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Chapter1 Our dreams and the future...
>>6 Memorial photo
しおりを挟む『まあまあ、良いじゃないですか』
『それにあたし、今凄く遊園地に行きたい気分なんですっ! リア充体験は流石に冗談なので、だから行きましょっ』
そんな感じで上手く言いくるめられてしまい、結局私は遊園地に来てしまった。菜々ちゃんが行きたいって言うなら、まあ、仕方ない……とか思いながら。
「わあ~っ! あたし遊園地って久々なんです!! 何から乗りますっ? 」
目をキラキラさせながら、菜々ちゃんははしゃぎ回っている。楽しそうで何よりだが……。
テーマパークのBGMがガンガンと頭に響いてくる。周りには沢山の家族連れやカップルが見られた。
……正直に言うと、私はそこまで遊園地が好きではない。小さい時に1回だけ家族で来たことがあるのだが、乗ったアトラクションが全部怖くて『もう嫌だ!! 』となったあの時の思い出が蘇る……。
「私、やっぱり帰っていいかな……」
あの時はまだ小さかったから、怖がるのも無理はない……。そう思っても、見た目からして既にもう怖い。
例えばあのジェットコースター。何であんな形をしてるんだろう? 万が一落ちてしまったらどうするんだろうか。乗っている人達は皆、楽しそうに『きゃーっ!! 』なんて両手を上げながら叫んでいるが……、見ているこっちがきゃーだ。良くレバーから手を離せるな……。
とにかくあんなのは見ているだけで怖い……。下手したら私、死んでしまうかもしれない。いや、冗談抜きで。
「え、ゆかり先輩、もしかして遊園地嫌いなんですかっ!? 」
「……嫌いなんてもんじゃないよ……。めちゃくちゃ怖いよ……」
震えが止まらない。
足がすくんでしまう……。小さい時の経験って、忘れているようで意外と身体は覚えているんだなと思った。
「そ、そうだったんですね……。すみません、気がつかなくて……」
「いや……ごめんね。私が最初から言ってれば良かったね……」
私のせいで、菜々ちゃんをガッカリさせてしまった……。
テーマパークに似合わない、どんよりとした空気が漂っている。この空気に触れた人達は皆、『何だ何だ』という目で見ながら過ぎて行った……。当たり前だけど。
いつまでもこうしてたら、色んな人に迷惑をかけちゃうよね。
「私、そこのベンチで待ってるから、菜々ちゃんは沢山遊んでくると良いよ」
「えっ」
私の提案に対して、菜々ちゃんは手を大きくブンブンと振る。
「そんなこと出来る訳ないじゃないですかっ! 第一1人で乗り物乗っても寂しいですし……。今日はもう帰りましょうっ」
「でも……」
それじゃあせっかく楽しそうにはしゃぎ回っていた菜々ちゃんを落ち込ませてしまう。ここまで来た意味も無くなってしまうし、それに小説のヒントが……。
『帰ろう』『帰らない』
2人で言い合っていると、突然私の肩に『トントン』と何かが触れた。
「ひゃっ! 」
ビックリして後ろを振り返ると、そこには……。
「ミキマルちゃんっ!! 」
菜々ちゃんはキラキラと目を輝かせながら言った。
……誰??
「この遊園地のキャラクターだよ~。」
キャラクター……。
なるほど……。
見た目は兎のような顔をしている。が、全体的な色は黄緑色だ。目が大きくてキラキラしていて、出っ歯で、手触りがフワフワしてそうで……。
「可愛い~っ!! 」
初めて見たけど、何なんだろうこの可愛さは……!! 小さい時に1回だけ来たことある筈なんだけどな。このキャラクターと出会ったことは無かったのかな??
とにかく可愛い……!!
「さ、触っても良いですか……?? 」
ミキマルちゃん……は、喋れないのだろうか。手でOKのジェスチャーをし出した。そのジェスチャーまでもが何とも可愛いっ!!
触っても良いんだ……っ!
私は胸の高鳴りを感じながら、ミキマルちゃんの腕にそっと触れた。
その感触は……。
「やっぱり!! ふわっふわだあっ!!! 」
何とも癒されるこの手触り!!
幸せだ~!! 可愛い~!!
私はずっとミキマルちゃんの腕を触り続けた。
「ねえ、ゆかり先輩! 写真撮りましょうよ、今日の思い出にっ」
菜々ちゃんはそう言って、鞄から携帯を取りだす。
「写真……っ!! でも良いのかなあ……。ミキマルちゃんが駄目って言うかも……」
「そんなことっ。ミキマルちゃんが言う訳ないじゃないですか! ねえ? 」
菜々ちゃんの言葉に対して、ミキマルちゃんはさっきの様にOKとジェスチャーを作った。
「やった……っ!! 」
嬉しいな……!!
普段写真撮ることなんて滅多に無いし、こういった思い出の写真を撮ることは、実は私の憧れだった。
ミキマルちゃんと菜々ちゃんが、『こっちにおいで』と言うように、私の両手を掴んでそっと引っ張る。
3人……というより、2人と1匹で横に並んだ。
私は真ん中。右を振り向くと、菜々ちゃんが楽しそうに私の顔を見て微笑んだ。
その後キャストのお姉さんがやってきて、菜々ちゃんはその人に携帯を渡す。
「じゃあ撮りますよ~っ! 」
ドキドキするなあ。
変な顔にならないように気をつけないと!
『はい、チーズ』の後に、直ぐににっこり笑って、幸せそうに……。
頭の中でイメージ像を作る。
しかし、次の瞬間、キャストのお姉さんは私が想像していたこととはまるで別の事を言ったのだっ!
「3+0は? 」
……え?
突然何??
3+0は、3に決まって──……。
「ミキマルっ!! 」
「……へっ? 」
その時、『カシャッ』とシャッター音が聞こえた!!
「え? え?? どういうこと??? 」
キャストの『3+0』の意味も分からないし、それに対して『ミキマル』と答えた菜々ちゃんについてもさっぱり分からない……。
「ふふっ。ゆかり先輩、語呂合わせですよ。3はみ、0はまるって言うでしょう? それでみきまるなんですよっ」
「……なるほど? 」
あれか。
1+5はいちご、的なやつってことか。
なるほどねーー。
やっと理解出来たよーー。
……いやいやいやいや!!
「とっ、突然言われても分からないしっ!! 私変な顔しちゃったよ! 撮りなおそうよっ!! 」
「嫌ですよ~。写真っていうのはね、こういう自然な表情の方が面白いんですからっ! ……っぷ。ふふふふふ! ゆかり先輩ってば、本当に変な顔してるっ!! 」
キャストのお姉さんから携帯を返してもらった菜々ちゃんは、その写真を見て大爆笑しだした。
「ちょっと見せてよっ!! 」
「ふふふふふ、どうぞっ。」
菜々ちゃんから携帯を受け取って画面を見る。
そこには、目を丸くしながらポカーンと口を開けているみっともない私がいた。
これは想像以上だ!
ミキマルちゃんも菜々ちゃんも綺麗に映っているのに、私だけこれとは!! さすがに酷いっ!!
「菜々ちゃんもっかい撮り直そうよーっ!! 」
「嫌ですよー! 絶対その写真が1番良いですっ!! 」
菜々ちゃんはまだお腹を抱えて笑っていた。
「ふふふふふ……。本当に面白い、ゆかり先輩ってば、こんな顔してて」
その後、菜々ちゃんは私の顔のモノマネをしだした。最初は『失礼な! そこまで酷くないよ』なんて思っていたが、菜々ちゃんの笑い声を聞いていたら、何だか私も面白くなってきちゃって。
「……っぷ。あはははは!! 」
私まで釣られて笑ってしまったんだ。
♢
「さっきはありがとうございます、ゆかり先輩。凄く面白かったです。あたしは満足出来たので帰りましょうか」
菜々ちゃんは、笑いすぎて溢れた涙を手で拭っている。
そんなに笑うなんて本当に失礼だな……と思いながらも、私も楽しくて笑ってしまっていたのだが。
「ん~」
空を見上げると、まだ綺麗な青色が広がっていた。
……さっきまでは頭にガンガン響いていたBGMも、人がいっぱいでやだなあと感じていた事も、今ではもう気にしなくなっていた。むしろ、何かそれが心地よく感じてくる。
今ならアトラクションに乗れるかもしれない……。
「なんか乗ろうよ、せっかく来たんだしっ。今乗ったら楽しいかも! 」
本当に不思議だ。
さっきまですくんでいた足が、今では驚くほど軽いんだ。
あんなに怖く見えていたジェットコースターが、今では乗りたいとさえ思えてしまう。
菜々ちゃんは最初、目をぱちくりとさせていたが、次第に笑顔を膨らませていった。
「──はいっ! 行きましょう!! 」
私たちはそして、アトラクション乗り場へ向かった──……。
♢
「わー! 本当に楽しかったですね~!! ゆかり先輩、お化け屋敷めっちゃ怖がってましたね」
『ふふふ』と菜々ちゃんは笑っている。
「も、もう! 怖いんだから仕方ないでしょ。菜々ちゃんだって少しビクってしてたよね? 」
「それは、まあ。でもゆかり先輩は怖がり様が酷かったですよ~」
ううう……。
今日は何だかずっと菜々ちゃんにいじられてる気がするなあ。
……でも、今日は遊園地に来て本当に良かったな。アトラクションは怖い物も沢山あったけど、それでも楽しいと思うことが出来た。菜々ちゃんと居るからかな? ミキマルちゃんも可愛かったし、本当に素敵な思い出が出来たな。
「ねえゆかり先輩、最後にあの観覧車に乗りませんかっ? 」
菜々ちゃんは、少しだけ遠くに見える観覧車を指差す。
大きな観覧車だ。1周約15分くらいだろうか。
夕焼けに照らされて、とても鮮やかに映えている。
「うん、いいよ。乗ろっか」
遊園地の最後は観覧車で締める。と、誰かが言っていた気がする……。
さっきまで青色だった空は、もうオレンジ色に染まっていた。楽しい時というのは、どうして時間が経つのが早く感じるのだろう。
観覧車はそこまで行列が出来ていなく、スムーズに乗ることが出来た。
久しぶりの観覧車だ。
小さい頃は景色を眺めるだけの何が面白いんだろう……なんて思っていたが、今は凄くこの時間が心地いい。
「綺麗だね」
「そうですね。普段こんなに高いところから地上を見下ろすことなんて滅多に無いので、何だかしんみりしちゃいます」
確かに。
今までずっと小説を書き続けてきた。
当然休日も執筆三昧だったので、休日らしいことを全然してこなかった。
こうして観覧車の椅子に座って景色を眺めていると、身体の疲れがぐっと減っていく気がする……。癒されるのだ。
たまにはこうやってリラックスするのも大事だな、と感じる。
「……ゆかり先輩、知っていますか? 」
「ん? 何を? 」
「この観覧車のジンクスについてです」
窓の外を眺めながら、菜々ちゃんは続けて言う。
「頂上に辿り着いた時に好きな人に告白をすると、その恋が叶うらしいんですよ」
「そうなんだ」
よくあるやつだ、と私は思った。
私が通っている学校にもそういうジンクスが存在する。15時ぴったりに屋上で告白すると叶うらしい。
何故15時? 何故屋上?
誰が広めたのだろう。ジンクスを信じない私的にはちょっと笑えてしまう。
「ゆかり先輩はそういうの信じないかもしれませんね。でもあたしは信じてたんです」
菜々ちゃんは、ふふっと笑った。
……しかし、口では笑っていたが、目は全く笑っていなかった。それどころか、悲しそうな瞳を浮かべていたんだ。
「……この観覧車で告白をしよう。そう決めてたんです。勇気をだして、この遊園地に誘って。……でも、出来なかった」
菜々ちゃんは、ギュッと強く拳を握りしめる。
「出来なかったんです。いざ告白しようと思ったら、恥ずかしくて声に出せなくて……」
「…………」
「次の日学校へ行ったら、その人は他の人に告白されていて、付き合っちゃったんです。……情けないですよね。今でも後悔してるんです。あの時もしここで告白していれば、叶ってたのかなあって……」
……菜々ちゃんの声は震えていた。
凄く伝わってくる。菜々ちゃんの気持ちが。
本当にその人の事が凄く好きだったんだなって。
恋って、ふわふわした感情だけじゃないんだ。
辛くて、苦しい。
そんな感情もあるんだ。
「ありがとう、菜々ちゃん。話してくれて。小説の参考になったよ」
今なら、続きが書けそうな気がする。
この遊園地は、菜々ちゃんとその人の思い出が沢山詰まった場所なんだ。
私は菜々ちゃんと一緒に、地上の景色を見つめた。
オレンジ色に照らされる景色が凄く綺麗だ──……。
♪
ドキドキ胸が高鳴っていた
あたしは今日ここで告白します
素敵な貴方に伝えたいの
ただ一言『好きだよ』って
たった一言 それだけなのに……
あれれ…… おかしいな
好きだよ 好きだよ
何度声に出そうとしても
震えて 震えて
伝えられないんだ
貴方の横顔 オレンジ色に染まった顔を
見つめる事すら出来ないの
好きだよ……
♪
♢
「ゆかり先輩、今日は本当にありがとうございました。凄く楽しかったです」
「こちらこそありがとう、助かったよ。それに、菜々ちゃんのおかげで遊園地も好きになれたよ」
さっきまで足がすくんでたとは、もう到底思えないな……。本当に、言葉じゃ表せないくらい凄く楽しかった。
「あ、そうだ。ゆかり先輩、この写真どうします? 欲しいですか? 」
菜々ちゃんは携帯を開いて、例のあの画像を再び私に見せた。
……あんなにさっきまで笑ってたのに、また笑いそうになってしまう。私の顔、どんだけ変なんだ。
とはいえ、これは思い出だ。
さっき菜々ちゃんが言っていた言葉を思い出す。『写真っていうのはね、こういう自然な表情の方が面白いんですから』──確かに、今思い返すとその通りだ。
写真を撮る瞬間まで、私は笑顔のシミュレーションをしていた。あの状態で撮っていたら……恐らく、今日はこんなに楽しくならなかっただろう。
この写真は、今日の思い出なんだ。
「うん、欲しいな」
プリントして、部屋に飾りたい。
私がそう言うと、菜々ちゃんは『ふふっ』と笑って言った。
「じゃあ、写真送ります。ゆかり先輩、メアド教えてください」
「あ! もちろんいいよっ」
そういえば私たち、知り合ってから結構経ってたけど、まだ連絡交換したこと無かったんだったよな……。
私は自分の携帯を開いて、メアドを菜々ちゃんに伝える。
昨日は菜々ちゃんが公園に来なくて困っていたが、これで困ることも無くなるだろう。いつでも連絡出来るようになる。
「それじゃあ、暗くなっちゃうのでまたっ! 」
写真を送り終えたようで、菜々ちゃんは私に携帯を返してから手を振った。
「うん! またねっ」
私も菜々ちゃんに手を振り返して、解散する。
……本当に楽しかったなあ。
私は携帯を開いて、菜々ちゃんから貰った画像を見返す。
「……っあはは。本当に面白いや」
今日は、私にとって大切な思い出の1日になりました。
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