上 下
311 / 318
第5章波乱と激動の王都観光

277・ワイバーンの襲撃

しおりを挟む

それからトモロスの町を去ろうとしたが、
ここで問題が起こった。
町の人がずっとここに居て欲しいと言い出したのだ。

「どうかずっとここに居てください」

ガストさんがそう言った。

「そういうわけにはいかないんです。
私達は王都に行かないといけないんです」
「そうですか、では貢ぎ物をさせてください」
「いえ、気持ちだけで充分です」

実を言うと町の人にすでに充分過ぎるぐらいに貢ぎ物をされたので、
さすがにもういらない。

「そうですか、分かりました。
せめて見送りだけでもさせてください」

そうして私達は多くの人に見送られトモロスの町を出た。
その時馬車で移動していると山神様が居た。

「その色々すまなかったな」
「いえ、気にしないでください」
「お前達の旅の無事を祈る。
じゃあまたな」

そう言って山神様は消えた。

「しかし思ったより時間がかかりましたね」
「仕方ないわよ。もう寄り道したんだし」
「お前達はすごいな」

その時レオンがそう言った。

「え、何がすごいんですか」
「山神様だったか、あの人と普通に話せて、
僕はあの人のことを怖いと思った。
でもセツナは自分の意見をあの人に伝えた。
それってすごいことだと思う」
「え、陛下何があったのですか、そのようなことを言うなんて」

アマンダさんが驚いたようにそう言った。

「僕、思い出したんだ。
どんな人でも絶対軽んじちゃいけないんだ。
僕は大きくなったらセツナみたいになりたい。
無理かもしれないけど、
セツナみたいな冒険者になりたい。
そして勉強して、
今までサボっていた剣の修行もして強くなるんだ」
「陛下…変わりましたね。
あそこまで勉強を嫌っていた陛下が、
自分から勉強したいと言うなんて、う、うぅ」

アマンダさんは感激したように泣いていた。
使用人として一番近くでレオンを見てきたんだ。
きっと涙を流すほどに嬉しかったのだろう。
人間の中には本当にどうしようもない人も確かに居る。
でも人と言うのは変わることが出来る。
レオンに良い影響を与えられて良かった。

それから馬車の爆竜号は進み、暗くなってきたので、
私達は野営することにした。
野営と言っても広い馬車の中で寝るので、快適だ。

「じゃあ料理をしますね」

そうして私は料理を作る。
作るのは野菜と干し肉を混ぜたシチューだ。
それを作ってみんなで食べる。

「おいしい、ほっとする味だ」

レオンがそう言った。
最初の頃より野菜が好きになってくれたので良かった。

「こんなおいしい料理は食べたことが無い」
「え? 城ではおいしい料理があるんじゃないんですか?」
「いいや、城での料理は基本的に毒味をさせてから食べるから、
スープも肉も全部冷めていたんだ。
だから温かい料理は食べたことがあまりない」
「そうですか、それなら自分で作ってみてはどうでしょうか?」
「え、僕が作るのか?」
「はい、自分が作ったものなら毒が入りようがないですし、
この際料理をしてみてはどうでしょうか?」
「え、陛下は王族ですよ。料理なんて普通はしませんよ」

アマンダさんは呆れたようにそう言った。

「よし、じゃあ僕、料理を覚える!」
「陛下!?」
「アマンダさん、気持ちは分かりますが、
何でも過保護にするのはよくないですよ。
人生挑戦が大事です」
「…それもそうですね」
「じゃあ私が料理を教えるので一緒に料理をしましょう」

それから馬車で王都に向かう間、
レオンに料理を教えてあげた。
最初こそ包丁の持ち方すら危うかったが、
やっていくうちに上達した。
そうこうしている間に王都に着くことが出来た。

「ようやく王都が見えましたね」

王都は周りを高い壁が取り囲んでいた。
ここまで来ると地面も石畳になっており、
私達は王都に入ろうとする馬車の列に並んでいた。

「しかし長かったね。やっとついて良かったよ…」

リンが疲れたようにそう言った。
色々あったが何とか着くことが出来た。

「そうですね。何事もなくて良かったです」
「ちょっと待って、あなたがそう言うと、
何か大変なことが起きる前兆に聞こえるから言わないで」
「エドナ、酷いです。
そんな前兆なんて起きませんよ」

その時だった。

「グアァァアーー!!!」

大地を震わせる大きなうなり声。
私は驚いて馬車の窓の外を見る。

「あれは!?」

緑色の大きなドラゴンが空を飛んでいた。

「何であんな所にドラゴンが!?」
「あれはドラゴンではない、ワイバーンじゃ!」

タツキがそう言った。

「え、ワイバーンって飛竜の?」
「ワイバーンは風竜の別名じゃ。
飛竜とも呼び、飛ぶことに特化した体をしておる。
空を自在に飛び回るので敵に回すと厄介じゃ」
「そうなんですか…って説明を聞いてる場合じゃない!
あんなのが暴れたら、王都が大変なことになります!」

私は急いで馬車を降りると馬車の周りに結界を張った。
もう周囲は大パニックだった。
馬車に乗っていた人は、
みんな馬車を捨てて走って王都の門の中に入ろうとするが、
無情にもその門は閉まっていく。

「何で閉めるんですか!?」
「門を閉めるのは中に入ってこさせないためかしら。
でもワイバーンは飛べるから、門を閉めても意味は無いと思うけど」

そうエドナが言った。

「とにかく何とかしないと大変なことになるよ!」

リンがそう言った。

「そうなのだ!
早く倒さないと多くの人が死ぬのだ!」
「とにかくみんな一旦冷静になりましょう。
まずレオンとアマンダさんは馬車の中に居てください!
結界を張ったので大丈夫だと思います」
「アタシはどうしたらいい?」
「リンは…残念ですが、
あなたの戦闘能力ではワイバーンと戦うのは難しいので、
レオンと一緒に馬車で待機してください」
「分かったよ…こればっかりは仕方ない…」

リンは少し傷ついた顔をしたが、
リンが居ても死ぬ可能性が高くなるので仕方ない。

「あとガイも馬車で待機してください」
「分かった。無事を祈っている」
「じゃあ。エドナとイオとタツキは戦闘準備に入ってください。
フォルトゥーナは怪我した時の回復を頼みます」
「了解です」
「じゃあみんな行きますよ!」

そうしてワイバーンとの戦闘が始まろうとしていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...