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終章

2 まだ見ぬ護衛

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 瑞紀が歌舞伎町のイタリアン・バー<海の女神アンフィトゥリーテ>で起こした銃乱射および傷害事件は、姫川玲奈警視救出の功績と相殺されてもみ消された。その裏には、アラン=ブライトと白銀龍成の尽力や高城雄翔ゆうとの警視庁への圧力、早瀬はるか警部補、姫川玲奈警視本人の証言などがあった。本来であれば、懲役十年以上は確実な重大犯罪だった。瑞紀は<星月夜シュテルネンナハト>統合作戦本部長の高城から呼び出され、長時間にわたる叱責を受けた。

 その一方で高城は、神崎純一郎に瑞紀と同じ高性能義手を用意してくれた。本来であれば暴力団である<櫻華会>の若頭に、<星月夜シュテルネンナハト>が高価な義手など贈ることはないのだが、姫川警視救出作戦に協力して負傷したことと、瑞紀の懇願によって高城が折れたのだった。

 また、拉致凌辱の被害者である姫川玲奈は、<星月夜シュテルネンナハト>の技術開発部によって爆弾が内蔵された首輪を無事に外された。その上、星月夜総合病院で一ヶ月にわたる治療とカウンセリングを受け、玲奈は無事に西新宿署に復職した。これも高城の尽力によるところが大きかった。

 こうして、姫川玲奈救出作戦は無事に終息したのであった。


「それで、瑞紀は俺と玲奈が会うことを恐れているのか?」
「恐れてなんか……あッ、あッひぃいッ……! それ、いやぁああ……!」
 剥き出しにされた真珠粒クリトリスをネットリと舌で舐られ、瑞紀は両手でシーツを握り締めながら淫らに腰を振った。

「あの玲奈のことだ。そのうちに向こうから会いに来るさ。もっとも、俺よりも先にお前に会いに来る可能性も十分にあるぞ……」
 そう告げると、瑞紀の両脚を抱えながら、純一郎はピチャピチャと音を立てて本格的に真珠粒クリトリスを責めだした。

「ひッ……! 玲奈さんが……私にッ……? あッ、だめッ……! また、イッちゃうッ……! あッ、あッ、あぁああッ……!」
 ビクンッビックンッと裸身を痙攣させると、瑞紀は絶頂オーガズムを極めた。今夜五回目の絶頂オーガズムであった。立て続けに歓悦の頂点を極めさせられ、瑞紀はせわしなく熱い吐息を漏らしながら純一郎に哀願した。

「もう、許して……こんなこと……続けられたら……、頭がおかしく……なっちゃう……」
 官能に蕩けきった黒瞳から随喜の涙を流しながら、瑞紀が純一郎に哀願した。今夜はまだ一度も純一郎ので貫かれていなかった。舌と指だけで何度もイカされ続けていたのだ。瑞紀は左手で純一郎のを掴むと、自らの秘唇に充てがおうとした。

「どうした、そんなに欲しいのか……?」
「欲しい……。お願い、もう……挿れて……」
 純一郎のを左手で扱きながら、瑞紀が淫らに腰を振った。何度も中途半端にイカされ続けて、瑞紀の情欲は極限まで昂ぶっていた。この硬く猛々しい男根で、気が狂うほど貫いて欲しかった。

「そんなに欲しければ、自分で挿れてみろ……」
 そう告げると、純一郎は瑞紀の体を抱き上げて、自分は仰向けにベッドに横たわった。天を向いてそそり勃つ長大な男根を左手で握り締めると、瑞紀はゆっくりと扱きだした。そして、純一郎の腰に跨がり、ビッショリと濡れた秘唇にその先端を充てがった。ヌプッと音を立てて腰を沈めると、待ち望んでいた愉悦が凄まじい官能の奔流となって全身に広がった。

「あぁッ! 気持ちいいッ! 深いッ! 奥に当たるッ! だめッ、イクッ! イクぅううッ……!」
 肉襞を抉りながら最奥まで貫かれた瞬間、瑞紀は大きく仰け反りながらビクンッビックンッと激しく痙攣をした。快美の火柱が腰骨を灼き溶かし、背筋を駆け抜けて脳天で弾けた。快絶の雷撃が直撃し、脳髄さえも甘く灼き尽くした。

「何だ? 挿れただけでイッたのか? 気持ちよくなりたければ、もっと腰を動かせ……」
 ニヤリと笑いながら告げた純一郎の言葉に、瑞紀は長い髪を振り乱しながら首を振った。
「待って……。まだ、イッてる……から……」
「続けてイクのが気持ちいいんだろう? 手伝ってやるよ……」
 そう告げると、純一郎は瑞紀の太股を下から持ち上げ、粒だった天井部分Gスポットを三回擦り上げた。そして、両手を離すと同時にグイッと腰を突き入れて最奥まで貫いた。

「あッ、あッ……だめッ、それッ……! やめ……あッ、ひぃいいいッ!」
 それは、女を狂わせる三浅一深の調律リズムに他ならなかった。それも、自らの体重がかかっている分、いつもよりも深かった。瑞紀は真っ赤に顔を染めると、長い黒髪を振り乱しながら悶え啼いた。
「だめッ、だめぇえッ! それ、いやぁッ……! また、イッちゃうッ……! 許してぇッ! イクぅううッ!」

 大きく仰け反りながら痙攣する瑞紀を無視して、純一郎は三浅一深の悪魔の律動を続けた。
「だめぇえッ! やめてぇッ! おかしくなっちゃうッ! いやぁああ……!」
 ビクンッビックンッと裸身を痙攣させると、瑞紀は再び絶頂オーガズムを極めた。だが、純一郎はそのまま悪魔の調律リズムで瑞紀を責め続けた。

「おねがいッ……! 許してぇッ! イクの、止まらないッ……! 狂っちゃうッ!」
 悶え啼く唇から垂れた白濁の涎が長い糸を引いて垂れ落ち、純一郎の律動に合わせて淫らに揺れた。眉間に深い縦皺を刻みながら、瑞紀が滂沱の涙を流して哀願した。
「もう……だめぇえッ! また、イクッ! 許してッ! イグぅううッ!」
 背骨が折れるほど大きく仰け反ると、瑞紀はかつてないほど凄まじい痙攣を始めた。プシャアッという音とともに、秘唇から大量の愛液が噴出した。その壮絶な締め付けの中、純一郎は三浅一深の動きを止めて、怒濤の如く瑞紀を突き上げだした。

「だめぇえッ! 狂うッ! 凄いの来るッ! 許してぇッ! イグぅうううッ……!」
 絶頂オーガズムの先にある極致感オルガスムスを凄絶に極めて、瑞紀はガクガクと総身を硬直させた。焦点を失って見開いた黒瞳から、随喜の涙が滂沱となって流れ落ちた。ガチガチと奥歯を鳴らして戦慄わななく唇からは、トロリと白濁の涎が垂れ落ちた。秘唇からは失禁したかのように大量の愛液を噴出させ、純一郎の腹筋をビッショリと濡らした。
 快絶の硬直を極め尽くすと、瑞紀は全身を脱力させてグッタリと純一郎の胸に倒れ込んだ。

 真っ赤に上気した裸身をビックンビックンッと痙攣させながら、瑞紀はガクリと首を折って失神した。純一郎が男根を引き抜くと、秘唇から大量の愛液とともにドロリとした精液が垂れ落ちた。
 美しい貌を紅潮させて、涙と涎を垂れ流しながら瑞紀は激しく痙攣を続けていた。その凄絶な末路は紛れもなく、官能の奔流に翻弄され尽くされた女の色香に塗れていた。


「信じられない……。こんなになるまで、しないでよ……」
 純一郎の左腕に縋り付きながら、瑞紀は生まれたばかりの子鹿のようにプルプルと脚を震わせて歩いていた。
「ハッ、ハッ、ハハッ……。でも、気持ちよかっただろう?」
 まったく反省の色を見せずに、純一郎が笑いながら告げた。その様子に、瑞紀はジロリと純一郎を睨むと怒ったような口調で囁いた。
「覚えてなさいよ、この絶倫魔神ッ……!」

 昨夜は瑞紀のマンションで愛し合い、<ゆずりは探偵事務所>に向かっている途中だった。本当であれば瑞紀一人で行く予定だったのだが、昨夜の壮絶なセックスによって足腰が立たずに上手く歩けなかったのだ。仕方なく、純一郎を杖代わりに事務所に向かうことにしたのだった。

 新宿駅西口のオフィスビルに入ってエレベーターを七階で下りると、正面に<ゆずりは探偵事務所>と看板が掛けられた木製のドアがあった。
「そう言えば、瑞紀の事務所に顔を出すのは初めてだな……」
「そうね。うちの事務所はヤクザの出入りは禁止だからね」
 笑いながらそう告げると、瑞紀は純一郎の左腕から腕を解いた。さすがに部下たちの前で純一郎に縋り付いている姿は見せられなかった。

「今日は特別ってことか?」
「違うわよ。純が特別ってことよ」
 ウィンクをしながらそう言うと、瑞紀は事務所の扉を開けて中に入った。
 瑞紀が姿を現した瞬間、中にいた三人が一斉に顔を上げて眼を見開いた。

「瑞紀さん、お帰りなさいッ! イタリアはどうでしたッ?」
「お帰んなさい、所長。神崎も一緒か……?」
「お帰りなさい、瑞紀さん。神崎さんもお久しぶりです」
 七瀬美咲、錦織雄作、水島俊誠が、次々と瑞紀と純一郎に挨拶をしてきた。

「ただいま、みんな……。これ、お土産よ。ファヴィニーナ島のマグロ缶。美味しいらしいわよ」
 純一郎からズシリと重い紙袋を受け取ると、瑞紀は俊誠に手渡した。
「ありがとうござ……うわッ、重ッ……! よくこんな重いの持って帰ってきましたね」
「持たされたのはほとんど俺だけどな……」
 俊誠の言葉に、純一郎がニヤリと笑みを浮かべながら告げた。
「うるさいわね。看病してあげたんだから、そのくらい当然でしょッ!」

(もしかして、二人……何かあったのか? まさかな……)
 瑞紀と純一郎のやり取りを見て、錦織がチラリと疑問を抱いた。瑞紀は錦織の視線に気づくと、慌てたように純一郎に告げた。
「神崎さん、応接室に案内するわ。美咲、悪いけどお茶を二つお願いね」
「はい、分かりました」
 元気よく答えると、美咲がキッチンに向かって行った。

錦織オリさんも一緒に来てくれ。ちょっと、話がある……」
 純一郎が応接室に向かおうとして、錦織に声を掛けた。
「話……? 姫、悪いがお茶三つに変更だ」
「はーいッ!」
 美咲にそう告げると、錦織は純一郎に続いて応接室に入っていった。

「瑞紀、こっちに座れ……」
 応接室の上座に腰を下ろすと、正面に座ろうとしていた瑞紀に純一郎が告げた。一瞬、錦織の顔を見つめてから、瑞紀は言われたとおり純一郎の横に腰を下ろした。
「なるほど、そういうことか……」
 今のやり取りで二人の関係を確信した錦織が、ニヤリと笑いを浮かべながら告げた。瑞紀は思わずカアッと顔を赤らめて純一郎の横顔を見つめた。

「話というのは、そういうことだ。他の二人はともかく、オリさんには知っておいてもらった方がいいと思ってな……。こう言っちゃなんだが、この事務所で頼りになるのはあんただけだ」
「純……、それはちょっと言い過ぎよ。美咲もトシ君も、ああ見えても頼りになる子たちよ」
 瑞紀の言葉に、錦織が驚いた。仮にも<櫻華会>の若頭である純一郎を掴まえて、瑞紀は「純」と呼んだのだ。

「純ね……。いつからだ、神崎……? ハネムーンに行ったわけじゃねえだろう?」
 苦笑いを浮かべながら、錦織が訊ねた。その言葉に、瑞紀は再び顔を赤らめた。玲奈を救出したことと純一郎の看病を除けば、やっていたことはハネムーンとほとんど変わらなかった。

「野暮なことを聞くもんじゃねえぜ、オリさん。そんなの、シチリアに行った時からに決まってるだろう?」
「ち、ちょっと、純ッ……! 何言ってるのよッ!」
 耳まで真っ赤に染めながら、瑞紀が純一郎に文句を言った。その時、応接室のドアがノックされ、美咲がお茶を持って入ってきた。

「お待たせしました、どうぞ……」
「悪いな、美咲さん……」
 目の前に紅茶の入ったティーカップを置かれ、純一郎が美咲に礼を言った。美咲は笑顔を浮かべると、瑞紀、錦織の順にカップを置いて応接室から出て行った。
(何か、変な座り方してたわね……?)
 瑞紀が神崎の隣に座っていたことに、美咲は事務所に戻って首を傾げいた。

「ところで、あんたのことだからもう耳にしていると思うが、姫川玲奈を拉致した主犯はレオナルド=ベーカーという男だ。奴はシチリアン・マフィアのNo.2で、相談役コンシリエーレの地位にある。今回、玲奈は救出できたが、肝心のベーカーには逃げられた」
「そうらしいな……。白銀さんや所長を相手にして逃げ切るとは、大したタマだ」
 純一郎の話を聞いて、錦織が頷きながら告げた。

「玲奈の情報によると、ベーカーは新宿を皮切りに東京の繁華街を裏から仕切ろうって腹らしい。そのために邪魔になりそうな連中をピックアップしているそうだ。玲奈が攫われたのは、その標的ターゲットの一人だったからだ」
「そうだったのか……」
 その話は錦織も初耳だった。いや、錦織だけでなく、瑞紀さえも初めて耳にした。

「純、それは本当なの?」
「ああ……。タオルミーナの病院に入院している時、玲奈から電話をもらった。お前に話さなかったのは、シチリアが奴らのシマだからだ。日本に戻ってから話すつもりだったが、どうせならオリさんにも知っておいてもらった方がいいと思ってな……」
 純一郎が突然、<ゆずりは探偵事務所>を見たいと言った理由はこのことだったのだと瑞紀は理解した。

「そして、その標的ターゲットってのが、玲奈の他に四人いる。白銀龍成、アラン=ブライト、ゆずりは瑞紀、そしてこの俺だ……」
「……! 純も標的ターゲットに入っているのッ?」
 瑞紀が身を乗り出しながら、純一郎に訊ねた。

「バカ、お前も入っているんだぞ。俺がオリさんに会いに来たのは、お前から眼を離さないでくれって言いに来たんだ」
「私はベレッタさえあれば、何とかできるわ。M93RMK2の他に、M93RCCも手に入れたことだしね……。でも、純はまだ怪我が全快していない。純の護衛は、私がやるわッ!」
 瑞紀の宣言を聞いて、純一郎が苦笑いを浮かべた。

「話は最後まで聞け、瑞紀……。ベーカーの目的は新宿の裏社会を牛耳るために邪魔になる連中の排除だ。奴の標的ターゲットは五人と言ったが、当面は俺と玲奈は除いていいと思う。このとおり、俺はまだ傷が完治していないし、玲奈は今回の拉致でベーカーに対する恐怖を体の芯まで植え付けられた。そうなると残りは、白銀とアラン=ブライト、瑞紀の三人だ。この三人の中で、最も拉致しやすいのは誰だと思う?」

「それが所長ってことか……」
 純一郎の言わんとしていることを理解して、錦織が頷いた。純粋な戦闘力を見ても、龍成とアランに比べて瑞紀は一段劣っている。まして、龍成とアランは<星月夜シュテルネンナハト>という組織がバックにあるため、マフィアと言えども簡単に手出しができるはずはなかった。

「分かってくれたようだな……。そこで、俺の依頼は瑞紀のガードだ。本来であれば<星月夜シュテルネンナハト>に依頼をするのがいいんだが、ヤクザの俺は正式に依頼することができない。オリさんの判断で瑞紀のガードが難しいと思ったら、あんたから<星月夜シュテルネンナハト>に依頼を掛けてくれ。もちろん、費用は俺が持つし、オリさんへの依頼料や必要経費も言い値で払う」
 純一郎が真っ直ぐに錦織の眼を見ながら告げた。

「分かったと言いたいところだが、正直なところ相手がシチリアン・マフィアじゃ自信がねえ。俺から白銀さんに依頼をするってことでいいか?」
「ああ……。こっちから頼みたいくらいだ。よろしく頼むよ、オリさん」
 純一郎が錦織に頭を下げた。錦織は初めて純一郎が他人に頭を下げたのを見て、驚くとともに彼の本気を信じた。

「分かった。俺への依頼料はいらねえ。その代わり、<星月夜シュテルネンナハト>からの請求はそのまま廻すぜ」
「そうしてくれ。それから、タダ働きをさせるってのは俺の性に合わねえ。依頼料代わりに、ちょっとしたプレゼントをやるよ……。瑞紀、麗華の弟を呼んでくれないか?」
「トシ君を……? いいけど、何で……?」
 純一郎の意図が分からずに、瑞紀が訊ねた。

「あの坊や宛に、白銀から宅急便が届いているはずだ。宛名は『ゆずりは探偵事務所 水島俊誠気付、ゆずりは瑞紀』で頼んでおいた」
「分かったわ。確認してくる……」
 そう告げると、瑞紀は席を立って応接室を出て行った。そして、一分も経たずにダンボールを抱えながら戻ってきた。

「ずいぶんと重いわね。何を頼んだの?」
「開けて見ろ、瑞紀……」
 純一郎に言われるがままに、瑞紀はダンボールを開封した。中からは、シルヴェリオから購入した四挺の銃とマガジンがクッション材に包まれた状態で出て来た。瑞紀は純一郎の顔を見つめると、クッション材を外しながらそれらを応接卓の上に並べた。
 ベレッタM93RCCとワルサーPPQが各一挺とM4コマンドーZ3が二挺、そして、それぞれのマガジンが五本ずつあった。

「このうち、俺が使っていたM4コマンドーZ3とマガジン五本をオリさんに渡す。オリさんが使い慣れているワルサーPPKよりは重いが、日本じゃ滅多に手に入らない代物だ。報酬代わりにもらってくれ」
「おい、神崎……。これって、最新式の短機関銃サブマシンガンじゃねえか! こんな物、どうやって手に入れやがった?」
 驚愕のあまり大きく目を見開きながら、錦織が純一郎に訊ねた。

「ハネムーンの最中に妻がサバゲーをしたがってるって言って、知り合いのブローカーから買ったんだ」
「おかげで、私は実弾でサバゲーをやりたがるイカれた妻にされたけどね……」
 笑いながら告げた純一郎の言葉に、瑞紀はジロリと彼の顔を睨みながら文句を言った。
「確かに、所長なら実弾でサバゲーをしても不思議じゃないな……」
「ちょっと、オリさんまで何言ってるんですかッ!」
 純一郎と錦織は顔を見合わせながら笑った。

「とにかく、こいつはありがたく頂戴しておく。シチリアン・マフィアが相手だと、二十二口径ワルサーPPKじゃ不安だからな……」
「そうしてくれ。それじゃあ、俺は事務所に戻る。何かあったら連絡を頼むよ、オリさん」
 そう告げると、純一郎は自分のワルサーPPQとマガジン五本を手に取り、左脇に吊ったショルダーホルスターに挿した。
「分かった。お前も気をつけろ……」

「純……。途中まで送っていくわ」
「大丈夫だ。さっきも言ったとおり、狙われているのはお前だ。絶対に一人歩きはするな」
「でも……」
 三ヶ月以上も毎日ずっと一緒にいたため、瑞紀は純一郎と離れることが信じられなかった。

「後で迎えに行く。今夜は俺のところに泊まれ」
「分かった……。待っているわ」
 純一郎に口づけをしよう一歩近づいて、瑞紀は錦織がいることに気づいた。カアッと顔を赤らめると、瑞紀は慌てて純一郎に手を振った。
「ガキじゃあるまいし、人目を気にしてどうする?」
 そう告げると、純一郎は瑞紀に口づけをしてきた。驚きのあまり立ち尽くしている瑞紀に手を振ると、純一郎は応接室から出て行き、あっという間に<ゆずりは探偵事務所>を後にした。

「まさか、所長と神崎がそうなるとは、思ってもみませんでしたぜ……」
「オリさん……。みんなには内緒でお願いします……」
 口づけをされたところを見られた瑞紀は、真っ赤に顔を染めながら錦織に頼み込んだ。
「分かってますよ。それにしても、神崎の奴、ずいぶんと大げさな銃を置いていったな……」
 M4コマンドーZ3を手に取りながら、錦織が呟いた。

「オリさん、お願いだから私のガードなんて考えないでください。純が怪我をして入院したことは伝えたと思うけど、本当は生死の境を彷徨ったんです」
「え……?」
 タオルミーナの病院から瑞紀の連絡を受けたのは、美咲だった。錦織は美咲から、純一郎は足を複雑骨折したのでしばらく歩けないと聞いていた。

「純は5.56mmNATO弾を三十二発も受けたんです。左腕は千切れ飛び、二十四本ある肋骨はすべて骨折しました。最新の防弾ベストのおかげで即死は免れましたが、三日間も意識不明の重体だったんです。今の左腕は義手なんです」
「本当ですか……!」
 予想をはるかに上回る瑞紀の言葉に、錦織は驚愕した。
「私が三ヶ月も日本に戻れなかったのは、そのためです。シチリアン・マフィアは、それほど危険な相手なんです。そんな短機関銃サブマシンガンなんて、単なる気休めでしかありません。だから、絶対に無茶をしないでください」

「分かりました。すぐに所長のガードを<星月夜シュテルネンナハト>に依頼してきますッ!」
 自分がどれほど危険なことを依頼されたのか、錦織は即座に理解した。応接室を飛び出すと、事務机の上にある受話器を取って、<星月夜シュテルネンナハト>に連絡をし始めた。

(<星月夜シュテルネンナハト>のガードが私に付いたら、できるだけ純の側にいよう……。そうすれば、ガードは否応なしに純を護ることになるはず……)
 龍成やアランと言ったトップ・エージェントが、瑞紀のガードに付くことはあり得なかった。VIPでもない瑞紀のガードを担当するのは、特別捜査官エージェントの中でも新人に近い者のはずだった。それでも、何かあったときには素人よりもずっとまともに対応できるはずだ。

(龍成やアランには悪いけど、しばらくの間はガードを利用させてもらうわ)
 最愛の純一郎を護るために、瑞紀は<星月夜シュテルネンナハト>の護衛を受け入れる決意をした。
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