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第4章起業しましょう。そうしましょう
225・新たなる波乱
しおりを挟む「クソッ! 何で僕がこんな目に!!」
ラザルスは酒場でそう叫んだ。
「全部『金色の黎明』のせいだ。
あいつらに関わったから不幸になったんだ…!」
ラザルスはかつてとある冒険者チームのリーダーだった。
エディという少年と、他の女性3人と一緒に冒険者をやっていた。
エディという壁役が居たおかげで、
ラザルスは駆け上がるように冒険者ランクを上げていった。
そしてそんな彼に群がるように女が集まってきた。
ラザルスは有頂天になりたくさんの女を抱いた。
抱いて抱いて抱きまくった。
自分の欲望の限りを女達にぶつけた。
その中にはラザルスの子供を孕んだ女も居たが、
何故かその女達がラザルスに文句を言ってくることは無かった。
まぁそれはエディが影で、
孕ませた女達に養育費を払っていたからなのだが、
それをラザルスは知らなかった。
美形の自分の美しさに女達は許してくれたのだと思っていた。
しかしそんな幸福も長くは続かなかった。
ある日ラザルスはフォルトゥーナという『金色の黎明』の回復術士に、
チームに入らないかと勧誘したが、「醜い」と言われ断られた。
醜いなどとラザルスの人生で言われたことなど一度としてない。
それはラザルスので味わったことのない屈辱だった。
そんな時エディが信じられないミスをしてしまった。
その苛立ちをエディにラザルスは向けてしまい、
勢いのあまりクビだと言ってしまった。
後になってさすがにエディを失うのはまずいと思い、
エディに謝ったが、エディがラザルスの元に戻ることは無かった。
そしてラザルスの人生はエディをクビにしてから全ておかしくなった。
ある日ギルドに行くと養育費が支払われていないと、
以前子供を妊娠させた女が殴り込みに来た。
養育費など一度もラザルスは払ったことはない。
だから何のことなのかさっぱり分からなかった。
しかも最悪なことに女はラザルスと自分が関係を持って、
子供が居ることを大声で喋った。
それを聞いたラザルスと同じチームの女性達は、
どういうことかと詰め寄ってきた。
実はラザルスは同じチームの3人の女性全員と恋人関係にあった。
早い話が3股していたのである。
それぞれに恋人であることは秘密にしていたが、
それがバレてしまい、恐ろしい修羅場と化した。
結果、女性3人はラザルスを見限り、ラザルスは1人になった。
1人になってラザルスが思ったのは、
自分1人では何も出来ないということだ。
ラザルスは簡単な結界魔法しか扱えない。
今まで何とかなってきたのは、エディが壁役をしてくれたのと、
他の仲間がサポートしてくれたからだ。
その支えてくれる仲間が全て居なくなり、
ラザルスは孤独になっていた。
冒険者として仕事をしようにも、
簡単な結界魔法しか使えない自分では魔物の一匹も倒せない。
他の冒険者と組もうにも、3股していたことや隠し子がいることが、
すでに大きく知れ渡ってしまったため、
ラザルスと組む冒険者は居ないどころか、
冷たい目で見られるはめになった。
結果的に来ていた指名依頼がこなせず、
多額の違約金を払うことにもなり、
あれだけ群がっていた女もラザルスに金が無くなったと知ると、
みんな去っていった。
何故こうも上手くいかなくなってしまったのか、
その時ラザルスは『金色の黎明』のセツナ・カイドウが、
禍福の女王と呼ばれていることを思い出した。
禍福の女王。関わるだけで善人なら幸福に、悪人なら不幸になる存在。
だとすれば自分が不幸になったのは、
全部『金色の黎明』のせいだとラザルスは思っていた。
「くそぉ、こうなったのは全部『金色の黎明』のせいだ。
あいつらに関わったから不幸になったんだ!
だからみんな僕を裏切ったんだ!」
そして今日もラザルスは酒場で酒を飲みながら、
『金色の黎明』への恨み言をこぼす。
すると近づいてくる者が居た。
「おやおや穏やかではないですね」
そう言ったのは黒衣の男だった。
両目を黒い布で隠していた。
「何だお前は?」
「こんばんわ。ワタシは『小説家』という者です。
あなたは『金色の黎明』に激しい恨みを抱いているようですねぇ。
いっそのこと復讐してみませんか?」
「復讐だと?」
「ええ、そうすればきっとあなたは前と同じように、
…いいえ、前以上に冒険者として活躍出来るでしょう」
「ああ、復讐したい!
『金色の黎明』に!」
「ふふふ、ではついてきてください」
そうして酒場を出て、『小説家』の後を追う。
そうすると人気の無い郊外にたどり着いた。
「ここで良いでしょう」
「何をするんだ?」
「ここにダンジョンを作ります」
「は?」
ラザルスは頭が大丈夫かと思った。
ダンジョンはそう簡単に作れるようなものではない。
「ダンジョンなんて人の手で作れるわけないだろ」
「作れますよ。そもそもあなたはダンジョンの仕組みをご存じですか?」
「え、そんなの知るわけがないだろ」
「ダンジョンというのは、超古代文明アトランティスの娯楽施設です。
どんな娯楽施設かというと、
RPGのような体験を実際にしたい。
ハラハラした戦闘がしてみたい。
そんな人々の欲求を満たすためにダンジョンは作られました。
まぁいわばダンジョンというのは、
遊園地にあるジェットコースターのように、
ハラハラした体験が出来る娯楽施設なのです」
「???」
『小説家』の言っている言葉の意味はラザルスにはほとんど理解出来なかったが、
人々の娯楽のために作られたということは分かった。
「でも娯楽施設にしてはダンジョンは危険があるんじゃないか」
「それは大丈夫ですよ。
アトランティスでは実際にダンジョンに入るのはロボットでしたから」
「ろぼっと?」
「遠隔で操れる機械人形のようなものです。
それを使ってアトランティスの人々は、
ロボットをダンジョンに送り込み、
遠隔でロボットを操って、
どこまで行けるかチャレンジしていたようです」
「ようするにアトランティス人は、
ダンジョには生身では入っていないってことか?」
「そうですね。生身ではあまりに危過ぎるので、
ロボットを使っていました。
ロボットを強化したりカスタマイズしたり、
魔力を込めて魔法を使わせたり、
当時のアトランティス人の中では、
ダンジョンに入ることが1つのステータスになっていました」
「そうだったのか」
「まぁあまりに人気過ぎて、かなりの数が作られましたけどね。
ただ今も稼働している物はかなり少ないです。
まぁダンジョンの中には極悪過ぎる難易度のものもありますが、
これは難しければ難しい程、
クリアした時の達成感があるからというのが理由のようです」
「そうなのか、で、その話がどう復讐に繋がるんだ?」
「実はですね。ダンジョンというのは本来は持ち運びは出来ませんが、
家庭用に作られたダンジョンというのも確かに存在しています」
そう言うと『小説家』は何かのキューブのような物を取り出す。
それを放り投げると、ダンジョンが現れた。
「これは…!?」
「こんな感じでダンジョンは現れました。
まぁ家庭用に作られたダンジョンなので、
普通のダンジョンよりも階層が少なくて、
ラプラスのような管理人は居ませんがね」
「でも何でダンジョンを生み出すことが僕の復讐になるんだ?」
「このダンジョンの存在を知ったギルドは、
きっとセツナ達を派遣することでしょう。
あなたはダンジョンの奥で彼女達を待てばいいのです」
「え? だが僕ではとてもあいつらには勝てない…」
「強くなる方法はあります。
これを飲めばいいのです」
そう言って『小説家』は何かの錠剤のような物を見せた。
「これは魔変薬といって、
これを飲めばすぐに強くなれますよ」
「よし、分かった」
そうしてラザルスは迷わず錠剤を飲んだ。
「うっ、体が痛い…」
体の細胞がきしむ音がした。
それと同時に激しい痛みがラザルスを襲う。
「ああ、言い忘れていましたが、
この薬を飲むと人間では居られなくなるんです。
人というより魔物に近くなります」
「ぐ、がぁああ!!」
『小説家』の言葉は最早ラザルスには届いていなかった。
すさまじい激痛のせいでそれどころでは無かった。
それから数十分後、ラザルスの体からようやく痛みが消えた。
「うっ…」
ラザルスが自分の体を見ると異形の姿に変わっていた。
「ガガ…力がミチル。そうかボクは人で無くなったのか」
「どうですか、人で無くなった感想は?」
「はハハ、悪くないキブンだ」
「ではこのダンジョンの奥で『金色の黎明』を待ちなさい」
「分かった。ボクはダンジョンでヤツを待つ。
ソウダ。もう4人復讐したヤツがいるこをワスれてた。
エディ、そして仲間だった女達あいつらにも復讐しないとなぁ。
ボクを裏切ったんだから」
そう言うとラザルスは飛んでどこかに行った。
「期待してますよ。ラザルス」
そう言うと『小説家』はその場から消えた。
そしてセツナ達の知らないところで新たな波乱の始まりが来ようとしていた。
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