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第2章 櫻華の嵐

2 ニュー・ウェポン

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 目を覚ますと、神崎の姿はなかった。ベッドの横にあるナイトテーブルに、三万円が置いてあった。ホテル代にしては多かった。
(あたしを三万円で買ったつもりなの……?)
 随分と安く見られたものだと思った。今時、女子高生の援助交際エンコーでも五万円くらいが相場だ。

(やばいッ……! 急がないと……)
 枕元にあるデジタル・クロックを見ると、六時二十分だった。事務職である麗華の始業時間は九時だったが、昨日と同じ服で出社する訳にはいかなかった。一度、アパートに戻ってシャワーを浴びてから着替える必要があった。慌ててベッドから降り立った瞬間、カクンと腰が抜けて麗華は床に座り込んだ。全身に甘い痺れが走り、足腰に力が入らなかった。

(こんなになるまで、しないでよ……)
 昨夜の凄まじい快感セックスを思い出すと、麗華はカアッと顔を赤らめた。失神したのは初めての経験だったのだ。
 ベッドに腰掛けながら衣服を身につけると、麗華はゆっくりと立ち上がった。無理をしなければ、何とか歩けそうだった。

 部屋に設置されている自動精算機オート・チェッカーでチェック・アウトの手続きをすると、料金は二万三千円だった。神崎が置いていった三万円を入れて、釣りを受け取った。どうやら本当にホテル代のつもりだったらしい。酔っていたこともあり昨夜は気づかなかったが、ラブホテルにしては部屋も広く調度品も豪華だった。

(どうやら、あたしを買ったわけじゃなさそうね……)
 何故かホッとすると、麗華は洗面所で髪型を整えて口紅だけを引き直した。自宅でシャワーを浴びるのだから、メイクはその後にすればいいと思った。バッグを手に取り、忘れ物がないかと部屋を見廻したとき、三万円が置いてあったナイトテーブルに名刺があることに気づいた。

「櫻華会 若頭 神崎純一郎」と書かれた右上には、二重菱形の中に桜の花が描かれた金紋が型押しされていた。名刺を裏返すと、手書きで携帯番号が書かれていた。
(一晩限りのつもりじゃなかったんだ。でも、ヤクザに深入りしたらまずいわよね……)
 一瞬そのまま置いて帰ろうかと思ったが、麗華はその名刺を名刺入れにしまい込んだ。そして、部屋から出て行くと自宅へと急いだ。


 シャワーと着替えを済ませて<星月夜シュテルネンナハト>に到着したのは、始業直前の八時五十分だった。
 十階にある情報部情報課の自席に着くと同時に、左腕のリスト・タブレットがわずかに震えた。メールの着信を知らせるバイブレーションだった。3.5インチのヴァーチャル・スクリーンに視線を移すと、昨夜ドタキャンされた藤木涼介の名前が表示されていた。

『昨夜はすまない。今夜どうだろうか?』
 しばらくそのメールを見つめていたが、麗華は思いきって返信した。
『すみません。しばらく会えません。一人になって色々と考えてみます』
 すると、すぐに返事が来た。その文面から涼介の驚く顔が見えるようだった。
『昨夜のことが原因か? 会って話がしたい』

(慌ててるわ……。まあ、突然こんなこと言われたら驚くだろうけど……)
 神崎とのセックスがよかったためか、涼介に対する気持ちが冷めていた。いや、冷めたと言うよりも、冷静になったという感じだった。一日中、涼介のことを考えていた昨日までの自分が、不思議に思えた。麗華は再びメールの返信を打った。

『ごめんなさい。しばらく一人にしてください』
 たっぷりと三分以上の時間が経過してから、涼介から返事が来た。
『分かった。落ち着いたら連絡して欲しい』
(あたしとの関係は、たった三分で切れるものだったんだ……)
 もしかしたら、涼介が飛んで来てくれるかも知れないと期待していたのだが、甘かったようだった。藤木は二つ下のフロアにいるのだ。
 麗華の中で、涼介に対する気持ちが今度こそ冷めていった。


 昼休みになると、麗華はプライバシー・ブースに急いだ。電話や大事な打ち合わせに使われるブースで、遮音性が高いため外に会話が漏れないのだ。四人も入れば閉塞感を感じるくらいのスペースだが、一人で利用するには十分な広さだった。
 リスト・タブレットで親友の瑞紀を呼び出すと、すぐに出てくれた。

『どうしたの、麗華……。こんな時間に?』
「ごめんね、瑞紀。ちょっと聞きたいことがあって……。今、大丈夫?」
『いいけど、何……?』
 瑞紀との連絡は定時以降にすることが多いため、戸惑っている様子が伝わってきた。

「昨日、偶然に神崎さんと会ったんだけど、口説かれてるって本当なの?」
『口説かれてるっていうか、冗談で俺の女房になれって言ってるだけよ』
「そうかな? 結構、本気そうだったわよ。でも、あの人ってヤクザでしょ? ちょっと心配だから、電話しちゃった……」
 根が素直な瑞紀は、麗華の言葉を信じたようだった。

『ありがとう。でも、大丈夫よ。私は神崎さんと付き合うつもりはないから……。まあ、悪い人じゃないけどね』
「そうなんだ、ヤクザなのに?」
『変な言い方だけど、真面目なヤクザよ。頭も切れるし、行動力もあるわね。一見ぶっきら棒だけど、優しい人よ。ヤクザじゃなければ、麗華に紹介したいくらいの優良物件よ』
 電話の向こうで瑞紀が笑った。人を見る眼が確かな彼女がそう言うのであれば、やはり「いいヤクザ」なんだと麗華は思った。

「ヤクザじゃなければ、考えるわ。まあ、危ない人じゃなさそうで安心した。ヤクザに言い寄られてるって知ったら、さすがに心配になってね……」
『ありがとう、麗華。さっきも言ったけど、大丈夫よ。あ、そろそろ行かないと……。また今度、飲みに行こうね』
「うん。忙しいところごめんね。じゃあ、またね……」
 通話を切ると、麗華はフッと小さくため息をついた。そして、自分の席に戻ると、<櫻華会>と神崎純一郎について調べるために、情報部のサーバーにアクセスし始めた。


 <星月夜シュテルネンナハト>の地下にある射撃訓練場ファイアリング・レンジに入ると、ゆずりは瑞紀はエルメスのバーキンからベレッタM93RMKマーク2を取り出した。たった今、統合作戦本部長の高城雄斗ゆうとから渡されたばかりの新品だった。
 愛用しているM93Rの次世代バージョンだった。

「軽い……」
 右手に持って構えると、M93Rよりもかなり軽量化されているのが分かった。高城の説明によると銃身の多くに特殊チタン合金が使用されており、重量もM93Rの1,170gから880gとかなりの軽量化がなされているそうだ。全長230mmとM93Rよりも10mm短くなっていて、取り回しや携帯性も向上していた。

三色トリコロールカラーっていうのもお洒落よね……」
 新型のM93RMK2は銃身バレルがシルバー・メタリックに塗装されており、その他が艶消しの漆黒マット・ブラックだった。そして、グリップは木目調のダーク・ブラウンという三色が使われていた。
 グリップの中央には、<星月夜シュテルネンナハト>のエンブレムが描かれていた。夜空を表す濃紺色ミッドナイト・ブルーの二重円の中に『Sternen Nacht』の金文字が刻まれ、その中心には信頼、平和、愛情を示す白銀の三連星ホワイト・スリー・スターが輝いていた。

 外見や重さだけでなく、性能も大幅にアップされていた。
 発射速度は毎分1,200発とM93Rの1,100発よりも格段に向上し、銃口初速も372m/minから415m/minと強化されていた。発射モードは従来のセミオート、3点射スリー・ポイント・バーストに加えて、フルオート射撃も可能になった。その上標準マガジンの装弾数は20+1発から38+1発となり、3点射スリー・ポイント・バーストが十三回も可能になった。それもマガジン内の弾丸配置を工夫することによって、マガジンの全長はほとんど変わっていないのだ。

 瑞紀は射撃エリアに入ると射撃用ゴーグルと防音イヤーマフを装着し、発射モードの切替レバーを3点射スリー・ポイント・バーストに合わせた。そして、革グローブをはめた右手でM93RMK2の銃口を五十メートル先にある標的ターゲットに向けた。
(さて、実際に撃った感じはどうかしらね……)
 
 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!

 3点射スリー・ポイント・バースト特有の銃声が鳴り響き、三発の弾丸が標的中心円ブルズ・アイに集弾した。
「うそッ……。反動が……!?」
 黒曜石の瞳を大きく見開いた瑞紀の口から、驚愕に満ちた言葉が漏れた。

 ベレッタM93Rに限らず、どんな銃でも弾丸を発射するとその衝撃で銃口が跳ね上がる。3点射スリー・ポイント・バーストはトリガーを一度引くだけで、三発の銃弾が発射されるM93R特有の機構だ。当然ながら、初弾より二弾、二弾より三弾と銃口が上を向き着弾位置も上方にズレていく。
 だが、このM93RMK2は、その反動リコイルが非常に小さく改良されていた。弾丸の発射速度を向上させたことにより、銃砲身バレルを短くしても反動を抑制しているようだった。射座の横に置かれている自動採点装置のモニターを確認すると、三発の弾丸の着弾位置は五センチ以内に収まっていた。従来のM93Rでは初弾と三弾は十センチくらい離れていたのだ。

「凄いわ……これ……」
 右手に持ったM93RMK2を見る瑞紀の顔に、満面の笑みが広がった。軽量化やフルオート射撃が可能になったことよりも、この反動制御力の向上リコイル・コントロールが最大の強化だと瑞紀は思った。再び銃口をターゲットに向けると、瑞紀は連続して3点射スリー・ポイント・バーストを放った。

 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!

 マガジンが空になるまで十三回の3点射スリー・ポイント・バーストを撃ち終わると、瑞紀はモニターに視線を移した。
 モニターに映し出された点数は、3900/3900であった。標的中心円ブルズ・アイに命中すると百点で、外縁に近づくほど点数が低くなっていくのだ。
 標的中心円ブルズ・アイ命中率100.000パーセントの数字に、瑞紀は満足げに頷いた。

「次はフルオートね……」
 マガジン・リリース・ボタンを押して空になったマガジンを抜くと、瑞紀は新しいマガジンを装着した。そして、発射モードの切替レバーを「FULL」に設定してから銃口を標的ターゲットに向けた。

 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ……!

 引き金を引き続けると、弾丸が発射され続けてあっという間にマガジンが空になった。標準マガジンの三十八発をすべて撃ち終わると、瑞紀は結果をモニターで確認した。
 スコアは3760/3800だった。標的中心円ブルズ・アイ命中率89.473パーセントだ。反動制御力が向上しているとは言え、フルオートだと銃口が徐々に上を向いてしまうのは仕様上やむを得なかった。だが、38+1発という装弾数は、一般的なサブマシンガンと比較しても引けを取らない。多数の敵を相手取る場合には、フルオート射撃が可能なことは有効な選択肢の一つだった。

「やはり、3点射スリー・ポイント・バーストの方が安定するわね……」
 空になったマガジンを抜いて新しいマガジンを装着すると、瑞紀は再び発射モードの切替レバーを「3shot」に切り替えた。そして、スライドを引いて薬室チェンバーに弾丸を一発送り込むとマガジンを抜き取り、弾丸を補充してから再度装着した。こうすることにより、薬室チェンバー内の一発を合わせて三十九発が装弾されるのだ。

 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!

 十三回の3点射スリー・ポイント・バーストを終えて全弾を撃ち尽くすと、瑞紀は結果をモニターで確認した。3900/3900と言う数字と標的中心円ブルズ・アイ命中率100.000パーセントの文字が表示されていた。
「やっぱり、これだわ……」
 満足げに頷くと、瑞紀はマガジンを入れ替えて射撃訓練を続けた。

 八本のマガジンを撃ち終えると、瑞紀は射撃用ゴーグルと防音イヤーマフを外して右手にはめた革グローブで額の汗を拭った。モニターの数字を確認すると、30990/31100で標的中心円ブルズ・アイ命中率99.646パーセントだった。従来のM93Rではベストレコードが98.574パーセントなので、1パーセント以上も向上していた。

「銃口の反動が抑えられると、こんなに違うんだ……」
 バーキンからフェイスタオルを取り出して汗を拭いながら、瑞紀は満足そうな微笑みを浮かべた。命中率99.646パーセントという数字は、文句なしに自己ベストレコードを更新していたのだ。床に散らばった薬莢を拾い集めると、瑞紀は軽い足どりで八階の特別捜査部に向かっていった。


「こんにちは、お久しぶりです……」
 特別捜査部のドアを開けると、瑞紀が笑顔を浮かべながら告げた。
「おお、ミズキッ……! 久しぶりッ!」
 入口近くにいたアランが両手を広げると、瑞紀の体を抱き締めてきた。外国人特有の挨拶ハグだった。アランは元イギリス情報局に籍を置いていた生粋のイギリス人だ。

 紳士の国イギリスではアメリカと違って、男性が女性の体にタッチすることは少ない。握手も男性から先に手を出すことはNGとされているほどだ。ハグは家族か恋人など親しい男女間でしか行わないのが基本だ。瑞紀はアランがハグをしてきたことに驚いた。
(まあ、古巣とは言え特別捜査部ここは家族みたいなものだものね……)

「アラン、美咲の婚約パーティにお花ありがとう。美咲、喜んでたわよ」
 ハグを終えると、瑞紀が笑顔でアランに告げた。真っ白なカサブランカというアランらしい選択の花束だった。
「それはよかった。行けなくて残念だったけど……」
 そう告げると、アランは瑞紀の背中に右手を添えながら部長席へとエスコートした。

「お久しぶりです、藤木部長」
 瑞紀は以前の癖で敬礼しそうになり、慌てて頭を下げた。すでに<星月夜シュテルネンナハト>を退職しているので、敬礼するのはおかしいと気づいたのだ。
「元気そうだな、ゆずりは……。今日はどうした?」
 デスクから顔を上げると、藤木は瑞紀の顔を見つめてきた。その顔つきが思いの外に厳しいことに、瑞紀は驚いた。
(どうしたんだろう? 何か機嫌悪そう……?)

「注文していたベレッタ93Rの新型が届いたので、受け取りに来ました。今、地下の射撃訓練場ファイアリング・レンジで、試し撃ちテスト・シュートをしてきたところです。想像以上に性能がいいんで驚きました」
「そうか、それはよかったな。まあ、ゆっくりしていけ……」
 そう告げると、藤木は書類に目を落として執務を再開し始めた。瑞紀は左横に立つアランに、何かあったのかと眼で問い合わせた。だが、アランは軽く肩をすくめただけだった。

「部長、どうしたの……?」
 藤木にもう一度頭を下げてから部長席を離れると、瑞紀がアランに小声で訊ねた。
「さあ……。朝は普通だったんだが、九時過ぎ頃にメールのやり取りをしてからあんな感じなんだ。何か重大な連絡を受けたみたいだ……」
「そうなんだ……」
 それが麗華からの別れを告げるメールだとは思いもせずに、瑞紀はチラッと藤木を振り返った。先ほどと変わらず、眉間に皺を寄せながら藤木は黙々と業務をこなしていた。

「ただいまぁッ! あら、瑞紀ちゃん・・・・・、いらっしゃいッ!」
 入口の扉が開かれ、元気のいい声と一緒に西園寺さいおんじ凛桜りおが入ってきた。彼女が右隣に立つ男に腕を絡ませているのを見て、瑞紀はカッと頭に血が上った。
 その男は、白銀龍成りゅうせい……、瑞紀の最愛の男だった。

「瑞紀、来てたのか?」
「うん……。龍成、何か楽しそうね……」
 龍成の左腕に押しつけられている凛桜の豊かな胸を見据えながら、瑞紀が冷めた声で告げた。凛桜の胸は瑞紀よりも二カップは大きそうだった。
「そうか……? そんなこと……」
 龍成の言葉を遮るように、凛桜が困ったような表情で告げた。

「瑞紀ちゃん、聞いてよ。龍成ったら、一晩中離してくれないのよ。おかげで、くたくたよ……」
「えッ……? 一晩中って……?」
 赤裸々な凛桜の言葉に、瑞紀は驚いて龍成の顔を見つめた。
「ばか、凛桜ッ! 誤解されるようなこと大声で言うなッ! あれはお前が張り込み中に寝ぼけて、抱きついてきただけだろうッ!」
「だって、龍成が寝かせてくれないんだもん……」
 甘えた声でそう告げると、凛桜は故意に豊かな胸を龍成の腕に押し当てた。

「龍成……、ちょっと、向こうに行かない? 話があるんだけど……」
「わ、分かった……」
 瑞紀から放たれる殺気を感じると、龍成が冷や汗を流しながら頷いた。アランはその様子を、ゴクリと唾を飲み込みながら見ていた。特別捜査部にいるすべてのエージェントが息を潜め、シーンとした静寂が周囲を包み込んだ。

「あら、だめよ。龍成は、これからあたしと二人で・・・、調査報告を纏めるんだから……。瑞紀ちゃん、ごめんね。あたしの・・・・龍成は、こう見えても忙しいのよ。じゃあ、ゆっくりしていってね……」
「おい、凛桜……。み、瑞紀、悪い。またな……」
 凛桜は龍成の左腕に大きな胸を押しつけながら手を振ると、捜査本部から出て行った。当然のことながら、龍成も凛桜に引きずられるようにして彼女の後に付いていった。

「ミ、ミズキ……お、落ち着こうな……」
 アランが、ピクピクと頬を震わせている瑞紀を見つめながら告げた。
「大丈夫、落ち着いているわよ……」
 ニッコリとアランに微笑むと、瑞紀はバーキンに右手を入れてM93RMK2を取り出した。
「アラン、これが今日受け取った新型のベレッタよ……。さっき、地下で試し撃ちテスト・シュートしてきたんだけど、ちょっと撃ち足りないみたい。もう少し撃ってくるわ……」
 カチッという音を響かせて安全装置を解除すると、瑞紀はM93RMK2を右手に持って特別捜査部を出て行こうとした。

「ミ、ミズキッ! 待てッ! 落ち着けッ!」
 アランが驚愕して瑞紀の右手に飛びついた。だが、瑞紀の右腕は<星月夜シュテルネンナハト>技術開発部が技術の粋を集めて開発した高性能義手だ。筋力は成人男性平均の六倍以上あり、握力は三百キロもある。平然とアランの体を宙に浮かせながら瑞紀が告げた。

「あの巨乳ホルスタインを一回り小さくしてやるんだからッ! 邪魔しないで、アランッ!」
「落ち着け、ミズキッ! お前ら、ミズキを止めろッ!」
 アランの叫びを受けて、特別捜査官エージェントたちが瑞紀を取り押さえようと殺到した。激しい押し合いの中、天井を向いたM93RMK2の銃口から3点射スリー・ポイント・バースト特有の銃声が響き渡った。

 ダンッ、ダンッ、ダンッ……!

 十分後、藤木から大目玉を食らった瑞紀は、しばらくの間、特別捜査部を出入り禁止できんにされた。天井に空けられた三つの穴は『嫉妬の銃痕ジェラシー・マーク』と呼ばれ、特別捜査部の特別捜査官エージェントたちに語り継がれることになった。
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