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過去といま②

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~10年前~

「2人とも大嫌い!もう出ていく!!」

バタン、と大きな音を立てて礼人は玄関のドアを閉めた。

家の中からは、“危ないでしょう!”、と追いかけようとする母と、“どうせすぐ帰ってくる”、と止める父の声が聞こえてくる。

すぐ帰ってくるという言葉を聞いて、絶対に帰るものかと決意した。

そもそも礼人は悪くない。

先日近くに捨てられた猫を飼いたいと強請って止められたことまでは、家の事情があるのだからと、礼人だってちゃんと理解できた。

でも、今日の帰りにその猫が車に轢かれて倒れているのを見つけ、裏庭に埋めてお墓を作ったことを怒られたのは理解できない。

“家の庭に何で捨て猫の死骸なんて埋めるのか。祟って出てきたらどうする”、なんて言うのはひどすぎる。

自分の救えなかった命だから、せめて安全な場所に弔い安らかに眠ってほしかっただけなのに。

「でも、どこに行こう…。」

親に逆らった事自体がほとんどなく、ましてや家を出て行ったことなど初めてで、これからどうすればいいのかわからない。

行く場所の第一候補として浮かんだのは近くのスーパーマーケットだったが、小学生が夜にお金も持たずに1人でその場所にいたら悪目立ちしてしまうだろう。

「…おなかも、すいた…。」

腹の虫が鳴き、礼人は涙目になりながらスーパーマーケットの周辺を歩いた。

近くからお惣菜のにおいがして、空腹をさらに煽る。

それにとても寒い。12月になるというのにコートを着ないで出て行ったせいだ。

「あや…?」

寒さに耐えきれずその場にうずくまろうとしていたとき、近くから聞こえてきた見知った声に礼人は驚き振り返った。

「リトさん!!」

目の前には中学の制服を着た北瀬きたせ莉杜りとが佇んでいる。

彼は一瞬驚いたように金色の瞳を瞬かせたが、やがて柔らかに微笑んで礼人の手を取った。

繋がれた手は、学ランのポケットに入れられていたからか幾分かあたたかい。

「どうしたの?こんなところで。」

「あのね、…家出した…。」

「そっか。何か辛いことがあった?」

家出という言葉にはさほど驚いた様子もなく、代わりに柔らかい口調で理由を尋ねられた。

説明すれば、北瀬はそっと礼人の頭を撫でてくれて。

「とても悲しかったね。お墓、今度俺も行っていい?」

と、少し苦しげに笑った。

一気に涙が迫り上がってくる。

そこで礼人は初めて、自分が両親にただ一緒に悲しんで欲しかったのだと悟った。

だって、弔うことすら許されないなんて、その猫がいたことが間違っているみたいであまりに悲しい。

思い返せば、家を出た瞬間から今まで自分がこんなに憤っていた理由すらわからなかった。

路上で嗚咽する礼人を、北瀬は責めることなく抱きしめて。

「…今日はふたご座流星群がピークなんだって。今から見に行かない?流れ星の一つに、その子がいるかもしれない。」

淡雪のようにやわらかな声が、優しく鼓膜を揺らした。
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