289 / 309
第4章起業しましょう。そうしましょう
258・守護獣
しおりを挟む「ところで赤き竜の尾という言葉に、
心当たりはありますか?」
「それはタロウの迷宮のことですか?」
「タロウの迷宮?」
「この島にあるダンジョンのことです。
タロウ様が集めた武器や防具などお宝が眠っていますが…。
かなりのトラップがあって、
入って帰ってきた者は今までいません」
「そうですか、じゃあそこに行こうと思います」
「いえ、それは止めてください!
あそこは危険です!」
「妾が居るから大丈夫じゃよ」
「しかし…分かりました…。
タツキ様がそう言うならそうします」
「とはいっても今日はもう遅いから、
今日はここで泊まって明日に行こうと思う。
宿の手配をしてくれ」
「すみません。宿はこの村には無いのです。
急いで準備するので待っていてください」
そう言うと翼族達は急いで宿の準備する。
「ところで翼族のみなさんはみんな動物を連れていますが、
どうして連れているんですか」
「わしは動物ではないぞ」
「え、リスが喋った!?」
「ああ、これはリスではありません。
守護獣と言います」
「守護獣?」
「人間を生きてから死ぬまで守る動物の霊です」
「守護霊と似てますね」
守護霊とはスピリチュアル好きでなくても、
聞いたことはあるだろう。
人間を守ってくれる霊のことだ。
「まぁ守護獣は守護霊の補佐をするのが仕事です。
例えば守護霊が怪我で動けない時に代わりに守ったりします
人間の霊が守護霊で、動物の霊は守護獣と言います」
「え、守護霊って怪我をするんですか?」
「基本的に守護霊や守護獣は、
私達を災難や怪我から守ってくれますが、
その時に怪我をしてしまうことがあります。
怪我をし過ぎると人間と同じように動けなくなるので、
そのために守護獣と交代で人間を守ってくれています」
「その怪我ってどうやったら治るんですか?」
「まぁ自然に治る場合もありますが、
心からの感謝をすると傷が癒えますよ」
「え、それってさ…」
「リンどうしたの?」
リンが浮かない顔をしていたので、私はそう聞いた。
「そのさ。周囲への感謝とか全くない人とかいるじゃん。
その場合守護霊や守護獣は、
ずっと傷ついたままってことになるよね?」
確かに言われてみるとそうだ。
居るんだよね。周囲へ全く感謝がなくて、
むしろしてくれるのが当たり前だと思っている人。
そういう人には心当たりがある。
「まぁ守護霊や守護獣は基本的に、
10人ぐらい交代で守っているので大丈夫です。
まぁでも人数が少なくなると、その分守りも薄くなります」
「そのもし全ての守護霊や守護獣が居なくなったらどうなるんですか?」
「その場合連続して不幸なことが起こります。
前に守護獣に高圧的な態度を取っている人がこの島に居たんですが、
ある日とうとう守護獣に見捨てられました。
しかもその守護獣だけでなく守護霊までもが彼を見捨てました。
その結果、とんでもなく不幸なことばかり起こるようになり、
彼は悲惨な死に方をしました」
「うわぁ…」
「まぁ守護霊や守護獣が、
見捨てるのはよほどのことがないとあり得ないので、
心配することはありません」
「そうですか、なら良かったです」
「まぁ守護霊や守護獣は人生の羅針盤のような存在です。
羅針盤も無い状態で航海したら、
不幸なことが起こるのは当たり前です」
「ところで守護獣って霊なんですか?
私、幽霊は苦手なんですが」
「まぁ霊とは言っても幽霊とは違います。
幽霊は成仏していませんが、
守護獣はちゃんと成仏しています。
なので幽霊と違って悪さをすることはあり得ません」
「そうですかならいいんですが」
「まぁ本来守護獣というのは、目には見えませんが、
守護獣にかりそめの肉体を与えると、
こうして目にも見えるようになりますし、
一緒に戦ってもくれます」
「それって私にも出来るようになりますか?」
「はい、出来ますよ。
本来であればこれは門外不出の技ですが、
あなた方には特別にお見せましょう」
そう言うとルカルカァさんは地面に魔方陣を描いていく。
「はい、出来ました。
この円の中に入ってください」
「はい」
そうして私は円の中に入った。
「これから守護獣を召喚しますが、
くれぐれも傲慢な態度では接しないようにしてください。
あくまで対等な友人として接してください。
そして守護獣に出会ったら、まず最初にお礼を言ってください。
守護獣は自分の身を削ってあなたを守ってくれていますからね。
では行きます」
そう言うとルカルカァさんが呪文を唱え始めた。
そうすると魔方陣が光輝き、そこに現れたのは――。
「え?」
1メートルはある大きな茶色の犬だった。
犬種は豆柴に似ていた。
「か、可愛い」
「お礼を言わないといけないんじゃないの?」
「あ、そうだ。いつもありがとうございます」
「………」
しかし豆柴は無言だった。
「あのどうしたんですか」
「セツナよ。拙者はお主に合わせる顔が無い…」
「え、何でですか?」
「お主がこの世界に迷い込んだのは、
全ては拙者の落ち度にござる。
…故に合わせる顔がない」
「どういうことですか?」
「拙者の名前は豆太にござる。
拙者の主は武士でお主の先祖だったにござる。
その主は拙者のことを可愛がってくれた。
そして死後、拙者は海道家を守る守護獣となった。
しかし拙者にも予想外なことがあった。
お主が間違ってこの世界に迷い込んでしまったのだ」
「え、どういうことですか」
「人は生まれる前に自分の人生を決めて生まれる。
しかし異世界に行くことは、
お主の本来の人生の予定図には無かったのだ」
「そうなんですか?」
「お主は本来であれば異世界に行くことは無かったのだ。
普通に大学に進学し、そこで出会った男と結婚し、
子供を産んで幸せに暮らす予定だったにござる。
しかしお主は異世界来てしまった。
これは拙者の落ち度だ」
「そんな、気にしないでください」
「守護獣というのは守護霊の補佐をする仕事にござる。
通常の人間には守護霊と守護獣は10人ほどつく、
しかしお主の場合は異世界に行くのが、
あまりの突然の出来事だったため、
他の守護霊はついていけなかったにござる。
ついてこれたのが拙者しかいなかったのだ」
「え、今もそうなんですか」
「今お主の守護霊はヒョウム国に居た時に、
出会った人物がやってくれているから大丈夫ではある。
しかし守護獣というのはその身を削ってお主を守る存在にござる。
それがもし居なくなったら、不幸なことが連続して起こる。
しかし拙者1人ではお主を守ることが難しかった。
故にお主を不幸にさせてしまったにござる」
あー、だからこの世界に来た時の私って不幸だったんだ。
妙に納得した。
「そんなの全然、守護獣さんのせいじゃありませんよ。
それに10人分の仕事を1人でやってくれていたんでしょう?
感謝はしても、責めることはないです」
「しかしお主が不幸だったのは拙者の落ち度だ。
拙者がもっと注意していればこんなことには…」
「でも私はこの世界に来て良かったと思っていますよ。
まぁ色々と不幸な目には遭いましたが、
でもそのおかげでエドナ達と出会えました。
だからこの世界に来たことを後悔していません」
「うぅ、そうお主に言って貰えると救われた気分になる」
そう言うと豆太は消えた。
「あれ消えましたけど」
「ああ、魔法の効果が切れたんでしょう。
守護獣は何度も呼び出すことで、
具現化出来る時間が延びていくので、
初めてなら10分ぐらいで消えてしまいます」
「そうですか」
「これからは守護獣よ。出でよと呼ぶだけで、
守護獣を召喚出来るようになりますが、
呼び出すのは1日に1回程度にしてください。
何度も呼び出すと、
守護獣が疲れてしまいますから気をつけてください」
「じゃあさ、アタシの守護獣も呼び出してくれる?」
そうリンが言った。
「はい、それでは円の中に入ってください」
そうしてリンが円の中に入る。
ルカルカァさんが呪文を唱えると、
現れたのは――なんと黒猫だった。
「これがアタシの守護獣?
可愛いじゃん」
「このドアホがぁぁー!!」
猫はリンに猫パンチを食らわせる。
「痛っ、何するんだよ!?」
「今日この時をどれだけ待ったことか!
アンタという奴は本当に!」
そう言うと猫はフンスッと鼻息を荒くさせる。
「いいかい、アンタには感謝というものが足りない!
それに生意気すぎる!
もっと周囲に感謝を伝えなさい!
ていうかアンタは釈放してくれたのに、
未だにセツナにお礼を言っていないだろう!
ほらお礼!」
「えっとセツナありがとう」
「気持ちがこもってない!
全くアンタという奴は!
そこに正座しな!」
そう言うと猫はガミガミとリンに説教をする。
「えーと、これは一体…」
「ああ、きっと今まで伝えたいことが山のようにあったのでしょう。
でも大丈夫です。
その人のためを思って言っているので、
言葉の裏には愛情がありますよ」
「そうですか」
「じゃあ次は私がやってもいいか?」
そうイオが言った。
「ええ、では円の中に入ってください」
そうしてルカルカァさんが呪文を唱えると、
現れたのは大きなクマだった。
「いつも守ってくれてありがとうなのだ」
「うん、イオ。
あなた最近子供達と時間が取れていないみたいだけど、
もっと子供と過ごした方が良いわよ」
クマはメスなのか女口調でそう言った。
「え? 確かに最近は急に出かけることが多いし、
子供達とはあまり接してないのだ」
「うん、でももっと家族と過ごした方が良いわよ」
「分かったのだ」
「じゃあ次は私ね」
そうエドナが言った。
「じゃあ円の中に入ってください」
そうしてエドナが円の中に入り、
ルカルカァさんが呪文を唱えると現れたのはフクロウだった。
「久しいな。エドナよ」
「あなたが私の守護獣なの?」
「そうじゃよ」
「いつも守ってくれてありがとう。
でも気になるんだけど、
守っていてくれるなら何で私って勘当されたのかしら」
「ふむそれはな…」
「…」
「ぐぅ…」
そう言うとフクロウは鼻提灯を出して眠った。
これにはエドナもずっこけた。
「ちょっと起きてよ」
エドナがフクロウを揺り動かす。
「ハッ、そうじゃのう。
お主が勘当されたのは本来の人生の予定図には無かったことだが、
今となってはそれで良いのじゃよ。
よく守護獣に対して誤解している者で、
守ってくれているなら不幸なことは何も起こらないと、
そう誤解している人間が居るが、
強い守護霊や守護獣が居っても、
不幸なことや予想外なことは起きるものじゃ。
実際セツナの守護獣の豆太殿はかなり強い守護獣じゃが、
そんな彼でもセツナを完全には守れなかった。
つまり守護霊や守護獣の守りは完璧ではないのじゃ」
「なるほど…それは理解出来る気はするわね」
「それにじゃ、強い守護霊や守護獣が居ても、
その守護を受けられない人間も居るのじゃ」
「守護を受けられない人間?」
「自分の人生を歩んでいない者じゃよ。
他人の言葉に影響されてあっちに行ったり、こっちに行ったり、
芯が無い人間には我ら守護獣も守りようがない。
例えるなら羅針盤が無い状態で船に乗って海に出るようなものじゃ」
「芯が無いって昔の私みたいですね」
私も異世界に来て色々な経験をして強くなったが、
昔の私は芯が無かったと思う。
周りに流されるままに生きてきた。
その状態って確かに危険かもしれない。
「それに自分の人生なのに常に他人のせいにしている人間も、
同じく守護霊や守護獣の加護は届かないのじゃ。
何故なら自分で責任を取らずに相手のせいにしていると、
守る守護霊や守護獣のモチベーションがすさまじく下がるからじゃ。
そして最終的には周囲の人間同様、
付き合って居られないと守護獣も守護霊も去って行くのじゃ」
ああ、確かにいつも他人にせいにしている人の側には居たくないよな。
モチベーション、つまりやる気が無くなるのも無理はない。
「去るってようは見捨てるってことですよね?
それはかわいそうな気もしますが」
「まぁ守護霊や守護獣が去るのは、
よほどのことをしない限り大丈夫じゃ。
大抵はリンのように罪を犯しても見捨てることはない。
本気で見捨てるのはよほどの理由がある時だけじゃ」
「そうですか」
「まぁそろそろ消える時間になってきたから言うが、
エドナよ。お主は昔は誰からも愛されていないと思っておるが、
それは違う。お主に愛情をくれる人間は今ではこんなに居る。
だから大切にしていくのじゃぞ」
そう言うとフクロウは消えた。
「分かっているわ。セツナありがとうね」
「はい、こちらこそありがとうございます」
「ところで次はフォルトゥーナかタツキよね」
「ああ、わたくしは神なので守護獣は最初から居ません、
タツキも多分同じだと思います」
「そっか、しかし守護獣と話が出来て楽しかったな」
しかし守護霊や守護獣って本当に居るんだな。
少し勉強になった一日だった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】
Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。
でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?!
感謝を込めて別世界で転生することに!
めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外?
しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?!
どうなる?私の人生!
※R15は保険です。
※しれっと改正することがあります。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!
猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる