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第2部
帰省⑤
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電話で話した時は少し咳き込んでいるだけで元気そうだった祖父が、急速に悪化して話せなくなったりはしていないか。
あれだけ祖父と仲が良かった祖母は、精神的に苦しんで体調を悪くしてはいないか。
今朝はあまり考えていなかったはずのことが、最寄駅に近づくにつれ唐突に気になり出した。
悪いことを考え始めると止まらないのはいつもの俺の悪い癖だ。
窓の外に視線を移せば落ち着いた自然が穏やかに広がっていて、もうここは都市ではないのだと教えてくれる。
到着まではあと30分もない。
「大丈夫?」
優しい声が鼓膜を震わすと共に、膝の上で握りしめていた左手を大きく温かな手に包まれた。
振り向くと、心配そうにこちらを覗いている藍の瞳が映る。
「少し不安になってしまって…。」
「実家に帰ること?」
「はい。…悪い方にばかり考えてしまうんです…。」
「大丈夫だよ。幹斗君は連絡を聞いてすぐに動けたから。おじいさんたちもきっととても喜んでくれる。だから笑っていて。」
凛とした低い声が紡いだ言葉は、彼の手の温もりと一緒にじんわりと心に沁みわたった。
彼はいつだって俺が苦しんでいる時すぐに気がついて、たくさんの欲しい言葉をかけてくれる。
しかし礼を言おうともう一度彼の顔を見上げた先で、ふと、彼の瞳もまた苦しげに揺らいでいることに気がついた。
そういえば朝、彼の表情にどこか違和感を覚えた気がする。
…やっぱり何かあるのかな。
「由良さん、大丈夫ですか?朝から由良さんも苦しそうです。」
俺の言葉を聞いた彼は驚いたような表情を浮かべたが、少し考えるようなそぶりを見せてからやがて口を開いた。
「ありがとう。…少し緊張しているのかもしれないね。大切なパートナーを育てた人に会いに行くと思ったら流石に緊張しちゃって。
幹斗君はすごいね。隠していたつもりなのに気づかれてしまった。」
格好悪いかな?と、由良さんが照れ臭そうに笑う。
格好悪くなんてない。でも、…そっか。結婚式の挨拶みたいなものなのだから緊張しない方がおかしいか。
納得すると同時に、そんな状況でも俺のことばかり考える優しい彼を愛しく思う。
「おばあさまはどんな人?」
ふと、由良さんが尋ねてきた。
「そうですね、明るい人だと思います。あと、花を育てるのが好きです。」
「そうか。おじいさまは?」
「えっと…。一見寡黙で話しかけにくいですが、口を開けばよく喋ります。読書家です。」
「読書が好きなら趣味も合うかな。どんな本が好きなの?」
「純文学が好きだと言っていました。最近は○○○○とか。」
「僕も好きな作家だ。」
「本当ですか?実は俺も… 」
まるで互いの不安を塗りつぶすみたいに絶えず会話を続けていく。
穏やかに流れる優しい時間の中でだんだんと苦しさは薄れていって。
着いた頃には話の内容もすっかり雑談へと変わっていた。
「ここが幹斗君の故郷か。」
「はい。高校はいつもこの駅から通っていました。」
「学ラン姿の幹斗君、僕もみてみたかったな。」
「なんで学ランって分かったんですか?」
「願望。」
悪戯っぽく笑う由良さんと一緒に駅の改札を出る。
願望ってどう言う意味ですかと尋ねる前に遠くから“幹斗”、と名前を呼ばれ、振り返るとそこには母の姉、雪菜さんが立っていた。
あれだけ祖父と仲が良かった祖母は、精神的に苦しんで体調を悪くしてはいないか。
今朝はあまり考えていなかったはずのことが、最寄駅に近づくにつれ唐突に気になり出した。
悪いことを考え始めると止まらないのはいつもの俺の悪い癖だ。
窓の外に視線を移せば落ち着いた自然が穏やかに広がっていて、もうここは都市ではないのだと教えてくれる。
到着まではあと30分もない。
「大丈夫?」
優しい声が鼓膜を震わすと共に、膝の上で握りしめていた左手を大きく温かな手に包まれた。
振り向くと、心配そうにこちらを覗いている藍の瞳が映る。
「少し不安になってしまって…。」
「実家に帰ること?」
「はい。…悪い方にばかり考えてしまうんです…。」
「大丈夫だよ。幹斗君は連絡を聞いてすぐに動けたから。おじいさんたちもきっととても喜んでくれる。だから笑っていて。」
凛とした低い声が紡いだ言葉は、彼の手の温もりと一緒にじんわりと心に沁みわたった。
彼はいつだって俺が苦しんでいる時すぐに気がついて、たくさんの欲しい言葉をかけてくれる。
しかし礼を言おうともう一度彼の顔を見上げた先で、ふと、彼の瞳もまた苦しげに揺らいでいることに気がついた。
そういえば朝、彼の表情にどこか違和感を覚えた気がする。
…やっぱり何かあるのかな。
「由良さん、大丈夫ですか?朝から由良さんも苦しそうです。」
俺の言葉を聞いた彼は驚いたような表情を浮かべたが、少し考えるようなそぶりを見せてからやがて口を開いた。
「ありがとう。…少し緊張しているのかもしれないね。大切なパートナーを育てた人に会いに行くと思ったら流石に緊張しちゃって。
幹斗君はすごいね。隠していたつもりなのに気づかれてしまった。」
格好悪いかな?と、由良さんが照れ臭そうに笑う。
格好悪くなんてない。でも、…そっか。結婚式の挨拶みたいなものなのだから緊張しない方がおかしいか。
納得すると同時に、そんな状況でも俺のことばかり考える優しい彼を愛しく思う。
「おばあさまはどんな人?」
ふと、由良さんが尋ねてきた。
「そうですね、明るい人だと思います。あと、花を育てるのが好きです。」
「そうか。おじいさまは?」
「えっと…。一見寡黙で話しかけにくいですが、口を開けばよく喋ります。読書家です。」
「読書が好きなら趣味も合うかな。どんな本が好きなの?」
「純文学が好きだと言っていました。最近は○○○○とか。」
「僕も好きな作家だ。」
「本当ですか?実は俺も… 」
まるで互いの不安を塗りつぶすみたいに絶えず会話を続けていく。
穏やかに流れる優しい時間の中でだんだんと苦しさは薄れていって。
着いた頃には話の内容もすっかり雑談へと変わっていた。
「ここが幹斗君の故郷か。」
「はい。高校はいつもこの駅から通っていました。」
「学ラン姿の幹斗君、僕もみてみたかったな。」
「なんで学ランって分かったんですか?」
「願望。」
悪戯っぽく笑う由良さんと一緒に駅の改札を出る。
願望ってどう言う意味ですかと尋ねる前に遠くから“幹斗”、と名前を呼ばれ、振り返るとそこには母の姉、雪菜さんが立っていた。
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