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第2章翼蛇の杖と世界の危機

95・屋敷に潜入

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「あれ…ここは?」

見知らぬ場所に寝ぼけた頭は違和感を覚える。
ああ、そうだ。昨日はチコの村の宿に泊まったんだ。
ちなみに村を救ったということで宿代はタダだ。
私はパジャマからいつものローブに着替えると、部屋を出た。
食堂に行くとエドナが朝食を食べていた。ちなみにガイも居る。

「遅かったな」
「私も朝食を食べますか」

そうして待っていると朝食が運ばれてきた。
カボチャスープにキャベツの炒め物は美味しかった。

「それでこれからどうするの?」
「そうですね。今例の杖はサーモンド男爵が持っています。
杖を取り返すには彼の屋敷に潜入しないといけません」
「盗みにでも入るの?」
「いえ、私は地獄神に監視されていますから悪事は働けないんです。
そうじゃなくて屋敷に潜入する方法はあります」
「そうそれなら分かったけど、
また無茶な方法なんかじゃないでしょうね?」
「そんなことありませんよ。ちゃんと考えてます」

心外だと思いながら頬を膨らませる。

「まぁ一度オデットまで戻りましょう」
「そうしましょうか」

そうしてチコの村を出ようとすると、
かなりの村人が見送りに来てくれた。
村長なんてもう滝のような涙を流しながら、
行かないでくれ、
この村にずっと居てくれと言われたがやんわりと断っておいた。
その代わり、魔物を寄せ付けない結界型魔道具を作って渡しておいた。
アアルみたいな大きな町には結界が張ってあるけど、
こういった小さな村にはそれが無い。
現に小さな村が魔物のせいで滅んでしまうのはよくあることだ。
エドナにはまたそんな貴重な物をと呆れられたが、村人からは感謝された。
村長なんてもう号泣して何を言っているのか分からなかったぐらいだからな。
そうして村から離れ、近くにある林の中に行くと転移でオデットに戻った。

その後チコの村に行く事はしばらく無かったが、
私達が居なくなった後、村の広場には村を救った英雄の像が建つのだが、
これはまた別の話。





そんなこんなでオデットに戻ってきた私達。

「じゃあ、これからサーモンド男爵の屋敷に向かうわけね。
どうやって侵入するの?」
「ふっふっふ、策ならあるんですよ」

そう私は得意げな顔をする。



「…というわけで行く道中に盗賊に襲われて無一文になったんです」

オデットのサーモンド男爵の屋敷にて、使用人である女性の前で、
私は嘘八百を言う。

「住んでいた村も魔物に襲われ、もうありません。
帰る場所はもう無いんです…。
だからここで働かせてください」
「そういう事情なら二人ともメイドとして雇いましょう」

やったぜ。おい。同情を引いてメイドとして雇わせる作戦は成功した。

「ただし雇うからには厳しくしますよ」
「はい、よろしくお願いします」

そう私とエドナはメイドとして屋敷に潜入した。
サーモンド男爵とは一度会っているので、
念のために幻惑魔法で顔は変えてある。
そうして雇われるまでは良かった。良かったのだが…。

ガッシャーン!

「またあなたですか」
「ごめんなさいっ」

音を立ててエドナは食器を割った。
今日でもう五枚目である。

「もう何回目ですか、怒りますよ!」

そうメイド長のマリーさんが怒る。
メイド長って聞くとなんか若い女性を想像するが、
マリーさんは60代ぐらいの女性なので、イメージが合わない。

「すみません…」
「全くあなたは…もう一人の方を見習いなさいっ」

そうガミガミとエドナは怒られる。
ここに来て私は思い知らされることになった。
エドナの家事スキルの低さに。
前に花嫁修業をしようと言っていたが、
あれからゴタゴタして結局出来なかったが、
まさかここまで酷いとは思わなかった。
食器を洗えば必ず食器を割り、掃き掃除をすれば箒でガラスを割った。
料理を作ろうとすれば、よく分からん暗黒物質が出来上がった。

「まさかここまで酷いとは…」
「やっぱり私には家事とかは無理よ」

ようやくマリーさんの説教から解放されたエドナはそう言った。

「まぁ人には向き不向きがありますよ」
「そうよね」

その時、バンっと扉が開いて、サーモンド男爵が現れた。

「お前達か、新しく入ったメイドは…ううむ」

サーモンド男爵は私とエドナの顔をじろじろと見る。

「まぁ顔はまぁまぁだが気に入った。今晩わしの寝室に来なさい」

そう言ってサーモンド男爵はエドナのお尻に触る。
そこからはすごかった。
エドナがサーモンド男爵の顔に裏拳を炸裂させたのだ。

「ハッ、しまった。いつもの癖で…!」

どんな癖だよ。と思っているとサーモンド男爵がわなわなと震えだした。

「クビだー!!」

まぁそうなるわな。
そういうわけでエドナはたった一日でメイドの仕事をクビになった。



「役に立てなくてごめんなさい」

そうエドナは謝った。

「別にいいですよ。私一人で調査することにします」

元々こういった調査は私の方が向いているかもしれない。
私の方はクビにはなっていないので、今後の調査は私一人で行おう。
もちろん調べるのは杖の在処と、
サーモンド男爵を失脚させられる証拠集めだ。
まぁ盗賊団と接触があるだけでは弱いので、他の証拠も手に入れたい。

そう思っていたのだが、実際に屋敷で働いていると、
どこに行くにもメイド長のマリーさんがついてきた。
おそらくエドナのようにとんでもないミスをしないか警戒しているのだろう。
エドナと一緒に潜入したのは失敗だったな。
そう感じながら働いて一週間たった時だった。
チャンスが訪れたのは。

「この紅茶をトロイ様の部屋に届けてください」
「はい」

ティーカップの乗ったお盆を持ちながら、サーモンド男爵の部屋に向かう。

「紅茶お届けにきました」
「うむ、ご苦労」

ティーカップを机に置いた時にそれに気がついた。
翼の生えた蛇が絡まった杖。それがあった。

「それが気になるのか?」

杖に目を奪われているとサーモンド男爵がそう言った。

「あ、はい。綺麗な杖ですね」
「そうだろうそうだろう。裏のルートで手に入れた杖だからな」

裏のルートって盗賊団から渡されたもんだろうが。
そう思いつつ私はサーモンド男爵に向かって魔法を使う。

「《眠れ》」

それだけでサーモンド男爵は机に突っ伏して眠り出す。

「やれやれようやくですか」

私は杖をアイテムボックスの中に入れる。

【カルマ値が3増えました。罪状、窃盗】

あー、こうなるか。覚悟はしていたが仕方が無い。
元々盗品である場合ならともかく人から盗むと罪を背負うらしい。
まぁこれぐらい地獄神も見逃してくれるだろうか。

「それはそうと他に何かありませんかね」

サーモンド男爵を失脚できる証拠はないだろうか。
そう思って本棚を見た時、おかしなことに気がついた。
動かしたような跡があるのだ。

「ははーん。これは…」

私は部屋を見回すと怪しげなスイッチが壁にあることに気がついた。
スイッチを押すと本棚が動いた。

「ふっふっふ、隠し部屋発見」

こんな場所に隠されて居る物など後ろ暗い物に決まっている。
部屋にある本棚にはぎっしりと何かの書類が詰まっていた。
その一つを手に取って読んで見ると、
どうやら他国に奴隷を売り払った記録だった。
どうもこの町で起きる誘拐事件にはサーモンド男爵が関わっているようだった。
これらの証拠が詰まった本棚は、本棚ごと全てアイテムボックスに入れる。
杖を盗んだ時はカルマ値を背負ったが、本棚ごと盗んでも反応は無かった。
どうやら大きい物は盗んでも反応はないらしい。
まぁそりゃそうだよな。普通本棚が盗まれるなんて思わないだろう。

「これでよ――」

油断していたと言われればそれまでかもしれない。
隠し部屋を出ようとすると私は何者かに頭を強く殴られた。
暗転する意識の中振り返ると険しい顔のメイド長がそこに立っていた。
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