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第2章 櫻華の嵐
1 運命の邂逅
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水島麗華はウェーブのかかったミディアムロングの亜麻色の髪を左手でかき上げると、伝票を持って席を立った。カツッカツッと鳴り響くヒールの音が、今の自分の気持ちを代弁しているようで腹立たしかった。レジカウンターに左手のリスト・タブレットをかざして会計を済ませると、麗華は自動ドアを抜けて夜の繁華街へと足を踏み出した。
本来であれば、今頃は男に抱かれている時間だった。それが約束の時間を四十分も過ぎてから、男はメールを送ってきた。
『悪い。ランクAで今日は行けない。また、連絡する』
男の業務が多忙を極めていることは、嫌というほど知っていた。デートの約束を突然キャンセルされたことも初めてではなかった。部署は違うとは言え、同じ職場に勤めているのだ。緊急度Aという意味も十分に理解している。
(だからって、四十分も待たせることはないじゃない。せめて、約束の時間までには連絡くれてもいいでしょ……)
だが、麗華は自分が苛立っている理由はそれだけではないことも知っていた。男との関係に先がないからだ。世の中のカップルのように、男とは結婚や出産というイベントがないのだ。
男には、愛する妻と四歳になる娘がいた。
男の名は、藤木涼介。アジア最大の総合警備コンツェルンと言われる<星月夜>の特別捜査部長だ。年齢は四十一歳で、麗華よりも十六歳も年上だった。
藤木は親友である楪瑞紀の元上司で、彼との関係も瑞紀以外に知る者はいなかった。藤木と付き合いだした頃に酒に酔った勢いで、麗華が瑞紀に相談をしたからだ。
「藤木部長と麗華がそんな関係だったなんて、全然気づかなかった。でも、部長ってたしか結婚してたんじゃなかった?」
麗華の告白に、瑞紀は黒曜石のような瞳を大きく見開きながら驚きの表情を浮かべた。
「うん。今年、三歳になる娘さんもいる……」
「信じられないッ! 奥さんと子供がいるのに、同じ会社の女子社員に手を出すなんてッ!」
正義感の強い瑞紀は、自分のことのように怒りを露わにした。
「誘ったのは、あたしからなんだ……。二ヶ月くらい前に、特別捜査部と情報部の合同慰労会があったでしょ? その帰りにたまたま同じ方面で、二人でもう一軒飲みに行ったの。それで、そういう雰囲気になって……」
「だからと言って、十六歳も年下の女に手を出す? 奥さんとは別れるつもりなんて、ないんでしょッ!」
「うん……。お互いに大人だし、あたしも今、男いないしね。涼介さんもあたしに彼氏ができたら別れるって言ってるから……」
カウンターの上に置かれたホワイトレディのグラスを手に取ると、麗華は淡い琥珀色の液体を一口飲んだ。ジンとホワイトキュラソーのキリッとした辛みの中にも、ほのかな甘みを感じる味だった。まるで藤木のようだと麗華は思った。
「そんなの、都合のいいセフレと変わらないじゃないッ! 絶対に別れた方がいいわよッ!」
瑞紀らしい真っ直ぐな意見だった。麗華は羨ましく感じるとともに、少し意地悪をしてやりたくなった。
「でも、涼介さんってセックスが上手いのよ……」
「セッ……」
思った通り、瑞紀は真っ赤に顔を赤らめた。瑞紀が十八歳の時にマフィアに拉致凌辱されたことは麗華も知っていた。それが原因か分からないが、それ以降は男と付き合ったことがないのではと、麗華は考えていた。二十五歳とは思えないほど、瑞紀は純真なのだ。
「大丈夫、心配しないで……。彼氏ができたら、キッパリと別れるから……。話し聞いてくれてありがとね、瑞紀……」
そう言って、麗華は笑みを浮かべた。だが、自分がそんなに器用な性格をしていないことは、自分自身が一番良く知っていた。
それ以降、瑞紀と二人で飲みに行っても、藤木の話題にはお互い触れなかった。
(そうだッ! あのお店に行ってみよう……)
このまま一人で誰もいない部屋に帰るのは寂しかった。だからと言って、女一人で入れるお店はこの歌舞伎町に多くない。麗華は先日、錦織雄作と七瀬美咲の婚約パーティを行った『再会』というスナックを思い出した。十五人も入れば一杯になる狭い店だが、ママの人柄も良く、雰囲気も落ち着いていてスナックと言うよりもバーと言った方が似合いの店だった。
麗華は歌舞伎町を抜けると、新宿区役所に近い雑居ビルを目指した。
「こんばんは……。一人ですけど、いいですか……?」
年季の入った木製の扉を開けて店の中に入ると、麗華は店内を見渡した。カウンターに一人の男が座っているだけで、他に客はいなかった。
「いらっしゃいませ。先日はありがとうございました」
ママは麗華の顔を覚えていてくれたようだった。初めての店ではないとは言え、一人で入るのに緊張していた麗華はホッと胸を撫で下ろした。
「いえ……、こちらこそ……」
「カウンターでよろしいですか?」
今日のママは和服ではなかった。シックなレースの入った黒いワンピースがよく似合っていた。
「はい。構いません……」
麗華がそう言うと、ママは男から一つ席を空けて麗華を案内した。出されたおしぼりで手を拭きながら、麗華は男の顔をちらりと見た。
(あッ! あの時のヤクザ……。やばいッ……)
先日は大人数だったので気にならなかったが、さすがにヤクザと二人きりでいることに麗華は危機感を覚えた。
「何になさいますか?」
「えっと……。あんまり時間がないので、何かカクテルはありますか?」
一杯だけ飲んで、すぐに帰ろうと麗華は考えた。
「これでも昔、バーテンダーをしていたので、一通りはできますよ。お好きな物をおっしゃってください」
ママが笑顔で告げてきた。バーテンダーからスナックのママに転身というのも珍しいと思いながら、麗華は以前に瑞紀と飲んだカクテルを注文した。
「ホワイトレディってできますか?」
「はい。少々お待ちください」
そう告げると、ママはシェーカーにロックアイスを入れ、ジンとホワイトキュラソー、レモンジュースを入れて手慣れた感じでシェイクしだした。元バーテンダーだと告げたとおり、見事なシェーキングだった。
「はい、どうぞ……」
目の前に淡い琥珀色の液体が入ったショートカクテルが置かれた。一口飲んでみると、キリッとよく冷えた辛みの中に、柔らかな甘みが口に広がった。
「美味しい……」
「ありがとうございます」
思わず口をついた感想に、ママが嬉しそうに微笑んだ。
「今日はあの男と一緒じゃないのか?」
左側に座るヤクザが突然話しかけてきた。驚いて振り向いたが、ヤクザは手に持ったグラスを見つめていて、こちらを見てはいなかった。
「あの男……?」
「藤木とか言ったな……? <星月夜>特別捜査部長の……」
涼介の名前と肩書きを正確に覚えていることに、麗華は驚いた。
「藤木さんがどうかしたんですか?」
「誤魔化さなくてもいい。こういう商売をやっていると、人の感情ってのに敏感になるんだ。あの藤木ってのは、あんたの男だろう?」
そう告げると、ヤクザは初めて麗華の顔を見つめてきた。その観察力に驚きながら、麗華は男の名前を思い出した。
「神崎……さん、でしたよね?」
「ああ……。あんたは、あの水島二佐の娘だったな。たしか、麗華……」
「はい……」
神崎が自分の名前まで覚えていることに、麗華は驚きと緊張を感じた。若い女性がヤクザに名前を覚えられて緊張するなと言う方が無理だった。
「そんなに身構えなくてもいい。別にあんたをどうこうするつもりはないからな」
「そう言えば、あの時、西園寺さんを無理矢理連れ出しましたよね。あの後、彼女をどうしたんですか?」
パーティの最中に神崎が西園寺凛桜を強引に連れ帰ったことを思い出した。もしかしたら、無理矢理ホテルにでも連れ込んだのかと麗華は思った。
「ああ……。あの危ない女か……。俺の舎弟を呼び出して、タクシーで家まで送らせただけだ」
「危ない女……?」
神崎が告げた意味が、麗華には分からなかった。あの日、気づいた時には神崎が西園寺を連れ出そうとしていたのだ。そこに至るまでの経緯は見ていなかった。
「あの凛桜とかいう女、あのまま残したら白銀の生命はなかったぞ」
クスクスと笑いながら、神崎が告げた。その表情が思いの外に子供っぽくて、麗華は思わず笑みを浮かべた。
「あの凛桜ってヤツ、瑞紀と白銀の間に割って入ろうとしやがった。恐い物知らずにもほどがある。怒った瑞紀がベレッタM93Rを握っていたのに気づかなかったか?」
「え……? 瑞紀が……?」
まさかと思ったが、たしかに瑞紀は怒らせると非常に恐い女だった。あの時の状況は知らなかったが、瑞紀ならあり得ると麗華は思った。
「まあ、俺としては瑞紀に白銀を撃たせても良かったんだが……。白銀がいなくなれば、瑞紀を落としやすくなるしな……」
「あなた、瑞紀を狙ってるんですか?」
笑いながら告げた神崎の言葉に、麗華が驚いて訊ねた。
「あいつほど度胸のある女は滅多にいない。俺の女房になれって言ってるんだが、白銀に捨てられたら考えるの一点張りだ」
「それって、単に振られてるってことですよ」
プッと吹き出しながら、麗華が告げた。その言葉が意外だったようで、神崎が驚いた顔で麗華を見つめてきた。
「そうなのか……?」
「そうです。白銀さんが瑞紀を捨てるはずないですし、瑞紀が白銀さんから離れるなんてあり得ません」
(この人、これでよく人の感情に敏感だなんて言うわね……)
「やっぱり、そうか……。瑞紀のヤツ、思わせぶりな態度取りやがって……」
(ヤクザの若頭とか言ってたけど、意外と純情な人なのかも……)
神崎の態度を見て、麗華は思わず笑みを浮かべた。神崎に対する恐怖が急速に薄れていった。
「やっと分かりました。あの時、俊誠を瑞紀に近づけたのは、生け贄だったってことですね?」
「俊誠……? ああ、あの坊主か……。そう言えば、あんたの弟だったな」
麗華の言葉に、神崎がニヤリと笑いながら同意した。
「まあ、俊誠は瑞紀に憧れているから、生け贄にされたなんて思ってないでしょうけど……」
「そうなのか? あいつが瑞紀に……?」
驚いた表情で、神崎が麗華の顔を見つめた。
「人の気持ちに敏感なんじゃないんですか?」
神崎の言葉に、麗華が笑いながら告げた。
「俺はガキの気持ちまで分からねえ……」
ムッとしながら、神崎はグラスに残ったレミーマルタン・ナポレオンを飲み干した。
(この人、意外と可愛いかも……)
麗華は神崎に対するイメージが随分と変わっていくのを感じた。
指定暴力団<櫻華会>の若頭という本物のヤクザなのだが、先日の麻薬撲滅宣言といい、今日の印象といい、悪い男には思えなかった。いいヤクザというのが本当にいるのかどうかは分からないが、少なくても元刑事の錦織が婚約披露パーティに呼ぶ程度には信じられる男だと思った。
「それで、不倫を続けているのか……?」
気がつけば、麗華は藤木とのことを神崎に話していた。親友の瑞紀は自分のことのように藤木を責めたが、神崎がどういう態度を取るのか知りたくなったのだ。
「ええ……。神崎さんもやっぱり、不倫って嫌いですか?」
「まあ、いいとは言えないが、一概に否定するつもりはないな。俺も男だから、若い女と寝たい気持ちは分からんでもないし……」
そう言うと、神崎は琥珀色の液体が入ったグラスを一口呷った。
「やっぱり、体だけの関係なんですかね、不倫って……」
「世の中には色々な男と女がいる……。女の気持ちは今ひとつ分からねえが、男の気持ちは分かる。一人の女を愛し続けるヤツもいれば、複数の女を愛せるヤツもいる。中には女は性欲の捌け口と割り切っているヤツさえいる……」
「神崎さんはどのタイプなんですか……?」
ふと興味が湧いて、麗華が訊ねた。
「一人の女をずっと愛するタイプだ……と言いたいところだが、目の前にいい女がいたら抱いちまうどうしょうもないクズだ」
ニヤリと笑いを浮かべながら、神崎が告げた。その言葉が自分を口説いているような気がして、麗華は神崎の眼を見つめた。どちらが移動したのか覚えていないが、二人はいつの間にか隣同士に座っていた。
「女にも抱かれたい夜ってあるんですよ……」
自分の中で情欲の炎が灯り始めたことに、麗華は気づいた。それを、少し飲み過ぎたせいかもしれないと考えたが、麗華の女は男を求めていた。
「奇遇だな。男にも女を抱きたい夜があるんだ。河岸を変えるぞ……」
「はい……」
ストールから降り立つと、足がふらついた。思わず神崎にしがみつくと、彼の力強い腕が麗華の腰にまわされた。麗華は神崎に体を預けながら、『再会』を後にした。
歌舞伎町二丁目にあるラブホテル街の中でも、一際大きな六階建てのホテルを神崎は選んだ。その最上階に部屋を取ると、神崎は優しく口づけをしながら麗華の服を脱がしていった。そして、大きなベッドに麗華を横たえると、神崎はレースの入った黒いブラジャーのホックを慣れた手つきで外した。
「綺麗な胸だな……」
「恥ずかしい……あんまり見ないで……」
プルンと揺れながら外気に晒された乳房の中心で、麗華の媚芯はすでにツンッと突き勃っていた。カアッと顔を赤らめると、麗華は両手で胸を掻き抱いた。神崎は麗華の手首を握ると、ベッドに押しつけながら口づけをしてきた。
「んッ……んはッ……ん、んぁ……はぁッ……」
ネットリと舌を絡め取られると、甘い喜悦が麗華の全身に走り抜けた。
(気持ちいい……この人、キス……うまい……)
自らも積極的に舌を動かすと、神崎の左手が麗華の右の乳房に添えられた。そして、弾力を楽しむようにシナシナと揉み上げてきた。
「あたしばっかり、恥ずかしいわ……。神崎さんも脱いで……」
「ああ……。できれば、あんまり見せたくなかったんだが……」
そう告げると、神崎は黒いシャツを脱いで鍛え上げられた筋肉質の体を麗華の眼に晒した。その二の腕に彫られた刺青に、麗華の眼は釘付けになった。
「恐いか……?」
神崎の言葉に、麗華はフルフルと顔を振った。恐いと言うよりも、綺麗だと感じたのが正直な感想だった。
「後ろも見せて……」
神崎が背中を麗華に見せた。神秘的な表情を浮かべている美しい女性の姿が彫られていた。高く編み上げられた紫色の髪と、額にある白い黒子が神々しさを強調していた。その背後には、紫を基調にした二重円が描かれており、後光のように光り輝いていた。
「綺麗……」
「聖観音だ。観音菩薩は三十三の姿に変わるそうだが、その大元の姿がこの聖観音だそうだ。それと、額にあるのは黒子じゃないぞ。白毫と言って、渦を巻いた白い毛だからな……」
「そうなの……?」
驚く麗華の口を塞ぐように、神崎が再び口づけをしてきた。そして、唇をずらすと、麗華の左耳に舌を挿し込み、熱い息を吹きかけてきた。
「あッ……いやッ……アッ、アッ、アンッ……だめッ……」
脳髄を蕩かせるようなゾクゾクとした愉悦に、麗華は白い喉を仰け反らせながら喘いだ。神崎は耳たぶを甘噛みしながら、麗華の首筋から鎖骨に掛けてネットリと舌を這わせた。その間、左手で右の乳房を揉みしだきながら、硬く尖った乳首を指で摘まみ上げてコリコリと扱いた。
そして、右手は黒い下着の上から羞恥の肉扉をなぞりあげると、その上にある肉の尖りを爪で引っ掻き始めた。
「ひッ! いやッ、そこッ……だめッ!」
ビクンッと背中を仰け反らせながら、麗華は両手でシーツを握り締めた。その様子を見て、神崎がニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「胸も大きくて形もいいし、尖った乳首も綺麗なピンク色だ。その上、すごく敏感だな。俺好みのいやらしい体だ、麗華……」
「いやらしいなんて……あッ、だめッ、やぁあッ!」
麗華の抗議の言葉を封じるかのように、神崎が肉の尖りをコリコリと擦り上げた。女の弱点を集中的に責められ、麗華は亜麻色の髪を振り乱しながら首を振った。腰のあたりが熱くなり、全身に鳥肌が沸き立った。
「随分とここが好きみたいだな。それなら、直接触ってやるよ……」
そう告げると神崎は、麗華の黒い下着をずり下ろし、白い脚から抜き取った。そして、柔らかな叢の感触を楽しむと、慣れた手つきでクルンと薄皮を剥きあげた。
「ひぃッ!」
ビクンッと麗華の腰が震えたのを確認すると、神崎は花唇から溢れた愛蜜を掬い取り、剥き出した真珠粒に塗り込んだ。
「アッ、アッ、ダメッ……! アッ、イヤッ、アヒィッ……!」
女の最大の急所に加えられる淫撃に、麗華は裸身を仰け反らせながら激しく首を振った。ミディアムロングの髪を舞い乱しながら、麗華はビクンッビクンッと総身を痙攣させた。
(この人……女の体に……慣れてる……)
麗華も男性経験が多いとは言えなかったが、二十五歳としてはそれなりの人数としたことはある。だが、これほど短時間でこんなに燃え上がらされたことは初めてだった。
「ま、まって……そこ、ばっかりッ……いやぁッ!」
崩壊が近づいていることが自分でも分かり、麗華は慌てて神崎の右手を両手で掴んだ。
「悪かった。こっちも欲しいよな……」
ニヤリと笑いながらそう告げると、神崎は左手で麗華の右乳房を揉みしだきながらツンッ尖った媚芯を指で扱き上げた。同時に右の乳首を口に咥えると、甘噛みしながら舌先で舐りだした。
「やぁあッ! だめぇッ! アッ、アッ……待ってッ! だめッ、アッ、アッ、アァアッ!」
グンッと白い喉を仰け反らせると、麗華は切羽詰まった声で啼きだした。腰骨を灼き溶かすような愉悦が背筋を舐め上げ、四肢の先端までもが甘く痺れた。歓喜の縦皺を刻んだ眉間の下で、赤く染まった目尻から涙が溢れた。炎の喘ぎを奏でる唇は、涎で濡れ光った。
「やだッ……だめッ……イッちゃうッ! アッ、アッ、イクッ……イクぅううッ!」
快美の火柱が全身を貫いた瞬間、麗華はビクンッビックンッと裸身を激しく痙攣させて絶頂を極めた。プシャッという音とともに、羞恥の源泉から愛蜜が噴き出してシーツに淫らな染みを描いた。ガクガクと硬直しながら官能の愉悦を噛みしめると、麗華はグッタリと全身から力を抜いてシーツの波間に沈んだ。
(凄い……気持ちよかった……やっぱり、この人……上手い……)
ハァ、ハァッとせわしなく吐息を漏らし、全身をビクンビクンッと痙攣させながら、麗華は官能に蕩けた眼差しで神崎を見つめた。だが、神崎は、麗華の予想をもしない行為に出た。痙攣を続けている麗華の両脚を持ち上げて、自分の両肩に担いだのだ。女の最も秘しておきたい場所が、神崎の目の前に晒された。
「ひッ……! やだ、こんな格好ッ! やめてッ……あッ、だめぇえッ!」
神崎が右手の人差し指と中指を麗華の花唇に挿し込んできた。そして、肉襞の最も敏感な粒だった箇所を、鉤状に曲げた指先で擦りだした。同時に、真っ赤に充血した真珠粒を唇で咥えると、歯で甘噛みしながら舌先でコロコロと転がすように舐りだした。その上、左手で右の乳房を揉みしだきながら、ガチガチに尖りきった乳首を指先で摘まみ上げ、コリコリと扱き上げた。
「あッ、いやッ……! だめッ、やめッ……アッ、アッ、イヤァアアッ……!」
絶頂したばかりの女の体は、神経が剥き出しになったようなものだ。それを乳房、乳首、真珠粒、Gスポットと女の四大弱点を同時に責められたら堪ったものではなかった。麗華は耳まで真っ赤に染め上げて、激しく顔を振りながら悶え啼いた。
亜麻色の髪がバサバサと舞い乱れ、女の色香を撒き散らした。眉間に深い縦皺を刻みながら、閉じた目尻から随喜の涙を流した。恥ずかしい喘ぎ声が止まらなくなった唇から、涎が長い糸を引いて垂れ落ちた。
「だめぇえッ! また、イッちゃうッ! 許してぇッ! イクッ……イクぅううッ!」
両手でシーツを硬く握り締めると、麗華は裸身を大きく仰け反らせて絶頂への階段を駆け上った。ビッシリと鳥肌を沸き立てた裸身をビックンッビックンッと痙攣させると、プシャアーッという音とともに蜜液が虚空に弧を描いて噴出した。神崎は顔にかかった蜜を手で拭うと、ペロリと舌で舐め取った。
「はひッ……はぁ、はぁあッ……はッ、はぁッ……」
細い肩を大きく震わせ、麗華はフイゴのように熱く吐息を乱した。神崎が猛りきった男を麗華の濡れそぼった花唇に充てがった。その意味を知って、麗華がフルフルと首を振りながら哀願した。
「ま……って……。おねが……い……、やすま……せて……」
今、そんな物を入れられたら、自分がどうなるのか麗華にも分からなかった。だが、立て続けに極めた愉悦の奔流が、麗華の体から抵抗の力を奪っていた。
「ひぃあぁああぁッ……!」
神崎の男が肉襞を抉りながら一気に最奥まで貫いた瞬間、麗華は絶頂を極めさせられた。目の前に白い閃光が瞬き、全身の細胞が歓喜の愉悦に灼き溶けた。
だが、神崎はビクンッビックンッと激しく痙攣している麗華を、一切の手加減なく責め始めた。ゆっくりと入口まで男を引き抜くと、粒だった天井部分を三度擦り上げた。そして、グッと腰を入れると肉襞を擦り上げながら一気に最奥まで貫いた。
女を狂わせる三浅一深の動きだった。絶頂を極めている最中の女体が、その動きに耐えられるはずなどなかった。
「だめぇえッ! あひぃいッ! 今、イッてるッ! 許してぇえッ! お願いッ! また、イッちゃうッ! イクッ! イクッうぅう!」
絶頂のさらに先にある快絶の極みに、麗華はあっという間に押し上げられた。腰骨が灼き溶け、背筋が震撼し、脳天に歓悦の雷撃が何度も落ちた。全身の痙攣は止まらず、花唇からは蜜液の飛沫がプシャップシャッと飛び散った。
だが、神崎は三浅一深の動きを止めなかった。その悪魔の動きに、麗華は本気で泣き出した。
「おねがいッ……! ゆるしてぇ……! イクの……止まらないッ! おかしくなっちゃうッ!」
「いやぁあッ! また、イッちゃうッ! 許してッ! イクぅううッ!」
「だめぇえッ! もう、許してぇッ! 狂っちゃうッ! イクッ……! また、イクぅうッ!」
ベッドの上をのたうち廻る麗華の狂態を見下ろすと、神崎はニヤリと笑みを浮かべた。そして、次の瞬間には三浅一深から一転して激しく腰を動かし、怒濤の如く男を抜き挿しして麗華を責め始めた。パンッパンッという肉音とグチュグチュッという樹液の音が重なり、麗華の切羽詰まった声が響き渡った。
「ひぃいいいッ! 凄いッ! 気持ちいいッ! こんなの、初めてぇッ! また、イクッ! 死んじゃうッ! イグぅううッ!」
それは、麗華が初めて経験する極致感だった。真っ赤に染まった裸身を限界まで大きく仰け反らせると、麗華はかつてないほど激しく総身を痙攣させた。凄まじい閃光が視界を真っ白に埋め尽くし、凄絶な快感が脳髄さえ灼き尽くした。シャアァアーッという激しい水音を立てて、麗華の肉扉から黄金の糸が虚空に弧を描いて迸った。
(こんなの知ったら……あたし、もう戻れない……)
その思考を最後に、麗華の意識は途絶えた。
その裸身はビクンッビックンッと途切れることがない痙攣を続けていた。亜麻色の乱れ髪を咥えた口元からは、ネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。閉じた瞼の縁からは随喜の涙が一筋流れ落ちた。ブルブルと震えている内股の間には、粘り気のある蜜液とともに神崎が放った白濁がドロリと垂れ落ちた。
それは紛れもなく、壮絶な官能に翻弄された悲しい女の末路に他ならなかった。
本来であれば、今頃は男に抱かれている時間だった。それが約束の時間を四十分も過ぎてから、男はメールを送ってきた。
『悪い。ランクAで今日は行けない。また、連絡する』
男の業務が多忙を極めていることは、嫌というほど知っていた。デートの約束を突然キャンセルされたことも初めてではなかった。部署は違うとは言え、同じ職場に勤めているのだ。緊急度Aという意味も十分に理解している。
(だからって、四十分も待たせることはないじゃない。せめて、約束の時間までには連絡くれてもいいでしょ……)
だが、麗華は自分が苛立っている理由はそれだけではないことも知っていた。男との関係に先がないからだ。世の中のカップルのように、男とは結婚や出産というイベントがないのだ。
男には、愛する妻と四歳になる娘がいた。
男の名は、藤木涼介。アジア最大の総合警備コンツェルンと言われる<星月夜>の特別捜査部長だ。年齢は四十一歳で、麗華よりも十六歳も年上だった。
藤木は親友である楪瑞紀の元上司で、彼との関係も瑞紀以外に知る者はいなかった。藤木と付き合いだした頃に酒に酔った勢いで、麗華が瑞紀に相談をしたからだ。
「藤木部長と麗華がそんな関係だったなんて、全然気づかなかった。でも、部長ってたしか結婚してたんじゃなかった?」
麗華の告白に、瑞紀は黒曜石のような瞳を大きく見開きながら驚きの表情を浮かべた。
「うん。今年、三歳になる娘さんもいる……」
「信じられないッ! 奥さんと子供がいるのに、同じ会社の女子社員に手を出すなんてッ!」
正義感の強い瑞紀は、自分のことのように怒りを露わにした。
「誘ったのは、あたしからなんだ……。二ヶ月くらい前に、特別捜査部と情報部の合同慰労会があったでしょ? その帰りにたまたま同じ方面で、二人でもう一軒飲みに行ったの。それで、そういう雰囲気になって……」
「だからと言って、十六歳も年下の女に手を出す? 奥さんとは別れるつもりなんて、ないんでしょッ!」
「うん……。お互いに大人だし、あたしも今、男いないしね。涼介さんもあたしに彼氏ができたら別れるって言ってるから……」
カウンターの上に置かれたホワイトレディのグラスを手に取ると、麗華は淡い琥珀色の液体を一口飲んだ。ジンとホワイトキュラソーのキリッとした辛みの中にも、ほのかな甘みを感じる味だった。まるで藤木のようだと麗華は思った。
「そんなの、都合のいいセフレと変わらないじゃないッ! 絶対に別れた方がいいわよッ!」
瑞紀らしい真っ直ぐな意見だった。麗華は羨ましく感じるとともに、少し意地悪をしてやりたくなった。
「でも、涼介さんってセックスが上手いのよ……」
「セッ……」
思った通り、瑞紀は真っ赤に顔を赤らめた。瑞紀が十八歳の時にマフィアに拉致凌辱されたことは麗華も知っていた。それが原因か分からないが、それ以降は男と付き合ったことがないのではと、麗華は考えていた。二十五歳とは思えないほど、瑞紀は純真なのだ。
「大丈夫、心配しないで……。彼氏ができたら、キッパリと別れるから……。話し聞いてくれてありがとね、瑞紀……」
そう言って、麗華は笑みを浮かべた。だが、自分がそんなに器用な性格をしていないことは、自分自身が一番良く知っていた。
それ以降、瑞紀と二人で飲みに行っても、藤木の話題にはお互い触れなかった。
(そうだッ! あのお店に行ってみよう……)
このまま一人で誰もいない部屋に帰るのは寂しかった。だからと言って、女一人で入れるお店はこの歌舞伎町に多くない。麗華は先日、錦織雄作と七瀬美咲の婚約パーティを行った『再会』というスナックを思い出した。十五人も入れば一杯になる狭い店だが、ママの人柄も良く、雰囲気も落ち着いていてスナックと言うよりもバーと言った方が似合いの店だった。
麗華は歌舞伎町を抜けると、新宿区役所に近い雑居ビルを目指した。
「こんばんは……。一人ですけど、いいですか……?」
年季の入った木製の扉を開けて店の中に入ると、麗華は店内を見渡した。カウンターに一人の男が座っているだけで、他に客はいなかった。
「いらっしゃいませ。先日はありがとうございました」
ママは麗華の顔を覚えていてくれたようだった。初めての店ではないとは言え、一人で入るのに緊張していた麗華はホッと胸を撫で下ろした。
「いえ……、こちらこそ……」
「カウンターでよろしいですか?」
今日のママは和服ではなかった。シックなレースの入った黒いワンピースがよく似合っていた。
「はい。構いません……」
麗華がそう言うと、ママは男から一つ席を空けて麗華を案内した。出されたおしぼりで手を拭きながら、麗華は男の顔をちらりと見た。
(あッ! あの時のヤクザ……。やばいッ……)
先日は大人数だったので気にならなかったが、さすがにヤクザと二人きりでいることに麗華は危機感を覚えた。
「何になさいますか?」
「えっと……。あんまり時間がないので、何かカクテルはありますか?」
一杯だけ飲んで、すぐに帰ろうと麗華は考えた。
「これでも昔、バーテンダーをしていたので、一通りはできますよ。お好きな物をおっしゃってください」
ママが笑顔で告げてきた。バーテンダーからスナックのママに転身というのも珍しいと思いながら、麗華は以前に瑞紀と飲んだカクテルを注文した。
「ホワイトレディってできますか?」
「はい。少々お待ちください」
そう告げると、ママはシェーカーにロックアイスを入れ、ジンとホワイトキュラソー、レモンジュースを入れて手慣れた感じでシェイクしだした。元バーテンダーだと告げたとおり、見事なシェーキングだった。
「はい、どうぞ……」
目の前に淡い琥珀色の液体が入ったショートカクテルが置かれた。一口飲んでみると、キリッとよく冷えた辛みの中に、柔らかな甘みが口に広がった。
「美味しい……」
「ありがとうございます」
思わず口をついた感想に、ママが嬉しそうに微笑んだ。
「今日はあの男と一緒じゃないのか?」
左側に座るヤクザが突然話しかけてきた。驚いて振り向いたが、ヤクザは手に持ったグラスを見つめていて、こちらを見てはいなかった。
「あの男……?」
「藤木とか言ったな……? <星月夜>特別捜査部長の……」
涼介の名前と肩書きを正確に覚えていることに、麗華は驚いた。
「藤木さんがどうかしたんですか?」
「誤魔化さなくてもいい。こういう商売をやっていると、人の感情ってのに敏感になるんだ。あの藤木ってのは、あんたの男だろう?」
そう告げると、ヤクザは初めて麗華の顔を見つめてきた。その観察力に驚きながら、麗華は男の名前を思い出した。
「神崎……さん、でしたよね?」
「ああ……。あんたは、あの水島二佐の娘だったな。たしか、麗華……」
「はい……」
神崎が自分の名前まで覚えていることに、麗華は驚きと緊張を感じた。若い女性がヤクザに名前を覚えられて緊張するなと言う方が無理だった。
「そんなに身構えなくてもいい。別にあんたをどうこうするつもりはないからな」
「そう言えば、あの時、西園寺さんを無理矢理連れ出しましたよね。あの後、彼女をどうしたんですか?」
パーティの最中に神崎が西園寺凛桜を強引に連れ帰ったことを思い出した。もしかしたら、無理矢理ホテルにでも連れ込んだのかと麗華は思った。
「ああ……。あの危ない女か……。俺の舎弟を呼び出して、タクシーで家まで送らせただけだ」
「危ない女……?」
神崎が告げた意味が、麗華には分からなかった。あの日、気づいた時には神崎が西園寺を連れ出そうとしていたのだ。そこに至るまでの経緯は見ていなかった。
「あの凛桜とかいう女、あのまま残したら白銀の生命はなかったぞ」
クスクスと笑いながら、神崎が告げた。その表情が思いの外に子供っぽくて、麗華は思わず笑みを浮かべた。
「あの凛桜ってヤツ、瑞紀と白銀の間に割って入ろうとしやがった。恐い物知らずにもほどがある。怒った瑞紀がベレッタM93Rを握っていたのに気づかなかったか?」
「え……? 瑞紀が……?」
まさかと思ったが、たしかに瑞紀は怒らせると非常に恐い女だった。あの時の状況は知らなかったが、瑞紀ならあり得ると麗華は思った。
「まあ、俺としては瑞紀に白銀を撃たせても良かったんだが……。白銀がいなくなれば、瑞紀を落としやすくなるしな……」
「あなた、瑞紀を狙ってるんですか?」
笑いながら告げた神崎の言葉に、麗華が驚いて訊ねた。
「あいつほど度胸のある女は滅多にいない。俺の女房になれって言ってるんだが、白銀に捨てられたら考えるの一点張りだ」
「それって、単に振られてるってことですよ」
プッと吹き出しながら、麗華が告げた。その言葉が意外だったようで、神崎が驚いた顔で麗華を見つめてきた。
「そうなのか……?」
「そうです。白銀さんが瑞紀を捨てるはずないですし、瑞紀が白銀さんから離れるなんてあり得ません」
(この人、これでよく人の感情に敏感だなんて言うわね……)
「やっぱり、そうか……。瑞紀のヤツ、思わせぶりな態度取りやがって……」
(ヤクザの若頭とか言ってたけど、意外と純情な人なのかも……)
神崎の態度を見て、麗華は思わず笑みを浮かべた。神崎に対する恐怖が急速に薄れていった。
「やっと分かりました。あの時、俊誠を瑞紀に近づけたのは、生け贄だったってことですね?」
「俊誠……? ああ、あの坊主か……。そう言えば、あんたの弟だったな」
麗華の言葉に、神崎がニヤリと笑いながら同意した。
「まあ、俊誠は瑞紀に憧れているから、生け贄にされたなんて思ってないでしょうけど……」
「そうなのか? あいつが瑞紀に……?」
驚いた表情で、神崎が麗華の顔を見つめた。
「人の気持ちに敏感なんじゃないんですか?」
神崎の言葉に、麗華が笑いながら告げた。
「俺はガキの気持ちまで分からねえ……」
ムッとしながら、神崎はグラスに残ったレミーマルタン・ナポレオンを飲み干した。
(この人、意外と可愛いかも……)
麗華は神崎に対するイメージが随分と変わっていくのを感じた。
指定暴力団<櫻華会>の若頭という本物のヤクザなのだが、先日の麻薬撲滅宣言といい、今日の印象といい、悪い男には思えなかった。いいヤクザというのが本当にいるのかどうかは分からないが、少なくても元刑事の錦織が婚約披露パーティに呼ぶ程度には信じられる男だと思った。
「それで、不倫を続けているのか……?」
気がつけば、麗華は藤木とのことを神崎に話していた。親友の瑞紀は自分のことのように藤木を責めたが、神崎がどういう態度を取るのか知りたくなったのだ。
「ええ……。神崎さんもやっぱり、不倫って嫌いですか?」
「まあ、いいとは言えないが、一概に否定するつもりはないな。俺も男だから、若い女と寝たい気持ちは分からんでもないし……」
そう言うと、神崎は琥珀色の液体が入ったグラスを一口呷った。
「やっぱり、体だけの関係なんですかね、不倫って……」
「世の中には色々な男と女がいる……。女の気持ちは今ひとつ分からねえが、男の気持ちは分かる。一人の女を愛し続けるヤツもいれば、複数の女を愛せるヤツもいる。中には女は性欲の捌け口と割り切っているヤツさえいる……」
「神崎さんはどのタイプなんですか……?」
ふと興味が湧いて、麗華が訊ねた。
「一人の女をずっと愛するタイプだ……と言いたいところだが、目の前にいい女がいたら抱いちまうどうしょうもないクズだ」
ニヤリと笑いを浮かべながら、神崎が告げた。その言葉が自分を口説いているような気がして、麗華は神崎の眼を見つめた。どちらが移動したのか覚えていないが、二人はいつの間にか隣同士に座っていた。
「女にも抱かれたい夜ってあるんですよ……」
自分の中で情欲の炎が灯り始めたことに、麗華は気づいた。それを、少し飲み過ぎたせいかもしれないと考えたが、麗華の女は男を求めていた。
「奇遇だな。男にも女を抱きたい夜があるんだ。河岸を変えるぞ……」
「はい……」
ストールから降り立つと、足がふらついた。思わず神崎にしがみつくと、彼の力強い腕が麗華の腰にまわされた。麗華は神崎に体を預けながら、『再会』を後にした。
歌舞伎町二丁目にあるラブホテル街の中でも、一際大きな六階建てのホテルを神崎は選んだ。その最上階に部屋を取ると、神崎は優しく口づけをしながら麗華の服を脱がしていった。そして、大きなベッドに麗華を横たえると、神崎はレースの入った黒いブラジャーのホックを慣れた手つきで外した。
「綺麗な胸だな……」
「恥ずかしい……あんまり見ないで……」
プルンと揺れながら外気に晒された乳房の中心で、麗華の媚芯はすでにツンッと突き勃っていた。カアッと顔を赤らめると、麗華は両手で胸を掻き抱いた。神崎は麗華の手首を握ると、ベッドに押しつけながら口づけをしてきた。
「んッ……んはッ……ん、んぁ……はぁッ……」
ネットリと舌を絡め取られると、甘い喜悦が麗華の全身に走り抜けた。
(気持ちいい……この人、キス……うまい……)
自らも積極的に舌を動かすと、神崎の左手が麗華の右の乳房に添えられた。そして、弾力を楽しむようにシナシナと揉み上げてきた。
「あたしばっかり、恥ずかしいわ……。神崎さんも脱いで……」
「ああ……。できれば、あんまり見せたくなかったんだが……」
そう告げると、神崎は黒いシャツを脱いで鍛え上げられた筋肉質の体を麗華の眼に晒した。その二の腕に彫られた刺青に、麗華の眼は釘付けになった。
「恐いか……?」
神崎の言葉に、麗華はフルフルと顔を振った。恐いと言うよりも、綺麗だと感じたのが正直な感想だった。
「後ろも見せて……」
神崎が背中を麗華に見せた。神秘的な表情を浮かべている美しい女性の姿が彫られていた。高く編み上げられた紫色の髪と、額にある白い黒子が神々しさを強調していた。その背後には、紫を基調にした二重円が描かれており、後光のように光り輝いていた。
「綺麗……」
「聖観音だ。観音菩薩は三十三の姿に変わるそうだが、その大元の姿がこの聖観音だそうだ。それと、額にあるのは黒子じゃないぞ。白毫と言って、渦を巻いた白い毛だからな……」
「そうなの……?」
驚く麗華の口を塞ぐように、神崎が再び口づけをしてきた。そして、唇をずらすと、麗華の左耳に舌を挿し込み、熱い息を吹きかけてきた。
「あッ……いやッ……アッ、アッ、アンッ……だめッ……」
脳髄を蕩かせるようなゾクゾクとした愉悦に、麗華は白い喉を仰け反らせながら喘いだ。神崎は耳たぶを甘噛みしながら、麗華の首筋から鎖骨に掛けてネットリと舌を這わせた。その間、左手で右の乳房を揉みしだきながら、硬く尖った乳首を指で摘まみ上げてコリコリと扱いた。
そして、右手は黒い下着の上から羞恥の肉扉をなぞりあげると、その上にある肉の尖りを爪で引っ掻き始めた。
「ひッ! いやッ、そこッ……だめッ!」
ビクンッと背中を仰け反らせながら、麗華は両手でシーツを握り締めた。その様子を見て、神崎がニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「胸も大きくて形もいいし、尖った乳首も綺麗なピンク色だ。その上、すごく敏感だな。俺好みのいやらしい体だ、麗華……」
「いやらしいなんて……あッ、だめッ、やぁあッ!」
麗華の抗議の言葉を封じるかのように、神崎が肉の尖りをコリコリと擦り上げた。女の弱点を集中的に責められ、麗華は亜麻色の髪を振り乱しながら首を振った。腰のあたりが熱くなり、全身に鳥肌が沸き立った。
「随分とここが好きみたいだな。それなら、直接触ってやるよ……」
そう告げると神崎は、麗華の黒い下着をずり下ろし、白い脚から抜き取った。そして、柔らかな叢の感触を楽しむと、慣れた手つきでクルンと薄皮を剥きあげた。
「ひぃッ!」
ビクンッと麗華の腰が震えたのを確認すると、神崎は花唇から溢れた愛蜜を掬い取り、剥き出した真珠粒に塗り込んだ。
「アッ、アッ、ダメッ……! アッ、イヤッ、アヒィッ……!」
女の最大の急所に加えられる淫撃に、麗華は裸身を仰け反らせながら激しく首を振った。ミディアムロングの髪を舞い乱しながら、麗華はビクンッビクンッと総身を痙攣させた。
(この人……女の体に……慣れてる……)
麗華も男性経験が多いとは言えなかったが、二十五歳としてはそれなりの人数としたことはある。だが、これほど短時間でこんなに燃え上がらされたことは初めてだった。
「ま、まって……そこ、ばっかりッ……いやぁッ!」
崩壊が近づいていることが自分でも分かり、麗華は慌てて神崎の右手を両手で掴んだ。
「悪かった。こっちも欲しいよな……」
ニヤリと笑いながらそう告げると、神崎は左手で麗華の右乳房を揉みしだきながらツンッ尖った媚芯を指で扱き上げた。同時に右の乳首を口に咥えると、甘噛みしながら舌先で舐りだした。
「やぁあッ! だめぇッ! アッ、アッ……待ってッ! だめッ、アッ、アッ、アァアッ!」
グンッと白い喉を仰け反らせると、麗華は切羽詰まった声で啼きだした。腰骨を灼き溶かすような愉悦が背筋を舐め上げ、四肢の先端までもが甘く痺れた。歓喜の縦皺を刻んだ眉間の下で、赤く染まった目尻から涙が溢れた。炎の喘ぎを奏でる唇は、涎で濡れ光った。
「やだッ……だめッ……イッちゃうッ! アッ、アッ、イクッ……イクぅううッ!」
快美の火柱が全身を貫いた瞬間、麗華はビクンッビックンッと裸身を激しく痙攣させて絶頂を極めた。プシャッという音とともに、羞恥の源泉から愛蜜が噴き出してシーツに淫らな染みを描いた。ガクガクと硬直しながら官能の愉悦を噛みしめると、麗華はグッタリと全身から力を抜いてシーツの波間に沈んだ。
(凄い……気持ちよかった……やっぱり、この人……上手い……)
ハァ、ハァッとせわしなく吐息を漏らし、全身をビクンビクンッと痙攣させながら、麗華は官能に蕩けた眼差しで神崎を見つめた。だが、神崎は、麗華の予想をもしない行為に出た。痙攣を続けている麗華の両脚を持ち上げて、自分の両肩に担いだのだ。女の最も秘しておきたい場所が、神崎の目の前に晒された。
「ひッ……! やだ、こんな格好ッ! やめてッ……あッ、だめぇえッ!」
神崎が右手の人差し指と中指を麗華の花唇に挿し込んできた。そして、肉襞の最も敏感な粒だった箇所を、鉤状に曲げた指先で擦りだした。同時に、真っ赤に充血した真珠粒を唇で咥えると、歯で甘噛みしながら舌先でコロコロと転がすように舐りだした。その上、左手で右の乳房を揉みしだきながら、ガチガチに尖りきった乳首を指先で摘まみ上げ、コリコリと扱き上げた。
「あッ、いやッ……! だめッ、やめッ……アッ、アッ、イヤァアアッ……!」
絶頂したばかりの女の体は、神経が剥き出しになったようなものだ。それを乳房、乳首、真珠粒、Gスポットと女の四大弱点を同時に責められたら堪ったものではなかった。麗華は耳まで真っ赤に染め上げて、激しく顔を振りながら悶え啼いた。
亜麻色の髪がバサバサと舞い乱れ、女の色香を撒き散らした。眉間に深い縦皺を刻みながら、閉じた目尻から随喜の涙を流した。恥ずかしい喘ぎ声が止まらなくなった唇から、涎が長い糸を引いて垂れ落ちた。
「だめぇえッ! また、イッちゃうッ! 許してぇッ! イクッ……イクぅううッ!」
両手でシーツを硬く握り締めると、麗華は裸身を大きく仰け反らせて絶頂への階段を駆け上った。ビッシリと鳥肌を沸き立てた裸身をビックンッビックンッと痙攣させると、プシャアーッという音とともに蜜液が虚空に弧を描いて噴出した。神崎は顔にかかった蜜を手で拭うと、ペロリと舌で舐め取った。
「はひッ……はぁ、はぁあッ……はッ、はぁッ……」
細い肩を大きく震わせ、麗華はフイゴのように熱く吐息を乱した。神崎が猛りきった男を麗華の濡れそぼった花唇に充てがった。その意味を知って、麗華がフルフルと首を振りながら哀願した。
「ま……って……。おねが……い……、やすま……せて……」
今、そんな物を入れられたら、自分がどうなるのか麗華にも分からなかった。だが、立て続けに極めた愉悦の奔流が、麗華の体から抵抗の力を奪っていた。
「ひぃあぁああぁッ……!」
神崎の男が肉襞を抉りながら一気に最奥まで貫いた瞬間、麗華は絶頂を極めさせられた。目の前に白い閃光が瞬き、全身の細胞が歓喜の愉悦に灼き溶けた。
だが、神崎はビクンッビックンッと激しく痙攣している麗華を、一切の手加減なく責め始めた。ゆっくりと入口まで男を引き抜くと、粒だった天井部分を三度擦り上げた。そして、グッと腰を入れると肉襞を擦り上げながら一気に最奥まで貫いた。
女を狂わせる三浅一深の動きだった。絶頂を極めている最中の女体が、その動きに耐えられるはずなどなかった。
「だめぇえッ! あひぃいッ! 今、イッてるッ! 許してぇえッ! お願いッ! また、イッちゃうッ! イクッ! イクッうぅう!」
絶頂のさらに先にある快絶の極みに、麗華はあっという間に押し上げられた。腰骨が灼き溶け、背筋が震撼し、脳天に歓悦の雷撃が何度も落ちた。全身の痙攣は止まらず、花唇からは蜜液の飛沫がプシャップシャッと飛び散った。
だが、神崎は三浅一深の動きを止めなかった。その悪魔の動きに、麗華は本気で泣き出した。
「おねがいッ……! ゆるしてぇ……! イクの……止まらないッ! おかしくなっちゃうッ!」
「いやぁあッ! また、イッちゃうッ! 許してッ! イクぅううッ!」
「だめぇえッ! もう、許してぇッ! 狂っちゃうッ! イクッ……! また、イクぅうッ!」
ベッドの上をのたうち廻る麗華の狂態を見下ろすと、神崎はニヤリと笑みを浮かべた。そして、次の瞬間には三浅一深から一転して激しく腰を動かし、怒濤の如く男を抜き挿しして麗華を責め始めた。パンッパンッという肉音とグチュグチュッという樹液の音が重なり、麗華の切羽詰まった声が響き渡った。
「ひぃいいいッ! 凄いッ! 気持ちいいッ! こんなの、初めてぇッ! また、イクッ! 死んじゃうッ! イグぅううッ!」
それは、麗華が初めて経験する極致感だった。真っ赤に染まった裸身を限界まで大きく仰け反らせると、麗華はかつてないほど激しく総身を痙攣させた。凄まじい閃光が視界を真っ白に埋め尽くし、凄絶な快感が脳髄さえ灼き尽くした。シャアァアーッという激しい水音を立てて、麗華の肉扉から黄金の糸が虚空に弧を描いて迸った。
(こんなの知ったら……あたし、もう戻れない……)
その思考を最後に、麗華の意識は途絶えた。
その裸身はビクンッビックンッと途切れることがない痙攣を続けていた。亜麻色の乱れ髪を咥えた口元からは、ネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。閉じた瞼の縁からは随喜の涙が一筋流れ落ちた。ブルブルと震えている内股の間には、粘り気のある蜜液とともに神崎が放った白濁がドロリと垂れ落ちた。
それは紛れもなく、壮絶な官能に翻弄された悲しい女の末路に他ならなかった。
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