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第1章過去と前世と贖罪と
51・幽霊と臨死体験
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「しかしまぁ…随分と店も減ったわね」
「そうですね」
生理も終わったので、
買い物のために市場を訪れていると、
そこは私が最初訪れたような活気はなかった。
ほとんどの店が閉鎖し、市場は閑古鳥が鳴いていた。
「そういえばこないだ雹が降ったみたいだけど珍しいこともあるわね」
「そういえばこの地方ではめったに雪は降らないんですよね」
「そうよ。暖かい地方だからね。雪は降らないわ」
バーン王国は南の方にある大陸なので、あんまり雪は降らない。
だからいきなり振った雹に町の人は完全に怯えていた。
こういった天変地異は魔族が現れる時の前兆だからだ。
もう外出するのも怖いみたいで、
家の中に閉じこもっている人も多い。
「はぁ…なんだかとんでもないことになってしまいましたね」
「まだ気にしているの?
それはこれから罪滅ぼしをしていけばいいじゃない」
「そうですね」
結局、買うものもあんまりないので私達は宿に帰ることにした。
「あー…私のせいとは言え、とんでもないことになってしまいましたね」
宿に帰ると私は自分のベットに横になった。
エドナは私の部屋にある椅子に腰掛けた。
「まぁこの騒ぎもしばらく続くでしょうけど、損失は大きいでしょうね。
多くの人が他所に移住してしまったし、観光業にも大ダメージでしょうね」
「そうですね…」
「なぁ…」
その時、さっきからずっと黙り込んでいたガイが口を開いた。
ここのところガイは口数が少ない。何度か里帰りはさせているから、
食事ができずに憔悴しているというわけでもなさそうだった。
「なんか最近妙に寒くないか?」
「え? それは避暑地だからじゃないですか」
だってここって比較的涼しい方だし、
そう思っているとガイが真剣な顔をして言った。
「いやここの所、
明らかに最初の時より気温が下がっている気がするんだよな…」
「それは雨期だからじゃないですか」
今現在は6月で雨期だ。日本でいう梅雨はもう始まっている。
何度かこの町にも雨が降った。
「そうかもしれないけど、なんだか空も変な気がするんだよな。
ピリピリしている感じがするし…」
「うーん、私は何も感じませんけど?」
「私も特に何も感じないけど、ただの気のせいなんじゃないの?」
エドナにまでそう言われて、ガイはしばらく考え込んでいたが、
やがて気にしないことに決めたのか顔を上げた。
「そうだが。気のせいだな!
町の奴らが不安になっているから、
俺も不安になっていたのかもしれないな」
「まぁそんな話題よりも、もっと楽しい話題をしましょうよ」
「楽しい話題? ああ、そういえばさ。こないだセツナがさー」
そう言うとガイはエドナにこないだ会ったハンクと私の話をした。
「まったくとんでもない男ですよ、あいつは」
私がそう言うとエドナは引きつった顔をした。
「あ…哀れな」
「何が哀れなんです?」
私がそう言うとエドナは盛大にため息をついた。
「まぁでもこれぐらい良い方よ。
私なんて生理なのがバレたら、
やらせろなんて言われたこともあるし…」
「うわぁ何それ最低…」
「まぁぶん殴ってやったけどね。
でも男は女の体の事情は、
よく知らないからそういうことが言えるのよね…。
これも仕方がないと割り切るしかないのよ」
そうなのかなぁ…そう思ったけど、
自分に逆らう事柄にいちいち修正しようと思ったらきりがない。
ほどよく諦めることも肝心かもしれない。
「そういえば冒険者って、不思議な経験ってしたことあります?」
私は話題をそらすために、あえて違うことを聞いた。
「不思議な経験?」
「こう謎の飛行物体を見たとか、そういう不思議な体験ですよ」
「そういえば、
私右腕を負傷した時に死にかけたせいか変な夢を見たのよ」
「変な夢?」
「なんかね。ずっと続くお花畑を歩いている夢だったのよ」
それってまさか…臨死体験?
「それでしばらく歩いていたら川が見えて、
川の向こう岸に人がおーいって手を振っていたの。
だから渡ろうとしたら、
いきなり腰まである黒い髪の金色の目をした妖艶な女が、
あなたはこっちに来る予定はありません。即刻帰りなさい。って言って、
私が何か言う前に、腕を掴んでずるずる引っ張って川の方から離したのよ。
そしたら気がついたらベットの上だったの」
それってまさか…特徴からしてベアトリクスさん?
おおーい! 冥府の女王って、そんなこともやるのかよ!
まぁ死んだ先の世界の住人だから仕方ないんだけど!
「なぁそれって…この前の」
だがガイは何か気がついたらしい。
「あー! そういえば冒険者って幽霊とか見るんですかー」
「幽霊?」
「あ、やっぱりそういう話はいいです」
とっさに出た言葉だったが、
すぐに自分が幽霊が苦手だということを思い出した。
「何なのよ…それっぽい話は私はいっぱい知っているわよ。
実際に幽霊を見たことは何度もあるし」
「え?」
「いつも見えるわけじゃないけど、たまーに見えることはあるわよ。
特にあなたと出会ってから余計に見えるようになったわ」
「霊感…高いんですか?」
「といってもお祓いとかそういうのは無理よ。
ただ見えるだけ、幽霊が何言ってるのかもわかんないし」
「そうなんですかー…あはははは」
そういえばエドナがたまに何もない壁とかを見つめていることがあるけど、
あれってひょっとして…。
「幽霊が多い場所ってどこなんですか」
「神殿が1番多いわね。あそこは墓地とかもあるし、
治療の甲斐もなく多くの人が亡くなっているから、
あそこで見ることが1番多いの」
止めてぇぇぇぇ、もう孤児院に行けなくなるぅぅ。
だからエドナはあそこに行きたがらないわけか…。
「それに昔見たのだと…」
「もうその話はいいです。別の話にしましょう!」
そうして話を終わらせたのだが…。
◆
「うぅうう…」
その日、私はなかなか寝付けなかった。
エドナが昼間、話した幽霊話をどうしても思い出してしまうせいだ。
ちなみにガイはこっちの気持ちなんて知らずにグースカ寝ている。
全く根が単純な妖精は気楽でいいよっ。
「もうだめ、寝られない。エドナのところに行こう」
そう思って枕だけを持って、私は隣の部屋に向かった。
「エドナさーん…」
軽くどんどんと叩いていると、カチャリとドアが開いた。
「どうしたの、こんな時間に」
ドアの向こうから顔だけ出してエドナは言った。
「一人で眠るのが、怖いんですぅ…一緒に寝てください」
「………寝るって、子供じゃないんだから…」
呆れたようにそう言われ、私はすぐに反論する。
「エドナさんが悪いんですよ…!
怖い話するから…私が眠れないんです…!」
「怖い話って、たったあれだけで?」
「そうです。責任取ってください…!
あなたのせいでこんなことになったんです…!
せめて一緒に寝てくれないと…私の体は静まりそうにありません!」
「ちょっ、ちょっと、そんなこと…誰かに聞かれたらどうするの…?
もういいわ。中に入りなさい」
そう言われ、私は中に入った。
部屋の中は薄暗かったが、エドナが入っているらしき、ベットに足を運ぶ。
「ほら、ここに入りなさい」
そう言われて、ベットの横に入った。
傍らにはエドナの居る気配がする。
「全く、あなたは小さい子供みたいね」
「うぅ…私はもう幽霊って単語を聞くだけでダメなんです。
だからそういった類のものは耳に入れないようにしているんです」
「慣れれば、怖いものでもないと思うけど」
「嫌ですっ」
私がそう言うと、ふとエドナは考えるような口調をした。
「ねぇ、あなたは記憶がないのよね」
「そうですよ」
「それって不安になったりしない?」
「そうでもないですけど…まぁ不安かもしれませんね」
「そう…」
「全く見知らぬ土地にいきなり…ですから、
不安にならない方がおかしいかもしれません。
というよりここまで上手くやれたことの方が驚きです」
だってさ。普通異世界に来てしまったら、
大多数の人がその時点でつまずきそうだよな。
実際に私もつまずいている最中なのかもしれない。
「それは当たり前よ。
最初から見知らぬ土地で何もかもが上手くやれるはずがないじゃない」
「そうですか?」
「そうよ。私だって冒険者になったばかりの頃はたくさん失敗したわ。
何度命からがら逃げ出したことか…」
「エドナさんがそんな風になっているところは想像ができませんけど…」
「でもこれは本当のことよ。
徐々に経験を積んでレベルアップできたから、今みたいな感じになれたの」
「そうなんですか」
「だからあなたも成長していると思うわ」
「私が?」
「最初の時より随分と成長したと思うわ。
前はおどおどとしていて、他人の顔色ばかり伺っていたけど、
今はちゃんと人に意見できるようになったじゃない。
多分これからももっともっと成長すると思う」
「うーん、自分ではそんな風には感じていないんですけど」
「自分のことはわからないものなのよ。
でも他人のことはよくわかるものなの。
それは近くで見ていた私が言うんだから間違いないわ」
そう言うとエドナはそれで話を切り上げた。
「さぁ、もう夜遅いんだし、早めに寝ましょう」
「うん」
そうしてしばらくすると気がつけば私はいつの間にか眠っていた。
◆
「うーん…」
朝、私は目が覚めた。いつものように顔を洗おうかと思ったが、
よく見たら、その部屋は似ているが私の部屋では無い。
家具の配置が全然違うのだ。
「え?」
その時、ベットの中で何かが身じろぎする音が聞こえた。
私は急いで布団をがばっとめくった。そして絶句した。
そこに一糸纏わぬ姿のエドナが居たからだ。
「な、な、なんじゃこりゃー!」
「なによ。起こさないでよ…」
その時、目が覚めたらしき、エドナがそう言った。
「なんで裸なんですか!?
というかどうして私はここに居るんですか…?」
「はぁ?
あなたが夜に幽霊が怖いから一緒に寝てくれって頼んだんじゃない」
あ、そういえば寝ぼけてて忘れてたけど、確かにそうだった。
「じゃあなんで裸なんですか?」
せめて胸ぐらいは隠してほしいけど、
エドナは特に隠そうともしていない。
私が男だったら絶対に襲われてるぞ…。
「はぁ? 寝る時は普通裸でしょ?
服なんて着たら、暑くて寝られないわよ」
そう言うとエドナは頭をかいた。
そういえば前に創造スキルで作ったパジャマ着てたら、
なんでそんなもん着て寝てんのって言われた気がする…。
暑い地方の国だからパジャマ文化が浸透していないのかな。
そう思った時だった。
「エドナー! セツナがまた居なくな………」
その時、空いていた窓からガイが入ってきた。
そして私達を見ると、固まったような顔をした。
どうしてそんな顔をするんだろうかと思っただ、すぐにはっとした。
エドナは今全裸。私は昨日、この部屋で眠った。
この状況を何も知らない他人が見たら、
どう見ても…やった後に思われるじゃねーか!!
「悪い。邪魔したな」
そう言って窓の外から出て行ったガイに向かって私は叫ぶ。
「待ってー! これは誤解なんですー!!」
「はぁ…二度寝しようかしら」
貴重な睡眠時間を2回も削られ、エドナはため息を吐いた。
「そうですね」
生理も終わったので、
買い物のために市場を訪れていると、
そこは私が最初訪れたような活気はなかった。
ほとんどの店が閉鎖し、市場は閑古鳥が鳴いていた。
「そういえばこないだ雹が降ったみたいだけど珍しいこともあるわね」
「そういえばこの地方ではめったに雪は降らないんですよね」
「そうよ。暖かい地方だからね。雪は降らないわ」
バーン王国は南の方にある大陸なので、あんまり雪は降らない。
だからいきなり振った雹に町の人は完全に怯えていた。
こういった天変地異は魔族が現れる時の前兆だからだ。
もう外出するのも怖いみたいで、
家の中に閉じこもっている人も多い。
「はぁ…なんだかとんでもないことになってしまいましたね」
「まだ気にしているの?
それはこれから罪滅ぼしをしていけばいいじゃない」
「そうですね」
結局、買うものもあんまりないので私達は宿に帰ることにした。
「あー…私のせいとは言え、とんでもないことになってしまいましたね」
宿に帰ると私は自分のベットに横になった。
エドナは私の部屋にある椅子に腰掛けた。
「まぁこの騒ぎもしばらく続くでしょうけど、損失は大きいでしょうね。
多くの人が他所に移住してしまったし、観光業にも大ダメージでしょうね」
「そうですね…」
「なぁ…」
その時、さっきからずっと黙り込んでいたガイが口を開いた。
ここのところガイは口数が少ない。何度か里帰りはさせているから、
食事ができずに憔悴しているというわけでもなさそうだった。
「なんか最近妙に寒くないか?」
「え? それは避暑地だからじゃないですか」
だってここって比較的涼しい方だし、
そう思っているとガイが真剣な顔をして言った。
「いやここの所、
明らかに最初の時より気温が下がっている気がするんだよな…」
「それは雨期だからじゃないですか」
今現在は6月で雨期だ。日本でいう梅雨はもう始まっている。
何度かこの町にも雨が降った。
「そうかもしれないけど、なんだか空も変な気がするんだよな。
ピリピリしている感じがするし…」
「うーん、私は何も感じませんけど?」
「私も特に何も感じないけど、ただの気のせいなんじゃないの?」
エドナにまでそう言われて、ガイはしばらく考え込んでいたが、
やがて気にしないことに決めたのか顔を上げた。
「そうだが。気のせいだな!
町の奴らが不安になっているから、
俺も不安になっていたのかもしれないな」
「まぁそんな話題よりも、もっと楽しい話題をしましょうよ」
「楽しい話題? ああ、そういえばさ。こないだセツナがさー」
そう言うとガイはエドナにこないだ会ったハンクと私の話をした。
「まったくとんでもない男ですよ、あいつは」
私がそう言うとエドナは引きつった顔をした。
「あ…哀れな」
「何が哀れなんです?」
私がそう言うとエドナは盛大にため息をついた。
「まぁでもこれぐらい良い方よ。
私なんて生理なのがバレたら、
やらせろなんて言われたこともあるし…」
「うわぁ何それ最低…」
「まぁぶん殴ってやったけどね。
でも男は女の体の事情は、
よく知らないからそういうことが言えるのよね…。
これも仕方がないと割り切るしかないのよ」
そうなのかなぁ…そう思ったけど、
自分に逆らう事柄にいちいち修正しようと思ったらきりがない。
ほどよく諦めることも肝心かもしれない。
「そういえば冒険者って、不思議な経験ってしたことあります?」
私は話題をそらすために、あえて違うことを聞いた。
「不思議な経験?」
「こう謎の飛行物体を見たとか、そういう不思議な体験ですよ」
「そういえば、
私右腕を負傷した時に死にかけたせいか変な夢を見たのよ」
「変な夢?」
「なんかね。ずっと続くお花畑を歩いている夢だったのよ」
それってまさか…臨死体験?
「それでしばらく歩いていたら川が見えて、
川の向こう岸に人がおーいって手を振っていたの。
だから渡ろうとしたら、
いきなり腰まである黒い髪の金色の目をした妖艶な女が、
あなたはこっちに来る予定はありません。即刻帰りなさい。って言って、
私が何か言う前に、腕を掴んでずるずる引っ張って川の方から離したのよ。
そしたら気がついたらベットの上だったの」
それってまさか…特徴からしてベアトリクスさん?
おおーい! 冥府の女王って、そんなこともやるのかよ!
まぁ死んだ先の世界の住人だから仕方ないんだけど!
「なぁそれって…この前の」
だがガイは何か気がついたらしい。
「あー! そういえば冒険者って幽霊とか見るんですかー」
「幽霊?」
「あ、やっぱりそういう話はいいです」
とっさに出た言葉だったが、
すぐに自分が幽霊が苦手だということを思い出した。
「何なのよ…それっぽい話は私はいっぱい知っているわよ。
実際に幽霊を見たことは何度もあるし」
「え?」
「いつも見えるわけじゃないけど、たまーに見えることはあるわよ。
特にあなたと出会ってから余計に見えるようになったわ」
「霊感…高いんですか?」
「といってもお祓いとかそういうのは無理よ。
ただ見えるだけ、幽霊が何言ってるのかもわかんないし」
「そうなんですかー…あはははは」
そういえばエドナがたまに何もない壁とかを見つめていることがあるけど、
あれってひょっとして…。
「幽霊が多い場所ってどこなんですか」
「神殿が1番多いわね。あそこは墓地とかもあるし、
治療の甲斐もなく多くの人が亡くなっているから、
あそこで見ることが1番多いの」
止めてぇぇぇぇ、もう孤児院に行けなくなるぅぅ。
だからエドナはあそこに行きたがらないわけか…。
「それに昔見たのだと…」
「もうその話はいいです。別の話にしましょう!」
そうして話を終わらせたのだが…。
◆
「うぅうう…」
その日、私はなかなか寝付けなかった。
エドナが昼間、話した幽霊話をどうしても思い出してしまうせいだ。
ちなみにガイはこっちの気持ちなんて知らずにグースカ寝ている。
全く根が単純な妖精は気楽でいいよっ。
「もうだめ、寝られない。エドナのところに行こう」
そう思って枕だけを持って、私は隣の部屋に向かった。
「エドナさーん…」
軽くどんどんと叩いていると、カチャリとドアが開いた。
「どうしたの、こんな時間に」
ドアの向こうから顔だけ出してエドナは言った。
「一人で眠るのが、怖いんですぅ…一緒に寝てください」
「………寝るって、子供じゃないんだから…」
呆れたようにそう言われ、私はすぐに反論する。
「エドナさんが悪いんですよ…!
怖い話するから…私が眠れないんです…!」
「怖い話って、たったあれだけで?」
「そうです。責任取ってください…!
あなたのせいでこんなことになったんです…!
せめて一緒に寝てくれないと…私の体は静まりそうにありません!」
「ちょっ、ちょっと、そんなこと…誰かに聞かれたらどうするの…?
もういいわ。中に入りなさい」
そう言われ、私は中に入った。
部屋の中は薄暗かったが、エドナが入っているらしき、ベットに足を運ぶ。
「ほら、ここに入りなさい」
そう言われて、ベットの横に入った。
傍らにはエドナの居る気配がする。
「全く、あなたは小さい子供みたいね」
「うぅ…私はもう幽霊って単語を聞くだけでダメなんです。
だからそういった類のものは耳に入れないようにしているんです」
「慣れれば、怖いものでもないと思うけど」
「嫌ですっ」
私がそう言うと、ふとエドナは考えるような口調をした。
「ねぇ、あなたは記憶がないのよね」
「そうですよ」
「それって不安になったりしない?」
「そうでもないですけど…まぁ不安かもしれませんね」
「そう…」
「全く見知らぬ土地にいきなり…ですから、
不安にならない方がおかしいかもしれません。
というよりここまで上手くやれたことの方が驚きです」
だってさ。普通異世界に来てしまったら、
大多数の人がその時点でつまずきそうだよな。
実際に私もつまずいている最中なのかもしれない。
「それは当たり前よ。
最初から見知らぬ土地で何もかもが上手くやれるはずがないじゃない」
「そうですか?」
「そうよ。私だって冒険者になったばかりの頃はたくさん失敗したわ。
何度命からがら逃げ出したことか…」
「エドナさんがそんな風になっているところは想像ができませんけど…」
「でもこれは本当のことよ。
徐々に経験を積んでレベルアップできたから、今みたいな感じになれたの」
「そうなんですか」
「だからあなたも成長していると思うわ」
「私が?」
「最初の時より随分と成長したと思うわ。
前はおどおどとしていて、他人の顔色ばかり伺っていたけど、
今はちゃんと人に意見できるようになったじゃない。
多分これからももっともっと成長すると思う」
「うーん、自分ではそんな風には感じていないんですけど」
「自分のことはわからないものなのよ。
でも他人のことはよくわかるものなの。
それは近くで見ていた私が言うんだから間違いないわ」
そう言うとエドナはそれで話を切り上げた。
「さぁ、もう夜遅いんだし、早めに寝ましょう」
「うん」
そうしてしばらくすると気がつけば私はいつの間にか眠っていた。
◆
「うーん…」
朝、私は目が覚めた。いつものように顔を洗おうかと思ったが、
よく見たら、その部屋は似ているが私の部屋では無い。
家具の配置が全然違うのだ。
「え?」
その時、ベットの中で何かが身じろぎする音が聞こえた。
私は急いで布団をがばっとめくった。そして絶句した。
そこに一糸纏わぬ姿のエドナが居たからだ。
「な、な、なんじゃこりゃー!」
「なによ。起こさないでよ…」
その時、目が覚めたらしき、エドナがそう言った。
「なんで裸なんですか!?
というかどうして私はここに居るんですか…?」
「はぁ?
あなたが夜に幽霊が怖いから一緒に寝てくれって頼んだんじゃない」
あ、そういえば寝ぼけてて忘れてたけど、確かにそうだった。
「じゃあなんで裸なんですか?」
せめて胸ぐらいは隠してほしいけど、
エドナは特に隠そうともしていない。
私が男だったら絶対に襲われてるぞ…。
「はぁ? 寝る時は普通裸でしょ?
服なんて着たら、暑くて寝られないわよ」
そう言うとエドナは頭をかいた。
そういえば前に創造スキルで作ったパジャマ着てたら、
なんでそんなもん着て寝てんのって言われた気がする…。
暑い地方の国だからパジャマ文化が浸透していないのかな。
そう思った時だった。
「エドナー! セツナがまた居なくな………」
その時、空いていた窓からガイが入ってきた。
そして私達を見ると、固まったような顔をした。
どうしてそんな顔をするんだろうかと思っただ、すぐにはっとした。
エドナは今全裸。私は昨日、この部屋で眠った。
この状況を何も知らない他人が見たら、
どう見ても…やった後に思われるじゃねーか!!
「悪い。邪魔したな」
そう言って窓の外から出て行ったガイに向かって私は叫ぶ。
「待ってー! これは誤解なんですー!!」
「はぁ…二度寝しようかしら」
貴重な睡眠時間を2回も削られ、エドナはため息を吐いた。
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