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魔王の娘と収穫祭 前
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「勇者様!……あれ? 勇者様どうしたんですか?」
ある昼下り満面の笑みで勇者に駆け寄ってきたマーナはことりと首を傾けていた。きょときょと瞬きをして勇者を見上げる。見上げられる勇者はあれ、マーナちゃんとマーナの登場にこそ驚いていた。目を丸くさせてマーナーを見ている。
勇者の周りには勇者の仲間である姫や僧侶、幼馴染みの娘に怪力の斧使いの男の四人もいた。おい、まさか今日約束していたのかと斧使いが勇者を小突いている。
「いや、そんな筈ないんだけど……」
「あ、すみません。実はこの近くの山に薬草を摘みに行く予定があったので、もし勇者様がまだいらしたら会いたいなと思ってここまで来てしまったのです。
でもお出かけ前でしたね。すみません。お邪魔してしまって……」
「あ、気にしなくていいんだけど。てか、俺の方こそごめんね。せっかく来てくれたけどなにもおもてなしできなくて」
「いえ、私の方も用事があるので気にしないでください。向こうでお付きの方も待っていますので。それより、その……」
しょんぼりと肩を下げたマーナだが、その目はちらりちらりとずっと勇者の姿を見ていた。あのとためらいがちに開く口に勇者の首は傾く。どうかしたのと問いかける勇者。はぁああとため息をついたのは幼馴染みの娘だ。
「もうあんた鈍いわね。あんたがそんな格好してるから不思議がってるのよ」
ばんと勇者の背を叩く娘。え、そうなのと勇者の目は大きくなってマーナを見た。マーナの頬は赤くなりコクコくと頷いている。
今勇者は平和になった最近ではとんと着なくなった勇者としての衣装を着ていた。人々の希望となる勇者が一目みて人々にわかるよう白く立派な鎧に赤いマント。華美でこそないものの美しい装飾の施された鞘。そして世界樹の精霊イフリートに与えられし勇者の剣。
それらを着こなしている勇者を見てマーナは頬を赤らめながら、どうしてその格好をと問いかけていた。
もう魔王と敵対してないのだからその格好をすることはないのではないかと小首を傾けもしたのにああ、それはと勇者は少し頬をかいて照れたようにして答えた。
「今日は収穫祭の日だから。色々あれではあるけど戦争は終わったのだから、盛大にやろうって俺も呼ばれたんだよ。勇者として呼ばれたからこの格好で行く必要があって……」
「突然だったからまだ受け入れられてない民衆もいるし、盛大にやってもう一度勇者から平和宣言かましてもらって終わったんだって伝えるのがメインだしな」
「俺そういうの何を言えばいいか分からないから苦手なんだけどね……。今から胃が痛む気がする」
「しっかりしなさいよね。あんたがみんなを導くんだから」
「勇者様の言葉ですもの皆様に届きますわ」
「頑張ってください。勇者様」
勇者たちが話す。仲間のみんなが勇者の肩を叩いたり背を支えたりしているのをその目に移しながらマーナはえっとと首を傾けていた。その口はぽかんと開き。傾けた首を何度か左右に動かし傾け直している。あのとマーナの口から言葉が出ていく。
「収穫祭って、なんですか?」
「えっ」
その小さな口から出ていた言葉に勇者たちは全員驚いていた。
「マーナちゃん収穫祭知らない」
「は、はい……。えっと、何をするものなんですか?」
「何って……まあ、祭なんだけど、今は春に植えた作物がたくさん実る時期だからその収穫を祝ってお祝いをするんだよ」
「祭り? お祝い?? お祝いは分かるのですが祭りって何ですか??」
ええっ!! とどでかい声が勇者たちからは出ていた。皆目を点にする勢いでマーナを見ている。マーナはと言うと小首を傾けて勇者を見ている。
「え、祭り知らないの? えっと祭りっていうのはなんかこうみんな集まって騒ぐみたいな」
「どんな説明だよ。もっとましな説明ないのか、勇者」
「種族の違いですかね? 魔族にはお祭りがないのかもしれませんよ」
色の違うめは不思議そうに上の方を見て小首を傾ける。すこしだけ尖る小さな唇。あーそのとまた勇者から声が出てそうだと言っていた。
「良かったら一緒に行く? 途中俺は離れるけどアバンディとかは壇上出ない予定だから一緒にいてもらえるし」
「おう。知らねえならそれが良いな。良かったら行くか」
笑顔をマーナに向ける二人。マーナは色違いの目を見開かせながら、でもすぐにうつむいていえと言っていた
「用事もありますので、私は……」
「そう。楽しいよ」
ゆっくりと横に振られる首。勇者がいうがそれでも首は縦には振られなかった。
「……大丈夫です。誘ってくれてありがとうございました」
顔を上げたマーナはもうすでに笑っていた。にっこりと笑ってお行儀よくお辞儀する姿はよく躾けられていて勇者なんぞよりも余程出来ている。それだけどどことなく寂しそうな感じがして勇者はマーナをじっと見てしまった。見つめる先マーナはなにかに気づいたように振り向いてもう時間なのでともう一度お辞儀をしていた。それではと言って去っていく後ろ姿を見送る。
どうするんだよと仲間達が勇者に聞いた。そろそろ行かねえと俺たちもやばいけどと言われる中、勇者はそれでも前に足を動かした。
「ちょっと待ってて」
そう声をかけて去っていた後ろ姿を追いかけた。
「マーナちゃん」
「勇者様? どうしました」
追いかけた背中はすぐにつかまる。早足だったマーナの足は今はとぼとぼとしたものに変わってしょんぼりと歩いていた。名前を呼べば長い髪が泳いで振り返る。きょとんと瞬きして勇者を見た。大きな目に見つめられるのにどう言えばいいか分からず少し勇者は言葉に迷う
「えっと……お祭りいかない?」
「……でも私用事が……」
「だけど行きたいんじゃないかなって」
マーナの目は更に大きくなっていた。えっとこぼれていく声。すぐにマーナの顔は俯いていた。どう言えば素直に行くと言えるようになるのだろうか。そう勇者が考えたとき浮かんだのは魔王の姿だ
「えっと、マーナちゃんが行きたいなら魔王も許してくれるんじゃないかな」
「……でも」
マーナが少し顔を上げて困ったように眉を下げる。
「大丈夫だよ。一緒に行こう」
手を差し出すけれど、その手を見て首を振られる
「……行けません」
「マーナちゃん?」
確かな声でそう聞こえて勇者は首を傾けるしかない。何でと見つめる。どうしていいか分からなくてとにかくじっと見つめた。そうしたら何か分かるかもと思った前でだってとマーナは小さく口を開いていた
「私魔族だから……。戦争終わって盛大にやるのでしょう? そんな場所に魔族である私が行くのはあんまり良くないと思うのです。戦争は魔族が仕掛けたものだし……」
今度は勇者の目が大きくなる。俯いたマーナ。その姿を見て勇者は強い気持ちで声を出した。
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ」
色違いの目。その目は悲しげに揺れながら勇者を見る。
「マーナちゃんはまだ子供なんだからそんなこと考えず行きたいなら行こう。わがままもたまには言わないと」
「……はい」
笑ってもう一度手を差し出した。それでもとマーナの唇は言いたげに動いたけれどやがては一つ頷いていた
ある昼下り満面の笑みで勇者に駆け寄ってきたマーナはことりと首を傾けていた。きょときょと瞬きをして勇者を見上げる。見上げられる勇者はあれ、マーナちゃんとマーナの登場にこそ驚いていた。目を丸くさせてマーナーを見ている。
勇者の周りには勇者の仲間である姫や僧侶、幼馴染みの娘に怪力の斧使いの男の四人もいた。おい、まさか今日約束していたのかと斧使いが勇者を小突いている。
「いや、そんな筈ないんだけど……」
「あ、すみません。実はこの近くの山に薬草を摘みに行く予定があったので、もし勇者様がまだいらしたら会いたいなと思ってここまで来てしまったのです。
でもお出かけ前でしたね。すみません。お邪魔してしまって……」
「あ、気にしなくていいんだけど。てか、俺の方こそごめんね。せっかく来てくれたけどなにもおもてなしできなくて」
「いえ、私の方も用事があるので気にしないでください。向こうでお付きの方も待っていますので。それより、その……」
しょんぼりと肩を下げたマーナだが、その目はちらりちらりとずっと勇者の姿を見ていた。あのとためらいがちに開く口に勇者の首は傾く。どうかしたのと問いかける勇者。はぁああとため息をついたのは幼馴染みの娘だ。
「もうあんた鈍いわね。あんたがそんな格好してるから不思議がってるのよ」
ばんと勇者の背を叩く娘。え、そうなのと勇者の目は大きくなってマーナを見た。マーナの頬は赤くなりコクコくと頷いている。
今勇者は平和になった最近ではとんと着なくなった勇者としての衣装を着ていた。人々の希望となる勇者が一目みて人々にわかるよう白く立派な鎧に赤いマント。華美でこそないものの美しい装飾の施された鞘。そして世界樹の精霊イフリートに与えられし勇者の剣。
それらを着こなしている勇者を見てマーナは頬を赤らめながら、どうしてその格好をと問いかけていた。
もう魔王と敵対してないのだからその格好をすることはないのではないかと小首を傾けもしたのにああ、それはと勇者は少し頬をかいて照れたようにして答えた。
「今日は収穫祭の日だから。色々あれではあるけど戦争は終わったのだから、盛大にやろうって俺も呼ばれたんだよ。勇者として呼ばれたからこの格好で行く必要があって……」
「突然だったからまだ受け入れられてない民衆もいるし、盛大にやってもう一度勇者から平和宣言かましてもらって終わったんだって伝えるのがメインだしな」
「俺そういうの何を言えばいいか分からないから苦手なんだけどね……。今から胃が痛む気がする」
「しっかりしなさいよね。あんたがみんなを導くんだから」
「勇者様の言葉ですもの皆様に届きますわ」
「頑張ってください。勇者様」
勇者たちが話す。仲間のみんなが勇者の肩を叩いたり背を支えたりしているのをその目に移しながらマーナはえっとと首を傾けていた。その口はぽかんと開き。傾けた首を何度か左右に動かし傾け直している。あのとマーナの口から言葉が出ていく。
「収穫祭って、なんですか?」
「えっ」
その小さな口から出ていた言葉に勇者たちは全員驚いていた。
「マーナちゃん収穫祭知らない」
「は、はい……。えっと、何をするものなんですか?」
「何って……まあ、祭なんだけど、今は春に植えた作物がたくさん実る時期だからその収穫を祝ってお祝いをするんだよ」
「祭り? お祝い?? お祝いは分かるのですが祭りって何ですか??」
ええっ!! とどでかい声が勇者たちからは出ていた。皆目を点にする勢いでマーナを見ている。マーナはと言うと小首を傾けて勇者を見ている。
「え、祭り知らないの? えっと祭りっていうのはなんかこうみんな集まって騒ぐみたいな」
「どんな説明だよ。もっとましな説明ないのか、勇者」
「種族の違いですかね? 魔族にはお祭りがないのかもしれませんよ」
色の違うめは不思議そうに上の方を見て小首を傾ける。すこしだけ尖る小さな唇。あーそのとまた勇者から声が出てそうだと言っていた。
「良かったら一緒に行く? 途中俺は離れるけどアバンディとかは壇上出ない予定だから一緒にいてもらえるし」
「おう。知らねえならそれが良いな。良かったら行くか」
笑顔をマーナに向ける二人。マーナは色違いの目を見開かせながら、でもすぐにうつむいていえと言っていた
「用事もありますので、私は……」
「そう。楽しいよ」
ゆっくりと横に振られる首。勇者がいうがそれでも首は縦には振られなかった。
「……大丈夫です。誘ってくれてありがとうございました」
顔を上げたマーナはもうすでに笑っていた。にっこりと笑ってお行儀よくお辞儀する姿はよく躾けられていて勇者なんぞよりも余程出来ている。それだけどどことなく寂しそうな感じがして勇者はマーナをじっと見てしまった。見つめる先マーナはなにかに気づいたように振り向いてもう時間なのでともう一度お辞儀をしていた。それではと言って去っていく後ろ姿を見送る。
どうするんだよと仲間達が勇者に聞いた。そろそろ行かねえと俺たちもやばいけどと言われる中、勇者はそれでも前に足を動かした。
「ちょっと待ってて」
そう声をかけて去っていた後ろ姿を追いかけた。
「マーナちゃん」
「勇者様? どうしました」
追いかけた背中はすぐにつかまる。早足だったマーナの足は今はとぼとぼとしたものに変わってしょんぼりと歩いていた。名前を呼べば長い髪が泳いで振り返る。きょとんと瞬きして勇者を見た。大きな目に見つめられるのにどう言えばいいか分からず少し勇者は言葉に迷う
「えっと……お祭りいかない?」
「……でも私用事が……」
「だけど行きたいんじゃないかなって」
マーナの目は更に大きくなっていた。えっとこぼれていく声。すぐにマーナの顔は俯いていた。どう言えば素直に行くと言えるようになるのだろうか。そう勇者が考えたとき浮かんだのは魔王の姿だ
「えっと、マーナちゃんが行きたいなら魔王も許してくれるんじゃないかな」
「……でも」
マーナが少し顔を上げて困ったように眉を下げる。
「大丈夫だよ。一緒に行こう」
手を差し出すけれど、その手を見て首を振られる
「……行けません」
「マーナちゃん?」
確かな声でそう聞こえて勇者は首を傾けるしかない。何でと見つめる。どうしていいか分からなくてとにかくじっと見つめた。そうしたら何か分かるかもと思った前でだってとマーナは小さく口を開いていた
「私魔族だから……。戦争終わって盛大にやるのでしょう? そんな場所に魔族である私が行くのはあんまり良くないと思うのです。戦争は魔族が仕掛けたものだし……」
今度は勇者の目が大きくなる。俯いたマーナ。その姿を見て勇者は強い気持ちで声を出した。
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ」
色違いの目。その目は悲しげに揺れながら勇者を見る。
「マーナちゃんはまだ子供なんだからそんなこと考えず行きたいなら行こう。わがままもたまには言わないと」
「……はい」
笑ってもう一度手を差し出した。それでもとマーナの唇は言いたげに動いたけれどやがては一つ頷いていた
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