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第4章起業しましょう。そうしましょう

244・ダンジョンへ

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それから屋敷を出てダンジョンに向かうことにした。

「ねぇここに本当にダンジョンがあるのー?」

そうリンが疲れたようにそう言った。
まぁそれも無理も無いダンジョンがあるとされているのは、
マイアの近くにあるジャングルの奥地だからだ。
ジャングルは全く整備されておらず、
完全に獣道と化していた。
しかも虫が多く、
さっきから虫に刺されたり、虫が体についてきたりしてきた。

「しかし暗くなってきましたね。
今日はここで休みましょう」

そうして小さな池の近くで休むことにした。

「はぁやっと休めるよ」

リンが疲れたようにそう言った。
私はアイテムボックスから薪を取り出し、
それに火を付ける。
そして鍋を取り出し魔法で水を作って鍋に入れて、
そこに野菜や肉などを入れて煮る。

「今日は豚汁です」

そう言って炊飯器をアイテムボックスから取り出す。
こうして野営した時に、
すぐに食べられるように事前にお米を炊いておいたのだ。
ほかほかに炊けたご飯を茶碗に入れていく。

「ふむ、セツナよ。
お主が作る料理は絶品じゃな」
「それはそうと明日ぐらいには着きそうですか?」
「そうですね。明日にはダンジョンに着くと思います」
「しかしこんな獣道を歩く羽目になるとはね」
「リンは体力はあまりないみたいですね」
「当たり前だって、アタシは頭脳労働が専門だからね。
体力にはそんなに自信はないよ」

そうリンは言った。

「とにかく明日ダンジョンに行きましょう。
私ならダンジョンの管理人も話を聞いてくれるでしょうから」
「しかしセツナよ。
ダンジョンに入って、
帰ってこなかったという冒険者のことが気にならぬか?」
「ああ、でも生存している可能性は低いでしょうね」

ダンジョンに入った冒険者というのは、
どうも自分達にもダンジョンが変えられると思って入ったらしい。
しかしダンジョンに入ることは本来は自殺行為だ。
入って1週間以上は経っているらしいから、
生存している可能性は低いだろう。

「じゃが妾がもし管理人だとしたら、
ダンジョンを変えると言ってくるなら、
話ぐらいは聞こうと思うじゃろう。
しかし冒険者達は帰ってこなかった。
これは何かおかしい。
おそらく今回のダンジョンは一筋縄ではいかないじゃろう。
そんな予感がする」
「そうですか、とにかく食べたら早めに眠りましょう」

そうしてその日は早めに休むことにした。





「ぎゃー!!!」

そんな悲鳴で目を覚ました。

「何かあったんですか!?」

そうして声のした方を見ると、リンが全裸で池にいた。

「何しているんですか?」
「いや、汗かいたから水浴びしようかなって思ったら、
ヒルが出て」

そうリンの足にはヒルが数匹ついていた。
私はそれを取ってあげた。

「お風呂に入りたいなら、いつでも入れますよ」
「いや、それはさすがに無理――」
「えい」

私はそう言うと猫足バスタブを取り出す。

「へ?」
「これに水魔法でお湯を入れたら、
いつでもお風呂には入れますよ」
「………あのさ。
冒険者なのに! いつでも風呂に入れるって!
明らかに! それはもう! おかしいから!」
「そうなんですか?」

そう言うと頭が痛いのかリンは頭を押さえた。

「あのね…。知らないみたいだから言うけど、
冒険者っていうのは冒険中は風呂には入れないのが普通なんだよ」
「そうなんですか?」
「そう、そもそも風呂なんて貴族しか入らないのが普通だし、
普通の冒険者に縁は無いよ。
食事も干し肉とか乾燥させたパンとか食べてたな。
それを考えるとアンタの持つ力は本当にすごいよ」

そう言ってリンは服を着た。
お風呂には入る気は無さそうだったので、
猫足バスタブはアイテムボックスにしまった。

「ふぁぁ、何の騒ぎなのだ?」

そう目をこすりながらイオがそう言う。
その姿も可愛かった。

「イオ、何でもありません。
それより朝食を食べましょう」

それから朝食を取って、ジャングルの中をひたすらに進む。
そうしているとダンジョンを見つけた。

「えっとこれがダンジョンですか?」

そのダンジョンにはツタが大量に巻き付いていたが、
確かにダンジョンだった。

「入りましょう」

そうしてみんなでダンジョンに入ると、
本来ダンジョンではバラバラになるはずなのに、
何故か別れることなくみんなダンジョンの中に居た。

「あれバラバラになりませんでしたね」
「それより管理人はおるのか」
「すみませんー。
管理人さーん! 居ますかー!」

しかし管理人が出てくる気配はない。

「おかしいですね。
いつもはすぐに現れるのに」

今までの管理人達は私がダンジョンに入るとすぐに現れた。
なのに今回は出てこない。

「とにかく先に進もう」

そうしてダンジョンを進むと不思議なことに魔物は1匹も遭遇しなかった。
道も一本道だった。
そうして歩いていると開けた場所に出た。
そこに1人の人間がいた。

「で、えーと、これがこうなるから、こうなって、
あれが、こうなるから、この計算が成り立つ…」

そうぶつぶつ言っているのは少女…に見えた。

「あのー?」
「え、君達誰?」
「!?」

そこに立っていたのは、赤い目と黒い白目をした魔族だった。
髪の色は赤紫だった。
頭には角が二本生えていて、
体はかなり小柄で、容姿はかなり可愛かった。
そしてぶかぶかの白衣を着ていた。

「あなたは魔族ですか!?」
「そうだけど、君達は誰?」
「私は冒険者のセツナ・カイドウと言います」
「そうボクはリリム・プロムナード。
リリムって名前は嫌いだから、プロムナード。
もしくはプロムとでも呼んでくれたらいいよ」
「えっとプロムさん、
何で魔族のあなたがこんな所に居るんですか?」
「いや、それはこっちのセリフだよ。
ボクの家に冒険者が何の用なわけ?」
「家? ここはお主の家なのか?」

そうタツキが言った。

「そうだよ。で、冒険者がまた何の用なわけ?
人の自宅に土足で上がり込んで、何様のつもり?」
「えっとダンジョンが自宅なんですか?」
「そう、ここで1人で研究していたのに、
ずかずかと土足で踏み荒らされたら困るんだよ」
「不愉快にさせたら申し訳ありません。
私達はこのダンジョンに入って、
行方不明になった人を探しているんです。
決してあなたの自宅を荒そうとしてきたわけではありません」
「行方不明になった人?
あー、あの冒険者達かな」
「知っているんですか?」
「ああ、彼らなら生きているよ」
「そうですか、良かったです」
「ボクのモルモットになってもらったよ」

そう邪悪な笑みを浮かべてプロムがパチンと指を鳴らす。
すると、天井に穴が空き、
そこからべちゃと音をさせて奇妙な生物が落ちる。
それは人の体にタコのような生物が混じった姿をしていた。

「これは…?」
「ボクの家に入ってきた奴らだよ。
いやーちょうど良かったよ。
モルモットが欲しいなーって思っていたら、
ちょうど良いのが来たんだから」

そうケラケラとプロムは笑う。

「まさかこれは侵入してきた冒険者達なのか!?」

タツキが驚愕したようにそう言った。

「そうだよ。
ボクのモルモットになってもらったんだよ」
「酷いのだ! 元に戻すのだ!!」

イオがそう叫んだ。

「酷い? 他人の家にずかずかと、
侵入してくる方が酷いと思うけどね。
それに元に戻せって言うけど、それは無理だよ。
紫の絵の具から赤だけ取り出すのが無理なように、
こうなってしまったからには、もう元には戻らないよ」
「何て酷いことを…、プロムさん、いやプロム。
あなたをこのままにしてはおけません。
あなたを討伐します」
「へぇそっかじゃあ、こっちも本気出すよ」

そう言うとプロムは手元の機械を操作する。
すると私達の足下の地面が消失し、
私達は暗闇に飲み込まれたのだった。
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