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第九章 悪魔の嘲笑

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「セイリオス、あなたが使っていた刀は何ですか? 凄まじい力を感じましたが……」
 エゼキエル・パレスを後にして六十九階層に続く通路に向かう途中で、アストレアがセイリオスの横顔を見つめながら訊ねた。以前にセイリオスが使っていた大剣はアダマンタイト製の通常の剣だったはずだ。バートンに渡したナックルのように、特別な力はなかったはずだった。

「これは水龍王が封印された<クラウ・ソラス>です」
 セイリオスは右手を目の前に出すと、閃光とともに<クラウ・ソラス>を具現化させながら告げた。何もない空間から突如姿を現した<クラウ・ソラス>に、アストレアは金色の瞳を大きく見開きながら驚いた。

「自由に呼び出すことが出来るのですか? 水龍王が封印された神刀というのは、本当ですか?」
「はい。俺は悪魔伯爵と戦ったときに瀕死の重傷を負いました。その俺を水龍王が助け、目の前でこの神刀に姿を変えたんです。<クラウ・ソラス>はアストレア様の母上、魔王アリエルが星の欠片を鍛えて作ったと水龍王から聞きました」
 愛情に満ちた優しさを浮かべた黒瞳で、セイリオスがアストレアを見つめた。

 アストレアを助け出すことが出来たのは、<クラウ・ソラス>のおかげだった。その<クラウ・ソラス>はアストレアの母である魔王アリエルが鍛えた物だ。強いて言えば、母親が娘の命を救ったのも同然であった。それと同時に、<クラウ・ソラス>はセイリオス自身をも助けてくれたのである。

「<クラウ・ソラス>ですか……。昔、母から聞いたことがあります。エルフの『女王の騎士』は、<クラウ・ソラス>に選ばれると……。セイリオス、あなたは本当に私の騎士になってくれたのですね。嬉しいです」
 満面の笑顔でそう告げると、アストレアはセイリオスに抱きついた。セイリオスの上着を羽織っただけであったため、前がはだけて豊かな白い乳房が直接セイリオスの胸に押しつけられた。

「アストレア様、何があっても俺がアストレア様を護ります」
 そう告げると、セイリオスはアストレアの体を力強く抱きしめた。
「セイリオス……。愛しています……」
 アストレアは顔を上げると、金色の瞳を潤ませながらセイリオスを見つめた。セイリオスがアストレアの唇を塞いだ。舌を絡ませ、甘い唾液を貪るように濃厚な口づけを始めた。

「んっ……んぁ……ん、んはぁ……んぁあ……」
(凄く気持ちいい……セイリオス……愛してます……あっ、だめっ……またいきそう……)
 甘い喜悦が全身を走り抜け、腰骨を灼き尽くすような快感が背筋を舐め上げて脳髄まで蕩かせた。アストレアはビクンッビクンッと総身を痙攣させると絶頂への階段を駆け上がり始めた。

 それを感じ取ったように、セイリオスはアストレアから唇を離した。ネットリとした細い唾液の糸が二人の唇を繋ぎ、ゆっくりと垂れ落ちた。
「アストレア様、またいきそうなんですか?」
 ニヤリと笑みを浮かべながら、セイリオスが訊ねた。
「そんなこと……ありません……」
 官能の愉悦に蕩けきった金色の瞳でセイリオスを見上げると、アストレアは小さく首を振りながら否定した。

「そうですよね。口づけだけで絶頂するエルフの女王なんて、いるはずありませんよね」
「セイリオス、意地悪……んっ……」
 文句を言おうとしたアストレアの唇を、セイリオスが再び塞いだ。そして、アストレアの口腔を蹂躙するかのように激しく舌を絡め始めた。

「ん、んっ……んぁ……んめぇ……ん、んぁあ……」
(凄いっ! だめっ、セイリオスっ……気持ちいい……まるで、セイリオスに……犯されているみたい……あ、だめっ! いっちゃう! あっ、いくっ!)
 セイリオスに凌辱されているように感じた瞬間、アストレアの全身を壮絶な喜悦が駆け抜けた。官能の嵐が背筋を舐め上げて脳天を歓悦の雷撃が襲うと、アストレアはビクンッビクンッと総身を痙攣させながら激しく絶頂した。大悦を噛みしめるように全身を硬直させると、アストレアはグッタリと弛緩した躰をセイリオスに預けた。

「はぁ……は、はぁ……はぁあ……」
 真っ赤に染まった目尻から随喜の涙を滲ませながら、アストレアはセイリオスの胸の中で熱い吐息をせわしなく漏らした。
「本当に淫乱な女王様ですね、アストレア様は……。口づけだけで何度もいってしまうなんて……。全身がビクビクしていますよ。そんなに気持ちよかったんですか?」
「はぁ……はぁ……知りません……はぁ……」
 セイリオスの言葉に美貌を真っ赤に染めると、アストレアは恥ずかしさのあまり彼の胸に顔を埋めた。

 その時、セイリオスの全身に緊張が走った。鍛え上がられた筋肉が躍動すると、セイリオスは胸に抱いていたアストレアを背後に庇うように立ち、前方を見つめながら叫んだ。
「誰だっ!」
 その誰何に答えるように、六十九階層に続く通路から人影が現れた。それが自分を凌辱した悪魔の一人であることに気づくと、アストレアは体に残る甘い感覚を振り払って厳しい視線で悪魔を睨み付けた。

「アンナッ? 貴様、アンナに何をしたッ?」
 その悪魔が両手でアンナを抱いていることに気づくと、セイリオスが怒鳴った。アンナは一糸纏わぬ裸体で、意識を失っているようだった。

「これはこれは……。女神アストレアではないか。メフィストとアルヴィスから逃げ出してきたのか?」
 セイリオスの言葉を無視すると、悪魔侯爵デーモンマークゥィスティアマトが驚いたようにアストレアを見つめながら言った。

「メフィストとアルヴィスは、このセイリオスが倒しました。セイリオスは『女王の騎士』です。あなたも死にたくなければアンナを解放しなさい。それと、ジュリアスさんたちは無事ですか?」
 金色の瞳にセイリオスへの信頼と愛情を映しながら、アストレアがティアマトに向かって告げた。意識を失っているアンナだけを連れていると言うことは、ティアマトがジュリアスたちと戦ったことを意味していた。

「ほう。あの二柱を倒したのか? それは良い仕事をしてくれた。アルヴィスもメフィストも私にとっては目の上の瘤だったからな。奴らが死んだのであれば、私が悪魔大公デーモンロードの爵位を継いでやろう。『女王の騎士』とやら、奴らを殺してくれた礼にこの女を抱かせてやってもいいぞ」
 そう告げると、ティアマトはアンナを左上空に放り投げた。同時に地面に魔力だまりを作ると、そこから伸び上がった無数の触手がアンナの裸身を絡め取った。空中で両手を大きく広げられ、M字型に拘束されたアンナの秘唇を太い触手が貫いた。

「ひぃいいい!」
 子宮まで一気に貫通された衝撃で、アンナが無理矢理意識を覚醒させられた。大小の触手がアンナの裸身に纏わり付き、一斉に彼女の性感帯を責め始めた。尻穴に細い触手が蠢きながら入り込むと、薄い粘膜一枚を隔てて膣の触手をゴリゴリと擦り上げた。剥き出された陰核の根元を極細の触手が締め上げ、真っ赤に充血した肉の宝玉を無数の繊毛が擦り始めた。豊かな乳房を絞り上げるように揉みしだくと、触手の先端がパカッと口を開けて尖りきった乳首を咥え込んだ。耳穴にも細い触手が入り込み、脳髄を直接舐め回すほどの喜悦を与え始めた。

「いやぁあ! やめてぇえ! ひぃいいい! あっ、あぁあ! だめぇえ!」
 全身を襲う人外の悦楽に、アンナは真っ赤に染まった目尻から大粒の涙を流して悶え啼いた。限界を超える愉悦の奔流が全身を駆け回り、腰骨を灼き溶かしながら背筋を舐め上げて脳天を凄絶な雷撃が何度も襲った。
「おかしくなるっ! いやぁあ! 狂うっ! いっちゃうっ! いくっ! いくぅう!」
 ビックンッビックンッと総身を激しく痙攣させると、アンナはプシャアアっと秘唇から大量の愛液を迸らせて絶頂を極めた。

「アンナッ!」
 自らも触手で凌辱されたアストレアは、アンナの凄まじい痴態を見て蒼白になった。魔道士クラスSとは言え、通常の人間であるアンナが触手による人外の悦楽を与えられ続けたら、発狂してしまうのは間違いなかった。エルフの女王でありハイエルフとして膨大な魔力量を持つアストレアでさえ、何度も気が狂いそうになったほどの快楽地獄だったのだ。

「アンナを離せッ! ジュリアスたちはどうしたっ?」
「あの男たちのことか? 心配するな。ちゃんと殺しておいてやったぞ。最後にこの女の絶頂する姿を見せつけてやったから、思い残すことはなかったんじゃないか?」
 冷酷な笑みを浮かべると、ティアマトはセイリオスに向かって告げた。悪魔であるティアマトにとっては、人間の命など自分を愉しませる玩具と変わらなかったのだ。

「貴様ぁッ! 許さんッ!」
 盟友であるジュリアスを殺された怒りで、セイリオスは全身から壮絶な覇気を立ち上らせた。剣士クラスSを遥かに凌駕するほどの白炎が、爆発するように膨れ上がって天を焦がした。その凄絶な覇気が上段に構えた<クラウ・ソラス>に螺旋を描きながら流れ込み、水龍王の神刀が直視できないほどの閃光を放った。

「ゆるしてぇえ! 死んじゃうッ! あ、あっ、あぁああ! またいくぅう! あぁあああ!」
 秘唇から黄金の水を噴出させながら、アンナがビクンッビックンッと全身を痙攣させた。それを見て、アストレアがセイリオスに向かって叫んだ。
「セイリオス、その悪魔を倒してくださいッ! このままでは、アンナが発狂してしまいますッ!」

「……! 分かりましたッ! いくぞっ!」
 裂帛の気合いとともにセイリオスが上段に構えた<クラウ・ソラス>を一気に振り抜いた。神気を纏う白炎の奔流が壮絶な螺旋を描きながら、凄まじい速度で悪魔侯爵デーモンマークゥィスティアマトに襲いかかった。

「くっッ……! なかなかやるなっ!」
 大きく広げた右手を突き出して結界を張ると、ティアマトはセイリオスの白炎の覇気を防ぎ切った。
「爵位は悪魔侯爵に留まるが、私の本来の能力ちから悪魔王デーモンキングルシファーと変わらないッ! 人間ごときが舐めるなッ!」

 そう告げた瞬間、ティアマトの外見が魔覇気に包まれた。その魔覇気が壮絶な螺旋を描いて炎上すると、ティアマトの全身に再び吸い込まれていった。

 ドクンッ! ドクンッ!

 ティアマトの魔心臓が大きく波打つと、全身が一回り大きくなった。そして、女と見紛うほどの白皙の美貌が黒ずんでいき、恐怖と畏怖とを具現化するような容貌へと変化していった。両目は鋭く釣り上がり、黒瞳が金色に変わるとともに瞳孔が猫のように細長くなった。眉毛が極端に伸びると鬣のようにそびえ立ち、何本もの鬼角を形成した。両耳は漆黒に変化しながら大きく広がり、蝙蝠の翼のような形状に変わった。細く高い鼻梁は大きく盛り上がった鉤鼻に変わり、薄い唇はめくれ上がって裂け、鋭い犬歯が生えた。

 神話に登場する悪魔そのものの外見に変化したティアマトが、アストレアを睥睨しながら告げた。
「女神アストレアよ、貴様の騎士を殺して再び貴様を犯し尽くそうぞ! 楽しみに待つがよい!」

 悪魔王デーモンキングルシファーさえも遥かに凌駕するティアマトの魔力量に、アストレアは恐怖のあまり全身をガタガタと震わせながら両手で自分の体を抱きしめた。
(セイリオス……戦ってはだめ……殺されてしまう……)
 凄まじい戦慄と畏怖で無意識に涙を流しながら、アストレアは愛するセイリオスの横顔を見つめた。
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