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第4章起業しましょう。そうしましょう

258・守護獣

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「ところで赤き竜の尾という言葉に、
心当たりはありますか?」
「それはタロウの迷宮のことですか?」
「タロウの迷宮?」
「この島にあるダンジョンのことです。
タロウ様が集めた武器や防具などお宝が眠っていますが…。
かなりのトラップがあって、
入って帰ってきた者は今までいません」
「そうですか、じゃあそこに行こうと思います」
「いえ、それは止めてください!
あそこは危険です!」
「妾が居るから大丈夫じゃよ」
「しかし…分かりました…。
タツキ様がそう言うならそうします」
「とはいっても今日はもう遅いから、
今日はここで泊まって明日に行こうと思う。
宿の手配をしてくれ」
「すみません。宿はこの村には無いのです。
急いで準備するので待っていてください」

そう言うと翼族達は急いで宿の準備する。

「ところで翼族のみなさんはみんな動物を連れていますが、
どうして連れているんですか」
「わしは動物ではないぞ」
「え、リスが喋った!?」
「ああ、これはリスではありません。
守護獣と言います」
「守護獣?」
「人間を生きてから死ぬまで守る動物の霊です」
「守護霊と似てますね」

守護霊とはスピリチュアル好きでなくても、
聞いたことはあるだろう。
人間を守ってくれる霊のことだ。

「まぁ守護獣は守護霊の補佐をするのが仕事です。
例えば守護霊が怪我で動けない時に代わりに守ったりします
人間の霊が守護霊で、動物の霊は守護獣と言います」
「え、守護霊って怪我をするんですか?」
「基本的に守護霊や守護獣は、
私達を災難や怪我から守ってくれますが、
その時に怪我をしてしまうことがあります。
怪我をし過ぎると人間と同じように動けなくなるので、
そのために守護獣と交代で人間を守ってくれています」
「その怪我ってどうやったら治るんですか?」
「まぁ自然に治る場合もありますが、
心からの感謝をすると傷が癒えますよ」
「え、それってさ…」
「リンどうしたの?」

リンが浮かない顔をしていたので、私はそう聞いた。

「そのさ。周囲への感謝とか全くない人とかいるじゃん。
その場合守護霊や守護獣は、
ずっと傷ついたままってことになるよね?」

確かに言われてみるとそうだ。
居るんだよね。周囲へ全く感謝がなくて、
むしろしてくれるのが当たり前だと思っている人。
そういう人には心当たりがある。

「まぁ守護霊や守護獣は基本的に、
10人ぐらい交代で守っているので大丈夫です。
まぁでも人数が少なくなると、その分守りも薄くなります」
「そのもし全ての守護霊や守護獣が居なくなったらどうなるんですか?」
「その場合連続して不幸なことが起こります。
前に守護獣に高圧的な態度を取っている人がこの島に居たんですが、
ある日とうとう守護獣に見捨てられました。
しかもその守護獣だけでなく守護霊までもが彼を見捨てました。
その結果、とんでもなく不幸なことばかり起こるようになり、
彼は悲惨な死に方をしました」
「うわぁ…」
「まぁ守護霊や守護獣が、
見捨てるのはよほどのことがないとあり得ないので、
心配することはありません」
「そうですか、なら良かったです」
「まぁ守護霊や守護獣は人生の羅針盤のような存在です。
羅針盤も無い状態で航海したら、
不幸なことが起こるのは当たり前です」
「ところで守護獣って霊なんですか?
私、幽霊は苦手なんですが」
「まぁ霊とは言っても幽霊とは違います。
幽霊は成仏していませんが、
守護獣はちゃんと成仏しています。
なので幽霊と違って悪さをすることはあり得ません」
「そうですかならいいんですが」
「まぁ本来守護獣というのは、目には見えませんが、
守護獣にかりそめの肉体を与えると、
こうして目にも見えるようになりますし、
一緒に戦ってもくれます」
「それって私にも出来るようになりますか?」
「はい、出来ますよ。
本来であればこれは門外不出の技ですが、
あなた方には特別にお見せましょう」

そう言うとルカルカァさんは地面に魔方陣を描いていく。

「はい、出来ました。
この円の中に入ってください」
「はい」

そうして私は円の中に入った。

「これから守護獣を召喚しますが、
くれぐれも傲慢な態度では接しないようにしてください。
あくまで対等な友人として接してください。
そして守護獣に出会ったら、まず最初にお礼を言ってください。
守護獣は自分の身を削ってあなたを守ってくれていますからね。
では行きます」

そう言うとルカルカァさんが呪文を唱え始めた。
そうすると魔方陣が光輝き、そこに現れたのは――。

「え?」

1メートルはある大きな茶色の犬だった。
犬種は豆柴に似ていた。

「か、可愛い」
「お礼を言わないといけないんじゃないの?」
「あ、そうだ。いつもありがとうございます」
「………」

しかし豆柴は無言だった。

「あのどうしたんですか」
「セツナよ。拙者はお主に合わせる顔が無い…」
「え、何でですか?」
「お主がこの世界に迷い込んだのは、
全ては拙者の落ち度にござる。
…故に合わせる顔がない」
「どういうことですか?」
「拙者の名前は豆太にござる。
拙者の主は武士でお主の先祖だったにござる。
その主は拙者のことを可愛がってくれた。
そして死後、拙者は海道家を守る守護獣となった。
しかし拙者にも予想外なことがあった。
お主が間違ってこの世界に迷い込んでしまったのだ」
「え、どういうことですか」
「人は生まれる前に自分の人生を決めて生まれる。
しかし異世界に行くことは、
お主の本来の人生の予定図には無かったのだ」
「そうなんですか?」
「お主は本来であれば異世界に行くことは無かったのだ。
普通に大学に進学し、そこで出会った男と結婚し、
子供を産んで幸せに暮らす予定だったにござる。
しかしお主は異世界来てしまった。
これは拙者の落ち度だ」
「そんな、気にしないでください」
「守護獣というのは守護霊の補佐をする仕事にござる。
通常の人間には守護霊と守護獣は10人ほどつく、
しかしお主の場合は異世界に行くのが、
あまりの突然の出来事だったため、
他の守護霊はついていけなかったにござる。
ついてこれたのが拙者しかいなかったのだ」
「え、今もそうなんですか」
「今お主の守護霊はヒョウム国に居た時に、
出会った人物がやってくれているから大丈夫ではある。
しかし守護獣というのはその身を削ってお主を守る存在にござる。
それがもし居なくなったら、不幸なことが連続して起こる。
しかし拙者1人ではお主を守ることが難しかった。
故にお主を不幸にさせてしまったにござる」

あー、だからこの世界に来た時の私って不幸だったんだ。
妙に納得した。

「そんなの全然、守護獣さんのせいじゃありませんよ。
それに10人分の仕事を1人でやってくれていたんでしょう?
感謝はしても、責めることはないです」
「しかしお主が不幸だったのは拙者の落ち度だ。
拙者がもっと注意していればこんなことには…」
「でも私はこの世界に来て良かったと思っていますよ。
まぁ色々と不幸な目には遭いましたが、
でもそのおかげでエドナ達と出会えました。
だからこの世界に来たことを後悔していません」
「うぅ、そうお主に言って貰えると救われた気分になる」

そう言うと豆太は消えた。

「あれ消えましたけど」
「ああ、魔法の効果が切れたんでしょう。
守護獣は何度も呼び出すことで、
具現化出来る時間が延びていくので、
初めてなら10分ぐらいで消えてしまいます」
「そうですか」
「これからは守護獣よ。出でよと呼ぶだけで、
守護獣を召喚出来るようになりますが、
呼び出すのは1日に1回程度にしてください。
何度も呼び出すと、
守護獣が疲れてしまいますから気をつけてください」
「じゃあさ、アタシの守護獣も呼び出してくれる?」

そうリンが言った。

「はい、それでは円の中に入ってください」

そうしてリンが円の中に入る。
ルカルカァさんが呪文を唱えると、
現れたのは――なんと黒猫だった。

「これがアタシの守護獣?
可愛いじゃん」
「このドアホがぁぁー!!」

猫はリンに猫パンチを食らわせる。

「痛っ、何するんだよ!?」
「今日この時をどれだけ待ったことか!
アンタという奴は本当に!」

そう言うと猫はフンスッと鼻息を荒くさせる。

「いいかい、アンタには感謝というものが足りない!
それに生意気すぎる!
もっと周囲に感謝を伝えなさい!
ていうかアンタは釈放してくれたのに、
未だにセツナにお礼を言っていないだろう!
ほらお礼!」
「えっとセツナありがとう」
「気持ちがこもってない!
全くアンタという奴は!
そこに正座しな!」

そう言うと猫はガミガミとリンに説教をする。

「えーと、これは一体…」
「ああ、きっと今まで伝えたいことが山のようにあったのでしょう。
でも大丈夫です。
その人のためを思って言っているので、
言葉の裏には愛情がありますよ」
「そうですか」
「じゃあ次は私がやってもいいか?」

そうイオが言った。

「ええ、では円の中に入ってください」

そうしてルカルカァさんが呪文を唱えると、
現れたのは大きなクマだった。

「いつも守ってくれてありがとうなのだ」
「うん、イオ。
あなた最近子供達と時間が取れていないみたいだけど、
もっと子供と過ごした方が良いわよ」

クマはメスなのか女口調でそう言った。

「え? 確かに最近は急に出かけることが多いし、
子供達とはあまり接してないのだ」
「うん、でももっと家族と過ごした方が良いわよ」
「分かったのだ」
「じゃあ次は私ね」

そうエドナが言った。

「じゃあ円の中に入ってください」

そうしてエドナが円の中に入り、
ルカルカァさんが呪文を唱えると現れたのはフクロウだった。

「久しいな。エドナよ」
「あなたが私の守護獣なの?」
「そうじゃよ」
「いつも守ってくれてありがとう。
でも気になるんだけど、
守っていてくれるなら何で私って勘当されたのかしら」
「ふむそれはな…」
「…」
「ぐぅ…」

そう言うとフクロウは鼻提灯を出して眠った。
これにはエドナもずっこけた。

「ちょっと起きてよ」

エドナがフクロウを揺り動かす。

「ハッ、そうじゃのう。
お主が勘当されたのは本来の人生の予定図には無かったことだが、
今となってはそれで良いのじゃよ。
よく守護獣に対して誤解している者で、
守ってくれているなら不幸なことは何も起こらないと、
そう誤解している人間が居るが、
強い守護霊や守護獣が居っても、
不幸なことや予想外なことは起きるものじゃ。
実際セツナの守護獣の豆太殿はかなり強い守護獣じゃが、
そんな彼でもセツナを完全には守れなかった。
つまり守護霊や守護獣の守りは完璧ではないのじゃ」
「なるほど…それは理解出来る気はするわね」
「それにじゃ、強い守護霊や守護獣が居ても、
その守護を受けられない人間も居るのじゃ」
「守護を受けられない人間?」
「自分の人生を歩んでいない者じゃよ。
他人の言葉に影響されてあっちに行ったり、こっちに行ったり、
芯が無い人間には我ら守護獣も守りようがない。
例えるなら羅針盤が無い状態で船に乗って海に出るようなものじゃ」
「芯が無いって昔の私みたいですね」

私も異世界に来て色々な経験をして強くなったが、
昔の私は芯が無かったと思う。
周りに流されるままに生きてきた。
その状態って確かに危険かもしれない。

「それに自分の人生なのに常に他人のせいにしている人間も、
同じく守護霊や守護獣の加護は届かないのじゃ。
何故なら自分で責任を取らずに相手のせいにしていると、
守る守護霊や守護獣のモチベーションがすさまじく下がるからじゃ。
そして最終的には周囲の人間同様、
付き合って居られないと守護獣も守護霊も去って行くのじゃ」

ああ、確かにいつも他人にせいにしている人の側には居たくないよな。
モチベーション、つまりやる気が無くなるのも無理はない。

「去るってようは見捨てるってことですよね?
それはかわいそうな気もしますが」
「まぁ守護霊や守護獣が去るのは、
よほどのことをしない限り大丈夫じゃ。
大抵はリンのように罪を犯しても見捨てることはない。
本気で見捨てるのはよほどの理由がある時だけじゃ」
「そうですか」
「まぁそろそろ消える時間になってきたから言うが、
エドナよ。お主は昔は誰からも愛されていないと思っておるが、
それは違う。お主に愛情をくれる人間は今ではこんなに居る。
だから大切にしていくのじゃぞ」

そう言うとフクロウは消えた。

「分かっているわ。セツナありがとうね」
「はい、こちらこそありがとうございます」
「ところで次はフォルトゥーナかタツキよね」
「ああ、わたくしは神なので守護獣は最初から居ません、
タツキも多分同じだと思います」
「そっか、しかし守護獣と話が出来て楽しかったな」

しかし守護霊や守護獣って本当に居るんだな。
少し勉強になった一日だった。

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