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第4章起業しましょう。そうしましょう

185・元カレ来る

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「はいはい、何ですか」

ドアを開けるとそこに1人の男が立っていた。
背は高くて、金髪に茶色の目をしている。
顔立ちはかなりのイケメンだった。
服は鎧を着て、背中に大剣を背負っていた。

「ここはエドナの家で間違いないな」
「そうですけど」
「エドナを出せ、話はそれからだ」
「私がどうしたの? げっ、キースじゃない」

男の顔を見るとエドナは露骨に嫌な顔をした。

「エドナ、こんな所に居たのか。
早く帰るぞ」
「帰るってどこに?」
「王都で夜景が綺麗に見える家を買ったんだ。
そこに一緒に住もう」
「はぁ? あなたと私はとっくの昔に別れたでしょう!」
「何を言うんだエドナ。そうか照れているんだな」
「いや、照れてなんかいないし、
そもそも私とあなたは終わったはずでしょ」
「そんなことを言って俺を困らせたいだけなんだろう。
全く困った子猫ちゃんだ。
そういうつれないところも好きだよ」
「あなたにそう言われると悪寒がするわ」
「ハハハ、エドナは冗談も上手いな」
「いや、冗談じゃなくて、
本気で気持ち悪いって思っているのよ!
あなたと私はもう終わったの。
例え元恋人同士であったとしても、
もう何年も会ってないんだから、
自然消滅したも同然でしょう」
「恋人かまたそう言ってくれるとは嬉しいな」
「話聞いてる? 私とあなたはもう終わったのよ」
「俺の愛は消滅なんてしてないぞ。
今もエドナを愛している」
「いや私の方はもうあなたに、
愛情なんて1ミリも抱いて居ないわ」
「ならこれから愛情を築いていけばいいじゃないか」
「いやだからそれが無理って言っているのよ!」
「あのーエドナさんこの人は?」
「彼はキース、私の元恋人よ」

ああ、そういえばエドナには、
元カレが居るって聞いたことがあるような。
色々あって仕方なく付き合っていたけど、
あることがきっかけで一緒に居るのが嫌になって、
その元カレから逃げるために王都を出たって言っていたな。

「恋人かまたそう言ってくれるとは嬉しいな」
「“元”よ。元恋人よ。
あなたの耳はどうかしているんじゃないの。
それにね。私もう付き合っている人が居るの」

え? そんな人ってエドナに居たのか?
初耳だが一体誰だろう。

「俺のことか?」
「何であなたのことになるのよ。
私が付き合っているのはこの子よ」

そう言うとエドナは私を指さした。

「何だと!!??」
「え? えぇぇぇーー!!!??」

エドナの爆弾発言に私とキースはびっくり仰天する。

「女同士など非生産的だ!!
俺よりもこんなちんちくりんが良いなんて嘘だ!」

ちんちくりんで悪かったな。
ていうか私とエドナって付き合っていたの?
初耳なんだけど。

「エドナ、私達はそもそも付き合っていたんですか?」
「お願い、セツナ。ここはそういうことにしておいて、
こうでも言わないとあいつは諦めないと思うから」

そうエドナは私に耳打ちする。
ああ、そういうことか、
確かに諦めさせるならそれがいいかもしれない。

「あー、確かに私とエドナは付き合っています」
「お前みたいな女はエドナにふさわしくない!
エドナは俺の女だ!!!」

貴様は余の物だ―――。

その時私の中でキースと皇帝の姿がダブって見えた。
あーあー、
穏便に済ませようと思っていたけど、もういいや。
女性を物扱いするなんて本気でキレちゃったよ。
その瞬間意識が途切れた。

「人が誰かの所有物であることなんてない。
エドナはエドナの物だ。
その心も体も全部エドナの物なんだ。
お前はエドナさんが好きと言いうが、
エドナのことを何も理解していないと思うぜ」

そう“俺”は言った。

「エドナのことなら体のほくろの数まで、熟知している!
俺がエドナのことを理解してないなんてことはない!」

そうキースが言った。
体のほくろの数って実際に見たのか?
エドナは心当たりがなかったのか、
心底気持ち悪そうな顔をしている。

「ていうか、片腕が動かなくなって落ち込んでいるエドナに、
お前は顔だけで生きていけるからって言ったくせに、
これ以上何の用なんだ?」
「それは励ますために言ったんだ」
「あのなぁ。
エドナは自分の容姿にコンプレックスを持ってんだよ。
一緒に居てそんなことも分からないのか?」
「え?」

まるで初耳だというようにキースは黙り込んだ。

「自分を苦しめた母親と同じ顔が嫌なんだ。
本当にエドナのこと何も分かってないみたいだな」

俺がそう言うとキースは真っ青になった。

「コンプレックスだって?
でもエドナがはまだ俺のことが――」
「だから私はもうあなたなんて好きじゃないの!!
その…セツナと愛し合っているから…」
「み、認められるかー!!」

その時キースが大声を出した。
その声で“私”はハッとする。

「ハッ、あれ今私なんて言いました?」
「覚えてないの。男性の口調で話していたじゃない?」
「は? そんなことあるわけないじゃないですか」
「え、記憶がないの?」

記憶がないってどういうことだ。
そう思っているとキースが大声を出した。

「勝負だ…!」
「え?」
「俺とお前どっちがエドナにふさわしいか勝負だ!」
「え、何でそうなるんですか」
「うるさい、女同士なんて認められるか!!」
「ふむ、これは好機ですね」

その時今まで黙っていたフォルトゥーナが口を開いた。

「ではその勝負とやらに勝てば、
エドナを完全に諦めてくれますか?」
「ああ、約束しよう」

こうして何故かキースと勝負をすることになってしまったのだった。

「で、勝負といっても何をすればいいんですか」
「俺とお前とで決闘だ!」
「待ちなさい。それだと確実にセツナが負けるわよ」
「え、何でですか?」
「キースは聖眼持ちなのよ」
「え?」

確かに言われてみれば、
キースの目は茶色にも見えるが金色にも見える。

「キースが神から与えられたのは怪力よ。
そこらの馬車なんかも片手で持ち上げるわ。
肉弾戦になればセツナが不利よ」

確かにそうなれば私が不利なのは確かだ。

「じゃあこうしたらどうですか?
勝負の方法を伯爵夫人に考えてもらうというのは?」
「え、フォルトゥーナどういうこと?」
「伯爵夫人なら公平な勝負内容を考えてくれるでしょう」
「うん、分かった。じゃあ伯爵夫人の元に行こう」

そうして伯爵夫人の所に行くことにした。





「それで私の所に来たということか。
まぁ新年早々忙しいことだ」

伯爵夫人は事情を話すとそう言った。

「それで勝負内容を決めて欲しいんです」
「こういうのはフォルトゥーナの方が、
良い案を思いつくんじゃないのか」
「いえ、いくら私でもあそこまで、
アホな男を諦めさせることは難しいです」

そうフォルトゥーナが言った。
アホって容赦ないな。

「お前の場合、肉弾戦は不利だし、
かといって魔法戦だと逆に殺してしまいそうだな」
「そうそれなんですよ。
困っていることは」
「いっそこうしたらどうだ?
勝負内容はどれだけエドナを知っているかということに、
すればいいんじゃないか」
「それなら俺の楽勝だ。
エドナのことで俺が知らないことはない!
体のほくろの数まで俺は知っているからな!」

そう自信ありげにキースは言った。
それを見て伯爵夫人は若干引いていた。

「なぁこいつ本当に別れて数年が経つんだよな?」
「そうよ。でも彼の中では付き合っていることになるみたい」
「お前もつくづく男運が無いな」

伯爵夫人はエドナに同情しているようだった。

「あ、そうだ。良いことを思いつきました。
勝負内容はこうしたらいいのではないですか」

フォルトゥーナは伯爵夫人にごにょごにょと耳打ちをする。

「ふむふむ、それは面白そうだ。
早速準備をしなければ…!」

伯爵夫人がニヤリと笑った。
それを見て私は嫌な予感がした。

「それでは勝負は明日10時に町の広間でするから、
忘れずに来いよ」
「分かりました」

そうして勝負をすることになったのだった。







◆◆◆

キースが女同士の恋愛は非生産的だと言っていますが、
あれはキャラクターが勝手に言っていることなので、
作者には女性同士の恋愛を否定するつもりはありません。
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