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第4章起業しましょう。そうしましょう
224・芸術家の悩み
しおりを挟む石化騒動の犯人が捕まった次の日、
私は『金色の黎明』のメンバーと一緒にギルドに来ていた。
「おかえりセツナ。無実だって分かって良かったね」
そう受付嬢のイザベラが言った。
「本当に酷い目に遭いましたよ」
「しかしセツナってもし犯人じゃなかったら、
あのギルって警察官に裸で町を1周するように約束してたんだよね。
いやー、走ってる所を見たけど、なかなか立派なものを持ってたよ」
そう冗談っぽくイザベラは言った。
「それよりこの町で一番絵が上手い人って誰ですか?」
チコの村に居たデビン君の才能は、
そのままにしておくにはあまりに惜しい。
なので絵が上手い人にデビン君の絵を見せることにした。
「え、それならトマスさんじゃないかな。
なんでも実物みたいにそっくりな絵が描けるらしいよ」
「分かりました。教えてくれてありがとうございます」
それからギルドの依頼をちゃちゃっと解決すると、
トマスさんの家に行ってみることにした。
「ここが家みたいですね」
「でもいきなり行って大丈夫かしら」
そう思ってドアをノックしようと思った時だった。
「ふざけるな。何だこの絵は!」
そんな怒鳴り声が聞こえたので窓を覗くと、
1人の身なりの良い男が、もう1人の男を怒鳴っていた。
「こんな絵、認められるか!
次に来る時はもっとましな絵を描くんだな!」
そう言うと身なりの良い男は絵を踏んづけて、
怒りの表情のまま、ドアを開けて家を出て行った。
「そんな…。一体何が気に入らないんだ…」
「あの大丈夫ですか」
「え、あなた達は?」
「私は『金色の黎明』のセツナ・カイドウです。
トマスさんですよね。
ちょっとお話させてよろしいですか」
「あ、はい、中へどうぞ」
そうして中に通されると、中はアトリエになっているのか、
たくさんの絵が置いてあった。
どれも写真かと思うほどに精巧に描かれている。
「この絵ってあなたが描いたものですか?」
「はいそうです」
「まるで実物みたいです。すごいですね」
そう言うとトマスさんは涙をこぼした。
「いいえ、僕なんて精巧に描けるだけで、全然ダメで…」
「何があったんですか、喋ると楽になりますよ。
話してみてください」
「実はさっきの貴族から肖像画を描いてほしいと依頼を受けたんです。
でもその肖像画がその人は気に入らないみたいで、
何度描いても描き直しを求められるんです。
一体この絵の何が気に入らないのか分からないんです」
そう踏んづけれた絵にトマスさんが触れる。
その絵は確かに写真のように精巧に描かれていた。
これを何でボツにするんだ?
「普通に上手じゃない、何でこれがボツなの?」
「うん、綺麗に描けているのだ」
「確かに精巧に描かれているけど…何が気に入らないんだろう?」
「ふむ、不思議じゃな」
「あー原因が分かりました」
その時フォルトゥーナが何か気がついたようにそう言った。
「え、分かったの」
「この肖像画を実物よりもイケメンに描けばいいんですよ」
「え、それだと肖像画じゃないんじゃ…」
「肖像画だからですよ。後々まで残る物は、
多少美化した方がいいんですよ」
「なるほど、その発想はありませんでした!
さっそくそのように絵を描いてみます!」
「あ、その前にこの絵を見てほしいんですが」
私はデビン君が描いた絵を見せる。
「こ、これは…」
「どうですか?」
「これは素晴らしいですね。
これを描いた人は絵の才能がありますよ」
「それデビン君っていう男の子が描いた絵なんですよ。
誰からも絵を教わっていないのに描けたみたいで、
彫刻とかも出来るみたいです」
「ふむ、その子は本格的に絵の勉強をした方がいいですね。
ひょっとしたら歴史に残る画家になるかもしれません。
その子に会わせてくれませんか?」
「良いですよ」
それから転移魔法でチコの村の広場に移動した。
「ん? この石像は!?」
トマスさんがデビン君の作った石像を見て言葉を失った。
「ああ、それはデビン君が作ったんですよ」
「これを子供が作ったんですか!?
大人でもこれだけの物は作れませんよ!」
トマスさんはデビン君の才能に驚いているようだった。
その間に村人に頼んで、デビン君を呼んで来てもらった。
「えっと何の用?」
「君がデビン君だね。
どうかな僕と一緒にアアルで絵の勉強をしてみないかい?」
「え?」
「君の才能はこのままにしておくのはあまりに惜しい。
どうかな。悪い話じゃないと思うんだけど」
「でもお父さんとお母さんが村から出るのはダメだって…」
「じゃあ、そのご両親に会わせてくれないかな」
「分かった。呼んでくるよ」
そうしてしばらくしてデビン君のご両親がやってきた。
「息子を連れて行くというのは本当ですか?」
「はい、デビン君の才能はこのままにしておくのはもったいないです」
「しかしデビンと離れるのは嫌なんです。
この子はずっと子供が出来なかった私達が、
やっと授かった子供なのです。
せめて大人になるまで待っていてくれませんか」
うーん、子供と離れたくない親心は分かるが、
デビン君の才能はこのままにしておくにはあまりにもったいない。
「それならご両親もアアルに来たらどうですか?」
「え、私達がアアルに?」
「ええ、衣食住は保証するのでどうですか?」
「しかしこの家には先祖から授かった畑もありますし、
そうそう離れるわけには…」
「じゃあそれなら僕がチコの村に移住します」
「え、トマスさんそれでいいんですか?」
「ええ、実は面倒な貴族から依頼を受けることも多くて困っていたんです。
今ある絵の依頼を全て解決したら、チコの村に移住しようと思います」
「それなら問題は解決ですね」
それからトマスさんは肖像画をイケメンに描いて、
例の貴族を満足させることが出来たらしい。
そしてチコの村に移住して、デビン君に絵の勉強をさせると、
デビン君はさらに才能を開花させたらしい。
それまで絵を習ったことがない村人にもトマスさんが絵を教えたので、
描いた絵を荷馬車に積んで近くの町で売ると、
あっという間に完売するほど人気となり、
チコの村は芸術の村として発展することになったのだった。
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