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第3章謎の少女とダンジョン革命

117・ 新たな依頼

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「何をしているのだ?」

その日領主邸の庭の草むしりをしているとイオが話しかけてきた。

「ああ、草むしりをしているんですよ。
畑を作ろうと思って」
「セツナは農業が出来るのか?」
「いいえ、でも私には魔法がありますからね」

ちなみに庭に畑を作ることは伯爵夫人から許可は得ている。
どっちにしろ魔族との戦闘や雪などで庭はボロボロだからな。
元に戻すのもお金がかかるので放置されているのが現状だ。
私はあらかた草むしりをすると、市場で買った種を植える。

「《実れ》」

植物が急成長するようにイメージしながら魔法を唱える。
するとツタがみるみる伸びていき、大きなカボチャになる。

「な、何なのだこれは!?」
「植物を急成長させる魔法ですよ。
ほらエドナ達ってよく食べるでしょう?
畑で育てれば食費が浮くと思ったんですよ」

そう言うと私はカボチャのツタを切り、アイテムボックスに入れる。
たたでさえ、伯爵夫人にはお世話になっているのだ。
野菜ぐらいは自分達で調達した方がいいだろう。

「この魔法ってセツナ以外にも使えるのか?」
「うーん、どうでしょうね。
私は詠唱しなくても魔法が使えますけど、
実際に使うとなるとかなり難しいかもしれません」
「セツナと居ると驚かされることばかりなのだ。
外の世界ではこれが普通なのか?」
「いえ、私がちょっと特別なだけですよ」
「そうだぜ。気にするな」

私の言葉にガイも同意する。

「あ、そうだ。そろそろあれを作らないと…」
「何を買うのだ?」
「まぁ後で教えますよ」
「そっか分かったのだ」
「あと後でうさ耳をもふもふさせてくださいね。ぐふふ…」
「それくらい、おやすいご用なのだ」




私はアアルにある商業区にガイと二人で歩いていた。
まぁガイは妖精なので飛んでいるといった方が正しいが。
お店の居たる所でカーンカーンと鍛冶をする音が響いていた。

「今日はどこに行くんだ?」
「お墓作れる人の所です」
「お墓?」
「レイラが居た証としてお墓を残したいんです」

レイラはかつては人間だったが、恨みに囚われ魔族になってしまった。
多くの人を殺した彼女を責める人間も多いだろう。
でもせめて彼女がいた証としてお墓を残してあげたい。

「うーん、石を加工するなら石材店でしょうが、
どこにあるんでしょうか」
「ねぇあんたひょっとして『金色の黎明』のセツナさん?」

エリアマップでも使おうか、そう思った時に後ろから話しかけられた。
振り返るとその人の顔を見て、あっと驚いた。
顔は30代ぐらいに見えるが背が異様に小さい。
多分1メートルもないんじゃないだろうか。

「え、そうですけど」

聖眼をさらしたままだと目立つので、
幻惑魔法で隠していたがどうしてバレたんだ?

「やっぱりセツナさんは小柄で可愛いって聞いて、もしやと思ったんだよ」
「可愛いだなんてそんなことありませんよ」

魅力がSとはいえ、私の容姿は普通だと思うんだけどな。

「あんたに頼みたいことがあるんだ、いいかい?」
「え? いいですけどあなたは?」
「私はキャシーさ。鍛冶職人で彫刻職人さ」
「それで私に何の用ですか?」
「木王樹って知っているかい?」
「え、何ですかそれ」
「木王樹はその名の通り木の王様で、
燃料としてもよく燃えるし、削りやすく加工もしやすい。
だけど今その木王樹が圧倒的に不足してるんだよ」
「そうなんですか」
「雪のせいで倒壊した建物を直すのに木材が必要だし、
元々木王樹は不足していたんだけど、
それにさらに追い打ちをかけるように
木王樹が取れる王樹の森に魔物が出るようになって、
伐採どころじゃなくなって、
結果的にこの町では木王樹が無くなって困っているんだよ。
二週間後にどうしても木王樹で女神像を作らないといけないのに、
材料がないんだ」

どうもキャシーさんは凄腕の武器職人だが、彫刻家でもあるらしい。
その腕を見込まれて、
とある貴族からで木王樹で作った女神像を作ってほしいと依頼されたらしい。
断ろうとしたが、相手が貴族な上に、
どうしてもと言うので断るのは無理だった。
しかし今肝心の木王樹は不足どころか品切れしている状況だ。
もし期限以内に依頼の品を作ることが出来なければ、
この工房自体が潰されるかもしれないとのことだった。

「酷い話ですね。その貴族は何を考えているんでしょう」
「大方あたしが作った女神像をオークションか何かに出して、
一儲けしようと思っているんじゃないかい」

転売屋か、よくあることだが。
そんなことのために工房を潰されるのも理不尽だ。

「他の木材を使ったらどうです?」
「あとでバレた時が怖いからそれは出来ないよ」
「それで私に木王樹を取ってきて欲しいんですね」

まぁ人助けなら、善行も積めるので望む所だ。
だけど問題は一つある。

「でもその森に居る魔物は普通の冒険者でもかなわない相手なんですね」

よくよく考えれば分かることだが、
もし森に魔物が現れたとすればすぐに冒険者は派遣されるはず。
だが今森に魔物が居るということは、
つまり普通の冒険者では何とか出来なかったということだ。
それだけ強い魔物なのかもしれない。

「そうだよ。でも魔族を倒したあんたならきっと…」
「そうですか、でも依頼を受けるには条件があります。
キャシーさんはお墓は作れますか?」
「お墓? 作れるけど?」
「じゃあ、私の友人のお墓を作ってください。
でもただ作るんじゃダメです。
友人の供養になるように気持ちを込めてお墓を作ってください」
「…分かったよ。
アンタを信じて待ってるから」

そうして私は依頼を受けることになったのだ。

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