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第2部

帰省①

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…あれ、コーヒーの匂い。

目を開けると、すでに着替えを済ませた由良さんが、ソファーでスノーバックスのコーヒーを飲みながらパソコンに向かっている、

アラームは鳴っていないのにやけに明るいなと思いながらスマホを開いた俺は、時計が午前9時を示していることに気がつき慌てて上体を起こした。

おかしい。7時にアラームをかけたはずなのに。

「あの、由良さん…。」

尋ねれば、ゆっくりと彼の顔が上がり、俺の方を向く。

「おはよう、幹斗君。」

そのまま端正な顔立ちが穏やかに微笑みを浮かべ、俺の鼓動を加速させた。

微笑むだけでこんなにもドキドキさせてくる相手が自分の彼氏だなんて、と、思わず少女漫画顔負けのモノローグをつけてしまいそうだ。

…って、そうじゃない。

「…アラーム止めました?」

「うん。10時に出るなら、準備にかかるのは1時間くらいでしょう?どうして7時に?」

言いながら由良さんがこちらに向かって歩いてくる。

シトラスの香がほのかに鼻を掠め、それがまた大きく俺の心臓をどくんと一回脈打たせた。

彼が一歩近づくたびにどきどきして頭が混乱し、偏差値が1下がる気がする。

どうしよう。0になる前に早く答えないと。

「だって朝食を作って洗濯と掃除と…んんっ…。」

あたふたしながらやっとの思いで答えたのに、途中で唇を塞がれた。

視界いっぱいに映し出された深海を映したような藍の瞳にどうしようもなく惹きつけられ、言葉を失う。

固まってしまった俺のうなじを由良さんの親指が緩く擦り、彼のものである証、collarを優しくつけてくれた。

普段自分で何気なくつけているけれど、パートナー主人にそれをしてもらうとその行為がとても特別に思えて、うっかり嬉し泣きしそうになる。

行為の次の日の彼は、いつも底なしに甘い。

「した次の日の家事は僕がするって約束でしょう。身体は大丈夫?朝食は買ってきたよ。」

そのあとベッドサイドに跪き上目遣いで言われ、思わず俺はお姫様ですか、と突っ込みそうになった。

そもそもSubの前で跪くDomなんてどうかしてるし、その上“昨日は頑張ってくれたもんね”、と色っぽい声で囁かれてしまえばたまったものではない。

何も言い返せなくなってしまう。

…あれ、でも…。

「由良さん、体調大丈夫ですか?」

一瞬彼の瞳が不安げに揺らいでいる気がして、尋ねてみた。

「いつも通りだよ。どうして?」

そっか、よかった。気のせいなら、それで…。

「いえ、なんでもないです。家事と朝食、ありがとうございます。いただきます。」

気を取り直しベッドから起き上がると、由良さんがエスコートするみたいに俺をソファーまで誘導してくれる。

「うん、どうぞ。」

ソファー前の机に並べられた朝食は、バケットのサンドイッチにキャラメルマキアート、デザートのチーズケーキ。

俺が好きなものばっかりだ。

幸せな朝を過ごした後、手を繋いで家を出る。

雲ひとつない秋晴れの空がどこまでも澄んでいるのを何故だかとても美しく感じて、なんとなく写真に収めてみた。

優しい1日になるといいな。

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