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第5章波乱と激動の王都観光

268・王子との出会い

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それからも馬車の爆竜号は進んでいき、
出発してから2週間が経った。

「しかしここからだと死の山がよく見えるわね」

エドナはそう馬車の窓の外を見て言った。

「死の山?」
「ほら、あそこに雪をかぶった山が見えるじゃない。
あれが死の山よ。
伝説ではバーン王国で一番高い山って言われているけど、
定かではないわ」
「何で定かではないんですか?」
「ああ、あの山に登って帰ってきた人がいないから、
きちんと測量もされてないんだよ」

リンがそう言った。

「帰ってきた人がいない?
それってヤバイですね」
「それは違うぞ。
歴史上には登って帰ってきた人間は居ることにはいる。
ただみんな正気を失っていたらしい」

タツキがそう言う。

「正気を?
それって怖いですね」
「まぁあの山に出る魔物は、
そこらの冒険者では太刀打ちできない程に強いし、
もし生きて帰っても五体満足では無理じゃろう。
ただ、生きて帰った者の中には、
不死鳥を見たという者もいたらしいがな」
「不死鳥?
フェニックスですか?」
「まぁ伝説じゃからな。
本当に不死鳥が居るとは限らぬが、
不死鳥の血を飲めば不老不死になり、
どんな病気も癒えるという伝説がある」
「確か毎年のように不死鳥の血を求めて、
死の山に登る人間は後を絶たないらしいけど、
あの山は夏でも頂上付近は雪が積もっているらしいから、
吹雪が出るのよ。
それで自分がどこにいるのか分からなくなって、
遭難するらしいわ」
「うへぇ、救助隊も大変ですね」
「救助隊? そんなものないけど」
「え? あ、そうか、この世界にはヘリコプターが無いし、
遭難しても電話もないから救助のしようがないんですね」
「まぁ君子危うきに近寄らずとも言うし、
用がないのならばあの山に近づかない方が利口じゃろう」

確かにそうだな。
私の世界では毎年のように山で遭難して亡くなる人が結構いた。
特に私のお母さんは警察官だったので、
山はなめない方がいいとよく言っていた。
低い山でも遭難することがあるので気を付けないといけない。
まぁこれだけ危険だと言われてあえて行く程、
私は愚かじゃない。
死の山は遠くから見て満足しておくのが利口だろう。
しかしこの時の私は気がつかなかった。
会話した時点でフラグがすでに立っていることを…。

「ところでセツナ、あとどれぐらいで王都に着きそう?」
「そうですね。確認してみます」

そうして私はエリアマップを起動する。

「あれ…!?」
「どうしたのだ?」
「馬車が魔物の集団に襲われています!」
「え!?」
「ちょっと助けに行ってきます。《飛翔》」
「ちょっとセツナ!?」

私は馬車の窓から飛び降り、飛翔魔法で空を飛んでいく。

「《加速!》」

そうして加速魔法を使い、急いで襲われている馬車まで行く。

「酷い…」

馬車の周囲には兵士らしき鎧を着た男性達の死体があった。
そして魔物達が馬車の中に入ろうと、ドアを叩いていた。

「《疾風刃(エア・カッター!)》」

私は風魔法で魔物達を倒していく。
そうして何とか全ての魔物を倒す事が出来た。

「あのー」

私は地面に下りると馬車に近づく。

「ひっ、来るなー!」

馬車の中から少年のようなそんな声が聞こえた。

「たまたま居合わせた冒険者です。
もう魔物は全て倒したので大丈夫ですよ」

そう安心させるためにそう言うと、ドアが開いた。
そこから1人の小太りの金髪の少年が下りてくる。
着ている服はかなり豪華だったので、
この少年は貴族なのかなと思った時だった。
少年が言葉を発した。

「ずいぶんと助けに来るのが遅かったな。
今度からもっと早くこい!」
「はぁ?」

少年のあまりの言葉に私は唖然とする。

「おい、お前ずいぶんと腕が立つみたいじゃないか、
僕をあの死の山まで連れていけ!」
「お断りします」

私には王都に行くという役目がある。
この少年は恐らく貴族か何かだろうが、
命令に従う必要は無い。
私らは王の命令で王都に行くのだから。

「うるさい!
僕の命令は絶対だ!」
「陛下…お止めください」

その時馬車から1人のメイド服を着た女性が下りてきた。

「アマンダ! うるさい!」

その時、アマンダと呼ばれた女性は驚くべきことを言った。

「あの冒険者の方だと思いますが、
王子であるこの方にそういう態度は…」
「は? 王子?」

私は改めて少年を見る。
こいつが王子?
確か王族には私は興味の欠片も無かったので、
詳しく聞いたことはないが、
確か王には子供が3人ぐらい居たような気が…。

「うるさい!
僕は王子だぞ!
絶対的に偉いんだ!
だから僕の言うことを聞くべきだ!」
「てめぇ、ふざけるなよ」

そう俺、ゼロは我慢出来ずに表に出た。
そして王子に思いっきりビンタをする。

「な、何だ。姿がいきなり変わった!?
いや、そんなことはどうでもいい!
王子である僕を殴ったな!
死刑にしてやる!」
「お前、いい加減にしろよ!」

俺は全身から殺気を出した。
その殺気を受けて王子は震え上がった。

「お前を守るために、すでに多くの兵士が亡くなったんだぞ!
王子なら家臣のことも考えてやれよ!」
「う、うわぁぁー!」

そう言うと王子は小便漏らしながら泣き出した。
それに俺は少しぎょっとする。

「チッ、男が泣くんじゃねぇよ。
いいかよく聞きやがれ、
お前に感情があるように、他の人間にも感情があるんだ。
そしてそれぞれに大切な家族が存在しているんだ。
今回お前を守るために多くの人間が亡くなった。
それを忘れるんじゃねぇぞ」

そう言うと俺はセツナと人格を交代した。

「ん? あれ、なんで泣いているんですか?」

いきなり気がつくと王子が泣いていたので、私はそう聞いた。

「さっきの男は一体…あなたは何者なんですか?」

そうアマンダさんが聞いてきたので、私は答えに困ってしまう。
きっとゼロの奴がまた勝手に現れたのだろう。

「私はセツナ・カイドウと言います」
「セツナ・カイドウ!?
あの伝説のAランク冒険者の方ですか!?」

アマンダさんが驚きながらそう言った。

「えっともしかして有名なんですか私?」
「当たり前ですよ!
だって女性で初めてAランク冒険者になった方ですよ。
あなたの噂はよくご存じです!
私、あなたの大ファンなんです!
あなたの姿絵をいくつも持っているほどです!」
「は? 姿絵?」

そんなもの描いて貰った記憶はない。
もしかして私に無断で売られているのか?
うわぁ、何それ怖い。

「え、それって見せてもらうことは出来ますか?」
「はい、これです」

その姿絵はきっと想像で描かれていたのだろう。
私に全く似ていなかった。

「えっと姿絵ってどれぐらい売られているんでしょうか?」
「え、王都ではまぁ少ないですが普通に売られていますよ」

おいおい、それ完全に肖像権の侵害じゃねーか!
私に無断で姿絵が売られているとか怖すぎる。

「それより握手してください!」
「うーん、今はそれどころではないので遠慮しておきます」
「あ、確かにそうですね。すみません。
つい浮かれてしまって…」
「それより生きている人は居ないみたいですね」

私は兵士の死体を確認する。
みんな見事に亡くなっている。
私は全員をアイテムボックスにしまった。

「な、何をしたんだ?」
「空間術でしまったんですよ」

最初死体を見た時はアイテムボックスに入れるのも嫌だったが、
冒険者をやっていると死体なんて結構見かけるので、
今は触れるのも平気になった。

「な、何でそんなことをするんだ…?」
「何でって死体を遺族に引き渡さないといけないじゃないですか」
「そんなことなんてする必要があるのか?」
「は? 必要ってどういうことですか?」

あまりの言葉に私はそう聞き返した。

「兵士なんていくらでもいる雑草みたいなものだろ。
ゴミと一緒だ」
「ひっ…」

その王子の目が私を散々苦しめた皇帝を連想させた。

「どうやら私と交代した方がいいみたいだね」

そう私、セツナの別人格のヒカルは久しぶりに表に出る。

「王子様、あなたに大切な人は居ますか?」
「そんなの居るに決まっているだろうっ!」
「王子様を守った兵士達にも大切な人は居ますし、
また誰かの大切な人なんですよ。
でも彼らは王子様のために命を落としました。
それは理解していますか?」
「それは…」
「良いですか、王となる者は大切な宿命を背負っているんです。
自分の決断1つで人の命が死んでしまうという重たい宿命をね。
普通の人ならばそんな重たい宿命など背負いたくありません。
王子様、あなたが贅沢な暮らしをしていても誰も怒らないのは、
そういった重たい宿命を背負っているからです。
でもそれを理解せずに贅沢な暮らしばかりしていれば、
いつか国民はあなたを見限り、
軍隊となり城に押し寄せることでしょう」

私は子供でも分かりやすいようにそう説明する。

「で、でも父上は兵士は王族に仕えるのが当然だから、
いくら死んでも問題ないって」

父上ということは王がそう言ったのか、
やれやれ困ったものだ。

「それはあなたのお父上が間違っています。
あなたが罵られたら心に痛みを感じるように、
兵士も血と肉がある生身の人間です。
感情を持った1人の人間なんですよ」
「そんな…父上が間違っているなんて、そんなの嘘だ!」
「良いですか、あなたも王子なら、
人の上に立つ者としての自覚を持ちなさい」
「セツナー!」

その時、馬車の爆竜号に乗ったエドナ達がやってくる。

「話はこれで終わります。
ではセツナと交代します」

そう言うと私はセツナと人格を交代した。

「ん、あれ?」
「セツナ大丈夫?」

エドナが心配そうな顔で覗き込んだ。
あれいつの間にエドナ達が居るの?

「うわぁぁー!」

そして何故か王子は泣いてるし、誰かこの状況を説明して!

そんな感じで私は少し混乱したのだった。

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