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Chapter2 Vocal Contest 2021
>>9 acceptance start
しおりを挟む受付の時間まで後少し。
私達はカフェを出て、遂にオーディション会場に辿り着いた。
「人がいっぱいいるね……」
その数、ザッと……いや、目ではとても数え切れないほどだった。例えるならそう、お祭りの屋台にいる客の数程だ。
「『新人ボーカルコンテスト』……。毎年開かれてるみたいですが、去年は何と、応募者数10万人を越えたそうです」
「10万人っ!? 」
私はあまりにも驚いて、思わず、物凄く大きな声を出してしまった。
そうしたら、通り過ぎていく人達がその声に驚いた様で、ビックリした目でこっちを見ている……。
いけない。
大声を出してしまった。
私は『すみません』と言って、頭をペコペコと下げる。
「……えっ、じゃあ菜々ちゃん。この会場にもまさか、10万人以上はいるってこと……!? 」
私は声のボリュームを落として、菜々ちゃんに聞いた。
10万人以上って、結構な数字だよね……。その沢山の人達の中で、私達は選ばれる為にオーディションを受ける……ってこと!?
そりゃあ、元々覚悟はしていたつもりだけど……、でもまさか10万人以上だなんて。
すると、菜々ちゃんは『ふふ』っと笑って言った。
「大丈夫ですよ、ゆかり先輩。この会場に10万人以上なんて、流石に無茶苦茶過ぎます。ここの会場に来るのは、多分約2千人ぐらいじゃないでしょうか」
2千人……。
それでもかなり多い方だと思うが、まあ10万人よりかは遥かにマシか。
「歌のオーディションですが、毎年応募数が10万を越えていてとても多いので、先ずはこうやって県毎(けんごと)に区切っているんです。47都道府県ありますよね? その内の1つが今ここです。ここで選ばれたら、次のステージ。県毎に選ばれた人達と集まって、またオーディションをします。そして、最終的に選ばれた人が歌手への切符を掴めるんです」
……なるほど。
つまり、歌手になる為には、まず私達が暮らしているこの県で選ばれる事が第一条件なのか。
「頑張りましょうね。ゆかり先輩」
まずは、2千人の中で……。
家を出る前までは、緊張はしていたけれど、そこまで不安な気持ちは無かった。むしろ、『私達なら絶対に大丈夫』だとさえ思っていた。
でも、いざこうして会場に辿り着くと……、私は不安で胸が押しつぶされそうになっている。それは、きっとここにいる人達が皆本気の顔をしているから……、だろう。
「──それでは、これより『新人ボーカルコンテスト2021』の受付を開始します。参加者の方は受付を済ませましたら、スタッフの指示に従って会場の中へお入りください」
受付開始の合図がした。
周りにいた人達は皆、受付まで移動を始める。
「ゆかり先輩、あたし達も行きましょう」
「あ、うん」
私と菜々ちゃんも、後に続いて受付へ向かった。
受付は2つあった。
それぞれ、『ソロ部門』『ユニット部門』と表示されている。
「あたし達は……、あっちの受付ですね」
菜々ちゃんは、『ユニット部門』と書かれている方へ指を指した。
……そっか。
ソロは1人の事だもんね。
私達はユニットっていうのか。
私は菜々ちゃんと一緒に、ユニット部門で長蛇の列に並び受付を済ませる。その時スタッフに渡されたナンバープレートを身に付けて、私達は指示に従い会場の中へと入って行った。
会場の中はかなり大きかった。
応募者が沢山いるんだから、当然といえば当然なのかもしれないけど……。沢山のドアがあって、迷子になってしまいそうだ。
「私達ってBの部屋だよね? 」
「そうですね……。どこだろう? 」
Bというのだから、Aの次なので直ぐに有りそうなイメージなのだが……。何せ部屋数が多すぎて、何処に何があるのか全然分からない。
「──あっ、ゆかり先輩、あの部屋ですよっ! 」
菜々ちゃんが指指した先を見ると、確かにBと書いている部屋があった。
「流石菜々ちゃんっ」
私は菜々ちゃんと軽くハイタッチをし、Bの部屋に向かう。
すると、もうそこには既に沢山の人が席に着いていた。
部屋はとにかく広くて、席も軽く100は有りそうだ……。
「あたし達はナンバーが147と148ですので、あの座席ですね」
私は菜々ちゃんと一緒に自分達の席に向かい、席に着いた。
まだ人が揃っていない為、室内は結構賑やかだった。自由におしゃべりする人、飲み物を飲む人、席を立ってトイレに行く人、等。勿論オーディションの為に下準備をしている人も居た。
最終確認は大事だ。何が起こるか分からないし……。けれど、カフェの辺りからずっと胸がドキドキと鳴っているので、私的には雑談をして少しでもリラックスしたい気持ちだが……。
横目で菜々ちゃんを見ると、菜々ちゃんは俯いていて何かを考え込んでいる様子だった。
菜々ちゃんは歌手になるのが夢だし、このオーディションに対して色んな気持ちがあるのだろう……。そっとしておくのが1番か。
私は少しでも緊張を下げる為にと、自販機で買った冷たいジュースで喉を潤す。不思議と、いつもより飲み物が美味しく感じた。
……喉が渇いていると、良い声が出にくくなるし、定期的に潤すのが大切だな。
「んー」
……どんな人がいるんだろう?
私は辺りを見渡すと、結構、インパクトのある格好をしている人が多かった。審査員に印象を与える為だろうか?
そういえば、この人達に比べると私達の格好は結構地味だ。確かに綺麗だし可愛いけれど……、至って普通というか。『そんな人いたっけ? 』となりそうなイメージで。
しかし、これが私達が歌う曲の雰囲気なのだし、下手に奇抜な格好をするよりかはずっとこの方が良いだろう。
そういえば、インパクトのある格好といえば……、さっきカフェのトイレで見かけた2人組。
あれも凄く印象に残る感じだったなあ。低身長の青髪ちゃんと高身長の金髪ちゃん。しかも、金髪ちゃんの腕には刺青が……。
私と同い歳ぐらいに見えたけど、学生なのかな? うーん。
そんな風に考えていたら、ふと、何かが目に止まった。
「──あっ」
今部屋に入ってきた2人組。物凄く見覚えがある。低身長の青髪ちゃんと高身長の金髪ちゃん……。間違いない! さっきの子達だ!
「……ゆかり先輩? 知人ですか? 」
私の声が耳に入った様で、横から菜々ちゃんに話しかけられた。
「知人……って程ではないけど、さっきカフェのトイレで会ったんだ」
「へえ、そうだったんですね」
ふうん……。
あの人達も歌手志望だったんだ。
偶然ってあるもんだなあ。
でも、あの見た目なら絶対審査員の印象に残るだろうなあ……。応募者も皆、あの二人組に目を奪われているし。
「何見てんのよ!! そんなにおかしい!? 」
……あ、さっきも言ってたセリフ。
その途端に皆、顔を背けて『自分は関係ないよ』と言う様に俯き出す。
そうだよね……、分かるよ。
めっちゃビビるよね……。
顔は美人なんだけどなあ。
「はあー。ほんっとムカつくっ!! 何で自分の好きな格好をしてるだけで一々(いちいち)……っ、」
「……落ち着くのですよ。もうすぐオーディションが始まってしまうのです」
さっきの様に青髪ちゃんが金髪ちゃんを落ち着かせ、2人は席に着いた。
後で対面する事があったら、挨拶してみようかな? だけどなあ。『さっきは良くも』なんて言って怒鳴られるかもしれないしなあ……。うー。
けど、あの人達はどんな歌を歌うんだろう? ちょっとだけ気になるなあ。
「ゆかり先輩、そろそろ始まるかもしれないです」
「え? 」
『ほら』と、菜々ちゃんに話しかけられて、私は辺りを見渡す。
気がついたら満席だった。周りの人達もそれに気がついた様で、徐々に静かになっていく。
……もうすぐで始まるのか……。
緊張するな……。
人生初のオーディション。何なら菜々ちゃんと出会わなかったら、オーディションなんて受けることも無かったかもしれない。
受かるか、受からないか……。
それよりも、急に静かになりだしたこの空間に……。居心地が悪くて、物凄く緊張する……。
私の心臓の音は周りに聞こえていないだろうか……? 菜々ちゃんをチラッと見ると、菜々ちゃんも物凄く緊張している様な顔付きだった。
皆、緊張しているんだ……。
夢への切符を掴む為に……。
その時、コツコツと、遠くから音が聞こえてきた。
その音は段々と近くなり……、そして、1人の女性がこの室内に入ってきた。
スーツを着ていて、背が高い。
そして、眼鏡をかけている。
表情はかなりしっかりしていた。
その外見から……、間違いない。
この人は、オーディションの審査員の1人だ。
……その瞬間に、今からオーディションが始まるという事を、私は察した。自然と、背筋がピンと伸びる。
「──それでは、これより『新人ボーカルコンテスト2021』を開始します」
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