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絶対に仲良くなって見せる
しおりを挟むお茶会にかかる時間というのはそれぞれで一概に何時間と言えるものではない。そのお茶会
での目的、相手との関係性なので変わってくるもので、一時間などで済むこともあれば仲がいいものだと話過ぎて三時間以上もかかることがある。
それらを踏まえたうえで俺は一時間前から廊下にてスタンバイしていたんだが、来ると思った二人は一向に来ることはなかった。いくら親しいと言ってもアデールは効率を好む合理的なキャラだからそんなに長いことはお茶会はしない。でも主人公自体はともかく主人公の家はかなりいい所なのでどうせなら仲良くしていると思わせたいはずで一時間半ぐらいだと踏んでいたんだが、二時間半となるとお茶会の中ではかなり長い方になる。
お茶会に誘われてもこんなにいることは滅多にない。
分かってはいたけどヒロイン。かなりの強敵だった。婚約者で好かれている筈なのに実はヒロインの方が好かれている気までしてきて悲しい。否、そんなことはない。殆ど話せないが好かれている筈。婚約者だし。ゲームの主人公みたいなもんだし。
そう強く言い聞かせてアデールとヒロインが来るのを待つ。二人がお茶会に使った教室はこの廊下の奥にあって、終わったら絶対にこの道を通る筈。そしたら通りかかったふりをして二人に声をかけるのだ。
お茶と茶菓子を贈ったのは俺だからその感想をアデールから聞けるかもしれない。アデールに話しかけてもらえるかもしれないのだ。護衛の騎士が少し困った顔をしているが俺は気にしない。
何とかアデールと話したいのだ。
話してみせるのだ。でもできれば早く来てもらえると嬉しいんだが……。
「……王子いい加減諦めませんか。アデール嬢と仲良くなろうとするのは良い事だと思いますがさすがにこれはやりすぎなようなきがしますよ」
柔らかで少し甘い声がなだめるように俺に言う。だけど俺は強く首を振っていた。駄目だと叫ぶように口にするから緑色の瞳が丸くなっていた。
ええと戸惑ったように騎士が頬を掻く。はあと浅いため息をついて分かりましたと騎士は言った。肩を落とす騎士には悪いがこれ以上ヒロインに先に仲良くなられてたまるか。俺だって仲良くしたいのである。
それで待つこと三十分ぐらいだろうか。アデールとヒロインがついに歩いてきた。つまり全体で合わせると三時間ほどお茶会をしていたことになるのだろう。あのアデールが。アデールがそんなにヒロインと仲良くなっている。
俺とはまだ殆ど話したことないのに。くそ。待ってろ今からすごく仲良くなってやる。
「あれ、アデール嬢にオーディア嬢、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
まずはとにこやかに話しかけると失礼なことにヒロインはげっと顔を歪めていた。俺の目的がばれてしまったんだろうが気にしないもんね。アデールは目を丸くして驚くだけで気付いてなさそうだし行ける
「イーベル様……。お久しぶりです。このようなところで会えるなんてとても嬉しいです。帰りの途中でしょうか」
「ああ、そうなんだ。二人もお帰りの所でしょうか」
ああーーーー。可愛いーーーー。ほほ笑むその緒顔がお美しいし、お声が麗しい。最高。推しが生きているってだけで人生が楽しい。はあ、好きです。後ろでジト目で見てくるヒロインのことなんて気になりません。
「はい。二人でお茶を楽しんでいた後でして……。イーベル様が下さったお茶の葉を使わせていただきました。スイーツの方もサラ様がイーベル様から頂いたものだったそうで、とても美味しく、素敵なお茶会になりましたわ。
ありがとうございました」
ふふと愛らしくアデール様が笑って一つお辞儀をしてくださる。はあ、可愛い美しい。欲を言うならお辞儀なんてせずにその美しい顔をずっと見せていて欲しかった。心の底から愛おしいから頼む。
「喜んでいただけたならよかった。もしまたお二人で茶会をする時があればぜひ言ってください。お二人のためにご用意させていただきます」
そして俺も混ぜてほしい。アデール様とお茶会したい。食事会だと全然話してくれないから話したい。ヒロインと一緒のお茶会ならきっと緊張も緩んで話してくれると思うんだ。
「……はい、機会があれば」
うーー、まだ緊張を感じる。でもこれを続けたらうまくいくはずと信じたい。後ヒロインとも仲良くならなくちゃな。なんか今普通に睨まれているけど。
アデールは笑ってくれるのに何でこのヒロインはこんなに怖い顔をして見てくるのか。アデールが好きなのは分かるんだけどそれにしてもにらみ過ぎだろう。ほら睨まれ過ぎて騎士が警戒しているんだけど。
え、これどうしたらいいの。仲良くなりたいのに仲良くなる方法が分からない。ここで声を掛けていいのかも謎である。
迷う所、ぎんとさらに強くヒロインはにらんできた。怖っ。
駄目だって騎士が一歩前に出っちゃったよ。もっとかんがえて行動して。俺だって言葉遣いとか少しは考えて行動してるんだぜ。まあ、後々出てくる幼馴染以外殆ど周りに知人がいないから好き勝手やっても入れ替わっていること気付かれないで済むんでしょうけど。
いいな。
思ってたらにこにこ笑ってヒロインが詰め寄ってくる。笑ってくるけどなんか恐ろしいオーラが出ている。騎士の背中が俺の前に見える。これかばってるやつだ。かばわれている奴だ
「イーベル様、ちょっと二人で話したい事があるのですが、よろしいでしょうか」
「申し訳ありません。リュカ様はこれからご用事がありますので」
「大丈夫です。ほんの少しですみますから」
ひえ、男前格好いい。素敵。惚れちまいそうなんて思えていたのは僅かな間だ。ヒロインの笑顔にこれはまずいと気付いた。ここで無視したら仲良くなってアデールとの間を取り持ってもらおう作戦が台無しになる。慌ててわかったと叫んでいた。
「ですが、王子」
「大丈夫だから、リアンもここで待っていてくれ。アデール嬢。そう言う訳ですので彼女を暫くお借りします。どうぞここでお待ちください」
「ええ、構いませんが」
ぱちぱちとアデールは驚いた顔をしている。可愛い。不思議そうなその姿に言えるなら俺も言いたい。なんなんだって
無理やり腕を引きずられ連れてこられたのはそんなに離れた場所ではなかった。寧ろ全く離れていない。二人がいる廊下の先、曲がり角の所である。
そしてねえと詰め寄ってくる。
「あのお茶とお茶菓子まさかとは思うけどリアン様に用意してもらったものじゃないでしょうね」
勢いはあるものの二人に気付かれないためなのかかなりの小声であった。つられて小声で答えてしまう
「え、そうだけどそれが」
「信じらんない! 最低何でそんなことできるの」
「へ。え、何を」
「もうあれみなさいよ」
ヒロインが言っていることって意味が分からないことも多いのだけど、今日はいつにもまして意味が分からなかった。なんで俺は怒られているのか。はてなしか浮かんでこないので大人しくヒロインが指さす場所を見る。
そこにいるのはまあアデールなわけですが、後護衛の騎士が一緒についている。言われるままに覗く。覗いて俺はあれと首を傾けるような事態になってしまった。
なんかあの、なんかそのなんですが、アデールの様子がいつもと違うようなそんな気がしてしまうと言いますか……。間違いなくいつもと違う。
いつもは凛と凛々しく格好良く、他の人を寄せ付けないようなそんな凛々しさがあるのに、今はその凛々しさが薄れているようなそんな感じがする。何がそう思わせるのかじっと見て気付いたのだが手だ。いつもは優雅に組まれている手が今は胸元辺りで握りしめられている。もじもじと小さくだが動いていて何となく緊張しているのかなんて思わせてくる。
いや、あのアデールが緊張するなんてそんなことはないと分かるんだけど、でもいつもとは全く様子が違うのだった。そしてそれでちらりちらりと護衛の騎士の方を見ている。
え、いや? どういうこと?
状況がさっぱりつかめない中でアデールの綺麗な口が動いていた。
「あ、あのリアン様。お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか」
「はい? どうかしましたか」
「あのお茶の葉なのですが」
もじもじとアデール様の指先が動き、瞳が伏せられる。完璧で美しい姿しかみてこなかった彼女の初めての姿だ。何でそんなにアデール様が騎士に緊張するんだ。と言うか、なにか頬が赤いような気がするのは気のせいだろうか。
「……もしかしてリアン様かご用意してくださったのですか」
頭の中、真っ白だ。
ただでさえパニックになってる中の一言。まともに脳が機能しない。え? 何で、何ではれたの。
「いえ、あれは王子が心をこめてアデール様に贈ったものでございますよ。参考程度にお付き合いいたしましたが、選んだのは王子でございます」
「ですが……」
騎士はさすがというか、これが主をたてると言うことなのか、俺が選んだことに即座にしてくれるけれど、胸は痛む。
アデール様の綺麗な声が切なげでそれもぐさぐさ心に刺さる。と言うか、何か、何かさっきからアデール様の姿がいつもと全く違うけれどこれはどういうことなのか。
答えを求めるとふっふとヒロインが一人笑っていた。
「みよ!! リアアデの尊さ!いい。知らないあんたに教えてあげるけど、あの二人、リアン様とアデール様とはお互い思いあっているのよ」
はぁとロがひらいてしまったのは仕方ないだろう。
ええ、何て声がでていく。ヒロインの言葉を欠片も理解できなかったけど、そんな俺にヒロインは再び言ってくる。
「だから二人は思いあってるの。分かる両思いなのよ」
どーーんって胸はって強く指さされるのはアデール様と騎士の姿。はぁああ!何て声がでていく。
「バカ! 声が大きい!!」
咄嗟にヒロインがおさえてくるけど、声はもうでたあと。大丈夫ですかって心優しいアデールは声をかけてくれていた。
「大丈夫ですよ。何でもありません」
「ですか」
「王子、何かされましたか」
「何もない。大丈夫だ」
騎士の方も心配しこちらを伺ってくれている。
「チ。もう話せないわね。くわしいことは明日話すわ。いい、明日絶対に聞きにきなさい」
言ってヒロインは先に二人の所に戻ってる。
俺はというと戻らなくちゃいけないことは分かってるのに足が動かなくてしばらく固まってしまっていた。
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