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第1章過去と前世と贖罪と

49.5・風邪引きエドナさん

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「本当にごめんなさい…」

私はそう言うと、リンゴの皮を剥いていく。

どういうわけか知らないけど、
時計塔の上に居た私は誤ってそこから落ちかけたらしい。
そこでエドナが助けてくれたみたいだけど、
土砂降りの雨の中だったので、
エドナは風邪をひいてしまった。

「うぅ…頭が痛い」

酷く頭痛がすると言うので、
創造スキルで氷枕と、冷えピタもどきを作ってみた。
普段だったらどこから出してきたんだとか言われそうだが、
風邪のせいかエドナがツッコミを入れる事はなかった。

「大丈夫ですか、ほら、あーん」

私は切り分けたリンゴをエドナの口の中に運ぶ。
風邪をひいているせいか、大人しくエドナはそれを食べた。

なんか…大人しくしていると本当に美人だよなぁ…。
まぁ本人は母親似の容姿にコンプレックスを持っているから、
こういう事は言わないけど。
エドナって、ゲームとかのヒロインで絶対に居そうなタイプだよな。
あれだよ。あまり素直じゃないけど、
何だかんだ言いつつ、主人公に尽くしてくれそうなタイプだよな。

…そういえば、全然関係ないけど、
ゲームの女の子って、もう露出狂としか思えない程、
セクシーな服着てること多いけど、あれって何なんだろう。
暑い地方なのかなと思ってたけど、
雪国とか行ってもそのままのことが多いし。
あれって本当に謎だよな。寒くないんだろうか…。

「だいたいお前が悪いんだぞ。
いきなり居なくなるし、エドナに感謝しろよ」
「だからこうして看病しているんじゃないですか」

ガイにそう言われたので、私はそう反論する。
まぁ私のせいで風邪をひいてしまったので、
そのお詫びとしてずっと看病しているのだ。

「そんなことよりも手紙が来ているんですけど読みます?」

実を言うとギルドが業務再開をしたので昨日行ってみたら、
エドナのことについて聞かれたので、
つい風邪引いたことを話してしまったのだ。
そしたら心配した人達がエドナにお見舞い品をプレゼントしてくれたのだ。
実を言うとエドナはかなりの美人なので、
ギルドの冒険者の中では密かなファンができているのだ。
なんでもあの冷たい雰囲気が良いのだとか。
そんな感じでもらったプレゼントがエドナの部屋に山積みになっている。

ちなみに暴行事件の時はエドナのこれからを考えて、
ギルドマスターが被害者の情報を伏せてくれたので、
それを知る者は少ない。

「全部捨てといて…」
「え、捨てていいんですか?」
「そんなのいらないから…」

相手の人に申し訳ないなと思ったけど、
私が代わりに返信するのもダメだと思うし、
これは捨てておくか…。

「それならお菓子とか渡してくれた人がいたんですけど、食べます?」
「それも捨てておいて…」
「どうしてですか?」
「前に変な薬が入ったお菓子を渡されたことがあるからいらないわ…」
「それってまさか麻薬?」
「いや多分、媚薬みたいなものだと思うけど…。
それ以来、よく知らない人物から渡された食べ物は、
食べないことにしているの…」

ああ、なるほどね…。
美人って得なことが多いかと思ったけど、苦労することもあるんだな…。

「それと食べ物じゃないプレゼントもありますよ」

中に何が入っているのか私は知らないが、
割と大きな箱もあるので私はそれを指差す。

「それも捨てといて…滅多刺しにされた人形が入っていたこともあるから…」

なにそれこわい。

そういえばアイドルとか、芸能人とかも、
ファンからの贈り物は事務所の人がまず確認すると言うが、
その理由がわかったような気がした。
美人だから嫌がらせとかもかなり来るんだろうな…。

私は魔法を使って、
プレゼントの中から悪意あるものとそうでもないものをより分けた。
悪意あるものは黒いオーラを発しているためすぐにわかる。
逆に善意あるものなら白いオーラを発している。
そして黒いオーラをまとったものは、中は開けずに魔法で消滅させる。

「ほら、これ大丈夫みたいですよ」

私は箱を開け、中にあるクッキーを取り出す。
これは実をいうとイザベラからもらったものだ。
私がレシピを教えたので、今日作ったものをおすそ分けしてもらったのだ。

「魔法で悪意あるものとそうでない物を選り分けたんで大丈夫ですよ」
「はぁ…それってひょっとしたら…警備の時に役立つんじゃないの」

あ、言われてみれば確かに。犯罪者とか一発で見抜けるかもしれない。

「このプレゼントは本当にいらないんですね?」
「私が持ってても、仕方がないものだから、
孤児院の子供にでもあげてちょうだい」

プレゼントの中には大きなクマのぬいぐるみとか、花束とかもある。
本気でこれをエドナが喜ぶと思ったのだろうか…。
まぁ花には罪はないので、部屋に飾っておこう。

「まぁこういうのは売れば多少はお金になりそうですね」

え? あくどい?
いやだってさ…。
自分が欲しくないプレゼントってもらったって嬉しくないんだよ。
売れば結果的に、
そのお金でエドナが助かるんだからちょうどいいじゃん。

「うぅ…頭痛い」
「大丈夫ですか?」

エドナは本当に体調が悪そうだった。
前に創造スキルで作った体温計もどきで体温を測ってみたら、
39度だった。
頭痛もするし、寒気もするのか、汗もすごくかいている。

「そういえば風邪って、何したら治るんでしょう?」
「そう言われても俺は風邪なんてひいたことがないから分からんな」

そうガイに言われ、私は考えた。
確か風邪の特効薬は存在しなかった気がする。
病院に出される薬は熱を下げたり、
鼻水を止めたりとか症状に効く薬で、
風邪、という病気に効く薬はないらしい。
何したら治るんだっけ…。

「ネギを首に巻く…いやそれは確かガセネタだった気がする…。
なにすれば治るんだっけ…」
「安静にするのが一番良いんじゃないのか」

ですよねー。あ、そうだ。あれがあるじゃん。

「そうだ。そろそろお腹が空きましたよね。
おかゆさん作ってきます」

そう言うと私は、おかゆを作るために厨房に向かった。

「おや、セツナちゃん」

その時、厨房で宿の女将さんと出会った。

「ちょっと厨房借りていいですか?」
「いいよいいよ。それぐらい。
ところであんたに教えてもらったあのフレンチトーストだけど、
お客さんからものすごい好評でさ。
うちのメニューに加えることにしたんだ」
「なるほど、それはよかったですね」

料理のレシピを他にも色々教えたので、
すっかり宿の女将さんとは打ち解けて話せるようになった。
私は女将さんと少し話すと、厨房の中に入った。

「さてと」

私はアイテムボックスから小さな土鍋を取り出す。
これは創造スキルで作ったものだ。
そこに少量のお米を加え、熱を加える。
塩胡椒で味付けして、卵をといて入れれば、これで完成。
だが私はさらにそこに、刻んだ植物を入れる。

「ふっふっふ、できた」

そうして土鍋をタオルで包んで、エドナの部屋の前に行く。
あれ、部屋の前にまた手紙が…。
どうせ読まれることがないと思うと哀れだな…。

「エドナさーん」

そうして部屋の中に入ると、エドナはぐったりしていた。

「うぅ…後にして」
「食べないと風邪も治りませんよ。ほら、あーん」

私はフーフーしておかゆを冷ますと、
それをエドナの口の中に入れる。
抵抗する気力もないのか、エドナはされるままにそれを食べた。

「なにこれ…苦いんだけど」

味付け自体は普通なのだが、
入れた植物が苦かったのかエドナはそう言う。

「ああ、これ聖月草なんですよ」
「ごふっ、ゲッホゲッホ…」

そう言うとエドナはおかゆが気道にでも入ったのか、
苦しそうに咳をした。

「何を考えているのよっ!
あんな貴重な薬草を私に使うなんて…!」
「だって風邪でしんどいんでしょう?
早く治した方がいいですよ」

ちなみに聖月草はそのまま食べても、病気には効果がある。
まぁ他の薬草と混ぜて薬にした方がもっと効果はあるが、
風邪ぐらいならそのまま食べた方がいいだろう。

「それ一輪だけでどれだけの価値があると思っているのよっ」
「どれぐらいの価値があるんですか?」

そして聞いてびっくり、
新品のゲームソフトが100本ぐらい買える値段だった。

うわぁ…無知って怖い。

「まぁお金なんかより、
エドナさんが早く元気になってくれる方が私は嬉しいですよ」

そう言うと、エドナは大きくため息を吐いた。

「…負けた」
「え?」
「…あなたには多分私は勝てそうにないわ。
やることなすこと突拍子もなさすぎて、
ついていくので精一杯だもの」
「そうですか?」

私からしたら、ああいう悲惨な人生を歩んでいるのに、
それに負けずに生活しているエドナの方が凄いと思うけど。

まぁそんなこんなで丹精込めて看病していたら、
いい加減1人にしてくれと言われたので、私はそのまま部屋に帰った。

そして聖月草のおかげで、次の日エドナは完全に風邪が治った。
まさか1日で全快するものとは思っていなかったので、私は驚いた。

こりゃ高いはずだわ。
国内でも有数の危険地帯なのに、
アリアドネの森に入る冒険者が後を絶たない理由がわかった私だった。
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