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閑話  魔王の娘とバレンタイン

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せっかくなので本編を一日休んで二人のバレンタインの話です


 グニョグニョ、ウニョウニョと勇者の目の前で皿のようなものに入った何かが蠢いていた。蛸の足のようと言うのはかなりいい言い方をした場合のものでなんと言っていいのかわからない。さらに蠢くなにかの間たくさんの目玉が入っていて、一個一個独立しているそれは動いている。中には蠢くなにかに絡みとられ潰されている目玉もあった
「これは……えっと」
「魔界の伝統的な食べ物なんです。勇者様に食べていただきたくて私が作りました」
 青ざめた勇者。戸惑い聞く中でマーナは柔らかに笑い頬を赤らめながら勇者を見ていた
「ハッピーバレンタインです」



事の発端は買い物に行く街の中が赤やピンクの色に彩り始めたことだろう。それを不思議に思ったマーナが勇者に問いかけバレンタインという行事を知ったのだった。親しいものに贈り物をする日。恋人たちではチョコを贈るというその話を聞きマーナは勇者にチョコを贈ろうと心に決めた。
 だが魔界にはこちらの世界の通貨がなく買い物をすることができずどうしたら用意できるだろうかと聞いたところ、勇者はそれなら俺が買ってあげるよと本末転倒なことをいい、それでは意味がないとマーナは斧使いに聞いていた。勇者と違い女心のわかる斧使いはそれならチョコを贈らなくても魔界にある何かを贈ればいいんじゃないかと提案した。魔界にも大切な人に贈るプレゼントあるんじゃないかとそういった斧使いにマーナはその瞳を輝かせええと答えていた。
 そしてありがとうと言って踊るようにして魔界に帰っていたのだ。
 それから数日したバレンタインのひ当日。
 マーナが持ってきたのが勇者の目ではどう見ても食べ物とは思えないゲテモノだった。色もなんだか気味が悪い。青が混ざった濃い緑に黒それに紫と食欲をなくさせる。
 だけどと勇者はマーナを見た。
 笑顔のマーナはとても誇らしそうで勇者のために用意してくれたのが伝わってくる。斧使いからも勇者のために用意してくれているという話は聞いていた。
 グニョングニョンと動いた物体が飛び跳ねて勇者の目元まで飛んでくる。
「活きが良いほど良いというのでスイレイと一緒に自分で素材も取りに行ったんですよ。作ったのは私ですが、スイレイも勇者様のためにと手伝ってくれて」
 マーナの笑顔に悪意なんてものはない。
 彼女にとってこれは勇者たちと食べる普段の料理となんら変わりないものなのだろう。
 分かっていても、分かっていても勇者は聞いてしまう
「その、なんでこれを……」
 せめてもっと別のものならば。そんな思いを込める中でそれはですねとマーナは聞いてくれたことが嬉しそうな顔を見せていた。
「これは魔族が子作りをするとき、女性体が男性体に食べさせるものなんです。
 魔族にとって子作りは結婚するという意思表示なので恋人に愛を贈る日というこちらの伝統に一番近いものだと思ったのでこれにしました。まだ、婚約者のみですが是非、食べてください」
 それてもしかしなくてもせいりょ……。
 ぶんぶんと首を振って勇者は湧き上がった言葉を打ち消していた。マーナの眼差しは純粋無垢で何一つ汚れたことなど考えていないものだった。グニョングニャビチャンビチ。嫌な音が皿のようなものからしている。間違いなく皿なのだが中身のせいでもはや皿に思えない。
 どう食べればいいかわからないなんてそんな問題ではなくそもそも食べたくない。それでもそれでも勇者は……
「ありがとう。じゃあ早速いただくね。
いただきます」
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