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ep6
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「失礼します。
おはようございます。お着替えをお持ちしました。」
コンコン、ノックをして一葉は紅司の部屋に入った。
離れとはいえ愛染家の屋敷。一般住宅と比べればはるかに大きい建物だ。青を基調としたこの部屋は、広々とどこか殺風景に映る。
ベッドの上には上体を起こした紅司の姿。着替えの手伝いは断られ、一葉は彼がスーツに着替えるのをベッドの横でじっと見ていた。
ハンサムな顔立ちに合い、引き締まった体躯はがっしりと男らしい。
しかし、その背に爪痕を、指に噛み跡を見つけ、いたたまれない気持ちになる。
「一葉。」
わずかに熱を帯びた低い声が囁く。返事を待たず、大きな手に手首を優しく掴まれた。
「はい、なんでしょう。」
紅司の黒い瞳がじっと一葉を覗きこんだ。
彼の目を見ても、もうSub性がくすぐられるわけではない。
ただ、すこし、心臓が早くなるだけ。
それだけ…
「昨夜は悪かった。だが、お前を愛している。
…俺のパートナーになって欲しい。」
ポツリと呟くように唇から押し出された言葉は、実に安易なものに思われた。
一晩関係を持ったからといって、パートナーになるなど冗談ではない。
そもそも一葉はSubとして誰かとペアになる気もないし、Domとしてさえ、特定の誰かを守り抜くなんて無責任な約束はできないと思っている。
くわえて愛染家の跡取りが執事とパートナーを組むなどそれもだけで多少なりとも問題になりそうだ。
「冗談が過ぎます。私はDomとして満足しておりますので、お気遣いなく。」
にっこり笑ってそう返した。これ以上何も言わないでくれと、心から願いながら。
紅司は何か言いたげに口を開いたが、やがて諦めたように目を伏せた。そのまま彼の視線は依然として掴んだままの一葉の手首に向けられる。
「…痛くはないか?」
優しい声音はひどく切なく響いた。その瞳は憂うように手首の手錠跡を見つめている。
「…?…ああ。問題ありません。」
思わず‘抱きしめて欲しい’、などと思った愚かな気持ちに蓋をして、一葉は冷静にそう答えた。
よかった、と安堵の声とともに、手首を握る手が離される。再び彼の視線は一葉の瞳に向けられて。
「いきなり過ぎた。でも、冗談なんかじゃない。
…愛しているからそばに置く。今はそれだけ覚えておいてくれ。」
その言葉を聞いて、脳内に?マークがたくさん浮かんだ。
「… 」
…ああ、調子が狂う。なんでそんな予想不可能な変化球見たいな言葉を投げつけてくるんだ。
内心で毒づきながら、一葉は何も答えられずに黙ってしまう。
「朝食は、どこで?」
少しの間続いた、沈黙を破るように紅司が笑いかけた。
「…準備は整っておりますので、案内いたします。」
着替えてスッと立ち上がった、彼のシルエットは男らしく美しい。
カーテン越しに差し込んだ陽光が、キラキラとその背を照らしていた。
おはようございます。お着替えをお持ちしました。」
コンコン、ノックをして一葉は紅司の部屋に入った。
離れとはいえ愛染家の屋敷。一般住宅と比べればはるかに大きい建物だ。青を基調としたこの部屋は、広々とどこか殺風景に映る。
ベッドの上には上体を起こした紅司の姿。着替えの手伝いは断られ、一葉は彼がスーツに着替えるのをベッドの横でじっと見ていた。
ハンサムな顔立ちに合い、引き締まった体躯はがっしりと男らしい。
しかし、その背に爪痕を、指に噛み跡を見つけ、いたたまれない気持ちになる。
「一葉。」
わずかに熱を帯びた低い声が囁く。返事を待たず、大きな手に手首を優しく掴まれた。
「はい、なんでしょう。」
紅司の黒い瞳がじっと一葉を覗きこんだ。
彼の目を見ても、もうSub性がくすぐられるわけではない。
ただ、すこし、心臓が早くなるだけ。
それだけ…
「昨夜は悪かった。だが、お前を愛している。
…俺のパートナーになって欲しい。」
ポツリと呟くように唇から押し出された言葉は、実に安易なものに思われた。
一晩関係を持ったからといって、パートナーになるなど冗談ではない。
そもそも一葉はSubとして誰かとペアになる気もないし、Domとしてさえ、特定の誰かを守り抜くなんて無責任な約束はできないと思っている。
くわえて愛染家の跡取りが執事とパートナーを組むなどそれもだけで多少なりとも問題になりそうだ。
「冗談が過ぎます。私はDomとして満足しておりますので、お気遣いなく。」
にっこり笑ってそう返した。これ以上何も言わないでくれと、心から願いながら。
紅司は何か言いたげに口を開いたが、やがて諦めたように目を伏せた。そのまま彼の視線は依然として掴んだままの一葉の手首に向けられる。
「…痛くはないか?」
優しい声音はひどく切なく響いた。その瞳は憂うように手首の手錠跡を見つめている。
「…?…ああ。問題ありません。」
思わず‘抱きしめて欲しい’、などと思った愚かな気持ちに蓋をして、一葉は冷静にそう答えた。
よかった、と安堵の声とともに、手首を握る手が離される。再び彼の視線は一葉の瞳に向けられて。
「いきなり過ぎた。でも、冗談なんかじゃない。
…愛しているからそばに置く。今はそれだけ覚えておいてくれ。」
その言葉を聞いて、脳内に?マークがたくさん浮かんだ。
「… 」
…ああ、調子が狂う。なんでそんな予想不可能な変化球見たいな言葉を投げつけてくるんだ。
内心で毒づきながら、一葉は何も答えられずに黙ってしまう。
「朝食は、どこで?」
少しの間続いた、沈黙を破るように紅司が笑いかけた。
「…準備は整っておりますので、案内いたします。」
着替えてスッと立ち上がった、彼のシルエットは男らしく美しい。
カーテン越しに差し込んだ陽光が、キラキラとその背を照らしていた。
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