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第1章過去と前世と贖罪と

24・念願のお風呂

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私が目が覚めた時、もう昼すぎだった。
熟睡したせいか疲れは完全に取れていた。

「ふぁー」

大きなあくびをしていると、
目の前にゲーム画面みたいなのが表示された。

【カルマ値が5減りました。善行・薬草寄贈】
【カルマ値が200減りました。善行・地獄級魔物の地上進出阻止】
【カルマ値が20減りました。善行・『ゲート』の封鎖】

「おお!やった!」

私は思わずガッツポーズをした。
カルマ値を合計225ポイント消すことが出来た。
私はワクワクしながら、ステータス魔法を使った。

「《分析(ステータス)》」

【セツナ・カイドウ】
【年齢】17才 【種族】人間 【属性】火、水、風、地、闇、無
【職業】Fランク冒険者。
【称号】無実の贖罪者
【レベル】7
【体力】206/206
【魔力】∞/∞
【筋力】F 【防御力】F 【精神力】F
【判断力】E 【器用さ】B 【知性】A 【魅了】?
【状態】
【カルマ値】9999(判定不可)
【加護スキル】地獄神の加護、超回復、各種免疫、言語理解、空間術、幸運、創造。

私はがっくりと肩を落とした。
カルマ値は相変わらず9999のままだったからだ。
まぁいいさ、減らせたことは事実だし、こつこつやればいいさ。

そんなことより新しいスキルが増えてるけど、これは一体どういうことだろう。
私は早速詳細を見てみることにした。


【創造】物体を創り出す神の能力。
ありとあらゆる物を作り出すことが出来るが、生物は不可。
ただし代償として、莫大な魔力と生命力が必要。
何度も使うと干からびて死ぬので、注意しておきましょう。

「おい…」

そんな重要な事は最初から言っておけよぉぉ!!
危うく干からびて死ぬところだったじゃないか!!
昨日は実質3回ぐらい使ったから…。
うわ…ヤバイ…死ぬところだったじゃないか…。
便利な能力だけど、これはうかつには使えないな…。

とりあえず私はベッドから降りると、服を着替えることにした。
しかしさすがに昨日の服を着るのはためらわれた。
私のローブには、昨日森の中を探索したせいか、
葉っぱや木の枝やら、汚れが付着していた。
さすがにこれは洗濯した方が良さそうだ。
宿の従業員に頼めば、洗濯してくれるそうなので、頼むことにした。
だが新しい服に袖を通すと、だんだん憂鬱な気分になってきた。

「お風呂に入りたい…」

実を言うと、ここ1週間ぐらい、
私はまともにお風呂に入れていなかった。
もちろん濡らしたタオルで体を拭くぐらいのことはやっていたが、
それでもちゃんとしたお風呂には入りたかった。

一応このアアルと言う町は、曲がりなりにも都会なので、湯屋はある。
あるのだが、料金がアホみたいに高い。
日本円にしてだいたい1万円ぐらいかかるんだよ…。

それでもお風呂に入りたかったので、お金を払って入ったものの…。
脱衣場はものすごく汚かった。
なんていうか土みたいな汚れが床に散乱していて、
湿気が溜まるせいか、壁はカビだらけだった。
それでもお風呂に入れると思って、意気揚々とドアを開いたら、
中にはおっさんがひしめいていた。
つまり混浴だったわけです…ふざけんな。
そんな中に私が入れるはずもなく、すぐに出て、
湯屋の主人に問い詰めたら、鼻で笑われた。

はぁ? 湯屋が混浴なのは当たり前だろ。
脱衣場が汚い? そんなの客が勝手に汚していくんだよ。嫌なら入るな。
と完全に相手にされなかった。
もちろん私は最強魔力で報復を…なんて事はせず、
もう二度と来るか! と捨て台詞を残して、その場を去った。
結局お金払ったのにお風呂には入れなかった…。
そんなことがあったのでずっと我慢していたが、
さすがに1週間も入っていないと…、
それは女としてどうなの?って思えてきた。

お風呂がある生活が懐かしい。お風呂に入りたい…。
でも魔法も万能ではないし、体を清潔に保つ魔法とか、
そういった浄化の類の魔法は、光属性の管轄なので私には使えない。
だから我慢するしかないのだが…いい加減、ストレスがたまってきた。
せめて髪ぐらいは洗いたい。
そうだ。水魔法を応用して髪とか洗えないかな。

そう思って手帳を開くと、魔法の欄に追記ありと書かれていた。
追記…なんだろう? そう思ってページを開くと、
転移魔法と呼ばれる魔法が追加されていた。
何でも一度行った場所ならどこにでも行くことが出来るらしい。

「何だ…。お風呂に入れる魔法じゃないのか…ん?」

すると転移魔法の項目の下に、地獄神のメッセージが浮き出てきた。

『基本的に転移魔法は1度行った場所にしか行けないけど、
君は頑張っているから、
特別に世界の秘境マヨヒガ島に行けるようにしておいたよ』

「そんな変なところよりお風呂に…ん?」

『ちなみにマヨヒガ島にある温泉は、疲労回復にも良いよ』

「じ…」

地獄神…!
ごめんよ。何か裏があるとか思っちゃって…あなたは素晴らしい神様だ。
その時、私の中で地獄神の株がうなぎ登りしたのは言うまでもない。
タイミングからして私のこと監視している可能性があるけど、
そんなことはもうどうでもいい。

私は早速転移魔法を使ってみることにした。
うん、そこがどんな場所なのか知らないにも関わらず、
ちゃんとイメージすることが出来る。

「《転移(テレポート)》」

転移魔法を使うと、私はどこかの森の中にいた。
そして目の前には湯気が立ち上る露天温泉があった。

「やったぁー!!」

私は飛び上がって喜んだ。
ようやく念願のお風呂に、
しかも温泉に入れるのだから嬉しいことこの上ない。
お湯に手を入れてみると、ちょうどいい湯加減だった。

「あ、そうだ」

早速お風呂に入ろうとして、私は昨日のことを思い出した。
そうだ。エドナとどうやって仲直りしよう…。
彼女がせっかく忠告してくれたのに私はそれを破ってしまった。
あ、そうだ。
エドナも湯屋に対して愚痴っていたからお風呂に入りたいはず、
ちょっと誘ってみよう。
私は再び転移魔法を使うと、宿の自分の部屋に戻った。
そして部屋に鍵をかけて、廊下に出るとエドナの部屋の前に来た。
もちろん部屋に出る前に幻惑魔法で瞳の色は変えておいた。

「エドナさん、お風呂に入りましょうよ!」
「…何?」

ドアを開けて現れたエドナはいつものローブではなく、
黒い長袖の服に、ズボンをはいていた。
そして珍しく、髪の毛をポニーテールにしてまとめている。

「どうしたんですか?」
「何って、修行してたのよ…」

そう言うとエドナは首に巻いていたタオルで顔を拭いた。
よく見ればさっきまで運動していたのか汗をかいている。

「体を動かすのって好きなんですか?」
「好きと言うよりは、ただの日課よ。
体を動かしていないと落ち着かないから」

…エドナって魔法使いだよな…。
魔法使いなのにどうして体を動かしたがるんだろうか。
私のイメージする魔法使いって、打たれ弱いのが定番だけど、
意外にこの世界の魔法使いはみんな鍛えているんだろうか。
うん…謎だ。

「そんなことより、お風呂に行きましょうよ」
「え? 湯屋に行きたいの?
でも今の時間は混んでいるわよ」
「ふっふっふ」

私はドアを閉めて部屋に入ると、エドナの手を取った。

「《転移(テレポート)》」

そして一瞬のうちに温泉にまで転移したのである。

「……は?」
「どうですかー。ここって良い温泉ですよね。
って、あの、どうしたんですか?」

いきなりエドナが左手で顔を覆って座り込んだので、
私は心配になってそう尋ねた。

「ごめん。黙って…現実を受け入れるのに時間がかかっているだけだから…」
そう言うとしばらくしてエドナは起き上がった。

「まさかあなたが伝説の転移魔法が使えるとはね…」
「伝説?」
「転移魔法は古に失われた伝説の魔法よ。
その存在自体幻のものと伝えられているわ」
「そうなんですかー。知らずに使ってました」

そう言うとエドナはガクッと肩を落とした。

「つくづくあなたと一緒にいると驚かされてばかりね…
自分の常識がいかにちっぽけなものか思い知らされるわ」
「あ、それと昨日はすみませんでした。
その、言いつけを破ってしまって」
「…それに関してはもういいから…。
何だかもうどうでも良くなったし、私こそ少し言い過ぎたわ…」

そして私達は仲直り出来たのだった。

「じゃ、じゃあ早速お風呂に入りましょうよー」

キラキラと輝かんばかりの笑顔で私がそう言うと、
エドナは至極冷静に答えた。

「それ以前にここってどこなの?」
「さあ? マヨヒガ島って所みたいですけど」
「ま、マヨヒガ島? あの伝説の?」
「知っているんですか?」
「知ってるも何も、船乗りの間では有名な島よ。
何でも遭難した時にしか訪れることが出来ない島で、
そこには金銀財宝が眠っていると噂されているわ。
でも島自体を探そうとしても、
絶対に見つけることが出来ないと言われているの。
存在自体がもう幻の島よ」
「そうなんですかー。
私はてっきりただの温泉地なのかと思っていました」

そう私が言うとエドナはまたガクッと肩を落とした。

「あなたって本当に謎が多いわね…」
「気になります?」
「気になるけど…。
まぁあなたの事情はもう聞かないことにしているから、もう別にいいの」
「そうですか、なら温泉に入りましょうー」

今の私にとってこの島で眠っているらしき金銀財宝よりも、
温泉の方が何倍も素晴らしく見えた。

「いや、それ以前に勝手に入っても大丈夫なの?」
「あ、それは大丈夫です。とある人のお墨付きをもらっているんで」

私はそう言うと意気揚々と服を脱いで、温泉に入る。

「ほら、はやく入りましょうよー」

私がそう言うとエドナはしぶしぶといった様子で服を脱いだ。

「あ」
その時に気がついたが、エドナは体に何箇所か傷痕があった。
まず肩から右腕にかけて、
爪でえぐったようなそんな跡があり、背中にもえぐられたような傷痕があった。

「それ、どうしたんですか?」

私は聞いちゃいけないかもしれないと思いつつ、つい聞いてしまった。

「ああ、魔物にやられたのよ」

エドナは特に気にしていないのか、そう言うと服を脱いで温泉に入った。

近くで見ると、エドナの右手の傷はかなり深かった。
普段は服で隠れていて気づかなかったが、
そういえば日常生活を送る際、エドナはほとんど左手を使って生活していた。
これはひょっとして今も障害が残っているのだろうか。

「痛くないですか?」
「いや、もう何年も前の傷だから痛くは無いわ。
まぁこの傷のせいで、今でも右手はほとんど動かないけどね」
「それ、かなり大変だったんじゃないですか?
だってその話だと右手が利き手だったんでしょう?」
「そうよ。まぁ大変だったわ…。
腕が片方使えないともなると、剣も握れないから、
一時期は冒険者を引退しようかと思ったけど、まぁ何とかなったわね」
「そうですか…ん?」
「まぁこれはこれで結局良かったと思うわ。
おかげで王都を離れる決断が出来たし、こうやって各地を回れるのだからね」
「あのすみません。ちょっと気になることがあるんですけど、
剣も握れないからって、さっき言ったじゃないですか。
これってどういうことです?」

その時、エドナはしまったという顔をした。
しばらく黙り込んでいたが、バツが悪そうに頬をかいた。

「実は私、昔は剣士だったの」
「え? ええーーッ!?」

まさかの言葉に私は驚いた。まさかまさかまさかだよ。
だってエドナは長髪にとんがり帽子にローブと言う、
どっからどう見ても魔法使いスタイルなんだよ。
そりゃ短剣を扱うこともあったが、
基本的に魔物は魔法で倒していたし、
そんなエドナが剣を持って、魔物に斬りかかるところなど想像出来ない。

「まぁ剣士って言っても、討伐対象によって武器を変えていたから、
別に剣しか使えないわけじゃないんだけどね」

確かに今は短剣を使いこなしているから、その言葉には説得力あった。
という事は昔は槍とか弓とかも扱えたのだろうか…。

「それがどうして魔法使いに?」
「ああ、右手が使えなくなった時に、
魔法使いになろうと決めたのよ。
まぁその時も簡単な魔法は使えたんだけど、
別に戦闘に特化したものじゃなかったから、
1から勉強し直して、今みたいな形になったの」
「そうだったんですか。
だから魔女みたいな格好をしているんですね」
「え? 形から入るのって大事なことじゃないの?」

きょとんとした表情でエドナはそう言った。
…うん。エドナって形から入るタイプなのか…。
基本的にこの世界の人の魔法使いのイメージも、
とんがり帽子にローブという姿が一般的だ。
ギルド魔法使いの中にも、
エドナと似たような格好をしている人は何人も居た。
しかしエドナは形から入るタイプだったのか…意外だ。

「それにあの格好していたら、私が剣士だって誰も気がつかないし…」
「剣士だとバレると困ることがあるんですか?」
「…まぁ人生いろいろあるのよ」

濁したようなその言葉に触れられてほしくない話題なんだと私は察した。

「でも強いですね」

私だったらたぶん右手が使えなくなったら、メッチャ落ち込む。
でもエドナは他に自分に出来ることを探したんだ。すごいなぁ…。
だがその言葉を聞いてエドナは呆気にとられた顔をした。

「………どう考えてもあなたの方が強いと思うんだけど」
「え、でもたぶん精神的な意味の強さでは、エドナさんの方が圧勝ですよ」

基本的にこの世界の人達というのは、15才ぐらいで成人を迎える。
地方によっては13才で大人とみなす場合もあるのだそうだ。
そのせいか、エドナは20才とは思えないぐらいに中身がしっかりしていた。
何ていうか心にちゃんとした芯が通っている感じがするのだ。

だってエドナは基本的に、役職や立場で相手を見ない。
冒険者だからこう、賢者だからこう、とかそんな先入観で人を見ない。
だから私の最強魔力の存在を知っても、
前と変わらない態度で私と接してくれたのだろう。
他の人間だったら多分、こうはいかなかった。
たぶんあの時の妖精達みたいに、私の事を特別扱いするか、
どう接していいのか分からなくなって距離を置くかのどちらかだろう。

でもエドナは普通の17才と接するような態度で、私と接してくれた。
これは本当に嬉しかった。どっからどう見ても怪しくて、
得体の知れない存在である私を受け入れてくれたことが本当に嬉しい。
彼女のような器の大きな人に私もなりたいと思った。
だから私はエドナのことを尊敬している。
年齢自体はそう変わらないけど、
精神年齢とか経験とかはエドナの方が優れているし。

「でも強さって目に見えるものだけが、強さじゃないんですよ?
私は確かにちょっと反則的な能力は持っていますが、
精神的に強いかと言われたら、ちょっと微妙なところがありますし…」
「まぁ…確かに。あなたは見ていてヒヤヒヤすることがあるし…」
「だから私は強い人に憧れるんです」
「…私はあなたが思っているような強い人間じゃないわ」

そう言うとエドナは顔を逸らした。

「むしろ普通より弱いから、強くなろうと思ったのよ…」
「…?」

どういうことだ?
なんだか意味深な言葉だけど、
エドナにとって触れられたくない話題であることは確かだろう。
だから私は話題をそらすことにした。

「ところでエドナさんってスタイル良いですよね」
「え? …まぁ昔は鍛えてたからでしょうね。
今では筋肉はかなり落ちたけど」

…筋肉ってまさか昔は腹筋とか割れてたのか…?
気になったが、何だか聞くのも怖かったので、聞かないことにした。

「いやでも、スタイル良いって羨ましいですよ。
私は体付きだってこんな風に子供ですし、
女性としての魅力自体、そんなにありませんからね」

そう言ったらエドナは信じられないものを見るような目で私を見た。

「それ、本気で言っているの?
あなた、私から見ても充分魅力的だと思うけど」
「ははは、またまた~。
魅力的な女性ってエドナさんのことを言うんですよ」

私はエドナの身体を見る。
エドナは身体に傷があることを除けば、モデルみたいにスタイルが良かった。
肌も白いし、手足は長いし、腰はくびれているし、胸もそこそこある。
私も彼女みたいな体型になれたら良かったのに…。
私は外見は本当に小学生だからな。胸も無いし、身長低いし、童顔だし、
だからモデルみたいな体型って憧れだ。身長が高い人って本当に羨ましい。

「私もエドナさんみたいな体型になれたら良かったんですけどね」
「何言っているの? あなたはそのままで充分魅力的じゃない」
「またまた~」
「いや、これは本当のことよ。あなたは可愛らしい顔立ちをしているし、
体も小柄だから、つい守ってあげたいと思うことがあるの。
女である私ですらそう思うんだから、
男性からしてみればとても魅力的だと思うけど」
「まぁ確かに男性は、
守ってあげたいと思える女性には弱いとは言いますけどね」

私は温泉の水を手ですくう。お湯は白く濁っていた。

「でも私はそんな魅力なんて無いと思いますよ。
胸だって絶壁ですし、身長も低いですし、
今までの人生モテたことなんて1度もありません。
というかむしろ男性には嫌われてますよ」

基本的にこの世界は男尊女卑思想が根強く浸透している。
冒険者だって男が多いし、女性は軽んじられることが多い。
ここ1週間の間、空間術が使える魔法使いということもあって、
私はギルドではかなり悪い意味で目立っていた。
当然陰口なんかも結構叩かれた。

町ですれ違って「調子に乗るなよ」とか「ぶす」とか言われるならまだ良い方。
道を歩いていると見知らぬ男に後をつけられることなどが何度もあったし、
人気のない場所に行くと集団で武装した男達が襲いかかってくることもあった。
そういう時はハンクの時の経験を生かし、
飛翔魔法ですぐに逃げることにしている。
そんな私がモテてるわけがない。
そう言うと、エドナは大きくため息をついた。

「あなた……鈍いのね」
「え? 金属の話ですか?」

そう言ったら、さらにため息をつかれた。

「…そういうのは例外として、
ギルドにはあなたに好意を持っている人間は多いと思うわよ。
だって未だにあなたをチームに誘ってくる人が居るんでしょ?」

確かにそんな人間は居ることには居る。
断り続けているのに、しつこく私を自分のチームに誘ってくるのだ。
だから私も困っているのだが、
そうやって勧誘してくるのは男の冒険者ばかりだった。

「居ることには居ますけど、まぁどうせ空間術目当てですよ」
「あなたを自分のチームに誘ってくるのは、
別に空間術が目当てなだけじゃないと思うの。
あなたに気があるから、誘ってるんじゃないの?」
「え? そうなんですか?」
「そうよ、冒険者っていうのは、女性との出会いが少ない職業なの。
だから女性との関わり自体に飢えている冒険者も多いの。
特にあなたは可愛らしいから、それだけでも癒しになるじゃない」
「だから可愛くないですって、私はどこにでもいるような平凡な女です」
「それはあなたの故郷での話でしょ?
あなたはこの国の人間じゃないから、この国の女性には無い魅力があるの。
顔立ちもそうだし、謙虚な性格も、背が低いってことも、
慣れてない人間には魅力的に映るものなんじゃないの?」

あー、そういえば日本人女性は海外ではモテるって聞くなぁ…。
あんまりパッとしない人でも、
向こうの人には魅力的に映ることもあるらしいし…。
まぁ実際に海外に行ったことがないから、
私の中では噂の範疇を出ないのだが…。

「つまり異世界でようやくモテ期の到来ですか」
「え? モテ期?」

そういえばテレビで占い師がモテ期は、
誰しも人生に1度はあると言っていたし、
つまり、つまり、
私もようやく彼氏とかが出来る可能性があるということか。
いやそれどころか、どっかの王族に求婚されて、
イケメンの騎士とかに囲まれて生活するかも。

「ぐふ、ぐふ、ぐふふ…」
「その笑い方…」

エドナが若干引いた顔でこちらを見てきたが関係なかった。
だってさ。待ち望んだモテ期がついに到来。
今までずっと私は17年間、彼氏が居なかった。当然そんな経験も無い。
でもそんな私も遂にモテ期が…いや待てよ…。

男性と結婚して家庭に入ったら、善行を積むことが難しくならないか…?
子育てって自分の時間が無くなるって言うし、難しいかも。
それにシンデレラストーリーは女の子の憧れだが、
王族と結婚したら自由が無くなるじゃん。
王族って日本もそうだったけど、超過密スケジュールだし、
そんなところに嫁に行ったらストレスが溜まりそう。
あ、じゃあ止めとこ止めとこ。普通がいいよ。平凡が1番の幸せだよ。

「とりあえず平凡に生きることにします」
「…この話の流れでどうしてそんな結論に行き着くの?」

エドナはいつも通り呆れた顔をすると、大きなため息を付いた。
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