Sing with friends

ゆうまる

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Chapter2 Vocal Contest 2021

>>13 despair and fear

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 面接室の空気は、凄く吸い辛かった。
 今までもずっと緊張はしていたが……、この部屋に入ってから更に緊張している様に感じるのは、この重たい空気のせいだろう。何となく、居心地が悪い。いや、まあ……面接なのだから、当然といえば当然なのだろうけど。

 椅子の前まで行くと、青山さんが『どうぞ』と、私達に座る様に指示をした。なので、私達は『失礼します』とゆっくり椅子に座る。

 うう……。
 いよいよ始まるのか。
 緊張するなあ……。

「自己紹介をお願いします」

 最初に聞かれた質問はこれだった。

 まあ、当然か。 
 そもそも私達の名前知らないもんね。

 でも、自己紹介ってどんな風にするんだろう……? 高校受験の時の面接でも、自己紹介はあったんだけど……、何て答えたっけ? 忘れちゃった……。

 私が何て答えようか考えていると、青髪ちゃんと金髪ちゃんが手を挙げた。

「どうぞ」

 青山さんが、青髪ちゃんと金髪ちゃんに自己紹介をする様に促す。

 そして、青髪ちゃんと金髪ちゃんは立ち上がった。

「瀬名(せな)水葵(みずき)と申します」
「天金(あまがね)麗奈(れいな)と申します。瀬名さんとユニットを組んで活動しています。人々を魅了させられる様な、そんなクールでセクシーな歌を歌っています。よろしくお願い致します」
「よろしくお願い致します」

 そう言ってお辞儀をした後、2人は椅子に座った。

 ──どうやら、青髪ちゃんの名前は『瀬名水葵』、金髪ちゃんの名前は『天金麗奈』というらしい。

 綺麗な名前だなあ……。
 と感じたと同時に、私は何故か、凄くプレッシャーを感じてしまった。

 自信に満ち溢れた、完璧な自己紹介……。もしかしたら、この2人はこれが初めてのオーディションでは無いのかもしれない。緊張を一切こちらに見せないハキハキとしたその態度は、まるで沢山の挫折を味わってきたかの様に見えた。

 心拍数が上がる。
 こんな人達と私は面接を受けるのか……。
 良いのだろうか? 同じ場所に私が居て。

 2人が自己紹介をした後、次にカップルが自己紹介をした。
 そろそろ私達も自己紹介をしなくては。
 
 菜々ちゃんの視線を感じたので、私は軽く頷いた。そして、手を挙げる。 

 青山さんはそれを見て、『どうぞ』と言ってくれたので、私達は立ち上がった。

「如月菜々と申します。現在、海明高等学校の1年生です。あたしがまだ小さい時に、祖母が良く素敵な歌を歌ってくれて、その影響で歌を歌う事が大好きになりました。夢は、Blue&Moonの様な最高の歌手になる事ですっ! よろしくお願い致します」
 
 菜々ちゃんの自己紹介も完璧だった。
 皆、本当に凄いな……。私は、ちゃんと言えるだろうか……。

 青木さんは、私をじっと見つめている……。
 その視線に対して、『うっ』となってしまうが、無言で突っ立っていても仕方ない。

 頑張ろう……。
 私はやっとの思いで口を開けた。

「わ、私は……日向ゆかりといいま……じゃなかった、申します。海桜高校1年です。えっと……、隣にいる如月さんをきっかけに、歌が大好きになりました! この先にある、まだ見たことのない景色を見てみたくて……、初めてこのオーディションを受けました! よろしくお願いしますっ!! 」

 ひえ……。
 ど、どうしよう、ボロボロだ……。

 思わず瞑っていた目をゆっくりと開けて、青木さんの反応を見る。青木さんは、意外にも笑っていた。

 ……もしかして私、馬鹿にされた?

 心がズキンと痛くなる。
 ……今の私の答え方は、どう考えてもダメダメだった。評価はマイナスに決まっている……。

 あまりにも自分が他とは違って、ため息が溢れそうになった。

 その後、座っていいとの合図が出たので、私と菜々ちゃんはそっと椅子に座る。

「それでは、そちらから順に歌を聴かせてください。オリジナルでも構いません。それぞれが、1番得意とする歌を歌ってください」

 ……いよいよだ。
 いよいよ、この時がやってきた。

 青木さんは、瀬名さんと天金さんの方に顔を向けた。ということは、流れはこの2人が1番最初に歌って、次に真ん中に座っているカップル、最後に端っこに座っている私達が歌うってことだろう……。

 ……この人達は、どんな歌を歌うのだろうか。
 完璧な自己紹介、満ち溢れる自信、圧倒的存在感。

 その歌は……、私の想像さえ遥かに上回っていた。私は後に、絶望を知る事となる。

 2人は席を立ち、審査員の前に堂々と立った。
 そして……、息を吸った。

 ゴクリ、と私は唾を飲み込む。







 It's show time!!
 謎めいた このカラダで
 見果てぬ夢 見せてあげるわ
 私はそう 幻のエンジェル oh…oh…
 幸せに なりたいでしょ?
 退屈な この世の中から
 私がそう 連れ出してあげるわ

 嫌な事ばかりの人生で
 ため息の回数も数え切れないの
 遂に君は生きる希望さえも見失って
 屋上から飛び降りようとしたね
 No No No ちょっと待って
 楽しい事 気持ちいい事
 まだまだあるのに どうして?
 (勿体無い……じゃない)
 少し手を伸ばせば届く距離
 この胸に触れてみれば 貴方だってそう

 It's show time!!
 謎めいた このカラダで
 見果てぬ夢 見せてあげるわ
 私はそう 幻のエンジェル oh…oh…
 幸せに なりたいでしょ?
 退屈な この世の中から
 私がそう 連れ出してあげるわ







「──っ、」

 彼女達の歌は、本当に凄かった。
 どうして、これ程の歌声を持っていて未だ歌手になっていないのか……そう思わせられるような歌だった。

 とても素人とは思えない。
 最初のサビから、あっという間に彼女達の世界観へと引きずり込まれる。その素質は、少しだけBlue&Moonに似ているような気がした……。


 ──鳥肌が、凄い。
 
 私は、どうしてこの場所にいるんだろう?
 私なんかが、この場所にいて良いのだろうか……?

 私如きが。
 たった3ヶ月練習したぐらいで、今まで歌になんて何の興味も持っていなかった私如きが……。

 ……その後は、一切頭に入ってこなかった。
 不安と絶望でぐちゃぐちゃになって、私は青木さんの言葉も周りの歌も、何にも頭に入ってこなかったんだ。



 そして、気がついたら……、いつの間にか私達の出番が来ていたようだ。

「ゆかり先輩、行きましょう」
「──っ!! 」

 菜々ちゃんに呼ばれて、私はハッとする。

 本当に、いつの間に。
 まだ何にも心の準備が出来ていないのに。

 しかし、周りを見ると、皆『早く歌えよ』と言う様な目でこっちを見ていた。私の心の準備なんて、誰も待ってくれやしない。

 菜々ちゃんがスタスタと先に行ってしまったので、私ももう行くしかなかった。席を立って、審査員の前まで行く。……心臓の音が、凄くバクバクと言っていた。

 クーラーは効いている筈なのに、汗がジワジワとこぼれ落ちてくる。息を吸うのもやっとだ。苦しい。怖い……。

 こんな気持ちは初めてだった。
 私は脅えている。目の前の、この状況に……。

 しかし、どんなに身体が震えていても、時間という物は必ず流れる。私が歌う時が、ついに来てしまった。

 菜々ちゃんの息を吸う音が聞こえたので、私も自棄糞(やけくそ)に歌い始める。

「~♪ 」

 早く、終わらないかな……。
 本当に私は何にも出来ないな。皆、あんなにキラキラ輝いていたのに、私だけ……どうしていつもこうなんだろう。

 一応頑張って練習したんだけどな……。でも、受かるわけないじゃん。あんなに凄い人達が沢山集まってるオーディションなんだから。

 本当に、無駄な時間だったな……。
 菜々ちゃんには申し訳ないけど……、私なんかより、良い人なんて沢山いるよ。このオーディションが終わったら、菜々ちゃんにはサヨナラを告げよう……。そして、家に帰ってご飯食べて、小説書くんだ……。

 本当、こんな無駄なオーディションなんて、早く終わってしまえばいいのに……。

 そんな事を考えながら、適当に歌っていたその時だった。


 突然、『パァンッ!! 』と凄い音がした。

 『何の音っ!? 』

 そう思って、歌う事を止めた時、私はその音の正体にやっと気がつく。

 頬がジンジンと痛み出してきた。
 菜々ちゃんは凄い顔で、私を泣きながら睨んでいる。

「え、菜々ちゃん……、何で……?? 」

 菜々ちゃんは、何故か私の頬を叩いたのだ。
 その痛みは、ジワジワと頬全体に広がっていく……。


「──っ、しっかりしてくださいっ!! 」
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