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第3章謎の少女とダンジョン革命

114・今目の前にいる人

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私は村の食料庫にオデットで買った食料を入れると、
イオを連れて一端アアルに戻った。
伯爵夫人に獣人のことを伝えないといけないからだ。
領主邸に着くと早速伯爵夫人に会いに行った。

「ああ、セツナかどうした?」
「実は頼みたいことがあるんです」

そこで私は獣人の村のことを伯爵夫人に伝えた。

「ケルトの森にそんな村があるとはな」
「そういうわけで村が外の世界と交流するのを助けてください。
住民にお触れを出して、獣人が魔物でないことや、
人に危害を加えないことを伝えてください」
「お前がそう言うなら伝えてもいいが、条件がある」
「何ですか?」
「税金をちゃんと納めて欲しい。
今まではそんな村があるとは知らず、税金の徴収をしなかったが、
あると知った以上は税金を納めて欲しい」

まぁこれは当然だろう。
何であの村だけ税金の徴収をしないの? ってことになるからな。

「まぁ今まで納めなかった分の税金を徴収するとかなりの金額になるから、
今年だけのでいい。今年から毎年税金を納めて欲しい」
「分かりました。そう伝えておきます」
「それより獣人はどんな見た目をしているんだ?」
「まぁこんな感じです」

私はイオが被っているフードを取る。

「かわいい…!」

伯爵夫人は机から乗り出した。

「かわいい。ぬいぐるみみたいじゃないか!」

そう言うと伯爵夫人はイオを抱きしめた。

「苦しいのだ~」
「このまま部屋に飾っておきたいぐらいだ。
お前、私の元で働かないか?
給料は奮発しよう」
「私は冒険者になるって決めたのだ」
「そうかそれは残念だな」

そう言うと伯爵夫人はイオを離す。

「さっそくお触れを出しておこう。
獣人は魔物ではないことや、体にかかった呪いは人には移らないことや、
また危害を加えてはいけないことをすぐに伝えておこう」
「助かります」
「それと獣人の何人かには伝えてくれないか。
私の元で働かないかと、給料は奮発するし、悪い話ではないと思うが…」
「分かった。伝えておきます」

そうして私は一端、ルーガルー村に戻ることにした。



ルーガルー村に着くと辺りは暗くなっていた。

「さて宿に泊まりますか」
「この村に宿は無いのだ」

ああそうか、鎖国してたんだから、そんなもんはないわな。

「今日のところは私の家に泊まるのだ」

そういうわけで私達はイオの家に泊まることになった。

「しかし獣人の村に来ることになるなんて、
あなたと居ると本当に退屈しないわね」
「そうですか?」

エドナの言葉に私はそう返す。

「うん、そうよ。獣人も妖精と同じく伝説の存在だと思ってたから驚いたわ」

鎖国していたから当然獣人が外の世界に出ることはなく、
気がつけば伝説の存在になっていたらしい。
獣人達はかたくなに外の世界に出ると、
奴隷にされると信じていたからまぁ仕方ないか。

「ところで気になったんだけど、
イオが冒険者になったら子育てはどうするの?」
「それなら僕が面倒見ますよ。
イオには自由でいて欲しいですからね」
「え、男性が子育てするの?」

アランさんの言葉にエドナは驚く。
この世界では女性が子育てするのが普通である。
男性は育児ではなく仕事をするのが普通だ。

「男性が子育てしたら、軟弱だと思われるわよ」
「何言っているんですか、男性が子育てするのは普通のことですよ」
「え?」

アランさんの言葉にエドナは目を見開いた。

「ああ、この村の獣人は女性でも力が強いので、
男の人が子育てして、女性が働くというのはよくあることみたいです」

フォルトゥーナの言葉に私は納得した。
女性は男性より力が弱いので、家にこもっていることも多いが、
獣人は女性でも力が強いので、
男性が子育てをして女性が働くというのはよくあることらしい。

「獣人の村では男尊女卑は無いんですね」
「何言ってるんですか、女性は太陽のような存在です。
大切にするのが普通ですよ」
「イクメンなんですね」
「イクメン?」
「子育てをよくする男性のことですよ」
「それならアランはイクメンなのだ。
よく子供の面倒を見てくれるのだ」
「本当に世界って広いわね…」

感動したようにエドナがそう言った。
当たり前のように男尊女卑の世界で生きてきたエドナからすると、
獣人の存在は意外なものらしい。
まぁそれも当然か、
私も何度か女性差別は受けてきたので気持ちは分かる。

「でも子供の面倒を見てくれるといっても、
離れるのは寂しくないですか?」
「アアルと私の村は近いから、問題ないのだ。
週に一度は帰宅しようと思うのだ」

確かに対して離れた距離ではないし、
イオはいつでも子供達と会うことが出来るだろう。

「お姉ちゃん、怒ってないの?」

その時イオの子供がそう言った。

「もう怒ってないですよ」
「そっか、良かった」
「そうだ。一緒に遊びませんか」
「いいの?」

しかしイオの子供はみんなちっこくてかわいいな。

「何して遊びましょうか」
「あのねー。ネズミで遊ぶの」

そう言うと子供がかごに入ったネズミを見せてくる。

「ぎゃーー!!」

私の絶叫が家に響き渡った。

「ダメ?」
「ダメですよ。ネズミなんて病原菌の塊ですよ!!」

かごの中に居るネズミはハムスターとかそんなかわいい部類ではなく、
普通のネズミだ。
おいおいイオの子供が病死したのはコイツのせいじゃないのか。

「そのネズミは森にでも逃がした方がいいです」
「えー、かわいいのに」
「そういうのより、これで遊びなさい」

そう言うと私は飛行機の模型を子供に渡す。

「わぁ何これ、かっこいい!」
「僕にもちょうだい」
「私にも!」

そう言われたので電車の模型と新幹線の模型を渡した。
ちなみにこれらは伯爵夫人を説得する時に作り出したものだ。

「これはあげます。これからはネズミでは遊ばないように」
「分かったよ。お姉ちゃん」

それから子供達の遊びに付き合い、遊び疲れたのか子供達は寝た。

「喜んでくれて良かったのだ。
末の子が病気で死んでからは笑顔を見せることもなかったから」

そう寂しそうにイオは言った。
私がもっと早くこの村にたどり着いていたら、
イオの子供は助かったかもしれないな…。

「その考え方は傲慢です」

そう思っていると、
私の考えを読んだのかフォルトゥーナが険しい顔でそう言った。

「あなたがどれだけ万能でも、その指からこぼれる命はあるでしょう。
それを見て救えなかったと嘆くのは傲慢です。
そもそも救ってどうなるというのですか、
出会った全ての人間を救うつもりですか?
あなたは甘すぎる。
どんなに有能な人でも全ての命は救えません。
そんなことは神にも不可能です」
「そうよ。あなたは神ではないのだから、
救えない人がいても当たり前じゃない。
大切なのは救えなかったと嘆くのではなくて、
今目の前に居る人よ」

フォルトゥーナとエドナの言葉には説得力があった。
救えない人が居ても私は神じゃないのだから当たり前なのだ。
それを嘆いていても仕方が無い。
大切なのは今目の前に居る人。
その人を大切にすることが未来に繋がるのだから。

「でもそれならさ。もう二度とあんなことは止めてよ」
「あんなこと?」
「フォルトゥーナ、わざと首を切らせたでしょう。
ああいう風に自分を犠牲にすることはもう止めてよ。
私の今目の前にいる人の中にはフォルトゥーナも含まれているんだから」
「…!?」

フォルトゥーナは信じられないという顔をした。

「まぁそういうなら気をつけます」
「うん、そうして」

そうして私は眠りについたのだった。
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