数の『鬼』に狙われるF世界に比べればどんな世界であろうとも彼女にとっては『天国』であると言えよう。
そんな彼女の怖れを、デブリたちは見抜いていたのだろう。
ナツが一足先にハルの救出に向かっていた時、フユに対してN風見真理を乗っ取ったデブリが脅迫してきた。
――言う通りにしなければ、おまえをまたあの世界へと戻す。
と。
N風見がデブリであることはその時にフユにはわかっていたが、その正体をナツたちにバラすことは当然口止めされている。
そして、N風見の身体を乗っ取っていることから、本当にやろうと思えばフユをF世界へと送り戻すこと――パラレルワールドの技術を扱うことができることも理解していた。
だからフユは従うしかなかった。
N風見がフユへと指示したことは2つ。
1つは、H世界でのハルたちの動きを報告することだ。
パラレルワールド間での通信は技術も確立していないため使えないが、ある意味で世界の法則外の存在であるデブリには関係ない。
ハルたちが学校へ行っている間などに、アキに見つからないタイミングでこっそりとH世界のデブリ――コハルへと情報を伝えていた。
2つ目は来るべき決着の日――つまり今日の動きについてだ。
彼女の役割は、ハルとアキを一時的に引き離し、更にアキがすぐに助けに向かえないように妨害することだった。
そのためのアイテムとして、N風見からは鬼デブリを封じ込めた『超科学収納ボックス』を別に渡されている。
鬼デブリであればアキであっても足止め可能だと、コハルたちは考えていた――というよりも彼女たちが用意できる最大の戦力が鬼デブリまでしかないのだ。
後は、孤立したハルをコハルが仕留めて終了。
その時まで適当に身を隠していれば良い――とフユは事前に作戦を伝えられていた。
(…………フユも、がんばる……)
けれどもフユは脅迫されたからと言って、震えて何もできない無力な子供ではなかった。
見た目や性格こそ違えど、彼女のハルと同様にF世界における『天才』なのだ。
生き残るために必要だった『危険感知』能力だけではなく、生存のための的確な状況判断・状況分析・状況把握能力にも優れている。
そんなフユは、誰にも相談できず、しかしたった一人でずっとデブリたちへの対抗策を練り続けていた。
(……『てれび』のむこうでも、『あぶない』がわかる……!)
フユが注目したのは、H世界で目にした『テレビ』だった。
聡いフユには、テレビ画面の向こう側にあるのは『作り物』であることはすぐに理解できた。『生放送』のようにリアルタイムでの番組であっても、それは遠く離れた別の場所の出来事なのであるとも理解している。
その上で、更にフユは自分の能力を突き詰めて考えた結果、『作り物』であろうと何だろうと、フユは自分自身に関連しているものであれば『危険』を感知できるということだった。
――もしこれをハルやナツが聞いたとしたら、『超能力としか言いようがない』と言っていただろう。実際、そうとしか言いようのない能力だ。
肝心なのは、フユが『自分が関わっていれば何でも危険がわかる』という事実を明確に自覚したことにある。
距離も時間も、現実であるかどうかさえも関係ない。
ありもしない脅威に踊らされる危険性も孕んでいるが、フユ自身がしっかりと理解して見定めることができていれば問題はない。
事、危険を事前に察知して回避策をとるという点にかけて、フユは紛れもないあらゆる並行世界において唯一無二の『超天才』なのだ。
そんな危険に関する超天才のフユが、自分の能力について自覚をしただけで終わらせるわけがない。
彼女が真っ先に行ったのは、果たして自分は本当に危機に陥っているのか? という確認だ。
もっと言えば、自分を脅迫しているデブリたちは脅威足りえるのか? という確認である。
『フユをF世界に戻す』という言葉は確かに恐怖だ。
デブリたちが実行できるのも確かだ。
では、ハルたちがデブリを突破できたとしたらどうだろう?
そして、デブリたちが失敗した際に自分の身の安全を守るためにはどうしたらいいだろう? どう動けばいいだろう?
……フユはひたすらにそれを考え続け、ハルのように相手の思考を読み解き、自分にとっての『最良』の結果を導き出すために相手を誘導した。
とはいってもフユは積極的に相手に言葉をかけて誘導したというわけではない。デブリたちは元よりフユの言うことなど聞きはしないだろう。
だからフユ自身が行動を起こしたのはほんの少しだけだ。
アキへと鬼デブリをけしかける――ここまではデブリたちの計画に沿って進めた。進めざるを得なかった。
鬼デブリに対してはF世界の『鬼』と同様に恐怖を感じたが、アキならば大丈夫だという絶対的な信頼を彼女はもっていた。
そして一旦身を隠す……が、ここであえてショッピングモールから遠くへと離れることはしなかった。
デブリたちにとって、ここでハルを殺せればフユの存在など気にも留めていない。おそらく、遠くへと逃げ出しても咎められることはなかっただろう。
それでもあえてフユは留まった。
なぜならば、ハルたちの行動如何によってデブリたちがどう動くかは読めていたからだ。
付近に隠れながら、注意深く自身に迫る危険を探る。
やがて、N世界側――『F世界へ戻される』という恐怖を感じなくなった。
(ナツお姉ちゃんが、がんばった……!)
次元を隔てた別世界に潜む危機をなぜ感じ取れるのかまではフユも理解していない――もしかしたら、ハルたち『並行世界のフユ』に迫る危機をも感じ取れるのかもしれないが、真偽は不明だ。
ともあれ、デブリたちの計画の中心人物たるN風見デブリの脅威が消えた。
となればこちらの世界に残ったコハルが採るべき手段は簡単に想像がつく。
(……フユを『ひとじち』にする……)
ショッピングモールから離れなかった理由はここにある。
N風見の助けを得られなくなったことを知ったコハルならば、きっとフユを『人質』にして、フユの持つ『超科学収納ボックス』に潜む鬼デブリを頼るだろうとわかっていた。
だからすぐにデブリに捕まり連れて行かれやすいショッピングモール傍にフユはいたのだ。
かくして、フユの考え通りにコハルは踊り、フユはハルたちの目の前へと何の苦労もせずに連れてきてもらった――というわけである。
「――フユ、怖いか?」
ハルの言葉に、フユは心の底から安堵する。
(……お兄ちゃんも、わかってくれている……!)
言葉を交わさずとも、おおよそのことをハルが理解してくれていることをフユは彼の一言だけで同じく理解した。
ここに連れて来られるまではフユの考え通りではあったが、ここから先はフユ一人ではどうにもならない。
ハルたちの『協力』がなければ乗り越えられない、最後の壁だと言える。
通信機をフユも外していたためハルたちと相談することもできない、ある意味では『賭け』ではあったが……その賭けにフユは勝った。
「…………ぅぅん……」
フユに出来ることは、後は『伝える』だけだ。
そして、フユの意図がハルたち3人には絶対に伝わる――そんな絶対的な信頼が彼女たちの間にはあった。
「大丈夫だ、俺たちに任せろ、フユ」
ハルの言葉を聞き、フユはコハルに言われるがまま『超科学収納ボックス』を開き最後の鬼デブリを解き放つ。
……『最後の壁』は既に乗り越えている。
後は決着がつくのを待つだけだ。
そう、フユは心の底から信じ切っていた。
逆に言えば、それ以外のことは彼女にとっては『恐怖』を感じるほどのことでもないのだ。
もちろんデブリに襲われればひとたまりもないが、それでも彼女の持つ超能力とさえ言えるほどの『危険感知』で幾らでも回避できる。
デブリ以外にも様々な自分の身に迫る危険は当然感知可能だ。
要するに、フユはF世界にさえ戻らなければどうとでもなるほどの能力を持っているということである。
……とかく生存のために金銭の必要となるH世界等で一人生きていけるかと問われれば、厳しいことは事実ではあるが、無数の『鬼』に狙われるF世界に比べればどんな世界であろうとも彼女にとっては『天国』であると言えよう。
そんな彼女の怖れを、デブリたちは見抜いていたのだろう。
ナツが一足先にハルの救出に向かっていた時、フユに対してN風見真理を乗っ取ったデブリが脅迫してきた。
――言う通りにしなければ、おまえをまたあの世界へと戻す。
と。
N風見がデブリであることはその時にフユにはわかっていたが、その正体をナツたちにバラすことは当然口止めされている。
そして、N風見の身体を乗っ取っていることから、本当にやろうと思えばフユをF世界へと送り戻すこと――パラレルワールドの技術を扱うことができることも理解していた。
だからフユは従うしかなかった。
N風見がフユへと指示したことは2つ。
1つは、H世界でのハルたちの動きを報告することだ。
パラレルワールド間での通信は技術も確立していないため使えないが、ある意味で世界の法則外の存在であるデブリには関係ない。
ハルたちが学校へ行っている間などに、アキに見つからないタイミングでこっそりとH世界のデブリ――コハルへと情報を伝えていた。
2つ目は来るべき決着の日――つまり今日の動きについてだ。
彼女の役割は、ハルとアキを一時的に引き離し、更にアキがすぐに助けに向かえないように妨害することだった。
そのためのアイテムとして、N風見からは鬼デブリを封じ込めた『超科学収納ボックス』を別に渡されている。
鬼デブリであればアキであっても足止め可能だと、コハルたちは考えていた――というよりも彼女たちが用意できる最大の戦力が鬼デブリまでしかないのだ。
後は、孤立したハルをコハルが仕留めて終了。
その時まで適当に身を隠していれば良い――とフユは事前に作戦を伝えられていた。
(…………フユも、がんばる……)
けれどもフユは脅迫されたからと言って、震えて何もできない無力な子供ではなかった。
見た目や性格こそ違えど、彼女のハルと同様にF世界における『天才』なのだ。
生き残るために必要だった『危険感知』能力だけではなく、生存のための的確な状況判断・状況分析・状況把握能力にも優れている。
そんなフユは、誰にも相談できず、しかしたった一人でずっとデブリたちへの対抗策を練り続けていた。
(……『てれび』のむこうでも、『あぶない』がわかる……!)
フユが注目したのは、H世界で目にした『テレビ』だった。
聡いフユには、テレビ画面の向こう側にあるのは『作り物』であることはすぐに理解できた。『生放送』のようにリアルタイムでの番組であっても、それは遠く離れた別の場所の出来事なのであるとも理解している。
その上で、更にフユは自分の能力を突き詰めて考えた結果、『作り物』であろうと何だろうと、フユは自分自身に関連しているものであれば『危険』を感知できるということだった。
――もしこれをハルやナツが聞いたとしたら、『超能力としか言いようがない』と言っていただろう。実際、そうとしか言いようのない能力だ。
肝心なのは、フユが『自分が関わっていれば何でも危険がわかる』という事実を明確に自覚したことにある。
距離も時間も、現実であるかどうかさえも関係ない。
ありもしない脅威に踊らされる危険性も孕んでいるが、フユ自身がしっかりと理解して見定めることができていれば問題はない。
事、危険を事前に察知して回避策をとるという点にかけて、フユは紛れもないあらゆる並行世界において唯一無二の『超天才』なのだ。
そんな危険に関する超天才のフユが、自分の能力について自覚をしただけで終わらせるわけがない。
彼女が真っ先に行ったのは、果たして自分は本当に危機に陥っているのか? という確認だ。
もっと言えば、自分を脅迫しているデブリたちは脅威足りえるのか? という確認である。
『フユをF世界に戻す』という言葉は確かに恐怖だ。
デブリたちが実行できるのも確かだ。
では、ハルたちがデブリを突破できたとしたらどうだろう?
そして、デブリたちが失敗した際に自分の身の安全を守るためにはどうしたらいいだろう? どう動けばいいだろう?
……フユはひたすらにそれを考え続け、ハルのように相手の思考を読み解き、自分にとっての『最良』の結果を導き出すために相手を誘導した。
とはいってもフユは積極的に相手に言葉をかけて誘導したというわけではない。デブリたちは元よりフユの言うことなど聞きはしないだろう。
だからフユ自身が行動を起こしたのはほんの少しだけだ。
アキへと鬼デブリをけしかける――ここまではデブリたちの計画に沿って進めた。進めざるを得なかった。
鬼デブリに対してはF世界の『鬼』と同様に恐怖を感じたが、アキならば大丈夫だという絶対的な信頼を彼女はもっていた。
そして一旦身を隠す……が、ここであえてショッピングモールから遠くへと離れることはしなかった。
デブリたちにとって、ここでハルを殺せればフユの存在など気にも留めていない。おそらく、遠くへと逃げ出しても咎められることはなかっただろう。
それでもあえてフユは留まった。
なぜならば、ハルたちの行動如何によってデブリたちがどう動くかは読めていたからだ。
付近に隠れながら、注意深く自身に迫る危険を探る。
やがて、N世界側――『F世界へ戻される』という恐怖を感じなくなった。
(ナツお姉ちゃんが、がんばった……!)
次元を隔てた別世界に潜む危機をなぜ感じ取れるのかまではフユも理解していない――もしかしたら、ハルたち『並行世界のフユ』に迫る危機をも感じ取れるのかもしれないが、真偽は不明だ。
ともあれ、デブリたちの計画の中心人物たるN風見デブリの脅威が消えた。
となればこちらの世界に残ったコハルが採るべき手段は簡単に想像がつく。
(……フユを『ひとじち』にする……)
ショッピングモールから離れなかった理由はここにある。
N風見の助けを得られなくなったことを知ったコハルならば、きっとフユを『人質』にして、フユの持つ『超科学収納ボックス』に潜む鬼デブリを頼るだろうとわかっていた。
だからすぐにデブリに捕まり連れて行かれやすいショッピングモール傍にフユはいたのだ。
かくして、フユの考え通りにコハルは踊り、フユはハルたちの目の前へと何の苦労もせずに連れてきてもらった――というわけである。
「――フユ、怖いか?」
ハルの言葉に、フユは心の底から安堵する。
(……お兄ちゃんも、わかってくれている……!)
言葉を交わさずとも、おおよそのことをハルが理解してくれていることをフユは彼の一言だけで同じく理解した。
ここに連れて来られるまではフユの考え通りではあったが、ここから先はフユ一人ではどうにもならない。
ハルたちの『協力』がなければ乗り越えられない、最後の壁だと言える。
通信機をフユも外していたためハルたちと相談することもできない、ある意味では『賭け』ではあったが……その賭けにフユは勝った。
「…………ぅぅん……」
フユに出来ることは、後は『伝える』だけだ。
そして、フユの意図がハルたち3人には絶対に伝わる――そんな絶対的な信頼が彼女たちの間にはあった。
「大丈夫だ、俺たちに任せろ、フユ」
ハルの言葉を聞き、フユはコハルに言われるがまま『超科学収納ボックス』を開き最後の鬼デブリを解き放つ。
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