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第30章 永遠の愛とともに

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「あの時、あなたは私に変身して、グローバル大統領を殺そうとした。しかし、あなたのESP波は強大すぎたのよ。私はそれを感知して、瀕死の重傷を負った彼をテレポートさせたわ。彼は今、誰も知らない安全な場所でコールド・スリープ治療を受けている。そろそろ完治する頃だわ。彼の無事な姿をSHLが確認すれば、GPSに宣戦布告する口実がなくなる」
「……」
「私を殺したければ、殺しなさい! でも、例え私が死んでも、この戦争は絶対に止めてみせるわ!」
 鮮血にまみれた全身を、怒りの炎に包みながらテアが高らかに宣言した。

「くッ……! 貴様、その生意気な口をきいたことを後悔させてやるわ! あれを出しなさい!」
 ソルジャー=スコーピオンが、右隣に立つバイオ・ソルジャーに命じた。命令を受けた男が、スペース・ジャケットの胸ポケットから、円筒状のケースを取り出して赤いサソリに手渡した。<テュポーン>の徽章エンブレムである百頭竜が描かれた銀色のケースである。

「……! それは……」
 テアはそのケースに見覚えがあった。<テュポーン>の虜囚となっていた時に、毎日のように眼にした物だったのである。
(アフロディジカル……?)
 テアのプルシアン・ブルーの瞳に、紛れもない怯えが走った。横目で、アフロディジカルの魔力に犯されたロザンナを見る。全身から鮮血を流しながら、彼女は床に倒れこんでいた。強烈な禁断症状が、彼女の意識を奪ったのである。

「これを射たれても、生意気な口をきいていられるかしら?」
 ケースを開け、赤い液体の入った無針注射器を取り出しながら、ソルジャー=スコーピオンが言った。
 テアの脳裏に、惑星イリスでの凄まじい凌辱が甦る。明確な恐怖が、<銀河系最強の魔女>を襲った。

「や、やめて……」
 テアの右腕を、ソルジャー=スコーピオンが掴んだ。逃げようにも、彼女の強力なESPのため、テアは身動きひとつ出来ない。
「いやああぁ……! やめ……アウッ!」
 悲鳴を上げるテアの右腕に、無針注射器が押しつけられた。赤い液体が気化しながら、彼女の白い肌に吸収されていく。

「あ……くうッ……」
 アフロディジカルは超即効性である。テアはその魔力を即座に実感させられた。
 全身から汗が噴出する。呼吸が、そして鼓動が、目に見えて早くなる。そして、体の芯が熱く火照り始める。強力な催淫効果を誇る<悪魔の薬>が、<銀河系最強の魔女>を襲い始めた。
 テアのプルシアン・ブルーの瞳が、霞がかかったように焦点を失った。

「どう、感想は……?」
 そう言うと、ソルジャー=スコーピオンがテアの首筋を撫でた。
「くうッ……!」
 たったそれだけで、テアの全身を紛れもない官能が走り抜ける。彼女の美しい瞳から、涙が溢れた。
「やめ……て……」
 哀願するように、テアがソルジャー=スコーピオンを見上げた。

「どう、グローバル大統領の居場所を吐く気になった?」
「……」
 テアはソルジャー=スコーピオンから顔を背けると、目を伏せた。
(ダメよ、テア。こんな事で、負けちゃダメ……)
 全身を襲う官能の嵐と闘いながら、テアが唇を噛みしめた。

「そう。でも、そろそろ男が欲しくなってるんじゃない? <銀河系最強の魔女>が<テュポーン>のバイオ・ソルジャーに襲われるのも、滅多にない見せ物だわ……」
 そう告げると、ソルジャー=スコーピオンが横の男たちに眼で合図した。
「……!」
(私をこいつらに凌辱させる気……?)

 下卑た嗤いを浮かべながら、四人のバイオ・ソルジャーたちが、テアに近づいて来る。男たちは何れも、残忍な光を双眸に浮かべ、涎を垂れ流さんばかりである。<銀河系最強の魔女>と呼ばれても、テアは若い女性である。自分の身を襲う恐怖に、全身が震えた。
(ジェイ、助けて……!)
 愛する男の名を、心の中で叫ぶ。

「白状するなら、今のうちよ。最後にもう一度チャンスをあげる。グローバル大統領は何処にいるの?」
「誰が……言うもんですか……!」
 アフロディジカルの魔力で、熱を帯びたように顔を赤らめながら、テアが言った。
「強情な女ね! 少し、可愛がってやんなさい!」
 ソルジャー=スコーピオンの言葉を待っていたかのように、四人の男たちがテアに襲いかかった。銀色のスペース・ジャケットが引き裂かれ、テアの白い肌が露出される。
「いやあああぁ……!」
 淡青色の髪を振り乱して、テアが絶叫した。
 その時……!

『いい加減にしろッ!』
 圧倒的なプレッシャーを有するテレパシーが周囲を席巻した。
「ぎゃッ!」
「ぐわッ!」
「ひいッ!」
「がッ!」
 四人のバイオ・ソルジャーが、断末魔の悲鳴を上げて倒れ込む。あまりの凄まじいESPに、能力が劣る彼らは脳を焼かれて即死したのだった。同時に、五基あったESPジャマー・タイプΣが瞬時に破壊された。

「だ、誰ッ?」
 頭を抑え片膝をつきながらも、ソルジャー=スコーピオンはESPシールドを張って即死を免れていた。
「大丈夫か、テア?」
 彼女の横にテレポート・アウトすると同時に、シュン=カイザードがテアを助け起こした。
「シュン……」
 テアが両手で、胸を隠しながら立ち上がる。バイオ・ソルジャーに襲われ、上半身裸であった。

「男が欲しいんなら、あんな奴らじゃなく、俺が抱いてやろうか?」
 美しいテアのセミヌードを眩しそうに見つめながら、シュンが笑った。
「ばか……。 ジェシカに……殺されるわよ……」
 アフロディジカルの魔力で、汗ばみ桜色になっている肌を出来るだけ隠しながら、テアが恥ずかしそうに告げた。

「もっと拝んでいたいけど、残念だな。これを着ていろ」
 シュンは自分の上着を脱ぐと、テアに渡した。
「ありがとう……、お礼に、あなたが私の裸を見たことは……、ジェシカに内緒にしておくわ……」
 そう告げると、テアは彼が手渡したスペース・ジャケットを身につけた。

「さて、あいつを始末するのか?」
 シュンがソルジャー=スコーピオンを睨みつけながら訊いた。
「そうね。私がやりたいけど……、代わりにお願い……。あの薬のせいで、体が……いうことをきかないの……」
 テアが潤んだ瞳でシュンに言った。呼吸が荒い。全身を襲う官能の嵐が、まだ抜け切っていないのだ。

「誰だ、貴様は……?」
 シュンの強烈なテレパシーを完全にブロックしかねたソルジャー=スコーピオンが、ふらつく足取りで訊ねた。
「<パルテノン>を破壊したESPとでも言えば、お前にも分かるか?」
「……! 貴様が……?」
 ソルジャー=スコーピオンの瞳に、怯えが走った。

 GPS、SHL両軍合わせて二百万人の犠牲とともに、機動要塞<パルテノン>を破壊したESPは、<テュポーン>でもあまりに有名であった。
「お前と闘うつもりはない。お前に免じて、ロザンナは置いていこう」
 そう言うと、ソルジャー=スコーピオンの全身がESP特有の光彩に包まれた。
「テレポートするわ……!」
 テアが叫んだ。
「逃がすかッ!」
 シュンが怒鳴った瞬間、想像を絶するテレパシーが脳裏に響き渡った。

『<テュポーン>のファースト・ファミリーが、敵前逃亡かッ?』
「きゃあッ!」
「うわッ!」
「ひッ……!」
 テアたちは思わず耳を塞いで、地面に崩れ落ちた。凄まじい壮絶さを伴うテレパシーが世界を席巻した。

 テア、シュン、ソルジャー=スコーピオンは、何れもΣナンバーのESPである。その三人を圧倒して余りある、超烈な存在感を有するテレパシーであった。
「ジ、ジュピター様……!」
 恐怖のあまり、全身を震撼させながらソルジャー=スコーピオンが呟いた。
「ジュピター……? こいつが……?」
 シュンも愕然として呟く。全宇宙最強のESPと呼ばれたジェイ=マキシアンをさえ凌駕するESPを有する彼が、戦慄のあまり立ち竦んだ。

「そうよ……、この男が、ジェイの仇敵よッ!」
 <銀河系最強の魔女>が、プルシアン・ブルーの瞳に、凄まじい怒りを浮かべて言った。
『久しぶりだな、テア=スクルト。そして、<パルテノン>を破壊したESP、シュン=カイザード』
(俺を知っているッ?)
 シュンが驚いた。

『お前が、テアの新しいパートナーか?』
 圧倒的なジュピターのテレパシーが訊ねた。
「違うわ! 私のパートナーは、ジェイ=マキシアンただ一人よッ!」
 淡青色の髪を靡かせながら、テアが叫んだ。

(パートナーっていうのは……!)
 シュンはテアの言葉から、SHスペシャル・ハンター にとって『パートナー』がどのような意味を持つのかを理解した。
 テアたちにとって『パートナー』というのは、何ものにも代え難い自分の半身なのだと言うことを……。

『それは、失礼した。ところで、ジェシカ=アンドロメダにもう会ったか?』
「ジェシカ? 彼女がどうしたの?」
 ジュピターの言葉をシュンが慌てて遮る。
「待て、ジュピター! あのことはまだテアに告げていない!」
「あのことって……?」
 真剣な表情で宙を見上げるシュンを、テアのプルシアン・ブルーの瞳が射抜くように見つめた。

『そうか……。では、私が代わりに告げてやろう。テア、よく聞け!』
「待て、ジュピター!」
 シュンの叫びを無視して、ジュピターが告げた。
『ジェイ=マキシアンは生きている!』
「なッ……!」
『彼に会いたければ、私のもとにやって来いッ! お前のパートナーに会わせてやろう!』
「そんな……!」
 衝撃のあまり、テアは言葉を失った。

『詳しくは、アンドロメダ大尉に訊くがいい! ソルジャー=スコーピオン、ロザンナ王女を連れて、ネオ・ジオイドへ戻ってこい!』
「はい、ジュピター様……」
 ソルジャー=スコーピオンの全身が、再びESP波特有の光彩に包まれる。
「そうはさせない! ロザンナ王女を置いて行け!」
 シュンが全身から青い炎を噴出しながら叫んだ。Σナンバー特有の光彩である。

『慌てるな、シュン=カイザード。GPSの科学力では、ロザンナ王女を治すことは出来ない。我々が彼女を完治させてやろう』
 ジュピターがそう告げた瞬間、シュンのESPがブロックされた。
「何ッ……?」
 五基の新型ジャマーを、一瞬で破壊するほどの威力を持つΣナンバー最強クラスの能力が、完全にブロックされたのだ。
「シュン、私のESPも……!」
 驚愕を美しい瞳に映し出して、テアが告げる。

 銀河系最大の麻薬ギルド<テュポーン>の総統ジュピター。
 銀河系を裏から支配する帝王の偉大なESPは、二人のΣナンバーのESPを完全に封じ込めたのであった。
「お前たちのESPで、ジュピター様に敵うと思ったか?」
 ソルジャー=スコーピオンが高らかに笑った。

「何て、ESPなんだ……」
「ジュピター……!」
 呆然と立ち尽くす二人のΣナンバーを横目に、ソルジャー=スコーピオンとロザンナの体がESP波特有の光彩に包み込まれた。
 次の瞬間、テアとシュンの二人を残して、紅い髪の魔女と金髪碧眼の美女の姿が消失した。

『テア、ネオ・ジオイドにやって来い! ジェイ=マキシアンが待っているぞ!』
 ジュピターのテレパシーが虚空に響きわたった。
「待って、ジュピター! ジェイが生きているって、本当なのッ?」
 テアが絶叫した。
「落ち着け、テア!」
 シュンがテアの腕を掴む。

「離して、シュン! ジュピターッ! 何処に行けば、ジェイに会えるのッ? ネオ・ジオイドって、何処なのッ?」
 淡青色の髪を振り乱して、テアが叫んだ。
『また、会おう……』
 ジュピターのテレパシーが、一方的に途切れた。

「ジュピターッ! 待ってッ!」
 テアのプルシアン・ブルーの瞳から、涙が溢れ出た。
「ジェイは本当に、生きてるのッ? ジュピター……ッ!」
 <銀河系最強の魔女>の絶叫が、衛星ガダルカナルの夜に響きわたった。
 ジェイ=マキシアンへの永遠の愛とともに……。
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