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第2部
秘め事②
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「えっ、じゃあ東弥は大学に残ることにしたの?」
「うん。国際学会も口頭発表で参加したし、論文も通ったし、このままいけば特別研究員制度に採ってもらえそうだから。幹斗は?」
「実は教授からの推薦で内定をもらったんだ。だからあとは修論のデータ集めてる。」
しばらくして話題は自然と進路の話に向いた。
東弥は修士を卒業した後博士課程に行くらしい。
たしかに東弥ほど優秀であれば特別研究員制度に採用されて学生のうちから給与をもらいながら研究できるだろう。
俺も就職は決まっているし、平和でよかった。
「2人とも進路決まってよかったー!幹斗は一年後に社会人だね!もしも困ったことがあったら先輩の俺にいつでも相談してねー!!」
えっへん、と谷津が拳で胸を叩く。
「…1%くらい期待しとく。」
「少なっ!!!…まあいいけど。
あっ、そうそう、俺4月に結婚式挙げるから来てね!!籍も今年度中には入れようかなーって話してて。」
…今、“あっ、そうそう”、なんて言って付け加えるように話すことじゃない重大な情報が聞こえた気がする。
4月に結婚。
そういえば結構前から谷津が結婚すると言っていたが、ついにするのか。時間が経つのって早い。
「おめでとう。もちろん出席するよ。そっか、結婚か…。」
しみじみとしていると、東弥がそういえば…、と口を開いた。
「俺と静留も養子縁組を結ぼうと思ってるんだ。相続とかは正直どうでもいいんだけど、大きな病気になった時とかに一緒にいる理由になりやすいのと、…あと、やっぱり家族になりたいから。」
「同性パートナー同士でそうしてる人も多いよねー!本当は静留君のこと法的にも手に入れたいっていう欲もあるんでしょー!!」
「…まあ、それもある。」
二人の話に突然胸の奥を突き刺されたような痛みを覚えて驚く。
どうしてだろうと少し考え、ある結論に辿り着いた。
…そっか、家族…。
両親がいない環境で生きてきた俺は家族への憧れが強くて、だから俺も由良さんの養子になれたならどんなに幸せだろうかと思うけれど、きっとそんなことを言ったら彼の傷を抉ることになるだろう。
そう思って、心が少しだけ傷ついたのだ。
…このままでいい。敢えて家族になろうだなんて、そんな残酷なことを由良さんに言うことはしない。
だって、あの日公園で静かに泣く彼はひどく苦しげに見えたから。
「…幹斗?」
谷津の心配そうな声ではっと我に帰った。
「あっ、ごめん、考え事してた…。こ、このナスの生ハム巻き、なんでこんな不味いんだろうなって…。」
咄嗟に出た言い訳だが、先程からずっと微妙な味だと思っていたから嘘ではない。
微妙な味を不味いと過剰に貶してしまったことについては、メニューを考えたひとに心の中でごめんなさいを言っておく。
「えっ、めちゃくちゃ美味しいけど!!俺持って帰っていい?真希ちゃんにも食べさせてあげるんだー!!」
「是非。もし残り物でよければ東弥も持って帰ってね。」
「本当?助かる。静留が喜ぶよ。」
ひとまずこの場は誤魔化すことができたらしい。
それからは互いのパートナーの話になった。
東弥は相変わらず静留君にデレデレで、谷津は真希さんと仲良しで、俺は格好いい由良さんがいつも大好きで。
それで幸せなはずなのに、2人が帰った後、夜は養子縁組のことについてばかり考えてしまい苦しかった。
これ以上を望んで、しかもそれが由良さんを傷つけることだなんて、自分が最低な人間に思えてくる。
でも、由良さんがいない今日だけは泣くことを許して欲しい。
寝て起きて訪れた明日には、何もかも忘れて幸せな俺でいるから。
そして笑顔で彼におかえりなさいを言おう。
「うん。国際学会も口頭発表で参加したし、論文も通ったし、このままいけば特別研究員制度に採ってもらえそうだから。幹斗は?」
「実は教授からの推薦で内定をもらったんだ。だからあとは修論のデータ集めてる。」
しばらくして話題は自然と進路の話に向いた。
東弥は修士を卒業した後博士課程に行くらしい。
たしかに東弥ほど優秀であれば特別研究員制度に採用されて学生のうちから給与をもらいながら研究できるだろう。
俺も就職は決まっているし、平和でよかった。
「2人とも進路決まってよかったー!幹斗は一年後に社会人だね!もしも困ったことがあったら先輩の俺にいつでも相談してねー!!」
えっへん、と谷津が拳で胸を叩く。
「…1%くらい期待しとく。」
「少なっ!!!…まあいいけど。
あっ、そうそう、俺4月に結婚式挙げるから来てね!!籍も今年度中には入れようかなーって話してて。」
…今、“あっ、そうそう”、なんて言って付け加えるように話すことじゃない重大な情報が聞こえた気がする。
4月に結婚。
そういえば結構前から谷津が結婚すると言っていたが、ついにするのか。時間が経つのって早い。
「おめでとう。もちろん出席するよ。そっか、結婚か…。」
しみじみとしていると、東弥がそういえば…、と口を開いた。
「俺と静留も養子縁組を結ぼうと思ってるんだ。相続とかは正直どうでもいいんだけど、大きな病気になった時とかに一緒にいる理由になりやすいのと、…あと、やっぱり家族になりたいから。」
「同性パートナー同士でそうしてる人も多いよねー!本当は静留君のこと法的にも手に入れたいっていう欲もあるんでしょー!!」
「…まあ、それもある。」
二人の話に突然胸の奥を突き刺されたような痛みを覚えて驚く。
どうしてだろうと少し考え、ある結論に辿り着いた。
…そっか、家族…。
両親がいない環境で生きてきた俺は家族への憧れが強くて、だから俺も由良さんの養子になれたならどんなに幸せだろうかと思うけれど、きっとそんなことを言ったら彼の傷を抉ることになるだろう。
そう思って、心が少しだけ傷ついたのだ。
…このままでいい。敢えて家族になろうだなんて、そんな残酷なことを由良さんに言うことはしない。
だって、あの日公園で静かに泣く彼はひどく苦しげに見えたから。
「…幹斗?」
谷津の心配そうな声ではっと我に帰った。
「あっ、ごめん、考え事してた…。こ、このナスの生ハム巻き、なんでこんな不味いんだろうなって…。」
咄嗟に出た言い訳だが、先程からずっと微妙な味だと思っていたから嘘ではない。
微妙な味を不味いと過剰に貶してしまったことについては、メニューを考えたひとに心の中でごめんなさいを言っておく。
「えっ、めちゃくちゃ美味しいけど!!俺持って帰っていい?真希ちゃんにも食べさせてあげるんだー!!」
「是非。もし残り物でよければ東弥も持って帰ってね。」
「本当?助かる。静留が喜ぶよ。」
ひとまずこの場は誤魔化すことができたらしい。
それからは互いのパートナーの話になった。
東弥は相変わらず静留君にデレデレで、谷津は真希さんと仲良しで、俺は格好いい由良さんがいつも大好きで。
それで幸せなはずなのに、2人が帰った後、夜は養子縁組のことについてばかり考えてしまい苦しかった。
これ以上を望んで、しかもそれが由良さんを傷つけることだなんて、自分が最低な人間に思えてくる。
でも、由良さんがいない今日だけは泣くことを許して欲しい。
寝て起きて訪れた明日には、何もかも忘れて幸せな俺でいるから。
そして笑顔で彼におかえりなさいを言おう。
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