Sing with friends

ゆうまる

文字の大きさ
上 下
10 / 40
Chapter1 Our dreams and the future...

>>10 little shy boy

しおりを挟む



──『もし良ければ、幼稚園のボランティア、一緒にやりませんか? 』

 菜々ちゃんから突然のお誘い。

 どうして私を? 私なんかが行ったところで邪魔になるだけでは……なんて色々思いもしたが、『ゆかり先輩がいれば何でも出来る気がするんですっ! 』とまで言われてしまったら……、断れないだろう。断る理由も特に無いし。

 しかし今思うと、幼稚園のボランティア……というのは一体何をするのだろうか。先生のお手伝い? 子供の世話を見たりするのかな?

 あの時は、誘いに対して『いいよ』なんて言ってしまったが、もっと慎重に考えるべきだったかもしれない。……そもそも幼稚園のボランティアだよ? そういえば私子供に好かれないじゃんっ!!

 今になって不安が込み上げてくる。

 ……ちなみにどれぐらい子供に好かれないかというと、例えば道端で赤ちゃんと出会ったとする。可愛いな~って思って赤ちゃんを見つめていると、確実に3秒以内に泣かれるのだ。あっかんべえ等をしている訳では無い。もちろん触れている訳でもない。なのに確実に泣かれてしまうのだ! ……しかも悲しいことに、百発百中である。

 私の顔が怖いのだろうか? それとも、私の背後には何か良からぬものでも取り憑いているのだろうか……。分からないが、もし、そんな私が幼稚園に現れたら、子供達はどうなってしまうだろう。


「…………」

 ……きっと、サファリパークの様になるに違いない。
 あちこちで子供が泣き出し、終いには私は幼稚園を追い出されてしまうだろう。


 やっぱり、申し訳ないけど断ろう……そう思って携帯に手を伸ばそうとした。


 ……でも。

「……喜んでたしな……」

 菜々ちゃんの笑顔を思い出す。
 私が誘いをOKした途端、それはもう、幸せそうに微笑んでいた。

「あ~~~っ!! どうする私っ!! 」

 私は一晩中悩みまくった……──。



♢


 ……そして、ついに来てしまった!!

 海明幼稚園に!!


「うわ~! 懐かしいなあ。あたし、ここの幼稚園に通ってたんですよっ! 遊具も当時のままだ! ふふっ」

 菜々ちゃんは楽しそうにはしゃいでいる。

 緊張していないのだろうか……。
 私はさっきから震えが止まらないというのに!!

 そもそも私は幼稚園の先生になりたい訳では無い。こういうボランティアって、普通そういう職業に就きたい人がやるものでは無いのか? もしくは、そういう職業に興味がある人とか。

 菜々ちゃんも歌手志望なんだし、このボランティアとは何も関わりが無いのでは……?

「ゆかり先輩。幼稚園の先生ってね、歌うんですよっ」
「…………」

 ……いや、それは知ってるけれども。
 菜々ちゃんの歌うと、幼稚園の先生の歌うはやっぱり違う気が……。

 なんて、今更か。
 菜々ちゃんがやりたいなら、それで良いのだろう。私はとりあえず……、小説のネタになるかもしれないしね。何事も経験だ。

 覚悟を決める。

「それじゃ、職員室に行きましょうか」

 菜々ちゃんは、『こっちです』と案内してくれた。

 幼稚園の頃の事なんて、私は全然覚えていない。ましてや職員室の場所なんて、絶対に分かる自信が無い……。菜々ちゃんはよく覚えているな。記憶力が良いのだろうか。

 昇降口に入る。

 私はこの幼稚園に通っていなかったが、何となく懐かしい匂いがした。学校と比べると、小さくて狭い。

 幼稚園ってこんなに狭かったっけ……。
 私は辺りを見渡す。

 恐らく、私が大きくなったのだろう。小さい子供達から見たら、この幼稚園は凄く広く見えるのかもしれない。

「ここですね」

 菜々ちゃんは、ドアを開けた。


「失礼します」

 私たちは職員室の中に入る。

「ボランティアの件で来ました。如月菜々と」
「日向ゆかりです」

 幼稚園の先生達がこっちをじっと見てきた。……まあ、当然見るだろう。『どんな子達なんだろう』って気になるだろうし、私でもそうすると思う。でも、なんか視線がちょっと……、怖いと言うか。私はその視線をそらすように、遠くの壁を見た。

「あらあら~っ! 貴女達が例の子ね! 香織(かおり)ちゃんから聞いてるわよ! あ、ちなみに香織ちゃんってのは、香菜子ちゃんのママの事ねっ」

 ……香菜子ちゃん??
 香菜子ちゃん……って誰だろ。

 私は、今までのクラスメイトでそんな名前の子が居たかどうか、記憶を辿ってみる。

「香菜子ちゃんは、あたしのクラスメイトです。このボランティアを教えてくれた人ですよ」

 菜々ちゃんは小声で私に教えてくれた。

 なるほど。
 通りで、初めて聞いた名前だと思った。

「ちなみに私は紫崎(むらさき)十萌(ともえ)っていうのよ。こんな感じだけど、一応園長やってるからよろしくね」

 園長先生っ!
 ……全然見えない……。

 金髪で、露出度が結構高めの服を着ている。
 外国人だろうか……と思ってしまうほどには、スタイルがいい。

 特に胸。
 ……大きい。

「で、肝心のボランティアの内容なんだけどね。貴女達には香織ちゃんのクラスの子の世話をしてほしいのよ~」

 世話……。
 まあ若干想像はしていたけど……。

「でも……、あたしたち子守りなんてしたことないですよ? 」
「大丈夫大丈夫っ! そういうのは案外何とかなっちゃうから! 」

「…………」

 この園長先生……、大丈夫なのかな。
 いつかこの幼稚園が潰れる未来が見える……。

「……嫌ねぇ、冗談よ、ジョ・ウ・ダ・ン。お願いしたいのは、海人(かいと)くんっていう男の子の事なの」

 ……海人くん?

「その子はね、今クラスで一人ぼっちなのよ。物静かでね、暗い男の子なの。先生達もね、何度か話しかけているんだけど、一言も喋らないのよ……」

 『ほんと、困ったわあ……』と、園長先生はため息をつく。

「その海人くんね、お父さんもお母さんも音楽関係の仕事をしているらしいのよ。だから歌が大好きみたいでね。家だといつも歌っているらしいんだけど……、ここだとどうにも自分を出せないみたいねえ。シャイボーイなのかしら」

 ……私も小さい時は、物静かな子供だった。1人でずっと物語を書いているような、そんな子供。

 でもそれは、自分が好きな事をしていたかったからであって、海人くんのそれではない。

 海人くんはきっと、寂しいのだろう。幼稚園に来ることで、お父さんとお母さんと離れ離れになる。そして、大好きな歌を歌えなくなるということが。

 私は、菜々ちゃんの顔を見る。
 菜々ちゃんも、私と同じ事を考えていたようでで、真剣な顔をして頷いた。

「あたしたちは、その海人くんが皆と打ち解けられるようにサポートする為に呼ばれた……という事ですね」
「ピンポンピンポーン! 大正解~! 」

 園長先生はパチパチと拍手をする。

「歳が近い方が海人くんも接しやすいと思うのよ。それに、香織ちゃんから聞いてるわ。貴女達歌が上手いんでしょう? だから海人くんとも仲良くなれるんじゃないかって思ってね」

 私は歌えないけどね……。
 軽く苦笑いを浮かべる。

 今日の主役は、紛れもない、菜々ちゃんだ。
 私は菜々ちゃんを、影からサポートしよう。

「分かりました。任せてください! 出来る限り、頑張りますっ」

 菜々ちゃんは胸を張ってそう言った。


 菜々ちゃんの夢は、歌で沢山の人を笑顔に、幸せにすることだ。海人くんを幸せにする事が出来たなら、それは菜々ちゃんにとっても凄く幸せなことだろう。それに、菜々ちゃんのおばあちゃんも絶対に喜ぶはずだ。

 ……頑張って!
 菜々ちゃんなら出来るよ。

 私は心の中で、菜々ちゃんにエールを送る。


「それじゃ、行こっか」

 園長先生の後に続いて、私達は職員室を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不良令嬢と残虐鬼辺境伯の政略結婚!!

桜あげは
恋愛
病弱な異母兄の影武者をしている元孤児のクレアは、自分以上に兄そっくりな影武者が現れたため居場所を追われ、今度は令嬢として辺境へ嫁ぐことになった。 渋々従うも、相手は「残虐鬼」と恐れられ、数々の婚約が全て破綻している曰く付きの辺境伯。 しかも、初対面は血まみれ姿!? 果たして、二人の結婚は上手くいくのか? 絵はもふに様に描いて頂きました。ロゴはWolf’s design様。

夜明けの晩

来条恵夢
ファンタジー
病弱で寝込むばかりの紅子は、悪魔と取引をした。 そうして生まれ変わった彼女の周りには、財産を狙う一族の有象無象や妙な事件やの問題事が山積みで…。

【完結】君に伝えたいこと

かんな
ライト文芸
  食中毒で倒れた洋介は一週間の入院をすることになった。    治療をしつつ、入院生活をする洋介。そんな中、1人の少女と出会う。 美しく、そして綺麗な少女に洋介は思わず見惚れてしまったが――? これは病弱な女の子と人気者の男の子の物語である。 ※表紙の絵はAIのべりすとの絵です。みのりのイメージ画像です。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん
キャラ文芸
昭和17年。ある島の別荘にて病弱な財閥令嬢の千恵子は華族出の母親・ヨシとお手伝いであやかし・濡れ女の沼霧と一緒に暮らしていた。 この別荘及びすぐ近くの海にはあやかし達と、人語を話せるシャチがいる。 「ぜいたくは敵だ」というスローガンはあるが、令嬢らしく時々ぜいたくをしてあやかしやシャチが取ってきた海の幸に山の幸を調理して頂きつつ、薬膳や漢方に詳しい沼霧の手も借りて療養生活を送る千恵子。 戦争を忘れ、ゆっくりとあやかし達と共に美味しいご飯を作って食べる。そんなお話。 ※表紙はaipictorsで生成したものを使用しております。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師の松本コウさんに描いていただきました。

僕らの初恋

雪苺
恋愛
親友の妹のお見舞いで君と出逢った。 あの頃の僕は子供で 君に何もしてあげられなかった。 僕は今でも君が好きです。 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346 エブリスタ・カクヨムにも掲載しています。

奇跡の恋

マッシー
恋愛
「奇跡の恋」という恋愛小説は、大学生の心臓病を患うエミリーが手術を受けることになり、手術中に天国で神に出会い、自分の命がまだ尽きていないことを知ります。そして、彼女は恋人のジェイソンに「愛してる」と告白される瞬間に目を覚まし、奇跡的に生還します。この出来事をきっかけに、エミリーは神を信じ、自分自身や周りの人々を大切にするようになり、愛するジェイソンとの関係も深まっていきます。この物語は、奇跡を信じる人々に勇気と希望を与える内容となっています。

処理中です...