失格勇者の剣聖無双

来栖川

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死へと向かい、生へと戻る

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船の宴会より

「今日も我々は生きてるぞい!!イヤー運が良くて助かる!」
「そういや、聞いたかい船長。」
「なんだー、ファイ!儲け話か!良いねー、アタシは金儲けが好きだぞ!」
「いえ、そう言うわけではないのだが・・・。」
「じゃあなんだ、お、アタシと結婚してくれリュのカ!」
「はぁ、お嬢様と私じゃ年齢が離れすぎて、最早犯罪。私は良いのですよ、障害独身で・・・。」
「なーんだよー。つまらん!まあアタシは諦めてないけどね。キラーン」
「ハッハッハ!そうですか!」
「・・・ファーイ!敬語禁止!」
「おっと・・・そうだったな。」
「・・・あれから3年、皆は無事だろうか・・・もう死んでるよな。」
「アーグ大陸との戦争で我らの船は壊滅。その戦争で他大陸の国王や皇帝は、アーグ大陸への侵攻をやめて束の間の平和を現在は手に入れている。良いことですが、一方でアーグ姫殿下による影響力が増し裏では魔族と繋がっているとか・・・。」
「オーガじゃないのか、それ・・・。」
「フーム、先日、友人に久しぶりに会ったのですが、我々では無い、情報が入ったら知らせるようにとのことだった。」
「では違うのか・・・。奴らめ何と手を組んだんだ。」
「分からない。だが、我々の目的は・・・」
「分かってる。仲間の生存の確認だ。」
「現にこれまでに20人は見つかっていま・・・ンンン!見つかっている。行方不明者は30人ちょっと・・・。」
「まだ絶望すべきじゃない!そうだろう!爺や!」
「船長!ファイです!」
「スンマセン。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「では、話を聞こうか。」
客用のソファーに腰掛け、二人は悩んでいた。セレンは隣からモグラの顔を見る。モグラは何から話したものかと悩んだが、どうやら逃げることは出来ないと思った。だが隣にはセレンもいる。ここは一つ本題をと思ったが、
「ギルドへの登録の話しは君の素性を話してからだ。」
先にそう言われてしまった。モグラはこの一手先を素早く摂られる感覚に何か気味の悪さを感じていた。
「私の名前は・・・」
「獅子神モグラではなく本当の名前は?」
「・・・やはり気付いていましたか・・・」
もちろんだともと、ギルド長であるファイゼンベルグは答える。セレンは終始心配そうな顔で俯いていた。怖い、その気持ちが自分を暗闇へ引き釣り混んでいく。まるでたこの足に掴まれ深海に連れて行かれる感覚がする。
「俺の名は・・・俺の真名は・・・」
モグラはそう言うと目を閉じて覚悟を決めた。
(俺はもう逃げない。そう心に決めたんだ。)
そう心の中で呟くとセレンの前に立ち正座した。そして結っている髪に刺さっている髪飾り、簪を抜いた。すると頭に着いている2本の角が無くなり茶色の瞳がコバルトブルーに変化する。そして、それまで覆っていた気配が消え、元の懐かしい気配に戻った。
「拙者の名はレオン・ハートだ。セレンすまない、俺は・・・。」
次の瞬間モグラの顔は、セレンの胸の中に収まっていた。痛いほどに抱きしめられるが、どのようなことになっても決して微動だにしないことを決めた。
「待ってたんだよ!ずっと待ってた!死んじゃったのかと何度も思った!でも信じてた。生きてるって!何で!何で会いに来てくれ無かったの!分かってるけど寂しかったよ!」
セレンは大粒の涙をモグラにかける。大雨が降っているとモグラは思ったが、決してその露を払わなかった。ファイゼンベルグは何も言わずに微笑み二人を祝福した。

暫くしてニコニコしながらファイゼンベルグは二人にお茶を出した。セレンの顔は火山が噴火したかのように赤い。モグラはというと大雨が降ったかのような髪の濡れ方で顔は何というかどよんとしていた。
「若いって良いですな!私も若い頃は大貴族のお嬢さまとラブラブでしたから。いいやー良いものを見た!」
「やめて下さい!はっ恥ずかしいですぅ!」
セレンは両手で顔を隠す。
「ううう・・・」
モグラは酸欠で頭を押さえている。
「ああ、すまないすまない。少しからかい過ぎたかな。」
「本当ですよ。全くもう。」
ギルド長は謝罪すると、お茶を一口のみ、二人を見る。
「それでレオン君?」
「何でしょうか?」
モグラはズキズキと痛む頭を抱えて、ファイゼンベルグの顔を見る。真剣な表情をしていた。
「君は何回死んでるんだい。」
「えっ・・・・」
セレンは意外な言葉に息を呑み、モグラを見る。そして、
「・・・死んではいません。が、死の淵に立ったのは・・・」

「1073回です。」

セレンは自分がどこにいるのか分からなくなる。1000って何?何度も心で呟く。目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。まるで宇宙に放り出されたかのように・・・。
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