Sing with friends

ゆうまる

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Chapter1 Our dreams and the future...

>>11 sad lunchtime

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 ……遠くから、ワイワイと賑やかな声が聞こえてくる。それは、クラスが近くなるに連れて、どんどん大きくなっていった。

 うう……。緊張するなあ。

 こういう体験は生まれて初めてだった。もちろん、菜々ちゃんに誘われていなければこの先も参加する事は無かっただろう。

 幼稚園の先生というのは、想像も出来なければ全く無縁の世界だったので、私は今これまでで1番じゃないかってくらい緊張していた……。

 
「ここよ」

 クラスの前に着くと、園長先生はゆっくりとドアを開ける。

「皆ー、静かにしてねー」

 クラスの先生がパンパンと手を叩くと、さっきまで賑やかだった教室が一気に静かになった。……一部、まだ騒いでいる子もいるが。

「園長先生からお話があるよー。ちゃんと聞こうねー」
「えーーっ! 俺、今これ作ってるからやだー!! 」

 男の子が手に持っているのは、しわくちゃの折り紙だった。……何を作ろうとしているのだろう? この歳の男の子だから、飛行機かなあ。

 それにしても、かなり自我の強い子のようで駄々をこねている。
 
 先生は、その様子に『はあ……』と溜息をついた。その後、眉間に皺を寄せて『シーッ!! 』と言うと、やっと男の子は口を閉じる。

 ……『そろそろ怒られるな』と察したのだろう。

「今日は皆にお話があるの~っ! 」

 園長先生は、ゆっくりとした口調で話を始めた。

「実はねっ! 今日1日だけ、皆と一緒に遊んでくれるお友達が来ているのよっ! それじゃあ、自己紹介してくれるかしら? 」

 園長先生はニコニコした顔でこっちを見る。

 ……自己紹介。
 そういえば何にも考えていなかったなあ。
 何を話そう。

 そんな事を考えていると、菜々ちゃんは先に1歩前に出て話し始めた。

「初めましてっ! あたし、如月菜々っていいます! 歌う事が大好きです! 短い間ですけど、よろしくお願いします! 」

「菜々ちゃんよろしくねー」
「私も歌大好き~!! 」

 流石菜々ちゃん……っ!
 あれだけの短い自己紹介で、もう皆から注目を浴びている……!!

 自己紹介以外に何をしたのだろう?
 やっぱり元気いっぱいなスマイル……??

 菜々ちゃんの自己紹介が終わると、次と言うように視線が私に集まった。

 うう……。
 自信無いけど、頑張るしかないよね。

 とりあえず、元気いっぱいなスマイルで、口調はハキハキと……っ!

「わ、私日向ゆかりと申しますっ!! 小説……、物語を書くのが趣味です! 小さい頃は人形ごっこでよく遊んでいました! よろしくお願いしますっ! 」

 精一杯喋って、頭を思いっきり下げる。

 その後、2秒くらい経ってから、皆の反応を伺うようにゆっくりと頭を上げた。

 その先にあったのは……。

「…………」

 無の顔の集団っ!!

 ……何で!?
 いや、元々私は子供に好かれるタイプでは無いから、想像はしていたけど……。

 菜々ちゃんの時はあんなに盛り上がっていたのに、どうして私の時はこんなに熱が冷めてしまったのだろう?

 悲しいです……。

「えーっと、」

 園長先生はパンっと1回手を叩いてから、元の空気に戻すように話し始めた。

「この2人が皆と遊んでくれるお友達よ~! 今日1日だけだけど、仲良くしてあげてねっ」
「わかったー!! 」

 子供達が元気よく返事をすると、園長先生はニコッと微笑んでから、後ろへ下がった。

「よろしくね。私、香織っていいます。香菜子から2人の話は聞いているわ」

 あ、この人が香織さん……。

 とても優しそうで、綺麗な人だった。
 例えるなら、睡蓮のような人かな……。

 長い黒髪が艶やかで、とてもよく似合っている。

「よろしくお願いします」

 私達は香織さん……、ここでは香織先生って呼んだ方が良いかな? 香織先生と挨拶を交わした。



♢


 その後は、お祭り騒ぎだ。
 折り紙で遊んだ後は、フルーツバスケットや猛獣狩り等……、結構派手にやる遊びが多かった。

 子供達は思っていたよりもかなり元気で……、私は多分体力負けしているだろう。もう疲れてしまった。

 菜々ちゃんも明るく振舞ってはいるが、若干疲れが顔に出ていた。

 幼稚園の先生って凄く大変なんだな……、と身にしみて感じる……。


「ゆかり先輩」

 子供達が読み聞かせを聞いている時、菜々ちゃんは私に小声で話しかけてきた。

「海人くん……って、多分あの子ですよね」

 菜々ちゃんはチラッと視線をその子に向ける。


 ……読み聞かせを聞く時は集団で固まって聞くのだが、その子だけは少し皆と離れた先にいた。

「多分ね……」

 さっき遊んでいた時も、皆はそれぞれの友達とワイワイやっていたが、恐らく海人くん……だけは1人でボーッとしていた。

 先生が話しかけても、一言も喋っていなかったし……。

「後で声かけてみましょうか」
「そうだね」

 歌が好きな菜々ちゃんなら、海人くんも心を開いてくれるかもしれない……。

 私は頷いた。



♢


「ふうー……、疲れた……」

 気がつくと、もうお昼だった。
 子供達はお弁当を食べる為に手を洗いに行っている。

「結構大変ですね……」

 あの菜々ちゃんですら、若干の息切れをしていた……。

「ふふっ。仕方ないわよ。長年勤めている私でも大変だと思うもの……」

 香織先生は、話に加わるように私達のそばに来る。

「……でもね、あの子たちの笑顔を見ていると、不思議と疲れが吹き飛んじゃうの。確かに大変だけど、とても楽しいわ」

 香織先生は手洗いをしている子供達を見て、幸せそうに微笑んでいた。

「……なんだか分かる気がします」

 菜々ちゃんも、香織先生の言葉を聞いて笑った。

 職業は違えど……、『誰かを幸せにしたい』『誰かの笑顔を見るのが好き』っていう思いは一緒だからだろう。

 私も違う夢を追いかけてはいるが、誰かの笑顔を見るのは好きだ。だから、香織先生の言っていることは何となくだが分かる。楽しそうにはしゃぐ子供達を見ていると、……何となく心が穏やかになるんだ。

「ふふっ、そうよね。……だから、海人くんにも笑っていてほしいの。私、まだ1度もあの子の笑顔を見た事がないから……」

 ……1度も笑ったことがないんだ……。

 その後、香織先生は『家族の前だと沢山笑うみたいなんだけど……』とも言っていた。

 幼稚園の中だと自分を出せないのだろう……。

「香織先生、お昼のグループ……海人くんと一緒にさせていただけませんか? 色々話しかけてみます」

 菜々ちゃんはふと提案する。
 
 ……確かに、グループが一緒なら話しかけやすいだろう。それに、皆で一緒に遊んでいる時よりも遥かに話しやすい。

「ありがとう、分かったわ。よろしくね」

 香織先生は笑って頷いた。

 海人くんが、これで少しでも心を開いてくれると良いのだが……。



♢


 そして、いよいよお昼の時間がやってきた。

 『いただきまーすっ!! 』と皆で手を合わせて、挨拶をする。

「お腹ぺこぺこだよー」

 菜々ちゃんと私は持参の弁当箱を机に置く。

「皆はお弁当何持ってきたの? 」

 菜々ちゃんは、グループの子供達皆に尋ねた。
 ……なるほど。皆のお弁当の中身を聞くことで、海人くんとも会話が出来るかもしれないという寸法か。

 流石菜々ちゃん。

「俺はねー! たこさんウィンナーとねー!! 」
「私はね! 大好きな卵焼きあるよ!! 」

 同じグループの子供達は一斉に話し始める。

 聖徳太子じゃ無いので、そんな一気に話しかけられても皆の分聞き取れないんだよなあ~なんて思いながら。

「海人くんは何持ってきたの? 」

 私は流れでサラッと聞いてみた。

「…………」

 しかし、海人くんは何も喋らない。


 私は元々子供から好かれないので、そのせいか……とも一瞬思ったが、

「わっ! 美味しそうなミートボールだね! 好きなの? 」

 菜々ちゃんが話しかけても、海人くんは言葉を返さなかった。

 シーン……と静かになる。

 これは一筋縄ではいかないぞ……。
 どうしたらいいんだろう……。

 私が新しい話題を考えていると、

「無駄だよ」

 同じグループの男の子は言った。

「こいつ、何話しかけてもずっと黙ったままだし! 一緒にいてもつまんねーよっ」

 隣の男の子も続いてそう言った。

「恥ずかしがり屋なだけじゃないのかな……? 」
「知らねー。そんな奴と一緒にいても面白くないよっ」

 菜々ちゃんの言葉に対しても、男の子達はサッと切る。

 ……いけない。
 このままじゃ雰囲気が悪くなる。

 そう思った私は、海人くんに対して別の話題を振った。

「──そういえば、海人くんって歌が大好きなんだよね? お母さんやお父さんは音楽関係の仕事しているみたいだけど、どんな仕事をしているの? 」
「っ!! 」

 その時、海人くんは初めて反応を見せた。
 急に立ち上がって、凄い顔で私を睨む。

「ママとパパの話をするなっ!! 」

 そう叫んで、海人くんは教室を飛び出していった。


「待って、海人くんっ!! 」

 香織先生は海人くんを追いかける。


 私……、もしかして、やばいこと言っちゃった……?

 そんなつもりじゃなかったのに……。

 海人くんのあの時の顔。
 何故あんな反応をしたのかは分からないが……、間違いなく私のせいだ。

 海人くんにとって、聞かれたくないことだったんだ……。



「──追いかけなきゃっ!! 」

 気がついたら、私も海人くんを追いかけて教室を飛び出していた。
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