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第4章起業しましょう。そうしましょう

191・神殿の使者

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「こ、これはすごいですね」
「先生どうですか」

そう言うとネルは空を飛んだ。
通常人間は空を飛べないという。
それは空を飛ぶと大量の魔力を消費するからだ。
でもネルはあっさりと空を飛んだ。
ネルはかつてカシス村で暮らしていたが、
わけあって今は都会のアアルという町で暮らしている。
ネルは精霊眼という特殊な目を持っている。
通常魔法は本人の魔力を消費して使うが、
ネルの場合は精霊に直接力を借りて魔法が使えるのだ。

「降りてください」

そう言うとネルが降りてきた。

「すごいですね。
私の言ったことをここまで使いこなすとは、
もうあなたに教えることはないです」
「え? そうですか、それは残念です」

もう教えることがないというのは比喩ではなく本当のことだ。
ネルは魔力を使わずに魔法が使える。
しかも火、水、風、地、闇、光、無の全種類の魔法が使えるのだ。
私は光属性だけは使えないから、私よりもすごいことになる。
しかも魔力ではなく精霊の力で魔法が使えるので、
ほぼ無制限に魔法が使えることになる。

「全属性使えますから私よりもすごいですよ」
「でも全属性使える人って、
あまり歴史上にもいない気がするんですが」
「ああ、後で調べてみたんですが、
精霊眼というのは左右の目の色が違いますし、
本人の強い感情と連動して精霊が暴走することも多いので、
生まれたらすぐに殺されることが多いみたいです。
そもそも数自体そんなに居ないですしね」
「そうですか…」
「それよりあなたは冒険者に向いているかもしれませんね」
「私が冒険者ですか?」
「はい、あなたの持っている才能は素晴らしいものです。
だからもっと自信を持ってください」
「自信ですか…私はあまり自信はないかもしれません」

確かにあんな村で迫害を受けていたらそうなるかもな。

「じゃあ自信が出る魔法の言葉を教えます。
毎朝起きたら、私はすごい、私は出来る、私はやれるって、
100回唱えるんです。
そうしたら自信がわいてきますよ」
「はい、じゃあ早速試してみます」
「あ、セツナ、ここに居たのね」

その時エドナがやってきた。

「どうしたんですか?」
「神殿の使者が来たのよ」

とうとう来たか、私は聖眼持ちという特殊な目をしている。
聖眼持ちは特殊な能力を持っていることが多く、
発見次第、神殿に保護されることがとても多い。
保護されれば贅沢な暮らしを味わえるが、
外に出ることは出来なくなるらしい。

「家の前で待っているわ」
「分かりました。じゃあネルまた会いましょう。
《転移》」

そうして自宅の前に転移すると、
1つの立派な馬車が停まっており、
そこに1人の男性が立っていた。

「これはこれはセツナ様、よくぞおいでなされました」
「あの、あなたは?」
「私はボブと言います。
神殿の大神官をしております」

そう言ったのは40代ぐらいの太った男性だった。
服は白いローブを着ていた。
大神官は確か普通の神官よりも上の階級だった気がする。

「聖眼持ちであるあなた方3人を迎えに来ました」
「3人ってことは私とエドナとフォルトゥーナのことですね」

今この場にはフォルトゥーナとイオは居ない。
私とエドナとガイとこの男だけだ。

「え、私も含まれているの?」
「当然です。片目だけ聖眼持ちですが、
聖眼持ちには変わりありませんから」

そう大神官はエドナに言った。

「でも何で今更来たんですか?」
「はい、本当は知らせを受けてからすぐに行きたかったのですが、
色々ありましてね。
ここの領主の妨害を受けて遅れてしまいました。
それにこの町は王都から移動に1ヶ月もかかります。
余計な仕事を先に片づけてから行かなければなりませんでした。
遅くなったことをお詫びします」

領主の妨害って伯爵夫人が?
そうか守っていてくれたんだ。

「あの私は神殿に保護されたくありません」
「どういうことですか?」
「私は自由が好きなんです。
だから保護されるわけにはいきません」
「何と、保護されたくないというのですか。
気は確かですか。
保護されれば一般庶民では味わえない贅沢を味わえるのですよ」
「私は自由が好きです。だから帰ってください」
「あなたは聖眼持ちが何なのか理解していないようですね」
「どういう意味ですか?」
「いいですか、
聖眼持ちは国にとって重要な存在です。
だから聖眼持ちが現れれば国は必ず保護します。
保護というのは聖眼持ちを守るためです。
何故守るのかというと聖眼持ちは神に愛されているからです」
「神様に?」
「そもそも何故神に愛されると瞳が金や紫になるのでしょうか。
それは聖眼持ちが神に愛されているからです。
目が金や紫なのはこの子は自分のお気に入りだと示すためです。
だから聖眼持ちに危害を加えると、
神は怒って何らかの災害を起こします。
そういったことがないように、
聖眼持ちは保護されるべきなのです」
「なるほどそういう理由があったんですね」
「そうです。聖眼持ちを守ることは国を守ることでもあります。
もし聖眼持ちが死んでしまった場合の損失は大きいです。
だから聖眼持ちを守るために保護するべきなのです」
「言いたいことは分かりました。
でも私は保護されたくありません。
そもそも私の力は国のために使うべきだと言いましたね。
私は攻撃魔法に特化した魔法使いです。
その私が国のために、
能力を使うことはつまり戦争しろってことですか?」
「当然にございましょう。
領土が広がれば国は潤います」

何を当然のことをと言うように大神官は言った。
私は常に地獄神から監視されている。
だから絶対に能力の悪用は出来ないのだ。
そんなことをしたらすぐに地獄に落ちてしまう。

「国のためって言いますが自分のための間違いじゃないですか」
「何を言いますか、私はあなたの身を案じているのです。
冒険者はいつ死んでもおかしくない職業です。
それにもしあなたが何らかの理由で殺された場合は、
その責任を取るのは、
アアルの領主、オリヴァー・フィールディングです。
もし聖眼持ちであるあなたが死ねば、
領主のクビは物理的に飛ぶでしょう
それを知っていても自由でいたいのですか?」

え、それは初耳だ。
前に咎の輪廻教の騒動があった時、
伯爵夫人は私に激怒した。
まさかそれは私が殺されれば、
自分の身が危ないということだったのか。
それを知っていて私を自由にさせてくれていたんだ。
本当に感謝だな…。

「まぁ今までの功績を考えると、
クビが飛ぶのは言い過ぎでしょうけど、
あなたが何らかの理由で殺されればただではすまないでしょう」
「そうですか…でも私は保護されるわけにはいきません。
もし私が保護されれば、絶対に外には出られないんじゃないですか」
「何を当たり前のことを。
外は危険が多いですから、監禁するのは当然です」
「それを聞いて安心しましたよ。
私は絶対に保護なんてされたくありません。
私の能力は絶対に悪用なんて出来ないのです」
「何と愚かなことを。
持っている力は有効に使うべきです。
聞いたことがないのですか。
最近クロノ聖王国が戦争をしかけてくるかもしれないことを」
「え?」

クロノ聖王国って確か海の向こうにある隣国の?
かなり腐敗しているって知り合いの冒険者が言っていたような。

「まぁこんな辺境まで伝わっていないでしょうが、
クロノ聖王国とこの国の関係は今非常に悪いです。
いつ向こうが戦争をしかけてきてもおかしくないのです」
「でもクロノ聖王国って小国ですよね。
大国であるバーン王国に戦争して勝てるんですか?」
「あなたは地理には詳しくないようですね。
クロノ聖王国は確かに小国ですが、
隣に大国であるセレーネ帝国があります。
クロノ聖王国とセレーネ帝国の王族は婚姻関係を結んでいます。
だからもし戦争が起きれば、
セレーネ帝国はクロノ聖王国の味方をします。
しかもセレーネ帝国は軍事国家です。
さらに言えば今まで戦争をして負けたことがないのです。
そんな国に、
数十年間戦争をしたことがないバーン王国が勝てるでしょうか?
勝てたとしても多大な犠牲が出ることは確かでしょう。
だからあなたの力が必要なのです」
「それであなたはどうするつもりですか。
私に人殺しさせておいて、
自分はその恩恵でぬくぬく暮らすつもりですか。
冗談じゃありません。帰ってください!」
「おや、どうやら交渉決裂と言った感じですね。
あなたは保護されずに自由でいたいと言う、
ですが私は保護するべきだと思う。
この場合はどうしたらよいのでしょうね」

そう大神官は肩をすくめた。

「私達を保護する?
その力は国のために使うべき?
いいえ、全ては自分のためでしょう」

その時エドナがそう言った。

「何を言っていますか私は真にこの国を案じて…」
「あなたのような人を偽善者って言うのよ。
ああ、欲望の匂いがプンプンするわ。
王都で欲望にまみれた貴族達を見てきたからすぐに分かったわ。
あなた本当は国のためじゃなくて、
自分のためにセツナを利用したいだけなんでしょう?
自分の欲望のためにね」
「うっ」

エドナの言葉は真実だったのか大神官は黙り込んだ。

「何と下々の者と触れあったせいで気が触れたのですね。
あなた方がわがままを言えば困る人間はいくらでもいるのですよ」

なるほど確かにそれはそうだな。
しかし私は異世界人。こういう時に弱点となる身内はいないし、
『金色の黎明』のメンバーはみんな強いし、
人質になる危険性は低いだろう。

「私は保護されたくありません。
お帰りください」
「強情ですね」
「あなたもですね」
「そもそもキースさんは普通に冒険者をしているじゃないですか。
何で彼はよくて私達はダメなんですか」
「そ…それは彼が我々の手におえない子供だったからですよ。
外に出さないと暴れて周囲の物を破壊するわ。
我々ですら手を焼く子供だったから特別なのです。
それに彼の持っている怪力は冒険者が一番能力を発揮します。
だから彼は特別なのです」
「ふーん、じゃあ私達も特別ってことにしてください」
「そんな無茶な…。
あなた方が神殿に保護されないだけで、
どれだけ多くの人の迷惑になるか考えられないのですか!!」
「止めなさい」

その時、突然凜とした声が聞こえたのだった。

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