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第4章起業しましょう。そうしましょう

203・ゼロの忠告

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怪盗騒動の数日後、
私達はアアルの自宅に戻ってきていた。

「しかし怪盗が仲間になるなんてね。
あなたの仲間って本当に個性的ね」

そうエドナが言った。

「それはいいけど保釈金のために借金して大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。きっと」
「あなたの大丈夫は信用できないのよね」

そうエドナが心配したように言った。
確かにリンの保釈金の大半は借金して払ったものだ。
合計で5つの金融会社から借金した。
まぁAランク冒険者なので信用されたのか、
無担保でお金が借りられた。
これからぼちぼち借金を返していかないといけないだろう。

「でも良かったの?
アタシのために借金までして…」

リンがそう言った。

「良いんですよ。きっと何とかなります」
「アンタって本当に変わってるよ。
アタシを助けてアンタに何のメリットがあるんだい?」
「うーん、私は単純に嫌なんですよ。
不幸になった人がさらに不幸になるのは、
不幸になった分幸せになってほしいんです」
「そうか、アンタって本当に変わってるね」
「まぁ保釈金を払うのにも条件がありまして、
Aランク冒険者である私達が面倒を見て監視すること、
それが釈放の条件でしたから、逃げたりしないでくださいね」
「そんなことしないよ。
恩人であるアンタの顔に泥は塗らないさ」
「ところで気になったのだが、
アーブの家族はどうなったのだ?」

そうイオが言った。

「ああ、アーブさんは死んだので、
息子さんが代わりに領主になるそうです」

テミスの領主だったアーブさんは亡くなったらしい。
そして驚くべきことに、アーブさんの日記が部屋から見つかり、
そこにリンの父を無実の罪にきせたと書かれていた。
それを知ったアーブの息子さんはこの日記を公開し、
リンの父の無実を世間に公表した。
そのおかげでリンは父の汚名をそそぐことが出来た。

「まぁでもアーブさんの息子さんはまともな人みたいで良かったです。
まだまだ風当たりはきついですけど、彼なら何とか出来るでしょう」
「それはいいけど、リン。
お前大罪の霊符をどこで手に入れたんだ」

そうガイが言った。
ちなみにガイの姿はリンに見えるように設定しておいた。

「ああ、変な男に貰ったんだよ。
確か自分のことを『小説家』って言ってた」
「えっと職業のことじゃなくて名前が『小説家』ってことですか」
「そうみたいだよ。
アタシが盗んだ宝を金に換えてくれたのも、
その『小説家』だよ。
まぁ盗んだ宝を金に換える条件が、
詮索しないことだったから、
どこの誰でどういう人だったのかは知らないけど」
「一体何の目的でリンに近づいたのか謎ですね」
「謎と言えばアーブが出した魔物って、
どうやって召喚したんだろうな」
「うーん、もう本人は死んでしまいましたし、
真実は闇の中ですね」
「それはいいですが、リン、大罪の霊符は使えば魂を消耗するんです。
だからあんまり使わないでください」
「大丈夫だよ。必要な時しか使ってなかったから」
「ならいいんですけど」
「それよりちょっと聞きたいことがあるんだけど」

そうエドナが言った。

「何ですか?」
「ゼロ、出てきてくれない」
「あ、何だ?」

俺、ゼロはセツナと人格を交代した。

「みんなに説明しておきましょう。
この人はゼロ、セツナのもう1つの人格よ」
「え? もう一つの人格?」
「実はセツナの中にもう二人、人が居るのよ。
で、彼はゼロよ」
「そういうことだ。よろしくな」

俺は仲間達に人格が3つになったことを説明する。

「よくわからないが、
ゼロはセツナ様ではないということか?」

そうクライドが言った。

「うーむ、神の中にも、
1つの体に複数の人格を持つ神もいると聞きました。
実際ゼロは心を読んでもセツナとは別人です」

そうフォルトゥーナが言った。

「まぁ分かりやすく言えば、
セツナの体の中に3人の人間がいるって感じだな。
ま、俺達の場合は普通の多重人格とは違っているがな」
「どう違うの?」
「これはセツナは全く気がついていないことだが、
セツナは海道刹那では無いんだ」
「え? どういうこと?」
「正確に言うとヒョウム国に居た時とは別人ってことだ」
「ヒョウム国?」
「実はな…」

俺はリンにセツナがヒョウム国で何が起こったのか簡単に説明する。

「なるほど、そんなことがあったのか」
「元々のオリジナルの刹那は度重なるカルマ転移術で、
魂が崩壊寸前になっていた。
それを地獄の神アビスが復元した。
ここまではお前らが知っている通りだ。
だが、元のオリジナルの海道刹那と、
魂を修復された今のセツナは違う。
全くの別人なんだ」
「つまり修復された前と後では違うってこと?」
「そうなるな。
崩壊寸前になったセツナの魂は、
とある別の人物の魂を使って復元された。
だから復元された前と後では全く魂が違うんだ」
「え、誰の魂を使ったの?」
「地獄神にとって大切な奴だよ。
地獄神がセツナを気にかけるのは、
大切な人物の魂をセツナの魂の補強に使ったからだ」
「え、大切な人ならどうして、
補強に使ったりしたの?」
「さぁな。そこまでは知らんが、
その人物の魂をセツナの魂の補強として使ったということは、
今のセツナは日本に居た時の海道刹那と同じじゃない。
海道刹那の記憶を持った別人なんだ」
「そんなことが…」
「お前らも疑問に思ったことはないか。
何故あれだけ迫害されてきたのに、
セツナはこの世界を憎まないのか、
それは今のセツナが元々の海道刹那ではなく、
補強に使われた別の人物の魂の影響を強く受けているからだ」
「つまりそのおかげでセツナは明るいというわけね」

まぁ俺はどんな奴か会ったこともないが、
きっとセツナの魂の補強に使われた魂の持ち主は、
底抜けに明るい奴だったんだろうな。
ヒョウム国に居た時の海道刹那は軍師としての才能を持っていたが、
今のセツナはその才能があるようには見えないからな。

「それとお前らに忠告しておくが、
ヒカルに気をつけろ」
「ヒカルって、氷火流のこと?
セツナのもう1つの人格の?」
「そうだ。俺とセツナはこの世界の人間を恨んではない。
だがヒカルは違う。
あいつはこの世界の人間を恨んでいる。
今のセツナが魂の補強に、
使われたとある人物の影響を強く受けているなら、
ヒカルはヒョウム国に居た時の海道刹那の影響を強く受けている。
まぁ例えるならセツナが陽ならあいつは陰だ。
だからあいつには気をつけろ。
本気でキレたら何をしでかすか分からないからな」
「でも私と話した時はそんな感じはしなかったけど」
「そりゃお前はアーウィンの生まれ変わりだからな。
お前だけは特別なんだよ。
だからきっとヒカルが暴走した時、止められるのはお前しかいない。
あいつもきっとお前の言葉なら従うはずだからな」

ヒカルがこの世界のことを憎む気持ちは痛い程に分かる。
でもそれと無関係な人に憎しみをぶつけるのは違う。
もし地獄神に監視されてるせいで、能力の悪用が出来なかったら、
あいつは憎しみのあまり人を殺しそうだ。

「じゃあ、俺からの話は以上だ。
俺達のことは自分で気がつくまで、
セツナには秘密にしておいてくれ、じゃあな」

そう言って俺はセツナと人格を交代した。

「ん? あれ私は…」

何か記憶が途切れているかもしれない。

「ああ、さっきうたた寝してたのよ」
「そうですか」

しかし最近なんか記憶が途切れることが多いんだよな。
ひょっとして疲れているのかな。
そう心配になった一日だった。
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