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第三章 妖精の資質

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「イザベラさん、水浴びできそうな池って遠いんですか?」
 イザベラたちに無理矢理連れてこられたアンジェが、不審そうに訊ねた。すでに暗い林の中に入って、十タルは歩いていた。街道に近いとは言っても、夜の林は魔獣の領分だ。奥に行けば行くほど危険度は増大するはずだった。

「池なんてないわ。あんたと話をするために連れ出したのよ」
 アンジェの問いかけに立ち止まると、イザベラが腕を組みながら告げた。女性のわりには百八十セグメッツェ近くもあり、筋肉質で横幅もがっしりとしているイザベラに目の前に立たれると、アンジェはかなりの威圧感を感じた。それと同時に、ケイティとコレットが、アンジェの逃げ場を塞ぐように取り囲んだ。

「話しをするだけなら、わざわざこんな林の奥に来なくても出来ますが……」
 不穏な雰囲気を察したアンジェは、逃げ道を探すようにコレットとケイティの位置関係を確認した。ちょうどアンジェを囲んで三角形になるように、三人は立ちはだかっていた。
「あんた、<夜想曲>に入って間もないのに、何で<漆黒の翼>の二人とべったりしてるの? まさか、うちを抜けるつもりじゃないでしょうね」
 イザベラが薄茶色の瞳でアンジェを睨み付け、厳しい視線を送ってきた。

「それは……」
 アンジェは言葉に詰まった。
 昨夜、アルフィが言った歓迎会で、アンジェはティアとアルフィの二人と濃密な夜を経験した。全身を蕩かされ、四肢の先まで甘く痺れさせられて、何度も歓悦の極みに押し上げられた。すでにアンジェは、身も心も<漆黒の翼>の一員になったと思い込んでいたのだ。

「やはり、そうなのね。でも、<漆黒の翼>はランクSパーティよ。あんたは術士クラスB。相手にされるはずないことくらい分からないの?」
「テッドやバードだけじゃなくて、女のティアさんにまで色目を使って。いやらしい奴ね。ちょっと可愛いからって、最低な女……」
 イザベラの本心を代弁して、ケイティが吐き捨てるように告げた。

「そんな……。あたし、色目なんて使ってません」
「昨日だって、迎えに来たティアさんに腕を絡めてたじゃないか。それで一晩中戻って来なかっただろう? 何してたんだよ?」
 アンジェの反論を封じるように、コレットが言った。

「それは……」
「どうせ体でも差し出して、ティアさんたちに取り入ろうとしたんだろ?」
「違います……」
 コレットの言葉を否定したが、アンジェの声は小さかった。体を使ってティアに取り入ろうとした訳ではなかったが、実際に抱かれたことは間違いなかったからだった。

「そんなにご自慢の体なら、あたしらにも見せてみな。みんな、こいつをひん剥いちまいな!」
 イザベラの命令を受けて、ケイティとコレットがアンジェに襲いかかった。
「きゃっ! 何するんです? やめてください! いやぁあ!」
 アンジェは激しく抵抗したが、三対一で敵うものではなかった。あっという間に衣服を剥ぎ取られ、アンジェは一糸纏わぬ裸身をイザベラたちの前に晒された。

「服を返してください。こんなこと、やめてください」
 両手で胸と股間を隠しながら、金色の瞳に涙を浮かべてアンジェはイザベラを睨んだ。だが、その表情はイザベラの嗜虐心を呷るだけであることに、アンジェは気づかなかった。
「生意気な眼ね。これは、少しお仕置きが必要ね。ケイティ、コレット、こいつを押さえつけな!」
「分かった!」
「大人しくしな!」

「いやぁ! 離してっ! やだぁ、やめてぇえ!」
 右手足をケイティに、左手足をコレットに押さえつけられ、アンジェは地面に仰向けで大の字に固定された。もともとが非力なエルフであるアンジェが、女とは言え鍛え抜かれた冒険者たちに力で敵うはずもなかった。

「へえ、下の毛も銀色なんだ。ケイティ、コレット、胸でも揉んでやりな。あたしはここを可愛がってあげるよ」
 大きく広げられた両足の間に体を入れると、イザベラは顔を近づけてヌメリとアンジェの秘唇を舌で舐め上げた。それを合図と見たケイティとコレットが、アンジェの白い乳房を左右から揉みしだき始めた。

「ひぃい! やめてぇ! いやぁあ!」
 同性だからこそ知る微妙な力加減で乳房を揉み上げられ、薄紅色の乳首が頭をもたげてきた。それを摘ままれ、扱かれ、引っ張られ、押しつぶされると、ますます硬く自己主張を始めた。
「こいつ、乳首カチカチになってきたぜ」
「舐めてあげるわね」
 コレットが笑いながらコリコリと指で刺激を与えると、ケイティは尖った乳首を口に咥えて先端を舐め回した。

「こっちも濡れてきたよ。ここも可愛がってやるわ」
 そう告げると、イザベラは秘唇の上の突起をクルンと指で剥き上げた。
「ひっ!」
 腰骨を蕩かせるような快感が走り、アンジェは顎を仰け反らせた。その反応を楽しむように、イザベラが剥き出しにした陰核を舌で嬲り始めた。

「ひっ、あっ、あぁああ! だ、だめぇ! あ、あっ、あっあああ!」
 声を出すまいと心に決めていたにもかかわらず、何カ所も同時に女の急所を責められる凄絶な歓悦に、アンジェはよがり声を止められなかった。
(こんなの嫌だ。ティア、助けて……)
 金色の瞳から涙を流しながら、アンジェは愛おしいティアの顔を思い描いた。金碧異色ヘテロクロミアの瞳が悲しげにアンジェを見つめていた。

 その時、周囲の温度が急に下がったように感じた。
「何だ?」
「え……何?」
 イザベラが顔を上げ、辺りを見回した。ケイティとコレットも手を止めて、周囲を探るように体を起こした。

(この気配は……スケルトン・ジャック? A級魔獣が、何故こんな所に……?)
 イザベラの背後三十メッツェほど離れた場所から禍々しい威圧を感じ、アンジェは叫んだ。
「イザベラさん、逃げて! スケルトン・ジャックが後ろに!」
「何だと!」
 横に置いた大弓を手に取ると、イザベラが後ろを振り返りながら立ち上がった。

 スケルトン・ジャックはスケルトンの上位個体であり、凶悪な死霊系魔獣だ。通常のスケルトンはC級魔獣だが、数十体群れをなしていることも多く、数によってはB級に匹敵する。スケルトンは全身が骨格だけで出来ており、血肉はなく戦斧や刀剣を持っている戦士タイプの死霊だ。

 それに対して、スケルトン・ジャックは群れのリーダーとも言うべき個体で、大きさも通常のスケルトンよりも大きく、身長二百五十セグメッツェを超えるものも存在する。持っている武器もハルバードや大剣であり、単純な戦闘力では剣士クラスSを超えるとも言われていた。

 グォオオオ……!

 大気を震撼させるほどの咆吼を上げると、スケルトン・ジャックが凄まじい速度でイザベラに迫った。
「イザベラさんっ!」
 スケルトン・ジャックが咆吼とともに放った威圧は、冒険者クラスBを萎縮させ硬直させるには十分過ぎるものだった。イザベラは大弓を構えることも出来ずに、薄茶色の瞳を大きく見開いて恐怖のあまり立ち尽くしていた。

「ひぃいっ!」
「ぎゃああぁあ!」
 コレットが短く悲鳴を上げた。それと同時に、イザベラの絶叫が周囲に轟いた。スケルトン・ジャックが大剣を横に薙ぎ、大弓ごとイザベラの左腕を肘から切断したのだ。その衝撃で、イザベラは十メッツェ以上も地面を転がりながら吹き飛ばされた。左腕だけでなく横腹をも斬り裂かれており、噴出する大量の血の中に折れた肋骨が見えた。ピクピクと細かく痙攣しながら、イザベラは意識を失っていた。

「い、いやぁああ! 助けてぇえ!」
 弓士クラスBのイザベラを瞬時に斬り裂いたスケルトン・ジャックを見上げて、ケイティが悲鳴を上げた。恐怖で見開いた黒瞳から、涙が溢れていた。
「ケイティ! 結界を張って!」
 全身をガタガタと震わせながら、コレットが叫んだ。盗賊クラスCのコレットでは、スケルトン・ジャックに対抗することなど不可能だった。

「む、無理よ! あんな攻撃、あたしの結界じゃ防げない!」
 ケイティは魔道士クラスCだ。結界魔法を使えるとは言え、A級魔獣であるスケルトン・ジャックの攻撃に耐えられるほどの結界を張ることは不可能だった。
 スケルトン・ジャックがアンジェたちの方を振り向いた。黒い眼窩の奥で鬼火のように燃えている眼が、真っ直ぐにアンジェたちを見つめた。アンジェは、その焔の眼が新たな獲物を見つけて歓喜しているように感じた。

「ケイティさん、コレットさん! あたしの後ろにいてください!」
 アンジェは全裸のまま立ち上がると、ケイティたちをスケルトン・ジャックから護るように一歩前に出た。
 その行動を嘲笑うかのように、スケルトン・ジャックが右手に持つ大剣を大きく振り上げた。そして、空気を引き裂く風斬り音とともに、凄まじい速度でアンジェに向かって大剣を振り下ろした。

「ハァアアッ!」
 アンジェの裸身が光に包まれ、直視しがたいほどの閃光を放った。
 術士クラスSを遥かに凌駕する魔力量で、アンジェが防御障壁を張った。

 壮絶な破壊力を持つスケルトン・ジャックの斬撃が、アンジェの光の障壁に激突した。
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