Sing with friends

ゆうまる

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Chapter1 Our dreams and the future...

>>5 What is love?

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「恋ってどんな感じなんだろう……」


 私──……日向ゆかりは、今書いている小説の途中で悩んでいた。

 物語の内容は、主人公が魔法を使ってドラゴンを倒すという至って良くあるやつなのだが、その道中で主人公が恋に落ちるシーンがあるのだ。

 しかし、私は生まれてから1度も恋をしたことが無い……。いや、正確には幼稚園の時に1度恋をした事があるらしいのだが、そんな昔の事は当然覚えている筈もなく。

 ……なら、書くなよって話なのだが……。

「ああああああああ~!! 」

 ボリボリボリボリ……。
 私は右手で頭を掻きむしった。

 小説を書いていると、しょっちゅうこんな事が起きる。作りたいストーリーは決まっているのだが、その場面に辿り着くまでの物語を書く事が出来ない……。上手く説明できないけれど。

 だから、そのせいで今までは行き詰まる事が多かった。
 小説を書きたくても、どの様に書けばいいのか分からない。ここの場面はどう表現したらいいのか……、そんな事をずっと考えてしまっていたからだ。その度に『私にはやっぱり小説を書く才能なんて無い……』なんて、自分を追い詰めてきた。


 でも、今は違う。
 菜々ちゃんと出会って、私は生まれ変わったんだ。

 もう、絶対諦めない……!!


 私は再びペンを握り締め、原稿用紙と向かい合う。




「…………」

 壁に掛かっている時計の音が、チクタクチクタクと言っている。

 ……どれくらい経ったかな。多分30分は経過したと思うんだけど。私はまだ、あれから1文字も書けていなかった。

 主人公の気持ちになって書く……と言っても、主人公の気持ちになる事が出来ない。恋ってどんな感じなんだろう。よく、相手の事しか考えられなくなる……なんて言うけど、本当にそうなのかな……。

「うーん……」

 ……悲しいことに、恋をした事がないからいくら考えても分からない。このまま考えていてもきっと時間の無駄だろう。こういう時は体験談を聞くのが良いのかもしれない。

 と言っても、誰に……?

 母親や父親は駄目だ。間違いなく恋はした事がある筈だが、単純に私が恥ずかしい。親の恋バナなんて……、話す側もきっと恥ずかしいだろう。

 それなら……、


 その時、『コンコン』とドアをノックする音が聞こえた。

「おねーちゃん、いる? 」

 私が返事するよりも早く、ドアを開けてきたその人物は妹のあかりだった。

 プライバシーの欠けらも無いな……。
 何の為のノック何だろうか、なんて思ったりもしてしまうが、とりあえず今はそんなことどうでもいい。

 これはチャンスだ!!

「ねえあかり。あかりって……、恋したことある? 」
「は、はああ~っ!?? 」

 あかりの顔は、見る見るうちに赤く染まっていった。

 この反応は、恋したことがある時のやつだな……、多分。

 まるでリンゴみたいだ。

「突然何っ!? ……はっ!! もしかしておねーちゃん、ついに好きな人が……!? 」
「いやいや、まさか」

 何でそうなるのやら。
 というか、恋した事が無いからあかりに聞いているというのに。

「今書いてる小説でね、ちょっと行き詰まっちゃってるんだよね。主人公が恋に落ちるシーンなんだけど、どんな感情なのか分からなくて……、書けなくて」
「なら書かなければいーじゃん」

 ……ですよねー!!
 そう言うと思ってましたよー!!

 期待を裏切らないこの感じっ!!

 私も何度このシーンをカットしようと思ったことか。でもそれじゃダメなんだよ。出来ない事から逃げていたら、どんどん色んな事が出来なくなってしまう……。

 だから、何としてでもこのシーンは書きたいのに……。


「あ、そーだ。晩御飯出来たって。ママが呼んでたから。じゃ」

 あかりはそれだけ私に伝えると、階段をササッと降りて行ってしまった。
 
 何だろう。この上手くまとめられた感じ。
 結局あかりの恋バナ聞けなかったし……。

 ……逃げられたな。

「はーあ……」

 結局、何にも恋について知る事は出来なかった。本当は自分で体験するのが1番何だろうけど……、今の所トキメキも何も無い。

 クラスで人気の丸々君だって別にかっこいいとは思えないし……。

 私は今、高校2年生だ。
 これぐらいの歳になれば、皆1回くらいは恋した事がきっとあるだろう。

 やっぱりどっかズレてるのかなあ、私……。


「…………」

 そういえば、菜々ちゃんは恋した事があるんだろうか。……きっとあるだろうな。凄く可愛いし、男子からもモテそうだし。

 明日聞いてみようかなあ。
 
 私はずっと手に持っていたペンを机の上に置いて、晩御飯を食べに自室を出た。






「ん~っ!! 」

 今日は凄く良い天気だ。
 見上げると、雲1つ無い青い空が広がっている。

 綺麗だなあ。こんな日は小説を書くのに最適だろう。風も心地良いし。

 ……って言っても、今は続きが行き詰まってるから書けないんだけど……。

「ははは……」

 思わず自嘲してしまう。


 ……そういえば、今日菜々ちゃん来るの遅いな。いつもならこの時間にはもう公園に来て歌っている筈なんだけど。

 昨日の件もあって、今日はどうしても菜々ちゃんに会いたかったのだが……。

 もう少し待っていれば来るかな?

「んー……」

 ……少しだけ待ってみよう。
 すれ違いになったら嫌だしね。

 でも、待ってる間暇だな……。そうだ、私が今書いてる物語を読み直してみよう。修正箇所とかあるかもしれないし。

 私は鞄から原稿用紙を取り出した。





「……ふう~」

 気がついたら、辺りはもう真っ暗だった。
 外灯が私を照らしている。

 ……小説を読み終えてしまったが、菜々ちゃんが今日ここに来ることはついに無かった。

 どうしたんだろう……。
 いつもならこの時間は居るはずなのに。

 まあ何か用事があったのかもしれないが、やっぱり少しだけ不安になってしまう。何も無ければいいのだが……。

「……仕方ない。帰ろう」

 また明日来れば良いよね。
 私は公園をあとにした。


 

 次の日、私は再び公園へ向かった。

 今日も居なかったらどうしよう……なんて不安を抱えながら。

 しかし、どうやらその心配は必要無かったようで、私は安心してホッと息をつく。


「菜々ちゃんっ! 」

 私は大きな声で名前を呼んで、菜々ちゃんの元へと駆けつける。

「……あっ、ゆかり先輩」

「……? 」

 気のせいだろうか。
 菜々ちゃんは、いつもの様な笑顔を浮かべてはいなかった。何処か苦しそうというか……、無理やり笑っているように見える。

 もしかして、昨日居なかった事と何か関係があるのだろうか……?

「菜々ちゃん、大丈夫……? 」
「ん? 何がですか? 」
 
 菜々ちゃんは目を丸くしながら言葉を返した。

「何って……」
 
 『あんまり元気なさそうだから』

 そう言おうとしたが、言うのを躊躇った。

 もし私の気のせいで見間違えていたとしたら、失礼かもしれない。でも……、やっぱりどこか苦しそうに見える。

 私は違う言葉に変えることにした。

「……昨日この公園に来たんだけど、菜々ちゃん居なかったからさ。なんかあったのかなって思って」
「…………」

 菜々ちゃんは、私から視線を逸らして黙り込んだ。

 やっぱり言わない方が良かったかな……。
 何て思いが、後から込み上げてくる。

「言いたくないなら言わなくても──……」
「おばーちゃんが、倒れちゃったんです」

「え? 」
 
 菜々ちゃんの、おばあちゃんが……?

 ……聞いちゃいけないことを聞いてしまった。
 ……そう思った。

「……ごめん」
「いやいや、大丈夫です! おばーちゃん、もう歳だし……。だけど、今までも何回か倒れたことあるんですけど、必ず元気になって帰ってきてくれるんですっ! だから今回も大丈夫ですよっ」

 菜々ちゃんは明るく振舞ってそう言うが、本当は大丈夫じゃないって事がひしひしと伝わってくる。

 何か力になれたら……と思うが、私が力になれることは多分無い……。

 『本当は大丈夫じゃないよね? 』と言った所で、返って菜々ちゃんを傷つけるだけだ。

 だから、菜々ちゃんが大丈夫って言うなら、きっと大丈夫なんだ……。そう思うしかない。

「……おばあちゃん、早く良くなるといいね」
「はいっ! 」

 ……本当に、早く良くなりますように。
 菜々ちゃんが早く安心出来ますように。

 そう祈った。

「ところで……、ゆかり先輩、今日はどうしたんですか? あたしのこと、探してたみたいですけど」

 あ、そうだった。
 色々あり過ぎて、当初の目的を忘れてた……。

 とはいえ、この流れで言うべき事なのだろうか……。少し悩んだが、暗い雰囲気でいても仕方が無いし、話すことにした。

 今書いている小説で恋愛のシーンがあるのだが、私は恋をした事がない為どう表現したらいいのか分からず行き詰まっている。そこで、他者から恋愛話を聞くことで参考になるのでは無いか……、と今に至ったという事を菜々ちゃんに伝えた。
 
「なるほど……」
「菜々ちゃんは可愛いから凄くモテそうだし、軽く2,3人付き合ったことあったりしてっ」
「…………」

 ……えっ!? 何、否定しないの!?
 驚いたな……。私なんて1回も告白されたことないのに……。

 まあ、でもたまに居るよね……。『10回以上告白されたことあるよ』とか言ってる人。本当かよと思っちゃうけど。

「恋……したことありますけど、あの気持ちは言葉じゃ上手く表せないですね……」

 菜々ちゃんは、頬をポッと赤く染めながら言った。

 ピュアだな……。
 でも確かに、自分のその時の気持ちを相手に伝えるのって凄く難しいかもしれない。

 キュンとしたとか、ドキドキしたとか……それじゃあよく分からないし。

「うーん……」

 どうしたものか……。

 私が唸っていると、突然菜々ちゃんが『あっ!! 』と大きな声を出した。

「……そうだ!! ゆかり先輩、今から遊園地行きませんっ!? 」
「……へ? 」

 遊園地?
 ……何で??

 急すぎるワードに、私は思わず驚かずにはいれなかった。

「1日だけリア充体験してみましょうよっ! あたしは彼氏役、ゆかり先輩は彼女役です!! 遊園地でデートしてみれば、何か小説のヒントになるかもしれませんよっ!! 」
「……は、はああ~っ!? 」

 何で私がそんな事っ!!
 菜々ちゃんをそんな目で見れるはずがないし、意味が分からない……。

 ……でも確かに、リア充の体験をしてみれば恋した時の気持ちについてもしかしたら知ることが出来るかもしれない。そうすれば小説の続きが書けるかもしれない……な訳っ!!

 どうしてこうなったの~!??
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