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魔王とウィンディーネ

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 いつしか魔王とウィンディーネは深い仲になっていた。互いに手を握り合い少ない愛の言葉を交わす。その時間はとても幸福なもので魔王は己がこの世の誰よりも幸せであるとそう感じていた。
 いつまでも満たされなかった何かが見たされてとても幸せな日々だった。
 だけどもそんな幸せは長くは続かなかった。


 ある日のことだ。遠くまで世界を見に来ていた魔王はその日、強い揺れを感じだ。世界全体が揺れていた。それは今までにないほどのもので一瞬呆けた後、ふと魔王の脳裏には五つの世界樹がこの世を支え、守っていると言う伝承が浮かんできていた。もしや何かあったのかと駆け巡る不安。
 魔王はすぐさまウィンディーネの元に向かっていた。
 だけど駆け付けた時にはもう既にすべて遅かった。
 天に届きそうなほど巨大な世界樹はその姿が跡形もなくなっていた。残っているのは切り取られたのだろう。根元の部分だけであった。その根っこの部分にもたれかかるようにして彼女は倒れていた。
 美しかった肌は枯れはて、みずみずしい生命力を感じさせていたのが今や見る影もない。命の砂が零れ落ちていくのを感じた。
 魔王は必死に呼びかけたけど彼女にはその声は届いていなかった。ただ何事かをぼそぼそとつぶやいている。よく聞き取れない声。それでも聞き取ろうと魔王は耳を寄せた。聞こえてきたのは世にもおぞましい声だった。
 この世のすべてを呪う声。
 だから嫌だったのだ。人も獣人も妖精族も何もかもが醜く汚らしく汚らわしい。あんな存在最初からいなければよかったのだ、恨めしい。憎らしい。消えてしまえばいいのに
 ウィンディーネは確かにそんな言葉を呟いていた、
 美しい声が醜く成り果ててそんな声でこの世への呪いをはく。世界を美しいと言っていた彼女から聞こえてくる呪詛に魔王は信じられず今何が起きていたのかそのすべてを忘れてしまっていた。呆然とウィンディーネの傍で凍り付いてしまう。
 動けたのはウィンディーネの目が魔王を見て、そして魔王に気付いたからだった。
 彼女は嗤った。
 酷い笑みだった。この世のすべてを嘲笑うそんな笑みで笑ってそしてその口を開いたのだった。ごめんなさいねと
「私本当はこの世界なんて大嫌いなのよ。私が語ったことは全部嘘、この世界は醜くて汚くて穢らわしい。この世界に住むすべての生物が私は嫌いなの。もうずっと彼らが争うさまを見てきた。欲望のままに争っては傷つけあってこの大地を傷つけていく。戦うのを止めて手を取り合ったかと思ってもまた同じことを繰り返す。私はずっとこの世界が大嫌いでこんな世界を終わってしまえばいいと思ってた。こんな世界ずっと見守り続ける価値なんてありはしない。早く滅んで全部終わればいいって
 やっと終わるのに……。ああ、憎い醜い。ついにこの世界そのものにまで手を出してそんなにも醜く死にたいと言うならば死んでしまえばいい。
 ああ、この世界の全員死んでしまえばいいの。全部全部滅びてしまえ。
 消えてしまえ」
 最初は静かな声のように思えていた。怒りを抑え込んだ静かな声。だけどそれはだんだんまたおぞましい声になっていく。目がそのすべてがあらわになりそうなほど見開いてらんらんと世界を映す。憎悪の声が空間を埋め尽くしていく。
 黒い何かがウィンディーネの体に纏わりついていくのが魔王には見えていた。それはウィンディーネの座る大地、そして彼女自身から湧きあがっている。
 皮膚が細かく切り裂かれていく。何かが体の中に入ってくる。それはどうしようもない怒りを魔王に感じさせた。だけどそんなものに支配されないぐらい魔王の中はその時深い虚無に包まれていた。
「この世のすべてを滅んでしまえ」
 ウィンディーネが叫ぶと同時彼女の体が黒く染まっていく。世界樹の根もどすぐろく汚れて枯れはっていく。
 ウィンディーネが喉をか細く震わせて笑っていた。
 美しかった金色の目が今は淀んで魔王を見る。
「今から九年後私の中から呪いが産まれる。呪いは時とともに成長しそれより十五年後、この世のすべてを滅ぼす。
 人も獣人も妖精族も何もかも関係なくこの世のすべてを滅ぼして、この世のそのものをなくすだろう。これは私が世界の呪い。
 こんな世界滅べばいい。大嫌い。


 だけどね、私」



 ウィンディーネの体は枯れはてた根と同化して動かなくなった。最後彼女の手は魔王へと伸びていた。





 その九年後、魔王はウィンディーネの腹の中から一人の赤子を抱き上げていた。彼女によく似た薄い蒼の髪をした深い碧と金色のオッドアイをした呪いそのもの。
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