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入り口前で待っていて、と由良さんに言われ、ショッピングモールの外に出ると、再び寒さに襲われた。
トートからコートを取り出し着て、ちょうどいい暖かさになる。
見渡すと、街の木々は電飾を着せられていた。まだ12月にもなっていないのに、気が早い。
そんなに急がなくていいのに、と思う。
今の幸せがずっと続けばいいと思うけれど、もしそれが無理ならば、せめて今をゆっくりと味わえたらいい。
謎の哀愁に浸りながら、駅から出てきた人たちが気にするそぶりすら見せない明かりをぼんやりと見つめる。
ふわり。
ゆくりなく、何か肌触りの良い、やさしい軽い感触が肩に降りた。
「さむいね。」
振り返ると、黒いコートをまとった由良さんが何かを手に持って立っている。
何かと思って触れたら、肩に乗っているのはカシミアのマフラーだとわかった。
「これどうぞ。」
つづけて由良さんに何かを手渡され、とっさに受け取る。
「ありがとうございます。」
息を吸い込んだのと同時に芳醇な香りが鼻をかすめた。
ホットコーヒーのカップだ。コンビニのものではなく、自分へのご褒美として買う値段の代物。
「風邪を引くと困るから。」
平然と言われ、顔が火照った。この気遣いはずるい。誰でも惚れる。
「あの、由良さんは?」
マフラーの端を持ち上げながらたずねる。寒くないのだろうか。
「僕はコートが温かいから。それに…」
「!?」
これで大丈夫、と言った次の瞬間由良さんは俺の手をとって由良さんのコートのポケットに入れた。
驚きで肩が跳ねる。
ああ、静まれ心臓。こんなに距離が近かったらバレてしまうではないか。
由良さんの手は節張っていて男らしく、そして俺よりも少し大きい。ポケットの中も由良さんの手も暖かくて、でも、自分の火照りとどちらのせいで熱いのかはわからなかった。
「夜ご飯まだだよね?お店予約してあるんだ。」
特に何かを気にする様子もなく、由良さんは話し、歩みを進める。
せっかく渡されたコーヒーは、繋いだ手のことを過剰に意識するうちに冷めてしまった。今の体温と中和されて、ちょうどいいかもしれない。
トートからコートを取り出し着て、ちょうどいい暖かさになる。
見渡すと、街の木々は電飾を着せられていた。まだ12月にもなっていないのに、気が早い。
そんなに急がなくていいのに、と思う。
今の幸せがずっと続けばいいと思うけれど、もしそれが無理ならば、せめて今をゆっくりと味わえたらいい。
謎の哀愁に浸りながら、駅から出てきた人たちが気にするそぶりすら見せない明かりをぼんやりと見つめる。
ふわり。
ゆくりなく、何か肌触りの良い、やさしい軽い感触が肩に降りた。
「さむいね。」
振り返ると、黒いコートをまとった由良さんが何かを手に持って立っている。
何かと思って触れたら、肩に乗っているのはカシミアのマフラーだとわかった。
「これどうぞ。」
つづけて由良さんに何かを手渡され、とっさに受け取る。
「ありがとうございます。」
息を吸い込んだのと同時に芳醇な香りが鼻をかすめた。
ホットコーヒーのカップだ。コンビニのものではなく、自分へのご褒美として買う値段の代物。
「風邪を引くと困るから。」
平然と言われ、顔が火照った。この気遣いはずるい。誰でも惚れる。
「あの、由良さんは?」
マフラーの端を持ち上げながらたずねる。寒くないのだろうか。
「僕はコートが温かいから。それに…」
「!?」
これで大丈夫、と言った次の瞬間由良さんは俺の手をとって由良さんのコートのポケットに入れた。
驚きで肩が跳ねる。
ああ、静まれ心臓。こんなに距離が近かったらバレてしまうではないか。
由良さんの手は節張っていて男らしく、そして俺よりも少し大きい。ポケットの中も由良さんの手も暖かくて、でも、自分の火照りとどちらのせいで熱いのかはわからなかった。
「夜ご飯まだだよね?お店予約してあるんだ。」
特に何かを気にする様子もなく、由良さんは話し、歩みを進める。
せっかく渡されたコーヒーは、繋いだ手のことを過剰に意識するうちに冷めてしまった。今の体温と中和されて、ちょうどいいかもしれない。
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