贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ

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第3章謎の少女とダンジョン革命

137・身の危険①

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「突然だがかくまわれてくれないか?」

ある日、突然私達『金色の黎明』のメンバーは、
伯爵夫人に呼び出された。
そして開口一番そう言われた。

「え、何ですか」
「そうだ。ちょっときな臭い噂を聞いてな。
しばらく匿われて欲しい」
「きな臭い噂って何ですか?」
「実は咎の輪廻教が動くかもしれん」
「咎の輪廻教?」
「え、あのやばい宗教の?」

エドナが驚いた顔をして言った。

「それって前に聞いたことがあります。
どんな宗教なんですか」
「わりと最近出来た新興宗教だ。
地獄の王を崇拝している」
「それって地獄神アビスですか?」

そう言うと伯爵夫人はぎょっとした顔をした。

「おい、うかつに名前を言うな。
とにかくお前の言った神を崇拝していて、
ただ崇拝するならともかく、各地でテロを起こしたりしているんだ」
「いわゆるやばい宗教ってことですか?」
「そうだな。奴らは神殿の教義を間違ったように解釈しているんだ。
かつて破壊の神によって世界が滅ぼされたように、
世界はまもなく滅び、
世界が滅ぼされたのちに、
選ばれた人間のみが生きることが出来ると説いているんだ」
「ああ、いわゆるこの宗教を信仰しないと、
死んじゃうよって脅すアレですね」

新興宗教でよくある手口だが、
世界はまもなく滅び、このままだと死んでしまうと人を脅し、
この宗教をやれば生き残ることが出来ると救いの手を差し伸べる。
そして気が付いた時にはどっぷりハマっているという寸法だ。
私のお母さんは仕事柄そういう相談を受けることが多かったので、
そういう話はよく聞いている。

「それに厄介なことに奴らにとって人殺しは良いことなんだ」
「は? 良いこと?」
「人間というのは生きているうちに人を騙したり、人を傷つけたりするだろ。
だから人間というのはその罰で輪廻転生を繰り返すと奴らは思っているんだ。
それから救われるには、咎の輪廻教の使者が救済するしかない。
ここで言う救済とは殺すことだな。
殺すことで殺した人間は輪廻から解放され、楽園に行けると奴らは思っている。
だから人殺しが良いことなんだ」
「はぁ? そんなことを信じるなんて馬鹿げてますよ」
「まぁな。だが奴らは本気だ。
本気でその馬鹿げた教えを信じているんだ。
だから各地でテロを起こしているわけだ」

うわぁ、どうしようもないな。
でも本人達はこれが良いことだと信じているから…厄介だよな。

「しかも奴らが狙う人間は徳の高い人間が多いんだ」
「あ、そっか、良い人も輪廻に縛られているから、
助けるつもりで殺すのですね」
「そうだ。そしてお前のような聖眼持ちは奴らにとっては特別でな。
あいつらは地獄の王を崇拝している。
だから天上界の神々から力を与えられたと、
思われているお前達聖眼持ちは奴らの宿敵なんだ」
「え? 宿敵?」
「咎の輪廻教は地獄の王を崇拝している。
だから地獄の王を追放した天上界の神を憎んでいて、
悪魔のように思っている。
実際に奴らの手によって3日前に聖眼持ちが1人殺された」
「え?」
「神殿を出て娼館に居る所をやられたらしい」
「そうなんですか」
「それでお前ら聖眼持ちの人間は狙われる危険性がある。
お前達はメンバーに3人も聖眼持ちが居るだろう。
まず間違いなく次のターゲットはお前達だ。
だから安全のためこの屋敷で匿われてくれ」
「え、じゃあ冒険者としての仕事は…」
「それはダメだ。犯人が捕まってお前達の安全が保証されるまで、
この屋敷に監禁されてくれ」

えー…言いたいことは分かるけど、
監禁って穏やかじゃないな。

「いいか、お前らは普通の冒険者ではない。
なんせ神に選ばれた聖眼持ちだ。
それがもし奴らの手にかかって死んだとなったら…、
想像するのも恐ろしい…。
いいか、私個人もお前達には死んでほしくない。
だからこれは領主命令だと思って従ってくれ」
「分かりました。みんなもこれでいいよね」
「良いも何も従うしかないだろう」
「そうね。ここは従いましょう」
「私はセツナの意見を尊重するのだ」
「わたくしも異論はありません」

そうして私達はみんなこの町で、
一番警備が厳しい領主邸に泊まることになった。





「ヒマですー」

領主邸の一番大きい部屋そこに私達は集まっていた。
ちなみに何で1カ所にいるかというと、
その方が護衛しやすいからだ。
部屋の中と外、そこには警備の兵士達が立って居た。
ちなみにイオも聖眼持ちではないがここに居る。

「私達なら警備とかいらないんだと思うけど」
「甘いですよ。セツナ。
あなたは暗殺者に出会ったことがないでしょう。
どんな剣豪も毒を盛られれば死にます。
あなたも例外ではありません」
「確かに私も暗殺者とは出会ったことはあるけど…厄介な相手よ」
「私に毒は効かないから大丈夫ですよ。
でもこの状況ってどこまで続くんでしょうか?」
「うーん、咎の輪廻教が潰れるまでじゃない?」
「えー、それじゃあ何年かかるんですかー。
まぁでもみんなで寝れられるなんて修学旅行みたいですね」

その時、ドスっという音がした。

「え?」

窓の外を見ると、そこに矢文が刺さっていた。

「何それ」
「読んで見ますね。
なになに、お目にかかりたく存じ上げるエドナ殿。
時計塔跡で待つ。タツキより」
「え、タツキってあなたの言っていた人よね」
「会いに行ってみましょうか」
「何言ってるの!?
私達は命が狙われているのよ!」
「タツキさんには会ってみたいんです。《飛翔》」

そう言うと私は飛翔魔法で窓から外に出た。

「ダメよ。戻りなさい!!」
「身を守る魔道具があるので大丈夫です」

そう言うと私は時計塔跡に向かった。

「お前って本当に無鉄砲だな」
「ガイ、ついてきたんですか?」
「まぁな、お前の暴走は俺が止めないとな」

そうして時計塔跡に向かった。





「おや、妾はエドナ殿を呼んだのじゃが」

待ち合わせ場所にはタツキが立っていた。

「あなたに用があるんです」
「やれやれ妾に何の用じゃ?」

扇子で口元を隠してタツキはそう言った。

「あなたに聞きたいことがあります。
あなたは黄竜騎士の刺客ですね」
「は? 何じゃその勘違いは?」

キョトンとした顔でタツキはそう言った。
あれ黄竜騎士かと思ったが違うのか?

「妾はヤトノカミから来たと言ったじゃろう」
「ではどうして私達に付きまとうんですか?
私達に何の目的があるんですか」
「じゃから、聞きたいことがあると言ったじゃろう。
竜殺しのエドナなら妾の知りたいことを知っているかもしれん」

いや、その竜殺しってデマなんだけど…。

「エドナが何を知っているというのですか?」
「それをお主に話す義理はない。
妾はただ真実を知りたいだけよ。
傾いた天秤は戻さぬといけないのじゃ」

そう言うタツキの目は冷徹なまでに冷たかった。
彼女がどういうつもりでエドナに用があるのか知らないが、
何となく嫌な予感がした。

「一体どんな目的があるというのです?」
「さぁな。お主がどんな人間かも知らず、
うかつに話して良いことではない」

タツキは手にした扇子であおぐ動作をした。
それを見て本当に話す気はないのだと私は感じた。

「何ですか、気になるじゃないですか」
「こういうのを異世界風に言うと、
プライバシーの侵害じゃな。
余計な詮索は身を滅ぼすぞ」
「何で異世界のことをあなたが知っているんですか!?」
「それも答える義理もないな。
それとも今ここで妾と戦って、脅して聞き出すか?」

タツキがじろりとこちらを見る。
その目には鋭い殺気のようなものがあった。

「…そんなことしませんよ」
「そうか」

そう言うとタツキは宙に浮いた。

「では妾は帰る故にお主も帰り道に気を付けるのじゃぞ」
「待ってください話はまだ…」
「また会おう」

そうしてタツキは夜の闇に消えていった。

謎が分かるどころか謎が増えた気がしたのはきっと気のせいじゃないだろう。
そう思った1日だった。

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